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第13話:消える炎

「…………」


あれからアルツェンを発ち、仲間達と共に王都に向かう馬車へと乗り込んだジーク。


ありがとうと、エリオットからは何度も礼を言われた。彼だけではなく、アルツェンに住む人々からも。それでも、素直に喜ぶ気にはなれなかった。


「はぁ、まだ落ち込んでるの?」

「落ち込んでるというか……」


レヴィに言われ、ジークは顔を上げた。そして指先で髪を弄る彼女の横顔を見つめながら、ジークは口を開く。


「……ごめんな」

「んー?」

「あの時、俺は動けなかった。コーディさんを元に戻す事ばかり考えていて、あの人がどれだけ苦しんでいるかを全然考えれてなかった。〝救う〟という事にも、色々方法はあるのに」


アルテリアスとレヴィが言ったように、もう手遅れな程魔物化は進んでいたのだろう。奇跡を信じて戦い続けていたとしても、きっと彼を人の姿に戻す事はできなかった筈だ。


「本当に、ごめん……」

「要するに、あの人を楽にする役目をボクに任せてしまった事を後悔してるわけだ。それと、彼を元に戻せなかった自分の無力さに腹が立ってるってとこかな」


息を吐き、レヴィはジークの目を見つめる。


「前とは違って、ボクも心は傷んだよ。だけど、ウジウジしてても過去が変わるわけじゃない。この手で命を絶ってしまったあの人の為にも、ボクは立ち止まらないよ」

「レヴィ……」

「あの人の思いをボク達が引き継ぐんだ。だから前を向かなきゃ駄目だよ、ジーク」

「……ああ、そうだな。ありがとうレヴィ」


頭を撫でてやれば、レヴィは嬉しそうに口元を緩めた。すると胸元のネックレスが浮き上がり、デレデレするなとでも言うかのようにジークの額を叩く。


『忘れないうちに、情報を整理しておいた方がいいのではー?』

「あ、ああ、そうだな」

「今回の件、レヴィさんの言う通り怠惰の魔神が関与していたとして、何故このような事をしたのでしょうか」

「道中現れたダイナウルフはジークを狙っていました。しかし、目的地に現れたコーディさんが暴れていたのは、自分の存在に気づいてもらいたかっただけの可能性が高い……」

「んー、何となくだけど、人を魔物化させてボク達をアルツェンに向かわせた気がするんだよね」


全員の視線がレヴィに集まる。


「アルツェンって王都からかなり遠いよね?魔物化した人の強さを確かめるのに、王都にはボクやジークが居るからアルツェンを選んだって可能性もあるけど、道中でダイナウルフがジークを襲ったって事は、あの場をジークが通るって予測してたんだと思う」

『なるほど、私達はアルツェンに誘い出された……そう考えると、魔神の目的は王都でしょうか』

「なっ……!」

「それなら早く戻らなければ、エステリーナさん達が危ないのでは!?」

「そうだね。ただ、ジークが持ってる連絡用の魔結晶は無反応。今の時点で問題は起こっていない筈だよ」


やがて視線の先に見えた王都は、いつもと変わらず白い輝きを放っていた。馬車から降りて内部の状況を急いで確かめたが、何かが起こったようには見えない。


「魔神が潜伏している可能性は?」

「していても、魔力を使えばすぐに分かるよ。だけど、ベルフェゴールは一体何を企んで────」


と、息を切らしながら駆け寄ってきた人物を見てレヴィは言葉を止める。見れば、その人物は第一騎士団副長のノエルだった。


「ノエルさん……」

「み、皆さん、エステリーナを見ていませんか?」

「エステリーナ?いえ、今までアルツェンに行っていたので見ていませんけど……彼女に何かあったんですか?」

「その、エステリーナを捜しているのですけど、見つからなくて……あの子が黙って居なくなるなんて一度も無かったから、団長も動揺しているのです」


それを聞き、ジーク達は表情を変えた。今まで話に上がっていた怠惰の魔神。まさか、魔神がエステリーナに接触したとでもいうのだろうか。


「それに加えて、第三騎士団長も姿を消したのです。現在王都中を捜し回っている最中ですが、二人共見つかっていません」

「なっ!?」


第三騎士団長カレルは、エステリーナにストーカー紛いの行為を行いジークやレヴィと対立した。そんな人物がエステリーナと共に姿を消したのは、一体何故なのか。


『……私の魔力探知に引っかかりません。王都の外に出ているのか、それとも……』

「ボクも分からないな。でも、嫌な予感がする」

「ご、ご主人様、どうしましょう」

「決まってる。ノエルさん、俺達もエステリーナ達を捜すのを手伝います」

「え、ええ、感謝します」


そして、一度分かれてエステリーナの捜索を行おうとジーク達が動き出した、その直後。


『っ、強大な魔力を感知!!』

「はあ!?こ、この魔力って、まさか……!」


レヴィが驚きの声をあげると同時、王都が激しく振動する。見れば、白壁の向こう側で爆発でも起きたのか、黒煙が天に向かって広がっていた。


「まずいよ、ジーク」

「俺にも分かる。これは、魔王クラスどころの魔力じゃない……魔神だ!」








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







ズキリと、不意に走った鈍い痛み。


「────ん、う」


思わず口から声が漏れる。それと同時に痛みは増し、ゆっくりと瞼を上げれば見覚えのない場所が目に映る。


「ここ、は……」


何も無い場所、目の前には檻。どうやら自分はどこかに閉じ込められているらしい。状況を把握したエステリーナは、痛む頭を押さえようと手を動かしたが、両腕が後ろで縛られている事に気付いて舌打ちする。


