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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第七章:傲慢なる神帝の威光
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第48話:傲慢なる神帝の威光

「な、なんだここは」


大魔城から別の場所に飛ばされたジークは、周囲を見渡しながら動揺していた。アルテリアスによると、ここは魔法によって生み出された空間で、簡単に言えば箱の中に閉じ込められているような状態らしい。


『恐らくこれは、怠惰の魔神が起動した古代遺産の力でしょう。どこかにある空間創造の核を壊せば脱出できると思います』

「難しい話はよく分からないけど、とりあえずそれを探せばいいんだな」


のんびりしている時間はない。レヴィとアスモデウスはゼウスと戦闘を開始するだろう。ルシフェルは消滅する寸前で、ゼウスは能力を全て使うことができる状態。脱出するまでに彼女達が無事であるとは限らない。


『私が本来の力を取り戻していれば、空間に穴を開けることなんて簡単なんですけどねー』

「そ、そんなことが可能なのか?」

『当然です、私は女神なので!天界には、魔神に匹敵する実力を誇る〝大天使〟という者が何人かいまして、彼らは魔神が持つ紋章に近い〝奇蹟〟と呼ばれる能力を持っています。実は私も元大天使でしてー、その時授かった奇蹟を使えばその程度は楽勝で行えますよー』

「へえ、天使から女神になったのか……。そういえばルシフェルは元大天使長だって言ってたな」


いずれアルテリアスも、大天使の中から選ばれた者に女神の役割を譲るのだとか。天界のシステムはよく分からないが、順調にいけばルシフェルは女神になっていたのかもしれない。


「って、そんなことを話してる場合じゃない」

『私が核を探しますので、ジークは彼らの相手をお願いします』

「彼ら?」


振り向けば、ベルフェゴールの手によって魔物へと姿を変えられた人々……魔人があちこちに姿を現していた。ジークの足止めが目的だろう。それに加え、精神的にダメージを与えようという考えだろうか。


『全てを相手にする必要はありません。魔力の消費を避けるために、核を探しながら走りましょう。追いついてきたり不意を突かれた場合のみ戦闘を』

「ああ、そっちは頼むぞ!」


そう言ってジークが駆け出したのとほぼ同時、大魔城で嫉妬の紋章を解放したレヴィが床を蹴り、まるで弾丸の如き速度でゼウスに迫った。


不敵な笑みを浮かべたままゼウスはその場から動かない。ジークから話を聞き、極力ルシフェルの体を傷つけたくはないが、手を抜いて攻撃を緩めれば確実に負ける。


負傷させてしまったら、あとでルシフェル本人にしっかり謝罪しよう。そう思いながらレヴィは顔面目掛けて脚を振り抜いたが、ゼウスは体を前に倒してそれを避けた。


しかしレヴィの攻撃はまだ終わらない。魔力を放った勢いで回転蹴りを繰り出し、ゼウスの側頭部に踵が直撃する。それでも首から上が動いただけで、ゼウスは笑みを浮かべたままだ。


「魔鎌アダマス!!」


空中で鎌を手に取り、それを連続で振るう。そこでようやくゼウスが動いた。魔剣で全ての斬撃を弾き返したゼウスは、魔力を纏わせた足でレヴィを蹴り飛ばす。


その直後、真上から降り注いだ魔剣の雨。しかし通じない。ゼウスが放った魔力が魔剣の勢いを殺し、そのまま粉砕したのである。


「チッ、反応速度が異常だわ……!」

「おまけに纏った魔力が攻撃の威力を完全に殺してる。あの魔力を貫かないとダメージは与えられないね」


ゼウスが翼を広げ、体をふわりと浮かせた。そして猛スピードで飛行し、避けるために左へと跳んだレヴィに向かって空中で方向転換する。有り得ない動きだったが、魔力の使い方次第ではそのようなことも可能となるのだ。


