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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第六章:全てを奪う強欲の腕
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第39話:知らない記憶

「私が特務騎士団に!?」


イツキに呼び出されたエステリーナは、突然『一時的に特務騎士団所属』を指示され、驚きを隠さずにそう言った。なら団長は誰が務めるのかと聞けば、第一騎士団副団長のノエルが第二騎士団長(仮)になるという。


「今のお前は憤怒の紋章を宿していて、その実力は相手の魔神やレヴィに匹敵する程。特務騎士団は魔神とぶつかる機会が多いだろう?だから彼らの力になってやってほしいんだ」

「第二騎士団の事は私にお任せ下さい。この機会に、意外と甘いエステリーナに代わって徹底的に鍛えてあげますから」

「え、ええ、分かりました……」

「この事は俺自ら全騎士団に報告する。今日、ジーク達は地下水路の調査任務にあたっている筈だ。報告ついでに手伝ってやるといい」


色々書類を書いた後、エステリーナは地下水路へと向かった。何だか急な話だが、正直少し嬉しい。それが顔に出ていたのか、道中サタンにからかわれながら、地図を見ながら歩いていていたジーク達に合流する。


「あれ、エステリーナじゃないか」

「どうしたのですか?」

「いや、その、さっき兄さんから一時的に特務騎士団に所属するよう言われてな。それで、調査を手伝いに……」

「ええっ、本当!?」


ジークの後ろから顔を出したレヴィが、目を輝かせながらエステリーナに顔を近づける。そんな彼女の頭を撫でながら、エステリーナはそうらしいと微笑んだ。


『魔神ルシフェルとの決戦は近いからな。不測の事態に備えて共に行動しておく方がいい』

「エステリーナさんが居れば百人力ですね!」

「助かるよ。でも第二騎士団とかの事は大丈夫なのか?」

「報告は兄さん達がしてくれるらしい。それに、代わりの団長はノエルさんが務めてくれる。少々団員達が可哀想だが……」

「はは、ノエルさん厳しそうだもんな」


エステリーナに歩み寄り、ジークが手を差し出す。


「改めてよろしくな、エステリーナ」

「ああ、こちらこそ─────」


その手をエステリーナが握ろうとした、その直後。突然流れる水が渦巻き、上半身が鱗に覆われた人間、下半身が魚に見える魔物が飛び出した。


「っ、マーマン……!?」

「やっぱりまだ潜んでたか!」


エステリーナが剣を抜くよりも速く、ジークの拳がマーマンの頭部を粉砕する。落下したマーマンは水の中に沈み、浮上してくる事はなかった。


「何故魔物がこんな場所に……」

「今回俺達は、調査隊から【地下水路で怪しい影を見たので調査に協力してほしい】って頼まれてここに来たんだ。その怪しい影ってのが多分マーマンだと思うんだけど、結構な数がいてさ」

「調査隊というのは、王都防衛戦で発見された例の石版を調べている人達か」

「魔道士でも騎士でもない人達だからな。マーマンなんかに襲われたら、多分助からない」


ここで全ての魔物を討伐しておかなければ、調査の最中に被害が出る可能性もある。ただ、王都の地下に広がるこの空間は想像以上に広く、かなり手こずってしまっていた。


「ボク達の魔力探知も、真上に王都があるからそっちの魔力が大量に当たっちゃってね。魔物だけを探そうと思ってもなかなか難しいんだ」

『水路は王都の外に繋がっているとはいえ、魔物が侵入できないように対策されていましたけどねー。どうやって入り込んだのやらー……』

「とりあえず探索を続けよう。このままあっちに進み続ければ、あの石版がある場所に辿り着く筈だ」


それから暫く歩き続けると、視線の先に人影が見えた。調査隊の人だろうかと思いジークが声をかけた瞬間、その人物はゆらりと振り返り、ジークの隣でレヴィが露骨に嫌そうな顔をする。


