表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
287/293

第71話:双戦

「アズリエラさんの、討伐……」


ルシフェルは、目の前に立つロッテの言葉を聞いて動揺した。神魔大戦の時代から生き続けている大天使アズリエラを、自分達に討伐してほしいと彼女は頼んできたのだ。


「そういえば居ましたねー、アズリエラって。私が天界に居た頃は新米の子でしたけどー」

「一応私の同期ですよ。ですが、今は大天使長になり好き放題しています。天界の者達は皆彼の発言を信用していますが、私の奇蹟には通じません。このままでは、神魔大戦が再び勃発してしまいます」


そう言うと、ロッテは魔神の少女達に目を向けた。


「貴女達が、かつてアルテリアス様と争った魔神とは全く違う、優しい方々というのはこの少ない時間で分かりました。だからこそ私はお願いしたい。アズリエラ討伐に、どうか力を貸して貰えないでしょうか」

「あはは、ボクは協力するよ」

「私もです。ジーク様の平穏を脅かす者は、誰であろうと許しません」


レヴィが笑い、シルフィが頷く。


「これは地上の危機でもある。私達の手で世界を守り、本来の天界を取り戻そう」

「ふふん。誰に喧嘩を売ってるのか、思い知らせてあげましょ」


エステリーナとアスモデウスも、どうやらやる気満々のようである。


「俺達特務騎士団一同、その作戦に協力させてもらいます」

「ボッコボコにしちゃいましょー」


そして、皆の視線がルシフェルに集まる。暫くの間目線を彷徨わせていたルシフェルだったが、やがて覚悟を決めたように顔を上げた。


「天界は私の故郷。みんなが笑って暮らせる場所を、もう一度私達でつくるんだ」

「ふふ、決まりですね」

「でも、どうやって天界に戻るんですかー?天界の神力をここから捉えるのは難しいと思いますけど」

「……あー、ええと、確かに」


皆が脱力する。今すぐ天界に向かうものだと思っていたが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。


「と、当分の間は待機でお願いします……」

「相変わらずですねー、貴女は」


やれやれと笑うアルテリアスを、ロッテがじっと見つめた。それに対してなんですかとアルテリアスが首を傾げる。


「先程からずっと思っていたのですが、私が知っているアルテリアス様と性格などが全然違うような気が……」

「はい?」

「いえ、あのですね。以前のアルテリアス様は、もっと目付きが悪くて色々と怖かったというか。なので猫を被っていらっしゃるのかと……」

「な、何を言ってるんですかーこの子は!何百年も経っているので、記憶が曖昧になっているだけですよー!」

「そ、そうでしょうか」


言われてみればそうだったかもしれませんと、ロッテは頷いた。それを見ていたジークが、アルテリアスに声をかける。


「怒るとめちゃくちゃ怖いけど、昔は常にそんな感じだったのか?」

「い、いえ、そんな事は……」

「ふーん?」


あははと誤魔化すように笑ってから、アルテリアスが買い物にでも行きましょうかーと歩き出す。その直後、窓の外が真っ白になり、少女達は目を手で覆った。


「な、何だ……!?」

「これは、複数の神力が同時に……!」


やがて光が収まった時、瞳に映る天使の姿。それは膨大な神力を纏いながら天より降り立ち、王都の直上で停止する。


「大天使が二人と、あれはアズリエラさん!?」

「へえ、例の大天使長がお出ましか」


楽しげに言い、レヴィが部屋から飛び出した。すぐにシルフィがそれを追い、ジーク達も急いで家の外へと向かう。


『女神アルテリアスと堕天使ルシフェル、そして魔神達による世界崩壊は既に始まっているのです!さあ、正義の使徒達よ!今こそ我らと共に立ち上がり、世界平和を脅かす者共を駆逐しようではありませんか!』

「な、何言ってんだあいつ……」

「恐らく奇蹟を使い、嘘を真実だと思い込ませるつもりなのでしょう。我々は既に彼を信用していないので効きませんが、この町の者達は……」


空を見上げていた者達が、一斉に特務騎士団へと目を向ける。ジークはアスモデウスが王都の民達を操った時の事を思い出す。アズリエラの言葉を信じた人々は、自分達を敵として認識し、排除するために動き出すだろう。


