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第74話:天使と魔神

「……?」


上下に耳を動かし、シルフィが振り返る。それを見たレヴィはどうかしたのかと立ち止まった。


「音が聞こえます。どうやら何かが猛スピードでこちらに向かって来ているようですね」

「何か?んー……」


王都を出てかなり経った。今は遠くから感じるジークの魔力を追って走っている状態だったが、何者かが自分達を追ってきているという事だろうか。


目を凝らしてシルフィが指さす方角を見ていると、確かに何かが飛んできている。ある程度まで見える距離に来たところで、レヴィはそれが何者なのかを理解した。


「天使だね。ルシフェルがクルト君って呼んでいた大天使だ」

「彼らが私達を追ってきているのでしょうか」

「いや、多分あれは─────」


突如黒い閃光が空を染め、大天使三人に直撃した。そのまま三人はバランスを崩し、レヴィ達の目の前に落下してくる。


「ぐっ、クソが……!」

「駄目だ、もう限界だよ……」

「ぬぅ……」


もうまともに飛べる体力も残っていないらしい。そんな彼らに歩み寄り、レヴィは目線を合わせるようにしゃがんだ。


「ねえ、大丈夫?」

「なっ、お前は魔神の……!」

「何があったのさ。君達大天使でしょ?地上の魔族にボコボコにされてるの?」

「黙れ!こっちはお前達の相手をしている場合じゃないんだよ!」

「ふーん、もう追いつかれてるけどね」


いつの間にか、クルト達は堕天使達に包囲されていた。見上げれば、ツヴァイが膨大な魔力を纏いながらこちらに向かってゆっくりと降りてきている。


「おいおい、何逃げてんだよ雑魚天使ィ……!」

「……転移門はもう閉じられている筈だが、これだけの数の堕天使までこちらに来たのか」

「へえ、いい魔力だね。君達は彼に追い回されてたってわけだ」


そう言うレヴィに目を向け、ツヴァイは口角を上げた。


「お前こそ大した魔力じゃねぇか。そっちのチビも相当なもんだな……ククッ、いい事を考えたぜ」

「いい事?」

「その大天使共を俺に差し出せ。そうしたら見逃してやってもいいぜ?いや、よく見たらかなりの上玉だ。どうだ、俺の女になるつもりはねぇかお前ら」

「あはは、何を言ってるのか理解できないなぁ」

「頭に蛆でも湧いているのでしょう。ああいう自分を格好いいと勘違いしているタイプの男は相手にするだけ無駄ですよ。鏡で自分の姿を一億回確認してから出直してください」


冷めた目でシルフィにそう言われ、ツヴァイの頬が引き攣る。笑顔のままだが額には青筋が浮かんでいた。


「お前、俺が誰だか分かってんのか?」

「知りませんよ貴方なんて。私達は暇ではないのです、視界に映られるのも鬱陶しいのでさっさと失せてください」

「……てめえ」


ツヴァイが手を挙げると、待機していた堕天使達が魔力を魔法へと変換した。どうやら脅しのつもりらしいが、シルフィは呆れたように息を吐き、レヴィもそんな彼女を見て苦笑している。