「レ、レヴィ様ーーーーー!!」

「はいストップ!それ以上近寄らないで!」


突然駆け出した男性だったが、レヴィにそう言われて急ブレーキをかけ立ち止まる。灰色の髪に、顔色の悪さが気になる男性だ。ジークがレヴィに知り合いかと聞くと、彼女は心底嫌そうに一応と呟いた。


「部下のキュラー、吸血鬼。見ての通り変態だよ」

「へ、変態!?違いますレヴィ様、私は常にレヴィ様の事だけを考えレヴィ様をお守りする為行動を────」

「ねえ、ちょっと黙っててくれるかな?」

「うほおっ、久しぶりなこの感じ!ありがとうございますッ!!」


興奮している男性……キュラーを見て、頬を引き攣らせながらレヴィが握った拳を震わせる。


「レヴィさん、部下とかいたんですね。なんだか意外です」

「彼、こう見えても優秀でね。でも鬱陶しいから何回か殺してやろうかと思ったんだけど……」

「レヴィ様に殺されるなら本望です!さあ、派手にお願いします!できれば罵倒しながら……!」

「殺されそうになっても逆に喜ぶから、殺しちゃうと負けな気がするの。それで、キュラー。どうして君がこんな場所に居るの?まさかとは思うけど、魔物を連れ込んだのは君だったりしないよね?」

「私でございます!」


額に青筋を浮かべながら飛びかかろうとしたレヴィを、ジークとエステリーナが慌てて止める。魔物を連れ込んだ張本人であれば敵である可能性が高いが、まずは話を聞いておきたい。


「魔物を連れ込んだ理由は?」

「ほう、貴様が私のレヴィ様を誑かしたゴミ人間か。何故貴様のような男の質問に答えねばならんのだ」

「キュラー、ジークにそういう事言うのやめてくれるかな。で、理由は?」

「魔神ルシフェルが、魔物を連れてこの場所を調べろと指示してきたのです。レヴィ様にその場から動くなと命じられて数ヶ月。王都に住むレヴィ様にお会いできるチャンスを逃す事はできず、命令に背いてしまいました」


自分にはあんな事を言い、レヴィにはすぐ理由を説明したキュラーにジークが飛びかかろうとしたが、エステリーナとシルフィに止められる。


「相当レヴィさんを慕っているようですね」

「だからといって、ジーク様にあのような事を言うなんて!ジーク様、代わりに私があの男に天罰を……!」

「お、落ち着けシルフィ。ジークも、気持ちは分かるが彼から話を聞くんだろう?」

「私はレヴィ様以外の者と話をするつもりはない」

「ボク以外と話をしないんだったら、一生そこの水の中に顔突っ込んでてね」

「うひょおっ、それだとレヴィ様のこの世で一番美しいご尊顔を拝む事ができなくなる……!仕方ない、今回は特別にこのキュラーが貴様達の相手をしてやろう」


調子に乗るなとレヴィに頭を叩かれ、その衝撃で倒れてキュラーの顔面が足元にめり込む。実力は魔王クラス程度だろうか。手加減はされていただろうが、立ち上がったキュラーはフラフラになっていた。


「ルシフェルに協力してるってわけじゃないんだね?」

「勿論です」

「じゃあ調査は終了、あっちに戻る必要はないから。魔物は全部連れて行くか始末して。でもボク達の家には近寄らないでね」

「家!?ま、まさかレヴィ様、この男と同棲しているのですか!?おのれ人間、私のレヴィ様に手を出してはいないだろうなァ!!」

「うるさいって」


レヴィに尻を蹴られ、嬉しそうにありがとうございますと叫んだキュラーはそのまま水の中に落ちた。そして流されていく姿を見る事もなく、レヴィが先に進もうとジークに言う。


『結局話を聞けませんでしたねー』

「あ、そうだった。でもまあ、大した情報は持ってないと思うよ。もし何かあれば、呼んだらすぐ来ると思うけど」

「レヴィも意外と苦労してたんだな……」

「意外とって何さ」


数分後、ジークがベルフェゴールとの戦闘で偶然発見した石版がある場所に辿り着く。王都アリスベルが誕生してからこれまで、更に水路建設時も発見される事のなかったこの石版。一体どういったものなのか、それは未だに分かっていない。


