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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第八章:第二の脅威
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第57.4話:炎邸訪問

もうそろそろ雪が降り始める……そんな季節になったのだが、この場の熱気はそんなものを感じさせない。


「はあッ!!」


目の前を燃え盛る剣が通り過ぎる。それから発せられる熱が、周囲の温度を急上昇させているのだ。


「ふふ、体が温まってきたな」

「温まりすぎて汗だくだけど」


憤怒の紋章を輝かせながら、エステリーナが魔神剣を振るう。それを避けながら、ジークは数十分前のことを思い出していた。


『私と本気で手合わせしてくれないだろうか』


皆の中からジークが声をかけたエステリーナは、真剣な表情でそう言った。特訓で魔力をぶつけ合うことは多かったが、その際互いに全力を出したことは一度もない。


憤怒の紋章に選ばれてから随分経ったが、今の自分がどこまで通用するかを知りたいとのことだ。エステリーナらしいなと思いながら、眼前に迫る剣をジークは拳で弾く。


「【陽光剣ようこうけん】!!」

「ッ……!」

「【壊炎鎚かいえんつい】!!」


強烈な閃光を浴びて目が眩んだジークに、エステリーナが剣を叩きつけた。なんとか反応してそれを受け止めたジークだったが、あまりの威力に両腕が痺れる。


『フッ、流石のお前も娘の一撃は楽に止めれないようだな』

「ぐっ……そりゃあな」

『当然だ。この娘は我以上に紋章の力を使いこなしている。数ヶ月でよくここまで成長したものだ』


すっかり保護者目線で自慢げに語るサタン。確かに彼の言う通り、今のエステリーナは凄まじい憤怒の力を完全に支配しており、女神の魔力を纏ったジークですらも簡単には攻撃を弾き返せない。


そして恐ろしいのが、彼女はジークに対して怒りを抱いていない状態でこれ程までの力を発揮できているということだった。敵対した相手に本気で激怒した時……憤怒の紋章はこの少女にどれ程の力を与えるのだろうか。


「こ、のォ……ッ!」


しかし、ジークも負けてはいない。全力で地面を踏み、アルテリアスから受け継いだ『破壊の奇蹟』を発現させ、燃え盛る魔神剣を押し返した。まだこの力を自由自在に扱えているわけではないので、今回の手合わせである程度は我がものにしておきたい。


「行くぞジーク!」

「ああ、来い!」


圧倒的な力と力のぶつかり合い。手合わせに選んだのは周囲に何もなく、王都からもかなり離れた場所なので遠慮をする必要が無い。高速で駆けるジーク目掛けて斬撃が飛び、大地を容赦なく抉りとる。更に足を置いた瞬間に魔法陣が展開され、爆発がジークを上空に吹き飛ばした。


「【鳳凰炎断ほうおんえんだん】!!」

「やべっ────」


そこに放たれた必殺の一撃。猛スピードで迫るそれを避けることはできず、ジークは凄まじい衝撃に全身を激しく揺さぶられた。そしてそのままバランスを崩して地面に衝突した直後、サタンが『そこまで』と手合わせの終了を宣言する。


「いてて……いやぁ、まいった」

「むぅ、まだまだ余裕そうだな。サタン、本当に終了の時間だったのか?」

『数秒ズレているかもしれんが、我はしっかりと数えて終了宣言をした。タイミング的にお前が勝利したように思えただろうが、我は別にそんなつもりで言ったわけではない。奴が負ければいいと思ってはいたが』


怪しいがそういうことらしい。長い期間エステリーナと接してきて、親心というものが芽生えたのだろう。苦笑しながらジークは立ち上がり、エステリーナに駆け寄った。


「今のが実戦なら、最後の一発を受けた時の隙が致命傷になっていたと思うから、普通に俺の負けだよ」

「ジークなら次の一撃は避けれただろうし……」

『もっと自分に自信を持て。あのタイミングで禁忌魔法を使っていれば、死ななかったとしても戦闘不能だ』


そう言われ、エステリーナはそうだろうかと唸る。と、不意に彼女は荷物を置いていた切り株に向かって歩き出した。どうやら連絡用魔結晶が反応していたらしい。それを手に取り誰かとやり取りをしていたエステリーナは、明らかに動揺した様子でジークに顔を向けた。


「何かあったのかな……」

『フム、面倒事でなければいいのだが』


暫くして戻ってきたエステリーナにどうしたのかと聞けば、何やらイツキから一緒に実家に戻れないかと連絡が来たとのことだった。なので途中で帰るのが申し訳ないんだろうなとジークは判断し、別に大丈夫だよと伝える。


「い、いや、その、父が〝娘が世話になっている特務騎士団の男に会って話がしたい〟と言っているらしくて……」

「え……?」


特務騎士団の男……サタンに目を向ければ、『お前のことに決まっているだろう』と呆れたように言われた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






王都から遠く離れた田舎の町、レグルス。到着した頃には夕方になっており、王都に帰るのは明日の朝になるだろう。小さいが優しい雰囲気に包まれた町で、自然に囲まれているからか空気も澄んでいる。


そんな町にある、エステリーナの実家。二人が幼い頃に鍛えられた道場を持つその家で、ジークはこれまで味わったことのないプレッシャーで潰れそうになっていた。


「君が特務騎士団のジーク・セレナーデ君だね。娘が世話になっているよ。私はトール・ロンド、エステリーナとイツキの父だ」


元騎士団長のトールが、凄まじい圧を放ち続けている。ここに来る途中、イツキから「エステリーナに対して俺以上に親バカだ」と言っていたのだが、どうやら想像以上にエステリーナのことを愛しているらしい。