「ふんッ!!」

「ぐうっ!?」


鳩尾にめり込んだ強烈な膝蹴り。小柄なレヴィの体は衝撃で浮き、足裏で蹴られて壁に突っ込んだ。


「レヴィアタン!」

「他人のことを気にしている場合か!」


背を向けたままアスモデウスに接近、飛ばされた魔剣を振り向いた勢いで両断し、魔力の刃がアスモデウスの体を切り裂く。しかしそれは魔力で生み出された偽の体。攻撃を読んでいたアスモデウスはレヴィの隣に降り立った。


「ちょっと、大丈夫なの?」

「いてて……防御が遅れてたら骨が折れてたかも」

「想像以上の強さだわ。傲慢の紋章がどんな力を持っているのかは知らないけど、これで禁忌魔法を使われたら……」

「そうだね。でも、ボク達を侮って油断してくれている今が最大のチャンスだよ」


立ち上がり、レヴィがゼウスを睨む。


「アスモデウスの禁忌魔法で、ゼウスの動きを止められるかな」

「通じればの話だけどね。範囲をあいつの周りだけに絞れば、王都で使った時以上の効果は期待できるわ」

「ジークが戻ってくるまでに魔力と体力を一定以上消費させたい。本当は使いたくないけど、ボクも本気でやらせてもらう」

「……なるほど、禁忌魔法をぶつけるか」


ゼウスの纏う魔力はあらゆる魔法や打撃の威力を半減させている。もしかすると、それは紋章の能力なのかもしれない。あの魔力を貫く程の破壊力を誇る禁忌魔法を放てば、ゼウスも対抗するために多くの魔力を消費する筈。


そしてアスモデウスの禁忌魔法が効いた場合は、ゼウスの動きを止めることができる。その状態でレヴィの禁忌魔法を受ければ、いくら傲慢の魔神でも相当なダメージになるだろう。


「作戦会議は終わったか?」

「アスモデウス、頼むよ!」

「あんたこそね!」


レヴィが床を蹴り、ゼウスに突進した。その身を斬り裂こうと振るわれる魔剣を躱し、顎を蹴り上げ腕を掴んでゼウスを真下に叩きつける。


今がチャンス。レヴィが飛び退いた瞬間にアスモデウスは桃色の魔力を起き上がろうとしたゼウスに殺到させた。


「【甘美なる色欲の支配(ルクスドミネーション)】!!!」

「っ、色欲の禁忌魔法か……!」

(なっ!?嘘でしょ、あたしの禁忌魔法が押し返されてる……!?)


範囲を絞り、込める魔力を増やせばジークの動きを止めることすら可能だろう。しかし、ゼウスは立ち上がった。動きは鈍くなっているものの、余裕の笑みを浮かべたまま。


「我が紋章を解放したのはいつ以来だろうな」

「そういうことね……だけど、自慢の力を使えるのは今日で最後よ!」

「アスモデウス、コントロールはするけど巻き添えにしたらごめんね!」


跳躍したレヴィが魔力を届けるため天に向けていた手を振り下ろす。


嫉妬する災厄の(リヴァイア)────」

「くだらんな、これが作戦とやらか?」

「えっ……」


今まさに禁忌魔法を放とうとしていたレヴィは、突如全身を襲った妙な感覚に驚いた。次の瞬間、天井付近まで跳んでいたレヴィの体が猛スピードで床に落下し、そのまま派手に全身が打ち付けられる。


更にそれだけでは終わらない。まるで見えない力に押さえつけられているかのように、這いつくばったままの状態から動くことができない。実際、何かが自分の上にのしかかっているかのような感覚だった。


「い、痛っ……!」

「くそ、動けない……!」


アスモデウスも同じように倒れており、音を立てながら床にヒビが入っていくのが見える。まさかと思いゼウスに目を向ければ、やはり彼は空中に浮かびながら二人を見下ろしていた。


