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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第八章:第二の脅威
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第57.3話:桃色の想い

すれ違う人達の中で彼女を目で追わない者はいない。それ程までの美貌を持つ色欲の魔神アスモデウスは、動揺する自分を落ち着かせるように何度も深呼吸を繰り返している。


どうせ自分は選ばれない。そう思っていた時に指名されたものだから、彼女の動揺は相当なものだった。


ふと隣を歩くジークに目を向ければ、同じく彼もこちらを見ていたのでばっちり目が合う。焦って顔を逸らしたのは二人共。先程から顔が熱くて仕方ない。このままだと、恥ずかしさと緊張で死んでしまうのではないかとアスモデウスは思った。


「「あ、あの……っ!?」」


何故自分を選んだのだと聞こうとしたが、ジークも何かを聞こうとしたらしい。互いの声が重なり、より一層顔が熱くなる。


「な、何よ……」

「えっと、その。さっきから一言も話してくれないから、嫌だったのかなって思ってな」

「は、はあ?」

「なんというか、ごめん。こうして会うのが久々だったから、話がしたかったんだ」


それを聞いて胸が苦しくなる。嫌だったわけではない、寧ろ逆だ。話がしたかったのはこちらも同じで、ジークが謝る必要など一切ないというのに。


同時に、嬉しさのあまり言葉にできない感情が暴れる。こうしてまた話がしたいと、ジークも思っていてくれたのだ。我ながら情けないと思うが、嬉しいと思う度に色欲の紋章が反応している。どうやら自分は相当ジークを意識してしまっているらしい。


「あ、あたしだって!」

「え?」

「あたしだって、あんたと話がしたいって思ってたわよ。話してなかったのは嫌だったからじゃなくて、変に意識しちゃって何を話せばいいのか分からなくなってただけで……」

「そ、そうだったのか?」


俯きながら首を縦に振ったアスモデウスを見て、ジークは胸を撫でた。確かに、今の彼女からは敵意を一切感じない。変に疑ってしまったことが申し訳なくなり、ジークは言葉に詰まる。


「まあ、そう見えていたのなら悪かったわ。だけどあんただってずっと無言だったから、こっちも不安に……」

「ごめん、俺も緊張しちゃっててさ。アスモデウスとこうして二人きりで出かけたりするの、久々だから」

「ふ、ふーん、そうなんだ。じゃあお互い様ってことで、この話はもうおしまい。話がしたいのなら、とりあえずあそこに入りましょう」


そう言って歩き出したアスモデウスに続き、ジークは喫茶店の中へと足を踏み入れた。ここは確か、アスモデウスと初遭遇した際会話をした喫茶店のはず。なんだか懐かしい気持ちになりながら、空いている席に腰かける。


「一応魔法を使って、他人には別人に見えるようにしてあるわ。あたしの美貌の虜になられても面倒だし、あんたもそれなりに有名でしょうしね。部外者が集まってきたら落ち着けないもの」

「はは、そうだな。ところでこの喫茶店気に入ってるのか?」

「まあね。それよりほら、注文どうするのよ」


徐々に緊張も解れ、普通に会話ができるようになってきた。それから店員を呼んで注文を伝え、料理が運ばれてくるまでの待機時間。腕を組みながら、アスモデウスはジークの顔をじっと見つめる。


(気になってる相手とかいないのかしら……)


自分の容姿に自信を持っているアスモデウスから見ても、特務騎士団に所属しているメンバーは皆美少女ばかりだ。そんな美少女達に囲まれた日々をジークは過ごしているわけだが、その中の誰かを好きになっていてもおかしくはない。


更に、そんな美少女達もジークに惚れている。自分と同じく、ジークに救われた者達。誰もがアスモデウスと同等かそれ以上の好意をジークに向けているのだ。いつも素直になれない自分が、彼女達に勝つことはできるのだろうか。


「なんか、初めて会った時のことを思い出すな」

「え?」

「こうして向かい合って座ってさ。あの時のアスモデウスからは敵意しか感じなかったけど、今は違う。ある程度は信頼してもらえるようになったってことか」

「ま、まあ、あんたとは色々あったもの」


共に行動した回数は、ジークに好意を寄せている者の中で最も少ない。月光祭前日の初対面時、屋台めぐり、暴走したレヴィを止めるための共闘、ゼウスとの激戦……思い出は僅かだが、人間嫌いの彼女が心を許すことができた初めての相手。


(あたしの魅力ってなんだろう……)


容姿には自信があるが、それ以外の面でレヴィやルシフェル達に勝てるだろうか。生意気でプライドが高く、素直になれない。ジークは優しく自分に付き合ってくれているものの、レヴィ達よりやり取りがしづらいはずだ。