『娘は絶対にやらん』という意思が、直接言われたわけではないが伝わってくる。


「と、父さん、呼んだのはこちらなのに、そんなに威嚇する必要は……」

「威嚇などしていない。ただ普通に自己紹介をしているだけだ。ああ、それともう一人居たのだったな。今は娘の剣となっているらしいが、元魔神のサタンだったか。剣だからといって、娘に変なことを言ったりしていないだろうね?」

『そ、そんなことは……』


あのサタンですらもこの調子である。エステリーナとイツキが色々言ってはいるが、トールは娘に近寄る男達がどんな存在なのかを意地でも知っておきたいようだ。


「単刀直入に言おう。ジーク君、君は娘のことをどう思っているのかね」

「「んなっ!?」」


エステリーナとイツキが同時に声を出した。ジークは動揺しながらも、頭の中で言うべき言葉を必死に掻き集める。


「ぼ、僕は、いつもエステリーナさんに助けられていて、本当に頼れる人だと思っています。何かあれば皆をまとめてくれて、騎士団のお姉さんのようで……」

「そういうことではない、そんなことは分かっている。私が聞きたいのは、君が娘を異性としてどう思っているのか、ということだ」

「と、父さん!わざわざ来てくれた相手に対してそういう言い方はないだろう!それに、そ、そんなことを聞く必要は……!」

「黙っていなさいエステリーナ。私はお前の父親として、愛する娘が惹かれている男がどのような存在かを見極める義務がある」

「惹かッ……!?」


エステリーナの顔が真っ赤に染まる。ジークも、ぎょっとしながらエステリーナに目を向けた。イツキは困ったように息を吐き、サタンは黙り込んでいる。


「ム、まだ何も言っていなかったのか?以前かなり長文で彼に関する手紙が数枚送られてきたものだから、そういう関係なのかと……」

「ちち、違うから!べ、別に、そういうつもりで手紙を送ったわけではなくて……!」

「なるほど。では、私はジーク君がエステリーナとそういう関係には今後ならないと、安心してもいいというわけだね?」

「うぅっ……!」


いよいよエステリーナが撃沈しようとしていた時、突然トールの脳天に拳骨が落ちた。その一撃は誰が見ても強烈で、元騎士団長のトールですらも頭を押さえながら机に突っ伏すレベルである。


「な、何をする、ソフィ……!」

「過保護なのは仕方ないのかもしれませんが、その愛する娘を困らせていることに気づきなさい」


柔らかな雰囲気の、美しい女性がジークに目を向け微笑む。


「はじめまして、二人の母のソフィ・ロンドと申します。いつも娘がお世話になっております」

「い、いえ、自分の方がエステリーナさんにご迷惑をおかけしてばかりで……!」

「ふふ、先程は夫が失礼しました。そんなに畏まらなくてもいいのよ。この人が過保護過ぎるだけですもの」


そう言うと、ソフィはジークとエステリーナを交互に見て、心の底から嬉しそうに笑った。


「素敵な子ね、エステリーナ」

「え、うん……」

「別にこの人のことは気にしなくていいのよ、貴女ももう年頃の娘なんだから。ジーク君、これからも娘のことをよろしくお願いします」

「は、はい」


そう言うと、ソフィはトールの首根っこを掴んで引っ張った。大人の男がまるで子供のように持ち上げられる。凄まじい力だ。


「今日はゆっくりしていってください。私は少しこの人とお話をしてきます」

「ちょ、ちょっと待てソフィ!」


そのままソフィに引き摺られていったトールを見て、ジークとエステリーナは苦笑する。どうやらこの家での力関係はソフィの方が上らしい。


「ということだ。今日はゆっくり休むといい」

「ああ、お言葉に甘えさせてもらうよ。ところでエステリーナ、さっきトールさんが言っていたのは……」

「なっ、何のことだ?ほら、今日は兄さんの部屋で寝るのだから、早く荷物を運んでしまおう!」

「え、ちょっ……!」


赤くなった顔を隠しながらエステリーナに押され、ジークが階段を登っていく。それを見ていたイツキとサタンは、やれやれと息を吐いた。


『もうすぐくっつきそうだな』

「まだまだ安心できそうだな」

『ム……?』

「あ……?」

人物紹介(9)


イツキ・ロンド

年齢:23歳

身長:181cm

趣味:武具の手入れ

総合戦闘力:S


エステリーナの兄である、第一騎士団長の男。特務騎士団のメンバーやマモンを除けば王国一の実力を誇る剣士だが、超がつくほどのシスコンでエステリーナに近寄る男は許さない。副団長のノエルとは幼馴染で、割と意識はしている。



ノエル・ミルスティン

年齢:23歳

身長:166cm

趣味:魔道書解読

総合戦闘力:S


第一騎士団の副団長を務める女性。魔法の腕は人間の中ではトップクラスで、知識量も凄まじい。イツキとは幼馴染の関係でエステリーナとも仲が良く、彼女がジークと徐々に距離を詰めているのを微笑ましく見守っている。



サタン

年齢:不明

身長:178cm→巨神化時:70m

趣味:エステリーナを鍛えること

総合戦闘力:SSS


元憤怒の魔神で、現在は紋章を継承したエステリーナが使う魔神剣へと姿を変えている。元々傲慢の魔神に協力する気は殆どなく、王都防衛戦で現れたのはジークやレヴィと一戦を交えるため。今ではただの保護者と化しており、エステリーナが成長する手助けをしている。

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