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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第五章:神をも喰らう暴食大口
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第31話:憤怒の炎剣

「ん?んん〜?おかしいなぁ、君の中から憤怒の魔神によく似た魔力を感じる気がするなぁ」

『当然だ。今はこの娘が憤怒の魔神なのだからな』


首を傾げるベルゼブブに、魔剣となったサタンが語りかける。その声を聞いたベルゼブブは目を見開き、興味深そうにエステリーナを見つめた。


『報告すると言って先に戻ってきたが、まさか魔神として初の実戦相手が暴食の魔神になるとは』

「あ〜、そういえばサタンくんは人間相手に負けちゃったんだっけ?それで今は人間の言いなりって事かぁ」

『フッ、この娘をあまり舐めない事だ。エルフの娘よ、ここは任せて避難しているがいい』

「ええ、どんな味がするのか舐めてみたいんだけどなぁ。まあいいや、君に用事はないけど丁度お腹空いてたから。面倒な奴が来る前に、僕が全部喰らって────」


言い終わる前に、爆炎がベルゼブブを吹っ飛ばした。着地して顔を上げれば、地面を踏み砕いて駆け出したエステリーナの姿が目に映る。


「卑怯だねぇ……」

「【炎彗星えんすいせい】!!」


振り下ろされた魔剣を避けたが、地面と衝突した魔力が爆発し、再度ベルゼブブは宙を舞う。


「痛いなぁ……こっちは腹ぺこで動くのも大変だっていうのに」


その状態で、ベルゼブブは右腕に魔力を集中させた。すると腕が音を立てて膨れ上がり、変形する。盛り上がった筋肉は岩のようで、腕の先には巨大な口が。まるで凶悪な魔物のように見えるその腕を、眼下のエステリーナ目掛けて勢いよく伸ばした。


「っ……!」


後方に跳んでエステリーナはそれを避けたが、腕はまるで意志を持っているかのように進行方向を変え、蛇のように襲いかかる。


『気をつけろ。あれも能力の一つ、喰われると全ての魔力を持っていかれるぞ』

「ああ、分かった!」


魔剣で腕を弾き返し、エステリーナが立ち止まって目を閉じる。彼女が諦めたのかと思ったベルゼブブは口角を上げ、魔剣を前に構えたまま動かないエステリーナに腕を伸ばした。


「はあああああ……ッ!!」

「おっと?」


勿論エステリーナは諦めたわけではない。紅蓮の魔力が全身から解き放たれ、ベルゼブブの動きを止める。


『相手がレヴィアタンやジーク・セレナーデならば、まだ上手くコントロール出来ていないこの力を使うのは躊躇われるが……』

「相手がお前なら、遠慮なく紋章を解放出来るという事だ!!」


目を開けたエステリーナが、ベルゼブブ目掛けて燃え盛る魔力の刃を飛ばす。とてつもない熱量のそれはベルゼブブの肌を焼き、着弾地点を吹き飛ばした。


「面白いねぇ、人間が紋章の力を使って魔神になるなんて。ますます食べたくなっちゃったよ」

「っ、傷が再生している……!」

『フン、暴食の紋章は得られる能力の数が随分多いらしい。魔力を使って再生速度を上げているのだろう』

「確かアスモデウスちゃんもたっぷり魔力を持ってたと思うけど、僕も喰らった獲物から魔力を奪い取れるからね〜。ここに来るまでにいっぱい人間を食べたから、それなりに魔力は持ってるんだぁ」

「おのれッ!!」


完全に傷を治したベルゼブブの背中から、触手のようなものが大量に飛び出す。壊滅した町アメリアで相手にした魔物と同じく、先端は牙の並んだ口となっていた。


「いただきまァす!!」

「【螺旋焔らせんほむら】!!」


渦巻く炎に触手が殺到するが、炎はそれらを容赦なく焼き尽くす。しかし、触手は減るどころか増えていく。そこで気付いた。ほぼ一瞬で燃え尽きる触手だが、その一瞬で魔法を構成する魔力を喰らい、ベルゼブブに送っていると。


「そうやって魔力を回復させるという事か」

「あははっ、美味しいなぁ!魔神の魔力を食べたのは初めてだけど、こんなに美味しいなんて!」

「ならば────」


エステリーナは触手が魔力を喰らう瞬間を逃さないよう意識を集中させる。そして再度燃え盛る炎に触手が殺到したタイミングで、彼女は一気に魔力を放出した。


狙い通り、触手が喰らった大量の魔力をベルゼブブに向かって送り込む。その魔力を炎へと変え、ベルゼブブ本人を内側から炎が襲った。


『ほう、魔力の遠隔操作か。まさかそんな事まで可能だとは思わなかったぞ』

「外側の傷はすぐに再生してしまうが、内側からならどうだ」


体のあちこちから火が噴き出し、ベルゼブブが倒れ込む。しかしやはりと言うべきか、奇妙な音を立てながら全身の傷は癒え、何事も無かったかのようにベルゼブブは身を起こした。


