第二十話 ジーク家大騒動
「あははは、楽しかったー!」
「こっちは大迷惑だったけどな!」
「いたいっ!」
俺は隣で爆笑しているレヴィアタンの頭を叩いた。
ったく、こいつは・・・。
「・・・」
「・・・」
「ご主人様、よければ水を」
「いや、大丈夫だ」
・・・何なんだこの感じ。
シルフィとやかましい魔神以外全然喋らない。
シオンなんか目が合った瞬間に逸らしてくるもの。
俺の心はバッキバキだぜ。
「おー、ここがジークフリード達の家かぁ」
「そうだ、だから早く帰れ」
「えー、ちょっとだけお邪魔させてよ」
「何を言ってんだお前は」
家に到着した瞬間、当たり前のように中に入ろうとしたレヴィアタンの首根っこを掴む。
「ちょ、髪の毛掴んでるっ」
「耐久高いから痛くないだろ」
「君は可憐な乙女を何だと思ってるのさ」
「禍煉な魔神の間違いだろ」
こいつ、意地でも俺んちに入るつもりか。
「シルフィ、何とかしてくれ」
「レヴィアタンさん、ご主人様が困っていますので・・・」
「レヴィでいいよ」
「レヴィさん、ご主人様が・・・」
シルフィが俺と一緒にレヴィアタンを引っ張るが、彼女は全く動こうとしない。
「てか、何で王都をめちゃくちゃにしたやつを家に入れなくちゃならないんだよ」
「だいじょーぶ、顔は見られてないよ。兵士達は顔見られる前に気絶させたし」
「アホかお前は」
誰かこの魔神を何とかしてくれー。
「・・・入れてあげればいいんじゃないですか?ジークさんはレヴィアタンさんにあんなことしてたんですし」
「おい待て誤解だ」
「・・・」
駄目だ、シオンが話を聞いてくれない。
「ほらー、お嫁ちゃんがああ言ってるんだし、中に入れてよ。ボクお腹空いたんだー」
「おっ、お嫁っ!?」
シオンの顔が真っ赤に染まる。
「お、お嫁だなんて、そんなこと・・・」
何やらシオンはごにょごにょ言ってるが、よく聞こえない。俺の嫁になるぐらいなら死んだ方がマシだ的な事だったら俺のハートは砕け散る。
「はあ、もういいや。入れよ」
「わーい」
俺が手を離した瞬間、レヴィアタンは猛スピードで家の中に入っていった。
もう何だよ、何歳だよあいつ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「え、ちょっと待って、美味すぎでしょ」
「ご主人様の作る料理はどれもシェフ顔負けのものばかりですよ」
「まじかー、ボクの領土に来てよー。ご飯作りに」
「行くわけねーだろ。てか、領土とかあんのね」
俺がそう言うと、レヴィアタンはそうだよーと頷いた。
「《絶界の十二魔神》は、一人ひとりが領土を持ってるんだよ」
「へえ・・・」
まあ、よく分からんけど。
「ご主人様、足りないのであればおかわりをお持ちします」
「おう、是非頼む」
魔力を使うというのは思ったより疲れるらしく、さっきから空腹がやばい。
食っても食っても腹が減る。
「・・・」
「ん?どうしたエステリーナ」
「え、いや・・・」
さっきから一言も喋らないエステリーナに声を掛けてみた。
「そこにいる魔神は、王都を襲った敵だ。なのに何故私達は共に飯を食べているのだろうと思ってな」
「あー、確かに。わけわからんよな」
「不思議なものだ。お前は種族を関係なく誰かを惹きつけるのだな」
とエステリーナに言われ、ちょっと恥ずかしくなった。
そうなのだろうか。
「ご主人様、おかわりでございます」
「お、さんきゅ」
シルフィが飯のおかわりを持ってきてくれた。
別におかわりぐらい自分で行ってもいいのだが、いつもシルフィが私がやりますと言って聞かないんですよ。
「んー、エルフちゃんはジークフリードの奴隷なの?」
