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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第七章:傲慢なる神帝の威光
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第51話:蘇る大天使

「一気に魔力を使用したことで、拘束力が弱まったんだ。だから残った力全部を使って、私はゼウスを押さえ込んだの」


相当無理をしているのだろう。荒い呼吸を繰り返しながら、真っ青な顔でルシフェルが言う。


「後ろの二人ははじめまして、かな」

「君が、本来のルシフェルなんだね」

「確かに雰囲気とかが全然違うわ」


苦笑して、ルシフェルは再びジークに目を向ける。徐々にゼウスが力を取り戻しているのか、彼女の体から黒い魔力がじわじわと溢れ出していた。


「時間が無いから言うね。ジークさん、今のうちに私ごとゼウスを殺して」

「な、何言ってるんだ!」

「私が表に出たことで、ゼウスの本体である魔剣は形を失っている。それじゃあ魔剣の破壊は不可能でしょう?」


確かに今ルシフェルの手元からは魔剣が消えてしまってるが、だからといってそんなことなどできる筈がない。


「今が最大のチャンスなの。だから、お願い」

「馬鹿言うな、そんな選択肢は無い」

「私はっ!……私はもう、自分のせいで誰かが傷つくのを見たくない。このままじゃ、ジークさんが死んでしまうかもしれない!」


ルシフェルの目から涙が零れる。


「死なないよ。ゼウスとの戦いで怪我するのも、今日で最後だ」

「でもっ……!」

「ルシフェルに見せたいものがある」


突然そんなことを言われ、ルシフェルは口を開いたまま言葉を止めた。ジークは体から力を抜き、両手をばっと広げて笑う。


「綺麗で大きな都市だ。天界がどんな場所か分からないから、もしかしたら劣ってるのかもしれないけどな。そこが俺達が住んでる場所で、是非ルシフェルを案内してみたい」

「ジークさんの……」

「美味しいパン屋とか、いい香りのする花屋とか、やたら元気な店主のいるレストランとかな。他にはびっくりするくらい大きい城とか、料理店が並ぶ通りとか、そんなのが色々あって賑やかな都市だ。どうだ、見てみたいだろ?」


想像するだけで幸せな気持ちになれる。これまで内側で見ているだけだった憧れの人と、共に様々な所を見て回れるなんて、そんなことがもし叶うのだとしたら。


「わ、私は、沢山の人を傷つけて……」

「それに関しては一切悪くないと思うけど、それでも罪を背負って生きると言うのなら、俺達がルシフェルを支えるよ。お前が心の底から笑える日が来るまでな」

「っ……ジークさん」


涙で濡れた顔を隠そうともせずに、ルシフェルは叫んだ。


「私、まだ消えたくないっ……!」


直後、ルシフェルの全身を黒い魔力が包み込む。暫くしてそれが弾け飛ぶと、中から姿を現した堕天使は凄まじい殺気をジークに向けていた。押さえ込んでいた魔剣ゼウスが、再びルシフェルの体を支配したのだ。


「ぐうっ!お、おのれルシフェル!まだそんな力が残っていたとは……!」


ゼウスが魔剣に魔力を纏わせ、ジーク達を睨む。


「だが、もう力を使い果たしたようだな!貴様の魂が消滅するまで長くて数分、後悔しながら死に絶えるがいい!」

「いいや、その前に決着をつける」


ジークはレヴィとアスモデウスを呼び、今だからこそ通じる可能性がある作戦を伝えた。それを聞いたレヴィは面白そうに笑い、アスモデウスはため息をつく。


「要するに限界を超えろってことね」

「ふふ、任せてよジーク」

『頼りがいがある男になりましたねー、ジークも』


大魔城の外からは、魔族達を近づかさせまいと戦うエステリーナとシルフィの魔力が伝わってくる。戦っているのは自分達だけではない。そう思うと、不思議と力が湧いてきた。


『さて、それじゃあお姫様を助けに行くとしましょうか』

「ああ、これで終わらせるぞ!」

「終わるのは貴様らだけだ!我が力の前にひれ伏すがいい、【傲慢なる神帝の威光(ジェノサイドフルゴル)】!!!」


傲慢の禁忌魔法が放たれた瞬間、最後の戦いは幕を開けた。猛スピードで駆け出したレヴィが、鎌を手にゼウスに飛びかかる。


「何のつもりだ、レヴィアタン!」

「さあ、何のつもりなのかな?」


刃と刃がぶつかり合い、火花が散る中二人の魔神が踊る。しかし力が緩んだ瞬間にレヴィの鎌は弾き飛ばされ、そこでとどめを刺そうと無防備な体目掛けてゼウスは本気で魔剣を横薙ぎに振るう。


直後、残る全ての魔力を解放したアスモデウスが【甘美なる色欲の支配(ルクスドミネーション)】を発動し、桃色の魔力がゼウスの全身にまとわりつく。


本来ならばゼウスの禁忌魔法により消し去られる筈だが、ゼウスは今の時点でかなりの魔力を消費しており、加えてアスモデウスが無意識に禁忌魔法の力を底上げしていたので、僅かな時間だがゼウスの動きが停止した。


そして、それを確認したレヴィは後方に跳んでゼウスから離れる。そこで傲慢の魔神は気づいた。魔力と神力を右腕に集中させたジークが自分目掛けて駆け出していたことに。


(魔剣を前に出した状態で動きを止めてしまえば、ジーク・セレナーデの一撃は確実に命中率させられる……これが奴らの狙いか!)


