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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第四章:甘美なる色欲の支配
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第28話:祭りの後で

「────………?」


不意に意識が覚醒し、ジークは重い瞼を上げる。すると彼の目に飛び込んできたのは、心配そうに自分を見つめる少女達の姿だった。アルテリアス、シオン、シルフィ、エステリーナ、少し離れた所には腕を組んだアスモデウスが立っている。


「っ、レヴィは……!?」

「良かった、目が覚めたか。大丈夫、レヴィならここだ」


エステリーナの手の先に目を向けると、ジークに抱きつくように眠っているレヴィが居た。可愛らしい寝息を立てているので、恐らく暴走の心配はないだろう。


「アルテリアス様から話を聞いた時は本当に驚きました……あぁ、ご主人様。よくぞご無事で……」

「ジークには迷惑をかけてしまったようですね。すみませんでした」

「いや、それは……」

「ふふ、彼女からはもう謝罪してもらっている。事情はアルテリアス様から聞いているから、何故このような事が起こったのかは分かっているよ」

「ん、そっか」


ふと、アスモデウスと目が合う。彼女は一瞬慌てたように目を逸らしたが、そのままこちらの方に歩いてきた。


「悪かったわね、色々付き合わせて」

「俺は気にしてないよ。でも、アスモデウスの禁忌魔法にかかった人達は、今回の事を覚えてないのか?」

「そうね、そういう魔法だから。だけど一時的に記憶が抜けているから、混乱してるとは思う」

「それは私達騎士団の方でサポートしているから、今は祭りが再開されている。ただ、壊れた家などについてはこれからだな。それと、劇は中止だ。主演が怪我だらけなのだから」

「崩れた王城は、あたしが幻影魔法で元通りに見えるようにしているわ。だけど修復作業は祭りが終わってから行うそうよ」


ジークが気を失っている間に色々してくれていたらしい。何だか申し訳ないが、まだ全身が痛んで動きずらいので今回は甘えさせてもらうとしよう。劇の中止は残念だが、仕方がない。


「さて、私達は騎士団の手伝いに行きましょうかー。あとは三人……いや、レヴィが起きるまでは二人でごゆっくりー」

「え、ちょっと……!」


アルテリアスがシオン達を連れ、家から出ていく。残されたアスモデウスは、まだベッドに腰掛けているジークを見て頬を赤く染めた。


「アスモデウスって、ほんとに色欲の魔神?」

「うぐっ、そうに決まってるじゃない!た、ただ、男と二人きりとか、そういう経験がないだけで……!」

(それと、胸が全然無いというか……)

「言ったわね!?あたしが一番気にしてる事を言ったわね!?こ、殺す!殺してやる!」

「心を読まれただと!?」


言うと殺されそうだったので黙っていたが、まさか思った事がバレるとは。案の定魔剣を生み出し雷を纏わせたので、ジークは全力で謝罪する。


「最っ低!この変態!」

「ごめんなさい……ほんと、二度と言いません……いや別に言ったわけじゃないけど」

「な、なんか、本気で謝られるのもそれはそれでムカつくわね」


はあと息を吐き、アスモデウスはベッドの横にある椅子に腰掛けた。


「なーんで人間なんかとこんなに盛り上がってるんだろ、あたし」

「俺は楽しいけどな」

「そりゃあそんだけ馬鹿にできれば楽しいでしょうよ……まあ、人間全員を復讐の対象にしてたのは間違ってた。ごめん」

「素直に謝られると調子狂うなぁ」

「わ、悪かったわね!ああもう、ムカつく!」


ケラケラ笑うジークを見ていると、ムカつくとは言いながらも妙な気持ちになる。調子が狂うのはこっちだと、アスモデウスは顔を逸らしながら思った。


「でも、まだ人間と仲良くしようとは思えない。もしかしたら、これからも」

「うん、正直それは仕方ないと思う」

「だけど、あんたは……あんただけは、多分これからも信頼できる……と、思う」

「へ?」

「感謝してるわよ。ありがと、ジーク」


互いに黙り込んでしまい、静かな時間が訪れる。暫くして先に口を開いたのは、顔を真っ赤にしたアスモデウスだった。


「な、何か言いなさいよ!」

「……悪い、ちょっと泣きそうになってた」

「は、はあ?」

「頑張って良かったなって」

「む、ぅ……」


ジークに背を向け、アスモデウスが歩き出す。


「……行くのか?」

「来る前にルシフェルに喧嘩売っちゃったから、あっち陣営には戻れないけどね。まあ、あたしに出来る事をやろうと思ったの」

「分かった、元気でな」

「ええ、そっちこそ。レヴィアタンによろしく」

「ああ。それと、また会おうな」


ジークに顔は向けなかったが、最後に微笑んでからアスモデウスはジークの前から姿を消した。部屋が一気に静かになり、少し寂しい気分になる。丁度そんなタイミングで、眠っていたレヴィが目を覚ました。


