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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第八章:第二の脅威
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第56話:想いの自覚

「でやああああっ!!」

「くっ……!」


爆炎が吹雪を消し飛ばし、かなりのダメージを負ったミゼリコルドは膝をついた。そんな彼女にサタンの切っ先を向け、エステリーナは燃え盛る炎を纏いながら口を開く。


「そろそろ話してもらおうか。お前達は一体何者だ?何故私とレヴィの紋章と同じものを持っている」

「……エステリーナ・ロンド。魔神になって一年も経っていない筈なのに、まさかここまでやるとは」

『当然だ。この娘は我以上の才能を秘めている。それに、元魔神自ら指導してやっているのだからな』


エステリーナも負傷しているが、まだまだ魔力も体力も余裕がある。そんな彼女を見上げながら、ミゼリコルドは息を吐いた。


「少しだけなら教えてあげる。私達は新たなる魔神。この紋章はあなた達の紋章を再現した、限りなく本物に近い紋章」

『再現しただと?そんなことが可能なのか?』

「知らないけど、こうやって存在しているのだから可能でしょう」


そう呟いた直後、ボロボロになったアンリカルナが吹っ飛んできた。どうやらレヴィにこっぴどくやられたらしい。半泣きになりながら、アンリカルナがミゼリコルドにしがみつく。


「全然手加減してくれへん〜!」

「自業自得。あなたが煽るから」


邪魔そうにアンリカルナの顔を押し退け、ミゼリコルドは発光する結晶の塊を手に取った。エステリーナ達が魔界に向かった時に使用した転移結晶である。


「逃げるの?」

「おっと、レヴィちゃん。まあ今回はウチらの負けってことで」

「悔しいけど、あなた達の方が実力は上だった。次に刃を交えることがあれば、その時は私達が勝利する」

「待て……っ!」


転移結晶が輝き、アンリカルナとミゼリコルドが姿を消す。敵を逃したレヴィが地団駄を踏むように地面を踏み砕き始めたので、苦笑しながらエステリーナはレヴィを後ろから抱き寄せた。


「王都に戻ろう。もしかすると、彼女達の行動が魔物の活性化に関係しているのかもしれないから、ジーク達に報告だ」

「……うん」


拗ねた子供のように大人しくなったレヴィに背中を貸し、おんぶしてエステリーナが歩き出す。他の皆は無事だろうか。心配で不安になってしまうが、仲間達を信じて王都を目指した。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「フン、その程度ですか」

「へへっ、バケモンめ……!」


ギロりと自分を睨むシルフィを見て、オルガルドは肩を揺らした。自分の実力には自信がある。しかし、次々と繰り出される嵐のような攻撃を前に手が止まり、シルフィの方が格上だと認めてしまった。その結果、傲慢の紋章が輝きを失い始めたのだ。


「反則だろ、こっちの魔法は全部喰われちまうんだからよ……!」

「戦い方が悪いのでは?わかりやすい攻撃ばかりしてくるので対応が楽なのです」


そう言うと、オルガルドの全身を鋼糸で縛り上げたシルフィは彼の首元に刃を押し当てた。


「さて、どうしましょうか」

「このまま殺すのかい?それとも、仲間達のとこに引っ張っていくか?」

「どうせ何も言わないのでしょうし、連行して暴れられるとジーク様に迷惑をおかけしてしまいます。ならば、ここで始末しておくべきでしょう」

「ククッ、子供が言う台詞じゃねえぞそれ」


今もオルガルドの禁忌魔法は周囲を押し潰し続けている。そんな状態で、涼し気な表情を崩すことなくオルガルドを圧倒したシルフィ。彼ではシルフィの動きを止めることは難しい。