体の自由が戻るが、ジークはこの隙を逃さず拳を魔剣にぶつけた。その衝撃だけで魔剣にヒビが入り、更にジークは魔剣の中に持てる全ての魔力と神力を注ぎ込む。


「これで終わりだぁーーーーーッ!!」

「ば、馬鹿な!?この私が、貴様程度に砕かれてなるものかああああああッ!!」


膨らんだ二つの力が混ざり合い、そして内側から魔剣ゼウスを破壊する。砕け散った魔剣の破片が体を引き裂きながらも、倒れ込んできたルシフェルの体をジークは受け止めた。


「や、やったか……!」

『それはフラグですけど……ふふ、どうやら今回はなんとかなったようですね』


少女が目を開ける。真紅から金色の瞳に戻っており、先程までジーク達を圧倒していた魔力は少女の中から感じられない。


「ジークさん……」

「終わったよ、ルシフェル。魔剣ゼウスは俺達が破壊した」

「ジーク、さん……ジークさんっ!」

「おっと……」


力強く抱きつかれ、ジークは赤面する。そんな様子を見ていたレヴィが羨ましいと騒ぎ、アスモデウスは不埒だとジークに詰め寄った。


「ジーク様、ご無事ですか!?」

「どうやら戦いは終わったようだな」

『あら、シルフィにエステリーナ。そちらも無事で何よりですー』

『魔族共の動きが止まってな。恐らく決着がついたのだろうと思い、こちらに来たのだが』


外で戦っていた二人も合流し、一気に場が賑やかになる。そんな中、突然ルシフェルが顔を上げた。どうしたのかと皆が視線を追えば、魔剣の破片が空に集まり、元の形を取り戻し始めているのが確認できた。


「そんな、ゼウスって再生するの!?」

「おいおい、冗談だろ……!」


魔剣から魔力が放たれ、ルシフェルそっくりな少女の姿に変わる。雰囲気や纏う魔力は、ルシフェルの体を支配していた魔剣ゼウスそのものだ。


「私は……私はまだ、終わるわけにはいかんのだ……!」

『……これは想定外ですねー』

「くそっ、魔力も神力もすっからかんだぞ!」


ゼウスも限界が近いのだろうが、ジーク達にはまともに戦える力すら残っていない。エステリーナとシルフィはまだ魔力が残っているが、魔神になったばかりの二人では分が悪いだろう。


そんな中、歩き出したのはルシフェルだった。


「お、おい、ルシフェル……!?」

「大丈夫、私に任せて」


そう言うと、ルシフェルは前方に降り立ったゼウスに目を向けた。地の底から湧き上がるような怒りを向けられながらも、決して目は逸らさない。


「ゼウス、貴方の悲しみや苦しみがどれ程のものだったのか、ずっと貴方の中にいた私にはよく分かる。だけどね、貴方が天界を滅ぼした時、大切な人は本当に喜んでくれると思う?」

「何だと……?」

「天使だけじゃなくて、人間も魔族も……多くの命が失われることになる。そんな世界を、貴方の大切な人は望んでいたの?」


そう言われ、ゼウスは魔剣を握りしめた。


「何故貴様がそんなことを言う!?あの屑共のせいで罪のない貴様は堕天させられたのだろう!?なのに何故、奴らを庇おうとしているのだ!!」

「神魔大戦を経験した天界の民が魔族を恨み、自分達に牙を剥くかもしれない人間達を警戒するのは仕方ないと思う。でも、今の天界を放置したり貴方を見過ごしてしまうと、取り返しのつかないことが起こってしまうから。私は必ず天界の皆を説得して、神魔大戦が起こるのを防いでみせる」


天界を全く恨んでいないかと言われれば、はいと答えることは多分できない。それでもルシフェルは、天使も魔族も人間も、更にその他多くの命が失われることだけは避けたいと考えていた。


どれだけ時間がかかったとしても、いつか平和な世界にしてみせると本気で考えているのだ。


「っ……、今更引き返せるものかーーーーッ!!」

「うん、だから今度こそ終わらせよう。私が貴方を導きます、魔剣ゼウス」


ルシフェルが自身の体を抱き、その身が光に包まれる。鎧は砕け散り、全身を生み出された大天使の正装が覆い、漆黒の翼は穢れを知らぬ純白に。解き放たれた神力はゼウスの魔力を押し返し、黒雲の隙間からいくつもの光が魔界に差し込んだ。


神装しんそう断罪剣ラファエル】!!」


天に向けて伸ばされた手から閃光が放たれ、出現した美しい剣をルシフェルは握りしめる。天界最高の力を持つ大天使長ルシフェルが、今ここに降臨した。

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