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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第五章:神をも喰らう暴食大口
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第33話:隠れ里へ

「ここが隠れ里ホウライのある大森林です」

「ま、まさか誰にも気付かれずにここまで来れるとは」

「私の魔法で気配を遮断していましたので。さあ、行きましょう」


王都を出発したエルフ族一行とジーク&シルフィは、何事もなく人の手が加えられていない大森林の中へと足を踏み入れた。どうやら全体に巨大な結界が張られているらしく、エルフ族以外の生物は近寄ると無意識に引き返すようになっているという。


ジークはコルネリアによって特別に許可されているので、結界の効果を受けることなく内側に入れたのだ。


「……すみません。ご主人様まで巻き込むことになってしまって」

「まあ、ベルゼブブがここを狙う可能性が高いんだ。女神代理の俺がのんびりなんてしてられないさ」

『おおー、言いますねージーク。貴方に魔力を貸して良かったと思いましたよー』

「ですが、ベルゼブブの一番の狙いは恐らく私です。私がここに来てしまうと、被害が拡大してしまう筈……」


そんな事にはならないよと、ジークは笑う。


「シルフィは俺が守るからな」

「えっ……」

『わお』


シルフィが物凄いスピードで顔を逸らす。今の言葉を聞き、彼女の顔はエステリーナの髪のように赤く染まっていた。こんな顔をジークに見られるのは恥ずかしい。


『特に何も考えずにそんな台詞を言えるのが、貴方の良いところですねー』

「そ、そうか?」

「皆さん、到着しました。これより先が、隠れ里ホウライになります」


前方を歩くコルネリアが足を止め、振り返る。彼女に追いついてその先を見ると、そこには幻想的な世界が広がっていた。


淡い光を纏う大樹があちこちにそびえ立っており、絡み合った枝や葉が天井のようになっている。その大樹にはそれぞれを繋げる木の橋が架かっており、地面の上だけではなく幹の表面にも建築物が存在していた。


これだけ大きな樹も、結界内部に入らなければ存在している事に気付けない。エルフ族が長い間人々に見つからなかったのは、彼らが生み出したこの巨大結界のおかげだろう。


「ここが、隠れ里ホウライ……」

「なんて綺麗な場所なんだ」


シルフィが暮らしていたセルフィーナに似た空気が流れており、なんだか懐かしい気分になり、その隣では、美しい光景に目を奪われたジークが落ち着かない様子でキョロキョロしている。


「コルネリアよ、戻ったか」

「っ、ウォーロック様」

「そして、そちらの方がシルフィ様じゃな。そちらの少年は人間のようじゃが……ふむ、この魔力は」

『あらー、もしかして私のことを知っているお方でしょうかー』


ジーク達の前に姿を見せた老エルフ。杖を持ち腰は曲がっているが、身に宿す魔力の量は凄まじい。そしてそんな彼の言葉を聞いて、アルテリアスが魔力体となって地面に降り立つ。


「おおっ、間違いない!この御姿と魔力は、間違いなく女神アルテリアス様……!」

「もしかして、大戦の時から生きている方ですかー?」

「はい。ホウライの長老を務めさせていただいております、ウォーロックと申します。大戦時は一般弓兵として参加しておりましたが、まさかもう一度アルテリアス様の御姿を拝める日がくるとは」


その声が聞こえたのか、隠れ里のあちこちからエルフ達が集まってくる。そしてウォーロックの指示を聞き、全員がアルテリアスの前に跪いた。


「女神アルテリアス様。私はそちらのシルフィ様が魔神を討つ姿を視ました。しかし、貴女様までもがお力を貸してくださるとは。やはり予言とは外れるものなのですな」

「その件についてですが、今の私はジークにほぼ全ての魔力を貸して休んでいる状態でしてー。なので、今回の魔神討伐に力を貸すのはジークです」

「ジーク、というのはあの人間ですかな?」


皆の視線がジークに集まる。緊張しながらもジークがどうもと頭を下げれば、エルフ達は彼を睨んだ。


「どうして神聖な隠れ里に人間が!?」

「アルテリアス様の魔力をただの人間程度が持っているなどと、私には信じられません!」

「穢れた種族め!俺達をどうするつもりだ!」


口々にジークへと暴言を浴びせるエルフ達。シルフィが怒りを露わにして彼らに言い返そうとしたが、それはジークが肩を掴んで止めた。しかし、このまま言われっぱなしでは話が進まない。少し傷つきながらも何を言うべきか考えていると、突然大気がビリビリと震えた。


