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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第四章:甘美なる色欲の支配
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第22話:対話

「よし、バッチリですね!」


ノエルの声を聞き、全員が笑顔になる。今日は月光祭前日、最後のリハーサルを終えたところだった。


「はは、何とか形になったな」

「ご主人様、素晴らしい演技でしたよ!」

「これならきっと明日も大丈夫だね!」


レヴィに抱き着かれ、バランスを崩したジークは彼女ごと転倒した。そんな光景を苦笑しながら見ていたエステリーナは、どこか不安そうにしているシオンに気付く。


「シオン、どうした?」

「あ、いえ、本番の事を考えると緊張してしまって……」

「確かに、明日はここに大勢の観客が来ていると考えたら緊張してしまうな」


中央広場に設置された舞台。本番は観客が自分達の劇をその目で観ているのだ。エステリーナも、そう考えると背筋が伸びる。


「エステリーナなら大丈夫だ。俺達兄妹の演技力を見せてやろうじゃないか」

「そんな事言って、リハーサルでも台詞を間違っていましたけど」

「お、お前だって途中で眼鏡を落として〝め、眼鏡眼鏡……〟とか言って慌てていただろう!」

「そ、それは、全然見えなくなるんですから慌てるでしょう!」

「はいはい、夫婦漫才は他所でやって」


少しからかうようにエステリーナに言われ、イツキとノエルが顔を赤くする。それを起き上がって見ていたジークの隣で、レヴィが安心したように笑った。


「今日まで何事もなくて良かったね」

「ああ、そうだな」

「明日のお祭りね、本当に楽しみだったんだ。魔神勢が今頃何をしているのかは分からないけど、せめてお祭りの間だけは大人しくしていてもらいたいな」

「俺もそう思うよ」


頭を撫でてやれば、レヴィは気持ち良さそうに笑う。と、そこでシオンがじろりとこちらを見つめている事に気付き、ジークはレヴィから手を離した。完全にレヴィとシルフィの頭を撫でるのが癖になってしまっている。


それからジーク達は明日に向けての準備を手伝い、帰る頃には夕陽が空を照らしていた。何度も練習したので台詞などは頭に叩き込まれているが、帰り道も自然とそれぞれ台詞を口ずさむ。


「今の台詞、ちょっと間違えてたよシルフィ」

「え、本当ですか?」

「うん、そこは確か……」


楽しそうにそう言い合う二人を見ていると、自然と頬が緩む。彼女達の少し後ろを歩きながら、明日は頑張ろうとジークは思った。


「流石ですね、あの二人は。私なんてまだ覚えれていない部分が多いのに」

「シオンはちょっとまだ恥ずかしがってるからなぁ。思い切ってズバーンって演技してみなよ」

「そう言われても、恥ずかしいものは恥ずかしいんです」

「はは、違いない」


シオンがふうと息を吐く。こうして見ると、彼女も随分成長したものだ。王都に来てからは、本当に色々な表情を見せてくれるようになった。最近では、ジーク以外の面々もシオンの表情変化に気付く程である。


「……何ですかその顔は」

「いやぁ、何でも」

「……?よく分かりませんけど、明日は頑張りましょうね」

「ああ、勿論だ」


そう言って隣を歩くシオンに目を向けたジークだったが、視界にとある人物が映り足を止める。


多くの人が行き交う中でもはっきりと分かる美しい容姿。壁にもたれかかり、腕を組んで不敵な笑みを浮かべるその人物。明らかに、彼女は自分を見ている。何故だか分からないが、ジークの腕がぶるりと震えた。


