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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第八章:第二の脅威
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第64話:強襲

「おお、これは凄いな!」


眼前に広がる光景を見て、エステリーナがやや興奮気味に言う。彼女に続いてやって来た少女達も、皆同じように目を輝かせていた。


満天の星空の下、彼女達が全員で入ったとしても余る程の広さのある露天風呂。これを貸切で使えるというのだから、彼女達の疲れた体には相当ありがたい。


皆で体を流してから湯船に浸かる。最初は熱かったが慣れてくると心地よく、脱力しながら彼女達は息を吐いた。


「星が綺麗だねー……あ、ねえねえルシフェル!」

「どうしたの?」

「天界って空にあるじゃない?でも、地上からそれっぽいのが見えたりしないのは何でかなって」

「ああ、なるほど。天界はね、全体が巨大な結界で覆われているの。それは外敵の攻撃を寄せ付けないくらい強固な結界で、更に天界を透明にしているから、外側からは目視できないんだよ」


気になった事が聞けて満足したのか、レヴィはそっかーと頷きながら隣に座るエステリーナにもたれかかった。レヴィがエステリーナに甘える光景は珍しくなく、それを見たルシフェルは微笑ましそうに頬を緩める。


「で、アスモデウスは何故そんなに離れた場所に居るんだ?」


レヴィの濡れた髪を優しく撫でながら、エステリーナが遠くで湯船に顔を半分沈めていたアスモデウスに声をかける。話しかけられると思っていなかったのか、アスモデウスはビクリと身を震わせて呟く。


「……別に何も」

「あー、分かった!ジークと一緒に入りたかったなーって思ってるんだよ多分」

「ち、違うわよ!変なこと言わないでくれる!?」

「では、どうしてわざわざそんな場所に……」


シオンにじっと見つめられ、アスモデウスはシルフィに目を向けた。相手もこちらの視線に気付く。そう、あんたならあたしの気持ちを分かってくれる筈よ……そう思いながら見ていたが、シルフィは首を傾げていた。


「ふむふむ。みんな胸が大きくて羨ましい、こんなの不公平だ……そう思ってるんですねー」

「うぐっ……」

「あら、当たりでしたかー?」

「……ええそうよ、悪い!?」


顔を真っ赤にしながらそう言ったアスモデウスを見て、レヴィが苦笑する。


「不公平だーって、胸の大きさはまあ置いといて、君の美貌はボクからすればとんでもなく羨ましいんだけどね」

「は、はあ?」

「スタイル抜群でしょ、アスモデウスって。美人レベルカンストしてると思うんだけど」

「そうですよ。私なんて見ての通り幼児体型ですからね。ジーク様から完全に娘か妹扱いされているのが悲しくなります」


急に容姿を褒められ、言葉が止まる。見れば、ルシフェルやシオン達もうんうんと頷いていた。


「ふふ、アスモデウスさん可愛いからね」

「ああ、すぐ照れるところとかがな」

「そうですよ。アスモデウスさんにはアスモデウスさんの武器がありますから」

「むぅ……」


色々な感情がごちゃ混ぜになったような、なんとも言えない表情のままアスモデウスは再び黙り込んだ。さり気なく、皆との距離を詰めながら。


「こうして湯に浸かっていると、色々なことを忘れてしまいそうだな……」


息を吐き、エステリーナが言う。まだまだやる事は山積みだが、今だけは全て忘れて寛いでも文句は言われないだろう。


「ジークと一緒に入りたかったんだけどなー」

「そうですね、残念です」

「あんた達ねぇ。あいつも内心何考えてるか分からないわよ。急に襲われたりでもしたらどうするつもり?」


ジークとの混浴風景を妄想しているのであろうレヴィとシルフィ。そんな彼女達にアスモデウスが呆れたような視線を送る。


「別に嬉しいよ?だってボクのことが好きだからそういう行動を起こすってことでしょ?」

「寧ろ襲ってもらいたいのですけど、ジーク様ったらどれだけ誘惑しても手を出してくださらないので困っています」

「何で幼い見た目してるあんた達が一番ヤバいのよ……」

「そういうアスモデウスは、急にジークがグイグイ来たらどうなのさ」

「どうって、それは……」


何を想像したのか、アスモデウスの顔が真っ赤に染まる。


「ど、どうもしないわよ、馬鹿!」

「うふふ、可愛らしいですねー」

「ぐっ、そう言うあんたはどうなのよ女神!」


ビシッと指さされたアルテリアスが、口元に手を当てて笑みを浮かべる。晒された暴力的なまでの美しい容姿は、たとえ同性であっても虜にしてしまう程。頭に浮かんだ変な考えを各々が振り払いながら、偉大なる女神様の言葉を待つ。