「いい加減にするのじゃ。それが我々を悪しき者から守る為、わざわざ遠いこの地まで駆けつけた者に浴びせる言葉か」


ウォーロックが、その身から魔力を放ったのだ。エルフ達は汗を垂らしながら黙り込み、次の言葉を待つ。


「ジーク殿、どうか皆の無礼をお許しください。そしてエルフ族を代表して、私はジーク殿を歓迎いたします」

「あ、ど、どうも……」

「貴方から邪悪な意思は感じられない。それどころか、本気で我々やシルフィ様を魔神の手から救おうという意思が感じられます。どうかシルフィ様と共に、同胞を喰らい続ける魔神を討伐してください。お願い致します……」


深く頭を下げるウォーロック。長老である彼がここまでしているのに、ジークに何かを言うエルフ族はいなかった。皆も同じように頭を下げてきたので、ジークは困ったようにアルテリアスへと目を向ける。


「良かったですねー、認められて」

「み、認められたのか?」

「フン、私はあちら側を認めませんけどね。エルフ族の皆さんが生きていたというのはとても嬉しいですが、ご主人様にあんな事を言うなんて」

「まあ、それは仕方ないというか……」


それからコルネリアに案内され、ジーク達は空いていた小さな家へと案内された。それでも二人だと広いくらいなので、こんな場所を用意してもらって申し訳ないくらいなのだが。


「暫くはここを拠点に動こうか」

「は、はいっ……!」

「ん?どうした?」

「い、いえ、その……」


アルテリアスは隠れ里やエルフの話に興味津々で、今はジークと二人きり。いつものようにレヴィ達が突撃してくるわけでもないので、アルテリアスが居ない間はジークを独り占めできるのだ。


「なんでもない、です」

「……?とりあえず荷物を整理したら、隠れ里の中を見て回ってもいいか聞いてみよう。ずっとここに閉じこもってるのもあれだしな」

「わ、分かりました」


それからジークとシルフィは、絵本の中に出てくるような光景の隠れ里を共に歩いた。ジークに向けられる視線は好意的なものは少ないが、それが気にならない程この光景に見入ってしまう。


「私が住んでいた森にも結界が張られていて、森に立ち入ることはできても私達の住処を発見することはできないようになっていました。ですが、ここの結界は凄いですね。これだけ大規模なものが展開できるなんて……」

「多分ウォーロックさんが結界を維持してるんだろうな。とんでもない魔力の持ち主だったし」

「それでも、魔神ベルゼブブ相手には結界の効果も通じないでしょう」


その声は別の方向から聞こえた。見れば、不満そうにジークを見つめるコルネリアの姿が目に映る。


「この森の結界は、そもそもここに森があるという事すら認識させない古代の大魔法。そのおかげで今までエルフ族以外の種族に発見された事はありませんでした。ですが、魔神ベルゼブブは近頃森の周囲に何度も姿を見せています。恐らく、ここが見つかるのは時間の問題です」

「なっ……」

「本当にデタラメですね、魔神というのは。そんな存在に、いくらアルテリアス様の魔力をお借りしているとはいえ人間が勝てるとは信じがたいですが」


それを聞き、シルフィが息を吐いた。どこまでジークが信じられないのだろうと、彼の優しさと実力を知っているシルフィは嫌になる。


「私は何度もご主人様に救われています。少し前も、ご主人様は魔神ベルゼブブから私を守ってくださいました。それに、人というのは誰もが伝え聞くような悪人ではありません。私を受け入れてくれた人達は、皆優しい人ばかりです」