「いい加減にしてください、アズリエラさん!」


ルシフェルがそう叫ぶと、王都を見下ろしていたアズリエラが口角を上げた。どうやらこちらに気付いたらしい。


「これはこれは、元大天使長の裏切り者ではありませんか」

「地上への攻撃なんて馬鹿げてる!今すぐそれらの作戦を中止し、天界へと帰還しなさい!」

「くくっ、堕天使が何を言っても無駄ですよ。貴女に居場所なんて無いと、この私が教えてあげましょう」


いつの間にか剣や鎌を手に持った住民達が、じりじりとジーク達に迫ってくる。きっと、先程相手にしたクルト達も嘘を真実だと思い込まされていたため、ルシフェルの言葉を聞こうとしなかったのだろう。


こうなっては何を言っても住民達は止まらない。歯噛みするジークだったが、背後に立っていたアスモデウスとエステリーナが動き出したのに気付いて振り返る。


「ジーク、一度王都から脱出しよう!」

「あたしの禁忌魔法を使っても多分無理だわ。一人一人気絶させるのも面倒だし、ここは移動するべきよ」

「ふふーん、それなら────」


レヴィとシルフィが前に出る。二人はそれぞれ武器を構え、そして魔力を纏った。


「ジーク様、ここは私達にお任せを」

「先にシオンを連れて逃げちゃって。その間の時間稼ぎはボクとシルフィが引き受けるよ」

「で、でも、二人だけじゃ……!」

「大丈夫だよ。信じてくれないの?」


そう言われては言い返せない。頭を掻き、ジークはここは任せたと二人の頭に手を置いた。既にエステリーナがシオンを抱えて家から出てきている。必ず無事に合流しようと伝え、ジークは仲間と共に駆け出した。


「あらあら、可愛らしいおチビちゃんが二人残るのね。嬲りがいがありそうだわぁ」

「曲げる、折る、砕く、切る、焼く、煮る……どれを望む。四肢を一つずつ落とす、それが今のオススメである」


控えていた大天使二人がレヴィとシルフィの前に降り立つ。どちらも女性のようだが、その身から溢れ出す神力は王都全体を絶え間なく揺らしていた。


「あまり見た目で判断しない方がいいよ。ボクと彼女、どっちも紋章を持った魔神だからね」

「あら、そうなのねぇ。お姉さんはメイリン、ボクっ娘ちゃんは優しく死刑にしてあげる」

「我が名はコルレミス。エルフの魔神、その耳は合計何等分できるだろうか」

「ここは貴女達に任せますよ。私は少し用事がありますからね」


アズリエラが、ジーク達の移動先とは逆方向に飛び去った。てっきりジーク達を追うものだと思っていた二人は顔を見合わせる。


「彼の目的は一体……」

「そぅれ、油断大敵!」

「ここは戦場である」


突如、閃光が駆け抜けた。咄嗟に屋根の上に飛び移ったレヴィとシルフィは、メイリンとコルレミスが神装を呼び出した事に気付いて紋章を解放する。


「死刑よ死刑!神装【天縛輪ザドキエル】!!」


レヴィに接近したメイリンが、手に持っていた神装を投げる。以前の祭りで見た輪投げで使われていた投げ輪を思い出しながら、手にした水の鎌でそれを弾き返す。


しかし、投げ輪はもう一つ。それはレヴィを捕らえると一気に縮まり、華奢な体を締め上げた。


「お姉さんの奇蹟は、思い浮かべた苦痛を神装を通して相手に与える【拷問】の奇蹟。さあ、良い声で啼いてちょうだい!」

「何それ悪趣味!」


痛みが神装から伝わってくる。磔にされ全身を焼かれ、鞭で全身を叩かれ、水に沈められ、首を絞められ……絶え間なく拷問のイメージがレヴィを襲い、そのイメージを脳が現実のものと勘違いしてダメージが刻まれていく。


「唸れ神装【黄金砲台サンダルフォン】」

「っ……!」


一方、肩に装着された二つの砲台から放たれる光線を避けながら、シルフィは巻き添えにならないように住民達を別の場所へと移動させていた。話は通じないので服を掴み、風に乗せて強制的に移動させていく。


