表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第五章:神をも喰らう暴食大口
239/293

第30話:全てを喰らう者

「ご、ご主人様、それは私が……!」

「はいはい、遠慮すんなって」


騎士団への報告を終えたジーク達は、ベルゼブブを捜索する組と待機組に分かれた。待機組はジークとシルフィで、魔力探知に優れたレヴィとアルテリアスがシオンとエステリーナを連れて捜索組に。


現在ジークはシルフィと共に買い物中で、ジークが持つ大量の荷物をシルフィは受け取ろうと必死になっている。


「荷物持ちに任命した覚えはないぞ」

「で、でも、私はご主人様のお役に立つ為に……」

「普段買い物してくれたり掃除してくれたりしてるだろ?シルフィにはいつも助けられてるよ」

「そういう事では……」

「俺はシルフィと、家族として対等な関係でいたいんだ」


そう言われ、シルフィが黙り込む。何か変な事を言ってしまっただろうかとジークは少し焦ったが、そうではないと信じたい。


やがて自宅に辿り着き、買ってきた食材や道具などを冷蔵庫や棚に入れていく。その間もシルフィは黙ったままだったので、ジークは彼女に歩み寄った。


「シルフィ、俺、嫌な気分にさせるような事言っちゃったか?」

「え……」

「その、ちょっと心当たりが無くて。もしかしたら、覚えてないだけで何か言ってたりしたかもしれなくてだな」

「ち、違います!ご主人様が家族だって言ってくれた事、とても嬉しかったんです!だけど……!」


買った物が入ったままの紙袋をぎゅっと抱き、俯きながらシルフィは言う。


「家族になってしまったら、また全部失ってしまいそうで……!」

「っ、それは……」


魔神ベルゼブブの襲撃で、シルフィの故郷は焼失した。その際彼女は大切な家族を失ってしまっている。今度も自分を家族だと言ってくれる人を失ってしまう事になったらと、嫌でも考えてしまうのだ。


「それなら私はご主人様に仕えるだけの存在でいい!私のせいで、恩人であるご主人様にご迷惑をおかけしてしまう事になるのなら────」

「こら」

「あうっ」


チョップされ、シルフィの肩が跳ねる。顔を上げれば、少し怒ったような表情のジークと目が合った。


「確かに俺はシルフィの恩人なのかもしれない。だけど、俺だって何度もシルフィには助けられてるんだ。迷惑なんて好きなだけかけてくれればいい。俺も迷惑かけまくってるしさ」

「で、でも……」

「それに、俺は居なくなったりしないよ。家族を守る為に命を懸ける事はあっても、居なくなったりしないから」


シルフィの頭を撫で、ジークは笑う。


「まあ、俺じゃ頼りないかもしれないけど」

「ご主人様……」

「んー、それ。ご主人様って言うのはやめにしないか?嫌とかじゃないけど、やっぱり名前で呼んで欲しいな」

「え、う、それは……」

「皆ジークって言ってるし。敬語も無しでいいんだぞ?」


真っ赤になった顔を隠すように、シルフィが紙袋に顔を埋める。


「そ、の、それはすぐには変えれないといいますか……もう少し待ってください」

「はは、そっか。分かった」

「でも、本当によろしいのですか?私なんて、ご主人様の家族に相応しいとは……」

「いやいや、別に俺そんなに偉い人じゃないし。むしろ俺なんかが、エルフのシルフィを家族だとか言っていいのかって思うレベルだぞ」


そう言って、ジークはシルフィが抱えていた紙袋を受け取る。その際赤くなった顔を見られたシルフィは、外の空気を吸ってきますと言い残して家から飛び出て行った。


そんな姿を見て可愛らしいなと思いながら、残っていた食材などを全て片付ける。落ち着いた頃には戻ってくると思うので、掃除でもしながら待っていようとジークは思った。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






生まれて初めて信頼できると思った人間。シルフィにとって、それは彼女が尊敬するジークだった。


それでも、彼女は内心怯えている。もし要らないと思われてしまったらどうしよう、もし邪魔だと言われてしまったらどうしよう。そう思うからこそ、彼女は必死になって様々な事を引き受けた。