「だがまあ、今回は見逃してもらうぜ」

「っ!」


突如木々の隙間から飛び出してきた鎖を避け、シルフィは舌打ちした。ルシフェルと戦闘を行っていたロウがこちらに向かってきているらしい。


「じゃあな、暴食。次は必ずぶっ潰してやるからよ」


見れば、この隙を利用してオルガルドが転移結晶を起動していた。急いで駆け出したが、刃が届く前にオルガルドはシルフィの前から姿を消す。


「くっ、しまった……!」


ロウを追いながらそれを見ていたルシフェルは、断罪剣を全力で振った。放たれた神力が刃となって木々を切断する。しかしそれを避けたロウは、オルガルドと同じく転移結晶を取り出した。


「待って!貴方達は一体……!」

「知りたければ、せいぜい生き残るがいい。いずれ全てが明らかになるだろう」


口を開いたロウが、そう言って転移結晶を起動。言葉を聞いて一瞬スピードが落ちたルシフェルの前で、そのまま光に包まれルシフェルの知らない場所へと転移する。


「全てが明らかに……?」


一体何が起ころうというのか。不安で胸が満たされそうになる中、頬を叩いてルシフェルはシルフィに合流した。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「リリスさん、攻撃当たらないんですけど」

「私の禁忌魔法も全然効かないわぁ。うふふ、可愛らしい顔してるから、私のものにしちゃいたいのに」


そう言う二人の視線の先、全ての魔法を躱したジークは神力を纏ってシーナに突進した。しかし、それはリリスが生み出した魔力体。別の場所に姿を現したシーナは、自身の無事を確認してホッと息を吐く。


「死んだかと思いました」

『むぅ、やはり幻影魔法は厄介ですねー』

「ああ、だけど相手の魔力も無限じゃない。いつかは使えなくなる筈だ」

「あらあら、持久戦を挑まれるのはしんどいわ。でもジーク君がお望みなら、お姉さん頑張っちゃう」


シーナの隣に降り立ち、頬に手を当ててリリスが笑う。そんな彼女を見てアスモデウスが鬱陶しそうに目を細めた。


「何を言ってるのよ気持ち悪い!あんたも、あんな女にデレデレしてんじゃないわよ!」

「し、してないけども……」

「うふふ、嫉妬しちゃって可愛いわねぇ。だけど貴女より私の方が魅力的なんだもの。彼が私に夢中になるのは仕方ないでしょ?」


豊満な胸を強調しながらリリスが言う。対してアスモデウスは顔を真っ赤にしながら色欲の魔力を解き放つ。


「む、胸がでかけりゃいいってもんじゃないのよこの痴女!」

「お、落ち着けってアスモデウス……」

「何よ、あいつの味方をするつもり!?」

『あははははっ!ほんとに可愛いですねーアスモデウスは』

「ぐっ……!」


よく分からないが、ジークがリリスの体や仕草を見て頬を赤らめたりしているのが気に食わない。


「シーナ、これはチャンスと判断しました」

「チャンスですって?」

「んぐっ!?これは……」


言い合っている最中に死角から襲いかかったシーナだが、突然体の動きが止まり目を見開く。向こうに立つリリスも、震える手を見つめて驚いていた。


「あらあら、禁忌魔法が……」

「好き勝手言ってくれちゃって……!ジーク・セレナーデはあんたのものじゃないのよ……!」

「ビックリです。まさかリリスの禁忌魔法を破り、私達の動きを制限してしまうとは」


アスモデウスの紋章がこれまで以上に眩く輝く。本人も驚いてしまう程魔力が溢れてくる。認めたくないけど、これは認めるしかないかもしれないと思う程。


「撤退するわ。シーナ、転移結晶を」

「はぁ、結局タダ働きですか……」

「逃げるつもり……!?」

「色々面白いものは見れたもの。じゃあね、ジーク君。お姉さん君に興味湧いちゃったから、私のこと覚えていてね〜」

「私は色欲の魔神である貴女に興味津々です。いつか指だけでもいいので、是非食べさせてください」


大量の魔剣が降り注ぐ。しかし、既に二人は消えていた。魔剣を消して不満そうに腕を組むアスモデウスを見て、ジークは苦笑する。


「良かったよ、ここに来て」

「っ、そうよ。なんで来たの?」

「それぞれ単独で調査を行っていたレヴィとルシフェルが、緊急事態だと判断するくらいのことが起こったんだ。そっちにはシルフィとエステリーナが向かったんだけど、もしかしたらアスモデウスも何かに巻き込まれてるんじゃないかって思ってな」

