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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第五章:神をも喰らう暴食大口
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第32話:幻のエルフ族

「はあ!?エステリーナがベルゼブブと戦ったって!?」


ベルゼブブを退けたジークとエステリーナは、王都付近から魔力を感じて戻ってきたレヴィとアルテリアス、シオンに何が起こったのかを説明した。


レヴィが驚くのも無理はない。憤怒の紋章を得てから初の実戦で、暴食の魔神を一人で相手にして互角の戦いを繰り広げたというのだから。


『フッ、この娘がお前の実力を抜く未来はそう遠くなさそうだな、レヴィアタン』

「ぐぬぬ……って、シルフィは大丈夫なの?」

「今は部屋で休んでるよ。ただ、大丈夫だとは言ってたけど、無理してるとは思う」

「そっか……」


ジークもエステリーナから話は聞いたが、ベルゼブブがシルフィを狙う理由を思い出すと、吐き気がする程の怒りが湧き上がる。それに、あの後すぐに捜しに行けばよかったとジークは後悔していた。


「にしても、ほんっとどうしようもない奴だねベルゼブブは。元々大嫌いだったけど、今回のでもっと嫌いになったよ」

「同感だ。私もあの男とは仲良くなれそうにない」

「昔相手にした暴食の魔神もマナーがどうとかゴチャゴチャうるさかったですけどねー。面倒な者が暴食の魔神になると決まっているのでしょうかー」


散々な言われようである。皆、大切な仲間であるシルフィを傷つけられ、ベルゼブブに対して怒りを抱いているのだ。


「王都内に出現した暴食の魔物はジークが討伐してくれたと聞きました。被害はそれ程出ていないようですが……」

「どちらかと言えば俺の足止めが目的だったんだろう。どれも大して強くない個体ばかりだったから、騎士団の人達にも協力してもらったんだ」

「ジークが相手だと、強力な魔物を生み出してもすぐに倒されるって考えたんだろうね。はぁ、次はどこに出るんだろ……」


レヴィが鬱陶しそうに言う。基本的に誰にでも親しく接する彼女にここまで嫌われるとは。少し可哀想だとは思うが、それは自業自得だろう。


「んー、魔力探知の精度をもっと上げなければなりませんねー。今の私では少々厳しいですが……」

「じゃあボクに任せて。戦闘に備えて魔力を温存してたけど、それもそっちに使えば範囲や精度を上げられる筈だから」

「分かりましたー。私はその補助をしますねー」

「ジーク達はシルフィの傍から離れないでね。ベルゼブブが今一番狙っているのは多分シルフィだから」

「ああ、こっちは任せてくれ」


戻ってきたばかりで疲れているとは思うが、レヴィとアルテリアスは再びベルゼブブを見つけ出す為王都を出発した。エステリーナは対ベルゼブブの作戦を練る為王城へ、シオンは軽食を作りにキッチンへと向かう。


その間、ジークはシルフィの部屋を訪れていた。


「……家を出る、か」


ジークと顔を合わせるなり、シルフィは消え入りそうな声でそう言った。理由を聞いてもいいかとジークが言うと、シルフィは俯きながら頷く。


「魔神ベルゼブブの狙いは私です。これ以上ご主人様や皆さんにご迷惑をおかけするわけにはいきません」

「それ、本気で言ってるのか?」

「はい、本気で言っています」

「俺はシルフィのこと、大切な仲間だと思ってる。俺だけじゃない、皆もだ。なのになんで、迷惑だなんて言うんだよ」

「そう思ってもらえて、シルフィは幸せです。しかし、私は自分のせいで誰かが傷つく姿は見たくない。そんなの、私にはもう耐えられないんです」


目に涙を浮かべ、シルフィは言う。それを真剣に聞きながら、ジークは息を吐いた。


「俺だって、シルフィが傷ついてる姿なんて見たくない」

「でも、私が犠牲になれば、ご主人様達が傷つくことはないんです!」

「こら、そんなこと言うんじゃない」

「っ……」

「自分が犠牲になればなんて考えたり、言ったりするな」


だったらどうすればいいのか。元はと言えば、自分がジークに魔神ベルゼブブを倒してほしいと頼んだことが始まりだ。しかし、そのせいで誰よりも大切な人が傷ついてしまうかもしれない。


出会ったばかりの頃とは違い、自分のせいでジークが傷つく姿だけは絶対に見たくなかった。


「っ、エステリーナか?」


ジークが何かを言おうとしたタイミングで、連絡用の魔結晶が輝く。魔力を込めて耳に当てれば、やはり聞こえてきたのはエステリーナの声だった。


「もしもし?どうかしたのか?」

『あ、ああ。そこにシルフィは居るか?』

「すぐそこに居るけど」

『その、私もまだ少し混乱しているんだが、先程城にエルフ族(・・・・)の方々が数名やって来た。彼らがシルフィに会わせてほしいと言っているんだ』

「えっ……!?」


驚きが伝わったのか、シルフィは不安そうにジークを見つめていた。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「すまない、急に呼び出して」