「はははははっ!いかがかな?これこそが我が禁忌魔法、【傲慢なる神帝の威光(ジェノサイドフルゴル)】だ!」

「き、禁忌魔法……!」

「周囲の空間に干渉し、押し潰す。絶対的な強者である私の前に、貴様らは空間ごとひれ伏すしかないのだよ」

「こ、こんなものっ……!」


全身が悲鳴をあげているが、レヴィは無理矢理立ち上がった。紋章の力を深くまで解放すれば、暴走の危険はあるが動くことはできそうだ。


「ほう、素晴らしい。これを受けて立ち上がったのは貴様が初めてだ、嫉妬の魔神レヴィアタン」

「それはどうも!!」


水の弾丸を連続で放つが、空中で勢いを失い全て床に落下してしまう。魔法は駄目だと判断したレヴィはゼウス目掛けて跳躍したが、空中では翼を持ったゼウス相手に勝ち目はない。


「はははっ!天使の体というのは便利なものだな!おかげで空間に押さえつけられた者を前に、自由に飛び回ることすら可能なのだから!」

「がはっ!?」


背後に回り込み、レヴィの後頭部をゼウスが魔剣の柄頭で殴りつける。脳が揺れてレヴィはバランスを崩し、そのままゼウスに首を掴まれ持ち上げられた。


「ぐうっ……!」

「言い忘れていたが、私の禁忌魔法にはもう一つ得られる力があってな。禁忌魔法の範囲内にいる私以外の者が纏う魔力を強制的に体内へと戻し、更に相手の魔法の効果全てを打ち消すことができる」

「なっ……!?」

「空間に押さえつけられている状態で立ち上がった貴様は賞賛に値する。だが、これから使おうとしていた魔力は体内に戻る。そして色欲の禁忌魔法が私に効かないのは、私の禁忌魔法が魔法の効果を消し去ったからだ」


魔剣の切先をレヴィの首筋に当て、ゼウスが口角を上げる。


「分かったか?これが私と貴様らの差だ。何人で挑んでこようと、最初から勝ち目など無かったと知れ」

「か、勝手に終わらせないでくれるかな……?」

「っ……!」


あとは首を斬り飛ばすだけだったが、ゼウスは咄嗟にレヴィの首から手を離して後方に飛んだ。そんなゼウスの前を大量の魔剣が通過し、次々と床に突き刺さる。


「あら、よく反応したわね」

「アスモデウス、貴様……!」

「魔法の効果が消えるのは、あんたに対して魔法が使われたと認識した時だけでしょう?それなら戦法を変えるだけ。あたしの禁忌魔法は相手の支配だけじゃないのよ」


ゼウスが驚くのも無理はない。多少は動きづらそうだが、アスモデウスまで立ち上がっていたのだ。


「ど、どういうこと?」

「【甘美なる色欲の支配(ルクスドミネーション)】には使い方が二つあるわ。一つはあんた達の知ってる相手を支配する使い方、もう一つは自分や味方を強化する使い方。今のあたしは禁忌魔法で自身を強化している状態なのよ」

「でも、魔力を体内に戻されるって……」

「そんなもの、戻された瞬間にまた解放すればいいだけじゃない」


レヴィは心底驚いた。何が難しいの?とでも言いたそうに見つめてくる色欲の魔神。つまりアスモデウスはこうして会話しながら、戻された魔力を解放し続けているということだ。


普通なら気が狂いそうな作業を、何度も何度も、戻されては解放し、戻されては解放し……正直色欲の魔神を下に見ている部分はあったが、やはりとんでもない化物である。


「今回あたしはサポートに徹するわ。レヴィアタン、あんたにも禁忌魔法を使うから接近戦はよろしく」

「ふふ、頼もしいね」


結論から言えば、二人はゼウスを相手に善戦した。動きを制限されながら、魔力を封じられながら。圧倒的な力を持つ傲慢の魔神を相手に、本当に善戦したのだ。


「……フン、無駄な抵抗だったな」


それでも力を使い果たした二人の魔神を前に、傲慢の魔神は立っていた。

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