『転移結晶はいくつか持って帰っていましたから。それを使ってここに転移してきたんですー』


赤くなった頬を隠すように顔を逸らし、アスモデウスは呟く。


「ありがと」

「え?」

「助けてくれたから……」

「あ、ああ、そっか」


傲慢の魔神戦の後、特務騎士団の面々と別れ一人魔界に残ったアスモデウス。あれからレヴィやルシフェル達のことを時折思い出し、今頃ジークと何をしているのだろうとかジークは元気にしているのだろうかとか、そんなことを考える時間が増えていた。


その度に一人で顔を真っ赤にしながら自分を否定していたのだが、王都でのレヴィ戦やこの前のゼウス戦でのジークを思い出し、あの腕に抱かれたらどんな感じなのだろうとかどんなタイプが好みなのだろうとか考え始め、一人で叫びながら自分の顔を殴ったこともある。


正直その時点で半分以上自分の気持ちには気付いていたのだが、今まで黙って蓋をしてきた。しかし、こうしてまた彼に救われ、もう自分の気持ちを誤魔化すことができない。


(ああもう、なんでこうなったんだろ……)


きっとあたしは、ジーク・セレナーデのことが好きなのだろう。だからこそ、紋章が更なる力を発揮しているのだとアスモデウスは諦めたように心の中で呟く。


「……ということなんだけど」

「えっ!?な、何が?」

『話を聞いていなかったようですねー』

「今レヴィ達と連絡を取ったんだけど、あっちも紋章を持つ相手と戦闘になっていたらしくてな。ルシフェルはあれだけど、多分魔神を狙った襲撃だからアスモデウスも王都に来てくれないかって」

「あ、あたしが!?」

「今回はギリギリ間に合ったけど、また攻撃されたら今度は間に合うか分からないし。だから、しばらくの間近くに居てくれたら助かるって話」


確かに、わざわざ魔界に居る自分を毎日心配してもらうのは申し訳ない。だからといって、人間が多く住む王都に再び滞在するのは……そこまで考えて、アスモデウスは自分の体が熱くなっていることに気付いた。ジークの近くに住めることを、どこか喜んでいる自分がいるのだ。


「……我ながらドン引きだわ」

「ん?どうした」

「こっちの話よ。まあ、分かった。ちょっとの間お世話になるわ」

「よし、なら早速王都に行こう」


転移結晶に魔力を込め、ジークが手を差し出してくる。その手を少し緊張しながら握った直後、二人は王都へと転移した。

人物紹介(4)


エステリーナ・ロンド

年齢:17歳

身長:165cm

趣味:ぬいぐるみ収集

総合戦闘力:SSS


王国第二騎士団の団長にして、憤怒の紋章を持つ魔神の少女。サタン・ベルフェゴールによる王都襲撃の際、レヴィ・シルフィと共にサタンと交戦。巨神化した彼の体内に入り込んで核を破壊し、憤怒の魔神として覚醒した。


面倒みの良い性格で仲間達から非常に頼られており、レヴィからも懐かれている。シスコンの兄のせいで苦労することも多い。




【憤怒の魔神】

圧倒的なパワーを誇る魔神で、怒りを抱けば抱くほど紋章の持つ能力が上昇する。


天穿つ憤怒の鉄槌(ラースインパクト)

憤怒の魔神の切り札。超高温となった魔力を一気に解き放つ事で、大爆発と共にあらゆるものを蒸発させる禁忌魔法。

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