『うーん、何かに似ている気がするんですよねー』

「ボクは分からないなぁ」

「調査は進んでいますが、これと同様のものは発見されていません。しかしもしかすると、魔神ルシフェルはこの石版を調べようとしていたのかもしれませんね」

『ふむ……ルシフェルに関係してるものなのかもしれないな』


と、皆で石版を眺めていた時。突然シオンがふらりと石版に近づき、そして触れた。


「シオン?どうしたんだ」

「………………」


虚ろな目で石版を見つめるシオン。どうしたのかとジークが声をかけるが、反応がない。


『……?様子がおかしいです』

「石版からは何も感じないし、変化もないようだけど……どうしちゃったのさ、シオン」

「っ、これは……」


シオンに触れたジークだったが、不意に頭が痛んで顔を歪める。不快な痛みではない……しかし、奇妙な感覚に襲われる。


(な、何だ?変な光景が頭の中に……!)


自分が美しい少女と、森の中のような場所で会話をしている光景が広がる。不思議な事に少女の顔だけがボヤけて判別できないが、その隣にいるのは間違いなく自分……ジークだった。


(見覚えがある……だけど思い出せないな。あの子は一体誰なんだ……?)


純白の衣に身を包み、透けているように見える極彩色の翼をその背から生やした少女。知っている筈なのに、分からない。まるで記憶に蓋がされているように。


『……ク……ジーク!』

「っ……!」


どうにかして記憶を引っ張り出そうとしていると、アルテリアスの声が頭の中に響いた。気づけばジークは石版の前で倒れており、心配そうに仲間達が彼を取り囲んでいる。


「ジーク様、大丈夫ですか!?」

「びっくりしたよ。急にシオンと一緒に倒れたから……」


見れば、隣でシオンが気を失っている。何が起こったのかは分からないが、今の光景は皆には見えていなかったらしい。


「よく分からないけど、知ってる気がする光景が浮かんできてな。俺が女の子と話をしている光景だった」

「知ってる気がする?」

「そんな記憶はない筈なのに、何故かその光景を知ってるんだ。なんて言えばいいのやら……」

「ふむ、私も似たような経験があるな。確か初めてジークを見た時、どこかで会った事があるか聞いただろう?」

「ああ、そういえば……」


ただ、先程の少女はエステリーナではない。翼を持っているという事は、伝承に登場する天使族だろうか。


「あの、ジーク様」

「ん、どうした?」

「これまで黙っていたのですが、実は私もジーク様とどこかでお会いした事がある気がすると、初めて見た時に思ったのです」

「そうなのか?」

「その時は気の所為だろうと思っていて……ですが、エステリーナさんもそう思っていたというのは不思議だなと思いまして」


すると、シルフィ達の話を聞いていたレヴィも口を開いた。


「ボクもだよ。会ったばかりのジークを妙に気に入っちゃったのは、それが原因だったりしてね」

『どういう事なんでしょうかー。私はそんな気はしないんですけどー……』


皆が首を傾げていると、気を失っていたシオンが目を覚ました。暫くしてから何があったのかと聞けば、彼女も不思議な光景を見ていたという。


「牢屋のような場所に、手足の自由を奪われた誰かが囚われていて……」

『ジーク・セレナーデが見たという光景とは、随分違うようだが』

『シオンが石版に触れてから、二人は何かを見た。やはりこの石版には秘密が隠されてそうですねー』

「ジーク、一度地上に戻って報告しないか?魔物はレヴィの部下が連れて行くだろうし、今回はこれ以上石版に触れても何も起きなさそうだ」


もう一度ジークやシオンが石版に触れても何も起こらず。エステリーナの言う通り、イツキに何があったのかを報告した方が良さそうだ。


「よし、そうするか。後は調査隊の人達に任せて、何かあれば俺達も協力しよう」


元来た道を歩き、地上へ繋がる出入口を目指す。ジーク達は気が付かなかったが、シオンだけがなんの反応もない石版を見えなくなるまで見つめ続けていた。

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