「ああもう、滅茶苦茶やってくれますね!」

「沢山撃てばいつかは当たるのだ」


避けた光線は容赦なく家を吹き飛ばしている。暴食の魔法を使いたいところだが、住民が邪魔で使用出来ずにいた。


「はあっ!!」

「ムっ……!」


あの神装を破壊しなければ、死人が出てもおかしくはない。風を後ろに放って加速したシルフィは、ダガーに魔力を集中させてコルレミスへと迫る。


しかし次の瞬間、コルレミスの姿が消え去った。驚くシルフィだったが、真横から光線が放たれたのを見て体を捻り、それをギリギリで回避する。


「これぞ我が奇蹟、【光曲】なり。皆が一度は憧れる透明化も思いのままに」

「まだ面倒な能力を……!」


そうは言いつつも、シルフィは冷静に周囲を見渡した。そして目当てのものを発見したが、四方八方から襲い来る光線の対処をしなければならない。


「ふッ……!」


跳躍し、屋根の上を駆ける。下から放たれる光線を上手く避けながら、シルフィは鋼糸を操り腕を振った。


「それっ!」

「なっ、これは……」


商品の果物がいくつも宙を舞う。糸を巻きつけシルフィがそれを振り回すと、何も無かった空中で次々と果物が弾けた。そして、様々な色の汁が天使の姿を浮かび上がらせていく。


「ふふっ、すみませんね。ご自慢の能力をあっさり破ってしまって」

「むぅ、不覚なり……ん?」


奇蹟を解除したコルレミスの前に、向こうからメイリンが吹っ飛んできた。それを追っていたのか、屋根の上からレヴィがシルフィの隣に着地する。


「やっ、大丈夫だった?」

「当然でしょう。後でジーク様に褒めてもらうのです」

「ボクも〜」


余裕そうに会話する魔神少女を困ったように見つめながら、体を起こしたメイリンは降参だと手を挙げた。


「まさか、あそこまであっさり奇蹟を破られるとは思わなかったわぁ。そういうのに耐性があるの?」

「別に?ただ、あんなのジークの事を思い浮かべてたら、特に何とも思わないよね〜」

「これも愛の力ですか。流石はジーク様です」

「さて、どうしようか。時間稼ぎはできたし、ボク達もジークを追う?」


レヴィに言われ、シルフィは大天使二人に目を向ける。


「始末しておくべきでしょう。追ってこられては面倒ですから」

「うーん、確かに」

「ちょっと待って、降参よ降参。これ以上ちょっかいをかけて殺されるのは勘弁よ」

「我はまだ舞える」

「余計な事言わないの。お姉さんは良い声を聴きたい側で、聴かせる側じゃないのよねぇ」


とりあえずは大丈夫そうかと、レヴィは持っていた鎌を消した。シルフィも展開していた糸を仕舞い、メイリンに顔を近付ける。


「一応ルシフェルさんのお仲間ですものね。何もしないというのなら、私達はこのまま行きます。ですが、もしも我々やジーク様に迷惑をかけるつもりなのだとしたら────」

「わ、分かってるってばぁ!」

「ならいいです。レヴィさん、行きましょう」

「はいはーい」


二人がジーク達を追って走り出す。無防備にも、背中を向けて。


「なぁーんちゃって!死刑だわ、お姉さんに生意気言ったから死ぬまで死刑よ!」

「【黄金砲台サンダルフォン】、フルファイア」


投げ飛ばされた輪の神装と、凄まじい神力が込められた光線がレヴィとシルフィに迫る。しかし、シルフィが呆れたように息を吐いた直後、輪は粉々に砕け散り、光線は闇に飲まれて消滅した。


「どうせやると思っていましたよ。さ、勿論覚悟はできているのでしょうね」

「えっ、あっ、今のは冗談─────」


シルフィの風魔法で加速したレヴィが、メイリンとコルレミスの鳩尾を思い切り殴った。衝撃で二人の体はくの字に折れ、そして弾丸のように吹っ飛んでいく。


「あらら、力を入れすぎたかな」

「いえ、あのくらいで丁度いいでしょう」


そう言って、レヴィとシルフィは迫ってくる住民達を躱しながらジーク達のもとを目指して動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