「いやぁ、今のはさすがに死んじゃうかと思ったよ〜」

「これも効かないのか……!」

「僕は数え切れない程の生命を喰らって得た魔力の大半を、肉体の再生に使ってるんだ。まだまだ魔力は残ってる……思う存分攻撃しておいで」


楽しげに変形した腕を振り回すベルゼブブ。地面に触れる度に様々な場所が衝撃で砕け散り、攻撃を避けたエステリーナを襲うのは大量の触手。もう一度魔力を炎に変えようと考えたエステリーナだったが、吸収した瞬間に魔力を自身のものへと変えられてしまい、先程のような事が出来なくなる。


「くっ……普通に戦うだけでは勝てないか」

『やるつもりか?』

「ああ。使った事はまだ無いが、使い方は分かっている。この一撃に全てを込めて……!」


地を蹴り、触手を避けながらエステリーナが疾走する。そしてベルゼブブを真上に弾き飛ばし、魔力を魔剣に集中させた。


「おおっ、これは……!」

「受けてみろ、【天穿つ憤怒の鉄槌(ラースインパクト)】!!!」


超広範囲を吹き飛ばす怒りの禁忌魔法。サタンとは違い、エステリーナは真下以外の場所にもそれを放つ事ができる。凄まじい破壊力を誇る魔法だが、空に放てば王都に被害は出ないだろう。


空が赤く染まる。爆発の衝撃波が雲を消し飛ばし、大気が震える。それを見ながらやったかと思ったエステリーナだったが、突如膨れ上がったベルゼブブの魔力を感じて魔剣を構えた。


次の瞬間、背中に衝撃が走る。勢いよく吹っ飛びながら振り向けば、禁忌魔法を受けた筈のベルゼブブが血塗れの状態で立っていた。


「まさか、禁忌魔法を喰らったというのか!?」

『奴め、禁忌魔法を使ったな。あらゆるものを喰らう魔法だった筈だが、相手の禁忌魔法すら自身の魔力とするとは』

「化物め、これが暴食の魔神か」


伸びた腕を避け、エステリーナが剣を握りしめる。禁忌魔法相手に完全には魔力を吸収出来なかったようで、ベルゼブブの全身は生きているのが不思議な程ボロボロになっているが、蓄えている魔力を使えばそれも治す事は可能だろう。


「くく……ははははっ……こんなに美味しい魔力、エルフ族を食べた時以来だよ……」

「何……?」

「いつだったかなぁ。そんなに前じゃなかった気がするけど、隠れてたエルフ族を見つけちゃってさぁ。色んな方法を試しながら食べてみたんだ〜。そのまま一気に食べたり、泣き叫ぶ声を聞きながらゆっくり食べたり……怯えてる子や怒ってる子、大人や子供……それぞれ味が変わったりしてねぇ」

『外道が……』

「それでね、つい食べ過ぎちゃった時に一つ思いついたんだ。大切な人が全員食べられて唯一生き残ってしまった子は、どんな味になってるんだろうって」


エステリーナは言葉を失う。恐らくだが、今言っているのはシルフィの故郷を襲撃した時の話。そしてそれが事実なのだとしたら、シルフィが生存した理由……それは。


「私は、生かされていたの……?」

「っ、シルフィ」


避難したと思っていたシルフィが、虚ろな瞳でベルゼブブを見つめながらフラフラと歩いてくる。


「そんな理由で、私は……ッ」

「まあ、今は少し考えが変わっていてね〜。それを教えてあげるから、大人しく僕と────」

「うるさい!!どうして私だけが生き残らなきゃいけなかったの!?あの時死んでいれば、こんな思いをする事もなかったのに!!お前なんか死んでしまえ!!」


普段なら絶対に言わないような事を、荒い口調でシルフィが叫ぶ。それを聞いたベルゼブブは、頭を掻きながら右腕の先にある口をシルフィの前で大きく開いた。


「うるさいなぁ。ちょっと黙ろうか」

「シルフィ、避けろ!」


エステリーナの声が聞こえるが、今から動いたとしても間に合わない。迫るその口が閉じられる寸前まで、シルフィはベルゼブブを睨み続け─────


「何してやがるーーーッ!!」

「んあ────ごッ!?」


突如鈍い音と共に、ベルゼブブが派手に吹っ飛んだ。いつの間にかシルフィは現れた人物に抱き寄せられており、顔を上げれば頼れる人の横顔が目に映る。


「ご、ご主人様……!?」

「悪い、急に魔物が大量に現れてな。そっちの討伐に時間がかかって来るのが遅れた」


駆けつけたのは、王都で暴食の魔物を相手にしていたジークだった。そんな彼を見てエステリーナも安心し、つい気が緩む。


「エステリーナも、シルフィを守ってくれてありがとな!」

「ふふ、当然の事をしただけだ」


剣を手に紅蓮の魔力を纏うエステリーナは、いつも以上に頼もしく見える。そして二人は肩を並べ、ベルゼブブに目を向けた。


「う〜ん、二対一かぁ。流石にこれは、ちょっと分が悪いか……まあ、今日のところは帰ろうかなぁ。ベルフェゴールくんに貰ったアイテム持ってきてるし」

「逃げるつもりか?」

「そうだねぇ、そうなるかなぁ。でもいいよ、僕は勝ち負けとかどうでもいいから。また会おうね〜」

「ま、待ちなさい!」


シルフィが鋼糸を伸ばすが、球体のようなものをベルゼブブが握った瞬間、彼の姿はジーク達の前から一瞬で消え去った。

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