「……ねえ」

「ん?」

「あたしの魅力ってなんだと思う?」


急にどうしたのかとジークは驚いたが、アスモデウスの少し怯えているような表情を見て、冗談で言っているわけではないのが分かった。腕を組み、思ったことをそのまま口にする。


「優しいところ……かな」

「や、優しい?」

「なんだかんだ言って、何かあったら手伝ってくれるだろ?共闘した時も、俺達が魔界に行った時も」

「べ、別に、そんなこと……」

「あと、個人的にグッとくるのは照れ屋なところ」

「んなっ……!」


顔を真っ赤にして仰け反ったアスモデウスを見て、そういうとこだよとジークは苦笑する。


「普段はすごいクールに見えるけど、こうしてすぐ照れたり恥ずかしがったりするところが可愛いかな。親しい人だけが知ってるアスモデウスの一面だ」

「か、かわっ……!」


少し調子に乗ってしまったかとジークは身構えたが、アスモデウスは何も言ってこなかった。それから料理を食べ終えた二人は、アスモデウスの希望でとある場所に向かうことに。


「王城?なんでこんな所に?」

「以前あたしがここに来た時、随分迷惑をかけたでしょう?その分際で住まわせてもらうんだから、その、謝罪しておきたいのよ」


王城で偶然会ったノエルに国王であるダインと話ができるかどうかを聞き、数十分後に許可が降りたのでそのまま謁見の間へと二人は向かった。話を聞いたダインは二人を笑顔で歓迎し、緊張でガチガチになっているアスモデウスの肩を叩く。


「よく来てくれた。君が元気にやっているというのはジークから聞いていたが、こうして再び顔を合わせることができたことを光栄に思う」

「っ……ごめんなさい」


アスモデウスが頭を下げる。


「あ、あたし、あの時は取り返しのつかないことをしそうになって……」

「もう十分反省していることは伝わっている。王都に住む者達と分かり合えるのかは今後の行動次第ではあるが、私はもう君を許している。これからは友として、仲良くしてほしい」


顔を上げたアスモデウスがジークに目を向ける。彼はなんだか嬉しそうな表情で頷いてくれたので、アスモデウスは躊躇いながらも差し出されたダインの手を握った。


「よ、よろしく、お願いします……」

「ぬわっはっはっはっ!いやあ、こんな美人さんと握手できるとは!長生きはしてみるものだな!」


しばらくの間豪快に笑っていたダインだが、不意に真剣な眼差しでアスモデウスを見つめる。


「レヴィやルシフェル殿、シルフィにアルテリアス様。彼女達は種族の壁を越えてジークや我々と共に歩んでいる。君が傷つくことがあれば、必ず皆が手を差し伸べてくれるだろう。ここはもう、君の新たな故郷だ」

「……ありがとうございます」

「ところでジークよ。随分といい仲になっているようだが、式にはいつ呼んでくれるのかな?」


唐突に話が変わり、ジークは咳き込んだ。真剣な話をするのかと思えば、この国王はすぐこれである。


「い、いや、俺達は別にそんな関係じゃ……」

「ぬわっはっはっはっ、冗談冗談!と言ってもいいのだが」


ダインの目線を追い、隣のアスモデウスに目を向ける。彼女は顔を真っ赤にしながら俯いてしまっていた。普段の彼女なら、真っ先に怒りながら否定する筈なのに、これは……。


「え、ええと……」

「まあ、今後とも仲良くな」

人物紹介(8)


アスモデウス

年齢:人間年齢で17歳前後

身長:163cm

趣味:入浴

総合戦闘力:SSS


色欲の紋章を持つ魔神で、絶世の美女。他の魔神とは比べ物にならない量の魔力を身に宿しており、魔力制御能力も次元が違う。短気で口が悪く誤解されやすいが優しい心の持ち主で、恥ずかしがり屋。


王都での共闘を経てジークを意識するようになり、それもあって両親を奪った人間に対する憎しみは以前よりも減っている。



【色欲の魔神】

様々な精神干渉系の魔法を操る魔神で、情欲を抱けば抱くほど能力が上昇する。


甘美なる色欲の支配(ルクスドミネーション)

色欲の魔神の切り札。拡散された魔力を対象の体内へと流し込み、精神と肉体を支配する禁忌魔法。逆に使用した対象の身体能力や魔力を高める使い方も可能で、異次元の魔力量を誇るアスモデウスと非常に相性が良い。


【武具の高速錬成】

幻魔族が得意とする武具錬成だが、アスモデウスは彼らが10秒ほどかけて一つの武具を生み出す間に数百もの魔剣を錬成できる。更に彼女はそれら全てを自由自在に動かすことも可能で、アスモデウスの魔力制御能力の異常さがよく分かる。

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