「はい、ご主人様に命を助けて貰いました」
「おい、レヴィ。シルフィも、奴隷じゃないって・・・」
駄目だ、何か盛り上がり始めた。
「あー、そうだ。ジークフリードはこの中の誰が好きなの?」
「ぶふっ!?」
「「っ!?」」
「む?」
俺は口に含んでいたスープを吐いた。シオンとシルフィは何故か咳き込んでいる。
急にどんな質問してんだよあほ。
「あのなぁ、別に好きとかそういうのは・・・」
「むふふ、顔赤いけど」
「ぐっ・・・」
髪の毛全部毟ってやろうかこのクソ魔神。
別に好きとかそういう感情を抱いてるわけじゃ────。
「風呂入ってきまーーす!」
「あ、逃げた!」
シオン達からの視線が怖かったので、俺は風呂に向かって駆け出した。
戦略的撤退だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぅ・・・」
俺は浴槽でくつろぎながら息を吐いた。
疲れた。ものすごく疲れた。
「・・・魔神ねぇ」
あいつらにも色んなやつがいるんだな。
アルターみたいなクズ野郎もいれば、レヴィみたいなアホ野郎もいる。
「レヴィアタン・・・か」
確かにアホだし面倒くさいけど、どこか憎めない。
よく分からんやつだ、ほんと。
「ボクがどうかしたの?」
「ん?いや、アホ野郎だと思ってな」
「む、それは失礼だよ」
「事実を言ったまで─────」
──────なんで?
どゆこと?
俺一人で風呂入ってたよな?
「やっほー」
「うおおあああああああ!!!」
何でいるんだよ!
いつ入ってきたんだよ!!
何で全裸なんだよぉぉぉぉぉ!!!
「どしたの?」
「馬鹿かお前は!何で普通に風呂入ってきてんだよ!」
「え、駄目?」
「当たり前でしょうが!!」
ヤバイ、何かニヤニヤしながら浴槽に入ってきたぁぁ!!
「いい湯だね」
「寄ってくんな!」
ヤバイヤバイヤバイ!
俺の理性がリミットブレイクしそう─────────こいつ、意外と胸あるな。
「こんなのが好きなのかなー?」
「まて、まじでやめ──────」
胸押し当ててきたぁぁぁぁぁ─────あ。
「・・・ご主人様?」
「し、シルフィ・・・さん?」
よく見たらシルフィがにっこり微笑みながら扉を開けて立っていた。
─────手にダガーを持って。
「二人で一体何をしているのですか・・・?」
「違うんだ、こいつが急に・・・」
「分かっています。レヴィアタンさん、今すぐにご主人様から離れていただいてもよろしいでしょうか?」
「やだー」
「そうですか」
その後、風呂場でえげつない戦闘が始まりそうになったので、俺は全力で阻止した。
しかし、音を聞きつけたシオンとエステリーナがやって来て事態が余計ややこしくなったということは言わないでおこう。
その後、レヴィは王都から自分の住む場所に帰ることになった。
ようやく騒がしいやつが帰るので、俺は少しホッとしている。
「ねえ、ジーク」
「ん?」
「・・・」
「・・・?」
突然レヴィが俺の顔を見て黙り込んだ。
「なんだ?」
「なんかね、ジークを見てたら胸があったかくなるんだぁ」
「んん!?」
うるさいやつだが、こんな美少女に笑顔でそんなことを言われると嫌でもドキッとしてしまう。
「ただ戦いたくてここに来たけど、会ってみたら優しかったし、楽しかったし」
「・・・」
「なんか、よく分かんないけど、また会おうね」
「お、おう・・・」
最後にレヴィは俺に抱きついてきた。
そして数秒間ぎゅーっとしたあと、ものすごいスピードでどこかに向かって走っていった。
「・・・」
なんか、照れた。
─────to be continued