「あっ、ジーク!良かった、目が覚めたんだ」

「悪い、心配させたな」

「ううん、こうなったのはボクのせいだから……」


申し訳なさそうに俯き、レヴィが言う。そして、ポタポタと布団に涙が零れ落ちる音がジークの耳に届いた。


「ごめん、本当にごめんね……?また色んな人に迷惑をかけて、ジークには怪我をさせてしまって……」

「俺なら大丈夫だよ。それに、俺だって一回レヴィの事殴っちまったし、おあいこだ」

「おあいこなんかじゃない!もしかしたらボクは、この手でジークの事、殺してしまっていたかもしれないのに……!」

「そんな事はさせないよ。これからも、レヴィとは仲良くしていたいからな」

「っ、ぐすっ、どうしてそんな……」


泣きじゃくっているレヴィの頭を撫で、ジークは照れくさそうに頬を掻く。


「レヴィは大切な仲間……いや、今はもう家族だ。もう一緒に居るのが当たり前になってるというか。その、居なくなったら寂しいし」

「ふえぇ、ジークぅ……!」

「いででででっ!」


ギュッと抱きつかれ、堪らずジークは叫んだ。


「あっ、ご、ごめん……!」

「は、はは、大丈夫。それよりレヴィ、祭りには行かなくていいのか?」


ジークに言われ、レヴィは首を振る。


「行かない」

「俺なら心配しなくても、もう平気だぞ?エステリーナ達の手伝いが終わったら、レヴィも祭りを楽しんでくるといい」

「やだ、行かない!」

「別に今回の事は気にしなくていいからさ。レヴィ、祭りを楽しみにしてただろ?だから─────」

「っ〜〜〜〜、違うっ!」


突然服を引っ張られ、気付けばレヴィの顔が目の前に。更に遅れて唇に柔らかい感触が伝わり、ジークは目を見開いた。


「っ?……っ!?」

「……ボクはジークが大好きだから。ジークと二人きりでデートできるかもって思ったから、楽しみにしていたんだよ」

「え、あ?へっ……?」

「気付いてたでしょ?ボクがジークを好きって思ってる事」


顔を離したレヴィが、顔を赤くしながら潤んだ瞳で見つめてくる。一瞬思考が停止しかけたが、ジークはそれに対して頷いた。


「も、もしかしたらとは思ってたけど……」

「っ、ああ〜〜〜、やっぱり思われてた!それに言っちゃった!恥ずかしい、何これ!」


顔を手で隠しながらレヴィが悶える。その姿は大変可愛らしいのだが、そんな事を思っている場合ではない。


「……好きって、異性としてって事だからね?」

「あ、ああ、それは、はい……」

「それに、告白は一回目じゃないし!」

「ええっ!?」

「前は女神さんに邪魔されたから、このままの関係でいいって思ってたけど、勢いで告白しちゃったよぉ……」


ジークにとってはまさかの事実。気付いていないフリをしていたが、やはりレヴィは自分に好意を寄せてくれていたらしい。


「その、嬉しいよ。だけど、それに対してどう返事をすればいいのか……」

「へ、返事は別に……」

「俺、恋愛とかよく分からなくてさ。レヴィだけじゃなくて、他の皆の事もそういう対象としては見てなくて……」

「……うん、そうだよね」

「でも、今は正直めちゃくちゃ意識してしまってる」


それを聞いて、レヴィは顔を更に赤くした。


「じ、じゃあ、チャンスが無い訳じゃないって事?」

「ど、どう言うべきなのか……やっぱりレヴィの事をそういう意味で好きだって思った時じゃないと、付き合ったりするのはあれというか……」

「ううん、それで充分だよ!ジークがそうやってちゃんと考えてくれてるだけで、凄く嬉しいから……」


ようやくいつものような明るい笑顔を見せ、ジークに抱きついたレヴィ。優しい抱きつき方だったので、今回はジークも叫んだりはしなかった。それから暫くして、レヴィは確認する為顔を上げる。


「じゃあ、他の皆がジークをどう思ってるかって事も、何となくは分かってるよね?」

「う……多少は」

「ふふ、そっか。でも負けないから。いつかジークの中で結論が出た時、返事を聞かせてね」

「レヴィ……分かった」


レヴィを抱えてジークが立ち上がる。


「どうしたの?」

「俺もそろそろ手伝いに行こうかと思って。それに、その後は祭りも楽しみたいし。アスモデウスは帰ったから、今のところは安心してのんびり過ごせそうだ」

「でも、怪我は……」

「そのうち治るよ。さ、行こう」

「え、ちょっと、抱っこしたまま!?それは恥ずかしいんだけど……!」


照れているレヴィを降ろしてやり、ジークはレヴィと共に家を出た。外にはいつも通りの光景が広がっており、ここで激戦が繰り広げられていた事を忘れそうになる。


本当に様々な事が起きた一日である。日が暮れて夜空に広がる星々を見ながらジークはそう思った。

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