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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第八章:第二の脅威
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第65話:終わりの始まり

そろそろ出ようかと思い露天風呂の出入口に向かって歩き出したレヴィは、ふと空を見上げて目を見開いた。


最初は石でも飛んできたのかと思ったが、違う。感じた魔力には覚えがあり、こちらも対抗する為紋章を解放して腕を交差する。直後、全身を駆け抜けた衝撃が石の床を砕いていった。


「君は、確かアンリカルナだっけ……!?」

「はっはーーっ!憤怒のアンリちゃん、お届けに参りましたぁ!」

「っ、サタン!」


立ち上がったエステリーナが手を広げそう言うと、扉を貫き魔神剣が真っ直ぐ飛んできた。それを手に取り駆け出したエステリーナは、レヴィを押し潰そうと力を込めるアンリカルナに斬撃を放とうと腕を振るう。


しかし、それは目の前に現れた冷気を纏う少女の槍で受け止められた。


「なんとびっくり、ミゼリコルドも参戦」

「嫉妬の第二魔神……!」


緊急事態発生に、シルフィ達も魔力を纏い二人の援護に向かう。と、そこで自分達の動きが遅くなっている事に気付いた。この独特な感覚は、ほんの少し前にも味わっている。


「ほう、それでも動くか」

「あれは怠惰の紋章……って、男が何堂々と女湯に入ってきてんのよ!」

「別にお前達の裸を見たところで興奮などせんよ。そんなものは、任務の前ではどうでもいい事だ」

「こっちはどうでもよくないっての!」


大量の魔剣が放たれるが、それを同じく自在に動く鎖が弾き飛ばしていく。怠惰の第二魔神ロウが操る鎖は、まるで蛇のように捉えずらい動きで四方八方から少女達を襲った。


「君達の目的は?」

「んっふっふー、仲良くしようと思って」

「そういうのはいらないって。君達は一体誰の命令で動いてる」


苛立ちを隠そうともしないレヴィを至近距離で見ながら、アンリカルナが楽しそうに笑う。


「ウチらのご主人様みたいな人。これで満足?」

「全然ッ!!」


強烈な蹴りが腹部に吸い込まれ、アンリカルナは壁に激突した。その隙にレヴィは鎌を生み出し、床を蹴る。


「なるほど。ではお前達に力を与えたのはベルフェゴールではないという事だな」

「あの程度の男、我らがマスターと比べる価値も無い」

「そのマスターとやらの命令で私達を襲撃したのか?こちらは少しの間のんびり過ごす予定だったんだがな」

「入浴中に敵の襲撃。魔神ならば、そのくらいは想定して生活するべき」

「そうかもしれないな!」


エステリーナのパワーは魔神の中でもトップクラスで、ミゼリコルドでは受けきれない。押し負けて吹っ飛んでしまったが、壁にぶつかる前にロウの鎖が彼女を受け止める。


「ちょっと、ウチの時もやってやそれ!」

「お前は頑丈だろう」

「か弱い私と一緒にしないでください」

「舐めてんじゃないわよ!」


余裕のある会話が繰り広げられる中、アスモデウスの禁忌魔法が露天風呂全体を包み込んだ。味方に力を与えるのではなく、相手を思うがままに操る使い方。しかし、今回は分が悪い。レヴィやエステリーナに匹敵しないとはいえ、相手は魔神が三人なのだ。


「どうやら色欲の禁忌魔法は、私達の力を完全には抑え込めないらしい」

「ならばこのまま我々三人が相手をさせてもらうとしよう」

「本当に、随分と舐められたものですね……!」

「あっはっはっ!舐めてないよ、だからちょいとこんな事を」


アンリカルナの視線を追えば、旅館の女将がロウの鎖で体を締め上げられていた。恐らく戦闘音を聞き、様子を見に来たのだろう。


「おのれ、人質のつもりか!」

「お前達は黙って我々の相手をしていればいい。この場から離脱しようとするのなら、あの女の命は無いぞ」


ルシフェルの移動速度をもってしても、鎖が女将を絞め殺す方が速いだろう。目的は戦いながら聞き出すしかない。エステリーナ達はそれぞれが紋章や奇蹟を解放し、第二魔神との戦闘を開始した。










「そらそらどうしたァ!」

「くっ……!」


大剣を受け止め、暴食の魔法を魔力で弾く。ネックレス状態になったアルテリアスが指示を出してくれるのでまだ戦いやすいが、それでも三人を相手にシオンを守りながら立ち回るのは困難だ。