「いや、大丈夫だよ。それよりエステリーナ、エルフ族の方々っていうのは……」

「ああ、あちらに」


案内された部屋に入ると、シルフィによく似た髪色と雰囲気のエルフ族が五名椅子に腰掛けて待っていた。


「お待ちしておりました。私はエルフ族最後の隠れ里ホウライより参りました、コルネリアと申します」

「特務騎士団団長のジーク・セレナーデです。そしてこちらが……」

「シルフィ、です。よろしくお願いします」


ジークの背後から顔を見せたシルフィを見て、エルフ達が一斉に立ち上がる。そして全員が片膝をつき、頭を下げた。


「お初にお目にかかります、シルフィ様」

「え?あ、あの……」

「ホウライの長老ウォーロックは、シルフィ様が忌々しい魔神ベルゼブブを討つと予言しています。なので、シルフィ様には我々と共にホウライへと来ていただきたく……」

「ち、ちょっと待ってください!そもそも分からない事が多すぎます!か、隠れ里ホウライとは何なんですか!?」


困惑しているシルフィを見て、確かにその通りだとコルネリアが謝罪する。


「世界各地に、エルフ族の隠れ里は存在していました。我々が人前に姿を現さないのは、人間がどれだけ愚かな種族なのかが分かっているからです」

「そ、それは……」

「その中の一つが私達の暮らすホウライであり、シルフィ様が暮らしていたのは最も強き者達が集うセルフィーナという隠れ里。それはシルフィ様もご存知ですよね?」

「強き者達が集うというのは初耳でした」

「ですが、隠れ里はホウライを除いて全て消滅。魔神ベルゼブブの襲撃により、滅んだのです」


シルフィが目を見開く。あの男に襲われたのは自分達だけではなかったのか。それだけではなく、コルネリアの話を信じるとすれば、ただでさえ数の少なかったエルフ族が、たった一人の男の手によって絶滅寸前まで追い込まれているという事である。


「我々は死を覚悟しました。このままでは隠れ里ホウライも奴に襲撃され、喰らわれてしまうだろうと。しかしそんな時、ウォーロック様が見たのです。人の都に住むシルフィ様が、近い将来魔神ベルゼブブを討つその姿を」

「待ってください。そんな話が簡単に信じられると思いますか?」

「貴方には関係の無い話ですよ、ジーク殿」

「関係無い?俺はシルフィの仲間です。仲間が突然魔神との対決を強要されるというのなら、仲間としてどうにかしようと思うのは当然では?」


コルネリアが立ち上がり、ジークを睨む。その背後ではシルフィが困ったように何かを言おうとしており、エステリーナはやれやれと息を吐いていた。


「人間がエルフ族を仲間などと、よく言えたものですね。貴方達は自分と容姿が違うエルフ族を珍しがって捕え、奴隷として扱ってきたというのに。かつての大戦で貴方達に手を貸した我々を……!」

「ご、ご主人様はそのような方ではありません!」

「騙されているだけなのでは?私にはこの男が信用に足る人物だとは思えません」

『あらー、つまり彼を認めたこの私も信用できないという事でしょうかー』

「え……」


ジークの胸元が輝き、アルテリアスが姿を現す。それを見た途端、コルネリアは大きく目を見開いた。


「ま、まさか貴女は……!」

「はじめましてー、アルテリアスと申しますー」

「や、やはりそのお姿は、伝え聞く伝説の女神アルテリアス様と一致している……し、失礼致しました!」


再び膝をつき、汗を流しながらコルネリアはアルテリアスにひれ伏した。そんな姿を見て苦笑しながら、アルテリアスはジークの首に手を回す。


「ジークは私の恩人ですよー。それに、これまで何度も魔神を相手にしてきたんですからー」

「ま、魔神を!?」

「魔神ベルゼブブの討伐は、ジークに任せた方がいいと思いますけどねー。それでもシルフィを連れていくと言うのなら、我々も同行させてもらいますがー」

「そ、そんな、我々の隠れ里に人間を招き入れるというのは……」

「もしかして、私のこと本物だと思っていないとか?いいんですよー?女神の言うこと聞いてくれなくても」

「い、いえ、それはですね……!」


楽しいのか、やたらとニヤニヤしている。ジークはやめてやれとアルテリアスの頭を軽く叩き、コルネリアに目を向けた。


「せめて俺とアルテリアスだけでも同行させてもらえませんか?敵の狙いがシルフィだけじゃなくてエルフ族全員なのだとすれば、俺達が行方を追っているベルゼブブが次に現れるのは隠れ里の可能性が高いので」

「ぐっ……いいでしょう。出発の準備が出来次第、隠れ里ホウライに向けて移動を開始します」

「というわけで、レヴィ達への説明は任せましたよー、エステリーナ」

「はい、任せてください」


不安げに、シルフィがジークを見つめている。それに気付いたジークは、大丈夫だよと彼女の頭に手を置いた。

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