「逆にこちらがグイグイ攻めてみて、思わぬ反撃に慌てるジークを押し倒して色々と……というのもアリかもしれませんねー」

「ひゃっ!?」


突然消えたかと思えばエステリーナの目の前に姿を現し、彼女の顎に手を当て顔を近づけたアルテリアス。いきなりだったのでエステリーナは動揺しており、アスモデウスのように顔を赤くして固まってしまっていた。


「エステリーナも、このくらい攻めてみては?」

「わ、私は……うぅ……」

「うーん、可愛らしい反応ご馳走様ですー」


満足したのかエステリーナから離れ、アルテリアスがふわりと宙に浮く。そんな彼女を見て自由だなぁと苦笑していたルシフェルだったが、今度は彼女に視線が集まった。


「ルシフェルさんはどう思いますか?」

「えっ?それは……その、嬉しいかな」

「嬉しい!?」


驚いたアスモデウスがルシフェルに詰め寄る。


「今まで超がつくほど真面目だったから悪い男に惹かれてるのね!?あんたは襲われたいとか思っちゃ駄目よ!」

「ち、違う違う!そういうのじゃなくて、ジークさんの方からも色々誘ったりしてくれたら嬉しいなって。ジークさんは優しいから、襲うとかそんなのは考えないと思うな。私達のこと、とても大切に思ってくれているからね」


にこりと微笑んだだけで、この世の穢れ全てを浄化してしまいそうな破壊力。この笑顔で、一体どれだけの男を虜にしてきたのだろう。


「何だか不思議です。ジークに、これだけの人達が想いを寄せているなんて」


盛り上がる仲間達を眺めていたシオンがそう言う。


「そりゃあ好きになるよ。ね、アスモデウス」

「あ、あたしは別に好きとかじゃ……」

「ジーク様はこの世で一番素敵な御方ですから。シオンさんだけに独り占めはさせませんよ。ですよね、アスモデウスさん」

「何なのあんた達!?」


弄られて顔を赤くしているアスモデウスを見て、シオンは苦笑した。皆、色々な理由でジークに惚れているのは見ていれば分かる。これまで自分だけが知っていたジークの良さを、他の人も分かってくれているのは嬉しい。しかし、それと同じくらいモヤモヤしてしまっていた。


「ムカつく、こんなチビ達にすら舐められるなんて……」

「ふふ、よしよし」

「子供扱いもされてるしさぁ……」


ルシフェルに頭を撫でられているアスモデウスを、皆が微笑ましく見つめている。そんな、騒がしくも平和なひと時をのんびりと過ごしていた少女達だったが、そろそろ上がろうかと思い始めた頃、レヴィがとある疑問を口にした。


「そういえばさ、第二魔神って結局ベルフェゴールと関わりがあったのかな?」

「確かに、それは聞きそびれてしまいましたね。もし協力関係だった場合、彼らに紋章を与えたのは怠惰の魔神ということになりますが」

「そうですねー。でも、紋章を与えてくれた存在が我々に追い込まれている状況で、どうして彼女達は姿を現さなかったのでしょうね?」


そう言ったアルテリアスに視線が集まる。


「それはつまり、第二魔神がベルフェゴールをどうでもいい存在だと思っているという事ではー?」

「……確かに、彼女達は紋章を与えた人物について、頑なに口を割ろうとはしなかった。それだけ存在を知られたくない人物なのだとしたら、ボク達からその人を守ろうとしないのはおかしい」

「ベルフェゴールは魔人化やデミウルゴスの復活など、様々な事を成し遂げた男。それでも、紋章の複製などは不可能だと思いますー」


第二魔神の中には傲慢の紋章を持つ者もいた。ルシフェルの体を支配し魔界に君臨していた最凶の魔神ゼウス、その紋章をベルフェゴールがどう研究できるというのか。


ならば第二魔神に紋章を与えた人物は誰なのか。紋章を複製できる程の長い時間を生き、研究し尽くせる程の人物。それこそ、時を操る魔法でも存在するのなら────


「────時の天使」


ルシフェルが呟く。


「ベルフェゴールが言っていた時の魔法を使う天使が実在するのだとすれば」

「実在すれば、の話でしょ?あんたが言ってたんじゃない、魔法を使える天使ないないって」

「そうだけど……でも、今思えば嘘を言っているようには見えなかったなって」

「じゃあ、時の魔法が使えるっていうその子は何者なわけ?」

「あ……」


今度は自分に視線が集まり、シオンは少しだけ肩を震わせる。


「わ、私は、自分がそんな魔法を使えるとは思っていません」

「シオンさんが使うのは岩や地面を変形させる土魔法ですからね」

「というか、シオンが嘘を言うわけないしねー。第二魔神の連中に紋章を与える理由も無いわけだしさ」

「う、うん、そうだよね……ごめん、シオンさん」

「いえ、別に謝ることは────」


苦笑しながらそう言った直後、突如凄まじい頭痛に襲われシオンは頭を押えた。皆がどうしたのかと驚きながら寄ってくるが、大丈夫だと返事ができない程の痛みが続く。


「魔力が乱れています。シオン、一度上がりましょう」

「め、女神さん、どうするの?」

「シオンを連れて、先に部屋に戻ります」

「それなら、我々も……」

「……いえ、少し気になる事があるので。皆さんはそのまま体を休めていてください。元々ここに来たのは、怪我を早く治す為なんですから」


アルテリアスにそう言われては、無理についていく事はできない。シオンを抱えて露天風呂から出ていった彼女を見送り、少女達は湯に体を沈めた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「シオン、貴女は時を操る魔法を使う事が可能なのですか?」