「うふふふ……」


特にリリスの幻影魔法が厄介で、魔力から相手が本物かを瞬時に判断しなければならない状況が多々ある。やはり一番最初に叩くべきはリリスだろう。


「【大岩砕ロックブラスト】!!」

「おっと」


そう思っていた時、岩の弾丸が迫っていたオルガルドを襲った。それは大剣で受け止められたものの、ジークに僅かだが休憩する時間を与えてくれた。


「守られるだけではありません……!」

「あらあら……」

「へへ、なんて反応すりゃいいのやら」


反応が妙なことにジークは気付く。特にオルガルドとシーナは、自分に対して敵意を丸出しにしているが、今魔法を使いオルガルドの動きを止めたシオンに対しては、敵意のようなものを向けていないように見えたのだ。


「おい、リリスさんよ。まだ準備は終わってねえのか?」

「うふふ、もうすぐよ」

「正直シーナは疲れました」

「何をコソコソと……!」


シオンが放った岩から逃れるように魔神達が跳ぶ。そこでジークは最も近いオルガルド目掛けて地を蹴った。


「お前達の目的は何だ!」

「さあなぁ、聞きたきゃ勝ってみろよ!」


奇蹟を発現させ、オルガルドの大剣を弾く。そしてそのまま彼の肩を掴み、思い切り地面に背中を叩きつけた。衝撃でオルガルドが血を吐いたが、押さえ込む力は緩めない。


「後ろがガラ空きです」

「っ、突っ込むな馬鹿チビ!」


オルガルドが叫ぶが遅い。彼を押さえ込んだままジークは振り返り、腕を振った。その際放たれた魔力と神力はシーナが生み出していた触手を消し去り、彼女を勢いよく吹き飛ばす。何度も地面を跳ねた暴食の第二魔神は、木に衝突して倒れ込んだ。


「チッ、クソッタレが……!」

「今言え、お前達の目的は一体何だ!」

「これが目的よ、ジーク君」


周囲に広がった桃色の霧。瞬間、景色が別のものへと変化する。押さえ込んでいたオルガルドや木々は消え、巨大な建造物の建ち並ぶ桃色の空間がそこにはあった。


『こ、これは……』

「まずい、シオンはどこだ!?」

《うふふふ。ようこそ、私の世界へ》


リリスの声が響く。それと同時に建造物が形を変え、今度は巨大な魔物達となり一斉に魔法を放った。それを後方に跳んで避けたジークだったが、着地地点に足場が無く、一瞬の浮遊感の後そのまま落下が始まる。


《ここは私が禁忌魔法で生み出した領域。私の思い通りに世界は形を変える》

「これが色欲の禁忌魔法だと……!?」

《通常の禁忌魔法は本家にはまるで敵わないレベルでしか使えない。だけどこっちは私のオリジナル。女神の魔力と神力を持つジーク君ですら引きずり込める。まあ、今はまだ慣れていないから数分が限界だけど》


全身に走る衝撃。どうやら生み出された地面に衝突したらしい。腕を襲う痛みに耐えながら立ち上がれば、視線の先でリリスがシオンを魔力で捕らえているのが見えた。


「シオン!」

「う……ジーク……」

「時間が無いから始めさせてもらうわ。死ぬ程痛いと思うけれど、我慢してくださいね」


何をするつもりなのかは分からない。が、駄目だ。それだけは絶対にさせてはならない。無意識に動き出した足で地面を踏み砕き、リリスとの距離を一気に詰める。


「だぁめ、大人しくしてなさい」

「っ!?」


目の前に立ちはだかる大量の魔物。これもリリスの禁忌魔法で生み出された存在だ。歯噛みし、魔力と神力でそれらを薙ぎ払いながらジークは駆ける。


「くそっ、邪魔するなーーーーーッ!!」


全ての魔物を消し飛ばしたジークだったが、リリスがシオンの頭に手を置いたのを見て手遅れであると悟った。次の瞬間、シオンの絶叫が響き渡る。


『魔力で何かしらの干渉を行っています!』

「やめろおぉッ!!」


怒りを爆発させたジークの拳がリリスの顔面を歪める。しかし、どうやらそれは幻影魔法で生み出された魔力体だったらしい。離れた場所にリリスが現れると同時に景色が切り替わり、旅館周辺の森へと戻ってきたのだと気付く。


「女の顔を容赦なく殴るなんて。ジーク君ったら、意外とやんちゃなのね」

「成功したみてえだな。ククッ、これで今回のミッションは終了か」

「ええ、他の皆も呼んで撤退するわ」


気絶したシオンを抱き寄せながら、ジークがリリス達に目を向ける。三人は既に転移結晶を起動しており、今から止めようとしても間に合わないだろう。


「これがお前達の目的か……!?」

「うふふ。次に会う時は、何かが決定的に変わってしまった時になるでしょう。楽しみにしておくわ、貴方達にどんな未来が訪れるのかをね」

『待ちなさい!』


アルテリアスが呼び止めるが、三人は何処か別の場所へと転移してしまう。意味が分からないこの状況に、ジークは畜生と呟くことしかできなかった。

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