「舐めやがって……おい、やっちまいな」


堕天使の一人がレヴィの前に降り立ち、腕を振り上げる。しかし、それが振り下ろされるよりも先に、レヴィの拳がその堕天使の腹部を貫いた。


「ねえねえ、お兄さん。この程度の雑魚でボク達を殺れるって、本気で思ってるわけ?」

「っ……!」


死体を蹴り飛ばし、レヴィが笑う。それを見たツヴァイは堕天使全員に命令し、待機していた者達が一斉に動き出した───が。


「な、ぁ……!?」


その全員が地面に激突し、そのまま動かなくなる。見れば、魔力を纏わせたダガーを持ち、鋼糸を周囲に展開させたシルフィが、いつの間にか自分と同じ高さまで跳躍していた。


今の一瞬で、あの数の堕天使全員を仕留めたというのか。だとしたら、その移動速度はツヴァイが目で追えるものではない。


「て、てめぇ!」

「フン────」


ツヴァイが魔法を放つよりも速く、シルフィが風を利用して空を駆け、ツヴァイを地上目掛けて蹴り飛ばす。更に風の弾丸が直撃し、ツヴァイは派手に地面に衝突した。


「ば、馬鹿な、何なんだよてめぇらは!」

「こう見えても私達、一応魔神なもので」

「ま、魔神!?」


着地したシルフィが糸でツヴァイを縛り上げ、ダガーを構える。


「さて、覚悟はできているのでしょうね」

「待て、そいつはアズリエラの協力者だ。殺す前に情報を吐かせる」

「アズリエラの?じゃあ大天使が堕天使を使ってるって事?」

「話せば長くなる。面倒だ、そいつを渡せ」

「何様のつもりですか。我々の方が、巻き込まれて色々と面倒なのですけど」


凄まじい魔力をその身から放つシルフィに睨まれ、クルトが息を呑む。この少女は危険だと、身体中の細胞と脳が危険信号を発し続けていた。


「何を勘違いしているのでしょう。私は貴方達大天使に協力すると言った覚えはありません」

「……それは俺達もだ」

「クルト、今は言い争っている場合じゃ……」


エアがクルトを止めようとした、その直後。自らを締め上げていた糸を引きちぎり、ツヴァイが勢いよく飛び去った。殺気と共にシルフィに睨まれ、今度こそクルトは黙り込む。


「はぁ、はぁ……くそっ、何が魔神はただの子供だアズリエラのクソ野郎!あんなもん、俺達の手に負えるもんじゃねえだろうが!」


そんな様子を見て大量の汗を流しながら、ツヴァイは飛ぶ。さすがに今からでは追ってこれないだろう。安堵しながら魔力を纏い直し、更に速度を上げていく。


「天界に戻ったら覚えてやが─────」


不意に体が揺れる。見れば、氷で生み出された槍が自らの胸部を背中から貫いているではないか。


「は、が……?」


槍が赤く染まっていく。まさか、あそこからこれを投擲したというのか。有り得ない、信じられないと思っているうちに体が動かなくなり、細胞まで完全に凍結したツヴァイは空中で粉々に砕け散った。


「…………」


とてつもない魔力を解放し、一瞬でツヴァイを仕留めてみせたレヴィ。元の姿に戻った彼女は笑顔で振り返ったが、大天使達は最早何も言う事ができなかった。


「あーあ、結局彼から話は聞けなかったね。君達は今回の件に関して何か知っている事は無いの?」

「……チッ、話せばいいんだろ話せば」


クルト達から事情を聞き、レヴィとシルフィは心底呆れた。嘘を真実だと思い込ませる奇蹟で天界を掌握し、それを追求したクルト達を裏切り者だと認定したというのだ。更にはルシフェル追放にも関わっているらしく、彼女を追い出して行いたかった事は何なのかと二人は考える。


「ルシフェルが大天使の力を取り戻してると知って、あの時君達を送り込んできたわけか」

「我々と違い、ルシフェルさんは天界に戻る事ができる可能性がありますからね。本人から今は不可能と聞きましたが、天界側はそれを把握していなかったのでしょう」

「一応僕達が持っていた情報はこれくらいだね。正直何が起きているのか、僕達大天使にも分からない状況なんだ」

「分かるのは、敵が大天使長アズリエラという事のみ。今回の件に巻き込んでしまい申し訳ない。それと、感謝する」


レヴィとシルフィに頭を下げたクラウンを見て、クルトとエアが目を見開く。


「ま、魔神に頭なんか……」

「貴重な時間を割いてまで我々を救ってくれたのは彼女達である事を忘れるな」

「ふむ、ルシフェルさんやロッテ様以外にもまともな方がいらっしゃるようで安心しました。それで、貴方達はこれからどう動くつもりなのですか?」

「アズリエラを始末する。そして、アルテリアス様とルシフェルに謝罪がしたい」


その言葉にクルトが反応した。あのような事があった後だ。ルシフェルには何を言うべきなのか分からず、アルテリアスには殺されても文句は言えない。


「クルト、お前もだぞ」

「お、俺は……」

「……ははーん。君、ルシフェルの事が好きなんだねー」

「はあ!?な、何を勝手な事を……!」


クルトの顔が分かりやすく赤に染まり、シルフィが吹き出す。


「ルシフェルの話が出ると挙動がおかしくなるし、ジークを見た時明らかに嫉妬していたからね」

「て、適当な事を言うな魔神めが!」

「ふふん、ちなみにボクは嫉妬の魔神だよ」

「ぐっ……!」


からかえて満足したのか、レヴィが大天使達に背を向け歩き出した。どうやらもう彼らに用は無いらしく、シルフィと共にジーク達が居る場所を目指すという。


「待ってほしい、魔神達よ」

「んー?」

「我々も同行させてくれないだろうか」

「お、おい、クラウン!」


クルト達が止めようとするが、クラウンは真剣な眼差しでレヴィとシルフィを見つめた。


「足手まといを連れて行動し、私達に何の得があるというのでしょうか」

「天使にしかできない事があるかもしれない」

「こちらにはルシフェルさんとロッテ様がいらっしゃるのをお忘れでは?」


黙り込んでしまったクラウンから、シルフィはクルトへと視線を移す。きっと、何があったとしてもルシフェルは彼らを許すだろう。それも、心の底から喜んで。


色々と納得のいかない部分はあるが、それはルシフェルにとって悪い事ではないのではないか。天使達との和解は、彼女が一番望んでいた事なのだから。


「……はぁ、仕方ないですね。後ろから攻撃してきたりしなければ、同行を許可します」

「っ、感謝する」

「あはは、それじゃあ早速移動しよう。ジーク達はあっちの方向に─────」


言葉を止め、レヴィが振り返る。他の面々も同じ事に気付いたらしく、全員が王都の方角へと目を向けた。


「はぁ、はぁ……やっと追いついたわぁ!私達も楽しいトークに参加してもいいかしら……!?」

「早く助けろください」

「げっ、もう目を覚ましたのか」


こちらに向かってくる大天使、コルレミスとメイリン。先程レヴィにこっ酷く殴り飛ばされた二人だが、大量の堕天使を引き連れ猛スピードで移動している。レヴィとシルフィは顔を見合わせると、同じタイミングでそちらに背を向け駆け出した。


「お、おい、どこに行く!」

「いちいち相手してらんないよ!」

「貴方達が連れてきたのですから、貴方達で何とかしてください」


後ろから大天使達の声を聞きながら、ジーク達の魔力を目指して疾走する。合流するにはもう少し時間がかかりそうだ。

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