「……そうですか。それなら期待しておきますよ、ジーク殿があの化物相手にどれだけ戦えるのかを」


そう言って、コルネリアは二人に背を向け歩き出した。そんな姿を見ながらシルフィは怒り、それをジークが宥める。


「俺達人間が魔族を嫌ってるのと同じだよ。いつかは分かり合えたらいいなとは思うけど、これはそんな簡単な問題じゃない」

「ですが……」

「ま、とにかく今はベルゼブブだ。これ以上被害が出ないよう、俺達で奴を倒してやろうな」


それから二人はホウライの中を見て回り、途中でアルテリアスと合流して拠点へと戻った。そして、デートは楽しかったかと、アルテリアスにいじられ赤面しているシルフィを見て苦笑し、ジークは今後について考える。


今のところ、アルテリアスの魔力探知にベルゼブブは引っかかっていない。ベルゼブブの目的はエルフ族の捕食と、シルフィを連行する事。ならばここに来る可能性はかなり高い筈だが、別の町や村を襲撃している可能性もある。


じっとしているだけではなく、森の外に出てベルゼブブを捜すべきだろうか。しかしその間にホウライにベルゼブブが現れ、エルフ達は全滅してしまうかもしれない。


「ジーク、疲れているでしょう?」

「へ……」


顔を上げれば、目の前にアルテリアスが。彼女はにっこり笑うとジークの頭を優しく撫でた。まるで、ジークがいつもレヴィやシルフィにしているように。


「お、おい……?」

「色々考えるのも大切ですけど、休むのも大切なんですからねー。今日の魔力探知や情報収集は私に任せて、ジークとシルフィは休んでおいてくださいー」

「どうしたんだよ、珍しいな」

「まあ、何でもかんでもジークに任せっぱなしというのは申し訳ないのでー。エルフ族の皆さんは、私が相手になった方がいいでしょう?」

「それは、確かにそうだと思うけど」


せっかくこう言ってくれているのだ。お言葉に甘えて休ませてもらおう。そう思ったジークはアルテリアスに礼を言い、その事をシルフィにも伝えた。


「それじゃ、おやすみなさーい」


薄暗くなり始めた外に、笑顔で手を振りながらアルテリアスが出ていく。そんな彼女を見送った後、ジークは布団の中に潜る。ベッドが一つしかないのですぐ隣にはシルフィが居るのだが、疲れていたので暫くするとすぐに寝息を立て始めた。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







「ふーん、あいつも来てるんだねぇ」

「す、すみません。女神様が居たので、断る事ができず……」


月明かりに照らされた森の中、エルフ族の男(・・・・・・)を喰らいながら魔神ベルゼブブは別にいいよと呟く。


瘴気が満ち、木々は薄紫に発光しており、まるで生きているかのように植物が蠢く禍々しい森。ここは、迷い込んだもの全てを捕食する彼の口そのものである。


「君はいい子だよ、どうすればこうならないかがよく分かってる」


そう言って食べかけの腕を放り投げると、咲いていた花がそれを受け止め食べ始める。バリボリと鳴る音を聞き、ベルゼブブの前に立つ人物は口元を押さえた。


「それにしても傑作だよね〜。ウォーロック、だっけ?そいつが視たのって、君が精神干渉して刷り込んだ偽の光景なのに。大規模な結界を維持できるだけの魔力は持ってるみたいだけど、さすがに油断し過ぎだよ」

「は、はい、そう思います……」

「さぁて、そろそろ動き出す頃かなぁ。ちゃんと例のもの、置いてきてくれたんでしょ〜?」

「も、勿論です」


ベルゼブブが口角を上げる。待ちに待った時がやって来た。魔神ルシフェルの指示を完全に無視して行動しているので、恐らくこれが終わった後は戦闘になるだろう。しかし、今の時点でこれだけの魔力を得ており、相手が最強の魔神だろうと負ける気がしない。


「人も魔族もエルフも神も……この世界にあるもの全てをこの僕が喰らってあげるからね……」


空に浮かぶ月を見上げながら、ベルゼブブは楽しそうにそう言った。

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