露天風呂から出て体を拭き、着替えを済ませたアルテリアスとシオン。彼女達は旅館の周囲に広がる森の中へと向かい、アルテリアスが魔除けの結界を張ってからシオンにそう聞いた。


「貴女が天使だとは思えません。ですが、私は何度か妙な感覚を貴女の近くで味わっています。私と貴女達が出会った時、王都の地下でジークとベルフェゴールの戦闘中に貴女が姿を見せた時、傲慢の魔神ゼウスに攫われた貴女をジークが助けに向かった時。どれも似たような感覚でした」

「それは……」

「ゼウスの時は、共有された魔力からその時ジークが味わった感覚を感じたのですけどね。貴女は一体、何をしたのですか?」

「…………本当に、分からないんです」


困惑したように、シオンが言う。震える手を持ち上げ、真っ青に染った顔にそれを押し当てながら。


「私には、ジークと出会う以前の記憶がありません。覚えていたのは〝シオン〟という名前だけでした。だけど時々こうして自分が分からなくなって、どこかで見たような光景が頭に浮かんだりして……」


揺れるシオンの瞳にアルテリアスが映る。


「その中に、目を逸らしたくなるようなものも沢山あるんです。エステリーナさん、シルフィ、レヴィさん、アスモデウスさん、ルシフェルさん、アルテリアス様……そしてジーク。皆さんが命を失いこの世から消える光景が、何度も、何個も、何パターンも」

「っ、それは……」

「最初は未来予知のようなものかと思っていました。でも、違うんです。これはこれから起こる悲(・・・・・・・・)劇であって(・・・・・)もう既に起こった(・・・・・・・・)悲劇でもある(・・・・・・)。だとすれば、私は一体誰なんですか?こんなに数え切れない程の死を見てきた私は……」


アルテリアスは動揺した。自分やジーク達の命が散る瞬間を何度も見てきたという、その言葉。もしこれが失われていたシオンの記憶だったとして、彼女が時の魔法を使う事ができるのだとしたら。


「あれ、二人共何をしてるんだ?」


不意にそんな声が聞こえ、アルテリアスの肩が跳ねる。振り向けば、眠そうに欠伸をしながらこちらに歩いてくるジークが見えた。


「……いえ、少し涼んでいただけです」

「そうなのか。さっきエステリーナから連絡用魔結晶でシオンの事を聞いてな。旅館に居なかったから捜してた」

「そ、そうだったんですね。それはすみません」

「……お前も体調悪いのか?」


ジークにそう言われ、アルテリアスはそんな事はないと首を振る。どうやら動揺が顔にも出ていたらしい。最初はアルテリアスの態度に首を傾げていたジークだったが、すぐ近くに立つシオンに歩み寄った。


「シオン、もう大丈夫なのか?」

「は、はい、一時的なものだったので……」

「まあ、無理はしない方がいいよ。今日はもう休もう。俺も一緒に戻るからさ」

「ええ、分かりました……」


まだ少し辛そうに息をしているシオンに、ジークが手を差し出した────その瞬間。


「っ!?」

「爆発音……旅館の方からです!」


突然大きな音が響き渡り、僅かだか周囲が揺れた。羽を休めていたのであろう鳥達が一斉に羽ばたく中、ジークは急いで戻る為にシオンを抱えようとした。


しかし、そんな彼に迫る大柄な影。真上から振り下ろされたのは魔力を纏わせた大剣で、咄嗟にそれを受け止めたジークを、今度は先端が口になった触手が襲う。


「くっ、【守護岩兵ガーディアン】!!」


それらが到達する前に、シオンが生み出した岩の巨人が大剣の持ち主を弾き飛ばし、その身で触手を受け止めた。


「むぅ、岩は食べても別に美味しくないです」

「いいねぇ、まさか止められるとは思わなかったぜえ」

「この魔力……第二魔神の連中か!?」

「うふふふ、よく分かったわね。今日は特別大サービス、私達三人の相手をジーク君にはしてもらうわよ」


ふわりと降り立ったのは、色欲の紋章を持つリリス。突如現れた第二魔神達からシオンを守るように立ち、ジークは拳を握りしめた。

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