家族と故郷を失った自分を認めてくれる、唯一の居場所。ジークがそんな事を言う筈がないと分かっていながらも、彼に尽くさなければ恐怖が心を支配しそうになってしまう。


「はぁ、またご主人様を困らせちゃった……」


王都を歩き回っていたが何となく壁の外に出て、寄ってきた小鳥を指の上に乗せながらシルフィが呟く。


「ご主人様が、家族だって言ってくれたのに……」


まるで自分を励ますかのように、小鳥がピイピイと鳴く。シルフィは微笑み、その小鳥の頭を指先で軽く撫でた。


「ありがとう。おかげで落ち着けたかな」


そう言うと、小鳥は空へと羽ばたいていった。その姿を見つめながら、シルフィはそろそろ戻ろうかと思い足を動かす。その直後、ぞわりと悪寒が背中を駆け抜けた。


「っ……?」


見れば、王都に向かって妙な男が歩いてきている。ボサボサの緑髪にボロボロの服。何かを引き摺りながら歩く男は、警戒しているシルフィに気付いてその顔を上げた。


「あれぇ、君は……」

「え─────」


シルフィは言葉を失った。あの日から、決して忘れた事はないその顔と魔力。全てに興味が無さそうな、無気力なその表情。元が何だったのか分からない肉の塊が、男の体から溢れ出た魔力に飲まれていく。


「ああ〜、生きていてくれたんだね。僕の事覚えてる?この辺りに住んでるって聞いたから、迎えに来てあげたんだよ〜」

「あ、なた、は……」

「ん〜、人間がいっぱい居るみたいだぁ。丁度お腹空いてたから、全部まとめて食べちゃおうかなぁ」

「ッ〜〜〜〜!!」


鋼糸に魔力を纏わせ、男の全身に巻き付ける。そして全力で締め上げ、シルフィはダガーを手に取った。


「何故貴方がここに居るのですか、魔神ベルゼブブッ!!」


叫ぶシルフィの視線の先で、それを聞いた男が口角を吊り上げる。今でも脳裏に焼き付いているその表情。大切な人達の命を次々と奪った、絶対に許す事のできない存在。魔神ベルゼブブが、最凶の捕食者が、今目の前に立っている。


「まあまあ、そう怒らないでよ〜。今すぐ食べちゃいたくなるじゃないかぁ」

「黙れ!貴方だけは絶対許さない!私の大切な場所を、もう一度奪おうというのか!」

「強がるなよ?君程度、別にこの場から動かなくても食べれるんだからさぁ」

「っ……!?」


おぞましい魔力がシルフィの肌を撫でる。ほんの少し魔力を放出しただけなのだろう。しかし、それだけでシルフィはあの日の事を思い出し、纏う魔力が不安定になってしまう。


「そ、そうやって魔力を放てば、ご主人様は必ず貴方に気付きます……!」

「んー?ああ、それってジーク・セレナーデのこと?彼なら来ないよ。僕が生み出した魔物が今頃壁の中で暴れ回っている筈だからねぇ」

「なっ……!?」


確かに、王都内からこの男のものと同じ複数の魔力を感じる。ベルゼブブに対する怒りに支配され、その事に気が付かなかった。


「ご主人様……!」

「おっと、行かせないよ〜」


駆け出そうとしたシルフィの前までほぼ一瞬で移動し、小柄な彼女をベルゼブブは蹴り飛ばす。吹っ飛んだシルフィはそのまま地面に激突し、激痛に表情を歪めた。


「あ、貴方は、何が目的で……」

「まあ、それは戻ってから教えてあげる。とりあえずジーク・セレナーデが来る前に連れて行くからねぇ」

「くっ……!」


痛みで体に力が入らない。何故殺されないのかは不明だが、このままだと別の場所まで移動させられるだろう。


「殺してやる……」

「んー?」

「貴方だけは、絶対殺してやる……ッ!」

「あはは、出来るといいね〜」


シルフィの放つ殺気を浴びて心地良さそうに微笑みながら、ベルゼブブがシルフィに手を伸ばす。その直後、自分の首元に燃え盛る刃が触れた事に気付いたベルゼブブは、咄嗟に後方へと飛び退いた。


見れば、凄まじい闘気と魔力を放つ赤髪の女剣士が立っている。また美味そうな獲物が来たものだとベルゼブブは口角を上げ、シルフィは彼女を見て目を見開いた。


「貴様が魔神ベルゼブブか。私の仲間に手を出そうというのなら、まずは私が相手になろう」


駆けつけたのは、憤怒の騎士エステリーナ。彼女は燃え盛る剣先をベルゼブブに向け、怒りに満ちた瞳で彼を睨んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