「っ……!」


次の瞬間、こちらを見ていた少女が駆け出した。反射的にジークも足を動かしたので、何事かとシオン達が声をかけてくる。


「悪い、先に戻っといてくれ!」

「え、ちょっと……!」


驚くシオン達だったが、アルテリアスだけがネックレス状態となってジークに向かって飛んできた。彼女をキャッチしたジークは、走りながらアルテリアスを首につける。


「ジーク、どうしたんですかー?」

「まさかとは思うけど、彼女は……」


やがて、ジークに追いつかれた事を悟った少女は、振り返ると同時に長い桃色の髪をばさりと揺らした。


「御機嫌よう、ジーク・セレナーデ。気付いてくれて嬉しいわ」

「あの時、酔っ払いに絡まれてた子だな」

「ええ、覚えてくれていたのね」


ただ、あの時とは雰囲気や表情がまるで違う。他人に怯える様子もなく、自信に満ちた表情で睨むようにジークを見ている。


「あんた、もう気付いてるんでしょう?」

「絶対とは言えないけど……さっき目が合った時に感じた悪寒は、〝紋章の力を解放した時のレヴィ〟を相手にした時に感じたものにそっくりだった」

「フン、レヴィアタンねぇ。人間相手に仲良しごっこなんてしちゃって、同じ魔族として心底軽蔑するわ」


そこでアルテリアスも気付いたらしい。目の前に立つ桃色の悪魔を見て警戒を強めたのがジークにも分かった。


「あたしは魔神アスモデウス、色欲の紋章を持つ者よ」

「っ、やっぱりか……!」


正体を明かしたアスモデウスだが、魔力を纏おうとしたジークを見て心底面白そうに笑う。


「馬鹿じゃないの?こんな町中で、こんなに沢山の人間が居る中で、あんたはあたしと殺り合うつもり?」

「くっ、何が目的だ!?」

「今この場で何かをする気はないわ。楽しい〝お祭り〟を前に、少し話をしてみたくなっただけよ」

「話だと?」


アスモデウスが周囲を見渡し、近くにあった喫茶店を指さす。


「まあ、どうせならゆっくりしましょう」

「……ああ、上等だ」

『な、何ですかこの展開はー……』


魔神と二人で喫茶店に入り、席に着く。そこでアスモデウスから魔法を使っている事を知らされ、周囲に声や魔力が漏れる事はないと説明された。


「なら思う存分話せるな。お前は一体王都で何をするつもりだ」

「決まってるじゃない。あんたとレヴィアタンを殺しに来たのよ、ジーク・セレナーデ」

『そ、そこまで堂々と言うとは……』

「隠す必要がないもの。あんた達じゃ、あたしには絶対に勝てない」

「それだけ自信があるって事か」


まだ魔力を纏ってすらいない目の前の魔神は、一体どれ程の実力を誇るのだろう。もしも戦わなくて済むのならば、今この場で退いてもらいたいとは思うが……。


「馬鹿ね、退くわけないでしょ」

「お、おお」

「あたしは人間が嫌いなの。大っ嫌い。だからあたしが全員支配して、一生下僕として使ってやるわ」

「なら、どうして一月以上も行動しなかった?」

「少し興味が湧いたのよ。魔神レヴィアタンを自陣に引き込んだあんたや周りの連中が、一体どんな生活をしているのか……ね」


先程一度魔法を解いて注文したパンケーキとコーヒーが運ばれてきた。それを受け取り再度魔法を発動したアスモデウスは、相変わらず余裕に満ちた表情でそれを口に運ぶ。


「まあ、人間が作る料理は悪くないわね。特にここのコーヒーは絶品だわ」

「結構気に入ってるじゃないか、ここでの暮らし」

「いいえ、人間を見る度に殺してやりたくなるわ。でも貴重な駒を減らすのは勿体ないでしょ?だから我慢してあげてるのよ」

「……お前は、どうしてそこまで人間を憎んでいるんだ?」

「ふぅん、案外恐れずに色々言ってくるのね」


コーヒーを一口飲み、そしてアスモデウスは言う。


「昔、あたしが暮らしていた魔族の村に人間が現れた。強い連中に魔界を追われて人間界に集まった、弱小魔族の村だったわ。そこに現れた人間達はねぇ、あたし達が魔族だって理由だけで皆を殺していったのよ。まだ幼かったあたしを逃がそうとした、パパとママもね……!」

「なっ……」

「さぞ気持ち良かったでしょうね。力を持たない魔族を殺しただけで、人間の町では英雄扱いされるんだから。その時あたしは誓ったの。力を手に入れて、人間達を支配してやるって」


拳を握りしめ、アスモデウスがジークを睨む。


「始まりはそんな理由だったわ。だけど、幼い魔族が人間を憎むのには十分過ぎる理由だとは思わない?」

「それは……」

「あたし達が人間を殺すのと同じで、あんた達人間も魔族を殺しているのよ。それなのに人間は自分達こそが正義だと信じて疑わない……ほんと、吐き気がするわ!」


それから落ち着いたのか、アスモデウスは残りのパンケーキを食べ始めた。ジークも、運ばれてきたコーヒーをぐいっと飲み干す。


「ここに来て分かった事は多いわ。やっぱり人間は救いようのない屑だって事とか、あんた達が楽しそうに笑っているのを見ると八つ裂きにしてやりたくなる事とか、ね」

「あの時絡んでた人は、確かにやり過ぎだったと思う。だけど、全員ああいう人なわけじゃ……!」

「ええ、そうね。あんたみたいな脳内お花畑の馬鹿も何人かは居るんでしょうよ。だけど、あたしは人間が嫌いなの。あんた達があたし達を敵だと思っているように、あたしはあんた達を敵としか思っていない」


互いの意思がぶつかり合う。ジークはアスモデウスの話を聞いて、彼女とならレヴィのように分かり合えるかもしれないと思った。しかし、彼女は明確な敵意を向けてきている。どうすれば、彼女の心を開く事ができるだろうか。


「そもそも、こうして魔神が国の心臓部分にするりと入り込めるのがどんな状況か、もう一度考えた方がいいんじゃない?その気になれば、国王を殺す事だってできるのよ」

「っ、お前……」

「改めて、あんたに勝ち目はないわ。あたしに侵入を許した時点で、勝ち目なんてものは消滅している」

「そんなの、やってみなきゃ」

「分からないとでも?どうなのよ、女神アルテリアス」

『正直厳しい戦いにはなるでしょうねー。色欲の魔神が使う魔法は、精神干渉系のものが多いですからー』


負けると言わなかったのが不満なのか、アスモデウスが面白くなさそうに前髪を指で弄り始める。


「舐められたものね、あたしも」

「レヴィの時だって、諦めなかったから俺達は勝利を掴む事ができたんだ。今回だって、やる前から諦める訳にはいかないだろ?」

「くだらない。だったらその頭に教え込んであげるわ、人間程度じゃこのあたしには敵わないって」


立ち上がったアスモデウスが入口に向かって歩いていく。その背に向かってジークは声を届けようと口を開いた。


「何をするつもりだ?」

「別に、もう満足しただけ。今日は(・・・)ゆっくり眠れると思うわよ?」

「待ってくれ、アスモデウス!」

「それじゃあね、ジーク・セレナーデ。お互いに楽しむとしましょう、明日は……ね」


彼女を追って店の外に出たジークだったが、既にその姿は消えていた。仕掛けてくるとすれば、恐らく明日。備えておかなければならないなと、ジークは心の中で覚悟を決めた。

アスモデウス

「お金払うの忘れてたわ」

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