(何故私はこんな場所に……それに、この状況は一体……)


檻に近寄り顔を押し付け、見える範囲を確認。長い通路のような場所に、唯一存在しているこの牢屋のような場所。まるで、エステリーナを閉じ込める為だけに造られたような場所だ。


(魔力を制限する効果などは無さそうだ。私を本気で閉じ込めておく気は無いという事か?)


魔力を炎に変え、縄を燃やす。そして置かれていた愛剣で檻を破壊し、エステリーナは通路に出た。


それから暫く通路を歩き、広い空間へと辿り着く。そこでエステリーナは気付く。ここは恐らく王都直下に存在している地下水路。まるで迷宮のように広がるその水路に、自分は連れてこられたらしい。


「……この件には貴方が関係しているのか」


エステリーナが言う。彼女の視線の先には、気味の悪い笑みを浮かべた男……カレルが立っている。


「もう目を覚ましたか。流石は我が麗しのエステリーナ嬢」

「黙りなさい、そんな事が聞きたいわけじゃない。第三騎士団長カレル、これは貴方の仕業か」

「おお、怖い怖い。それで、それに対して私がはいそうですと言えば、君はどうするのかな?」

「理由によっては、この剣を貴方に向けなくてはならなくなる」

「ふふ……」


この状況でも堂々としているエステリーナを見て、カレルは笑う。


「今頃ジーク君達は、アルツェンで未知の魔物を相手に驚愕している頃だろうねぇ」

「まさか、それにも関係しているというのか?」

「はははは!エステリーナ嬢、私は君を愛している!」


突然の告白に、エステリーナは目を見開く。しかし、すぐに目を細めてカレルを睨んだ。


「だからこそ彼ら(・・)に協力した。ジーク君達を王都から遠ざけ、喉から手が出る程欲しがっていた情報を与え、今このタイミングで王都へと迎え入れた。そのお礼に、私は人を超越した絶対的な力を手に入れたんだ……!」

「な、何を言っている……!」

「今の私には君も……イツキ・ロンドですらも相手にならない!さあ、エステリーナ嬢!ここで誓え、私のものになると!そうすれば私は喜んで君を歓迎しよう!」


そう言ったカレルの頬に、エステリーナが放った魔力の斬撃が傷を付ける。滲み出た血が頬を伝い、カレルはその表情を憤怒に染めた。


「何を訳の分からない事を。貴方が何を企んでいるのかは不明だが、私は誰のものでもない。そんな馬鹿げた誓いなど、してなるものか!」

「へえぇ、言うねぇエステリーナ嬢。やはり君は気高く美しい。だけど私としては、〝あの時〟のように可愛らしく泣き叫んでほしいものだがねぇ」

「あの時……?」

「五年前、拉致された時の事を忘れたのかい?」

「なっ!?」


当時の事を思い出し、エステリーナの顔が青くなる。今すぐにでも記憶から消してしまいたい、恐ろしい時間。多くの子供達が犠牲となった、あの地獄を─────


「それにも、関わっているのか……!?」

「はーーーはっはっはっはっ!そうだと言ったら、君は一体どうするんだい!?」

「っ……!」


剣に炎を纏わせ、エステリーナが凄まじい魔力を解き放つ。そんな彼女の前で、カレルは両腕を広げて楽しげに笑う。


「私はあの組織と繋がりがあってねぇ、前々から君には目をつけていたのさぁ!そこで彼らを使って君を攫い、私好みの女にしてやろうと思っていたんだが……まさかあんなに早く居場所を特定されるとは思わなかったよ!まあ、私はすぐにその場から離れ、組織は壊滅したが関与に気付かれなかった。口封じの魔法がきちんと効果を発揮してくれたおかげだ」

「あの事件のせいで、私がどれだけ傷付いたと思って……!」

「それについては反省しているさ。だからこそ、私が生涯君を守ってやると言ってるんだ!あんな女神の力を借りた紛い物なんかよりも、私の方が君に相応しいのだから!」


我慢の限界を迎え、エステリーナが勢いよく踏み込む。そして剣から放たれた炎は彼女の視界いっぱいを包み込み、焼き尽くす。


しかし、爆煙の中から姿を現したカレルは無傷。唇を噛み、エステリーナはカレル目掛けて駆け出し炎剣を振るう。それを素手で受け止められ、思わず動きを止めたエステリーナの腹部に、強烈な膝蹴りが叩き込まれた。


「がはっ……!?」

「悪い子だ。お仕置きが必要かな?」

「ぐっ、おのれッ!」


距離をとり、再度炎を纏い直したエステリーナだったが、既に視線の先にカレルは居らず。


「シャアッ!!」

「ッ─────」


首に強い衝撃を感じた瞬間、エステリーナはその場に崩れ落ちた。

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