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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
第二章:嫉妬する災厄の権化
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第8話:災厄降臨

「レヴィ、俺とデートしよう」


出会ってから約二週間。突然そんな事を言われると、いくらレヴィとはいえ一瞬きょとんとしてしまう。シオンとシルフィも目を見開いて驚いているが、唯一エステリーナだけが真剣な表情でジークとレヴィのやり取りを見つめていた。


「えっと、ボク?」

「そうだ。二人きりでな」

「まま、待ってくださいご主人様!で、デートですか!?そ、それなら、私が荷物持ちでも何でも……!」

「悪いシルフィ、今回は我慢してくれ」

「そ、そんな……!」


項垂れるシルフィを見て少し心が痛んだが、後でエステリーナが説明してくれるだろう。ジークはそのままレヴィを見つめ、彼女の返事を待つ。


「えへへ、ボクでいいのならね」

「ああ、今日は楽しもう」


準備してくるよと、レヴィは笑顔で自室へと向かう。半泣きになっているシルフィと石像のようになっているシオンはエステリーナに任せ、ジークも気持ちを落ち着かせる為に外へ出た。


壺の魔王を倒してから早くも三日。もうあまり時間はないのかもしれないと考えれば、嫌でも動悸が激しくなる。ジークは胸に手を当てると、もう一度深く呼吸をした。


『いよいよですね』

「ああ、ある意味決戦だな」


扉が開いた音を聞き、振り返る。そこにはいつもと変わらない、明るい笑顔を浮かべたレヴィが立っていた。ただ、前とは違い、その笑みを見ると緊張してしまうのは仕方ないだろう。


「んふふ、行こっか」


機嫌の良いレヴィを連れ、王都を出発する。レヴィは王都内を見て回ると思っていたようで、馬車に乗ると彼女は面白そうに口元を緩めていた。


「遠くまで連れてってくれるの?」

「ああ、とっておきの場所だぞ」

「ふーん?それは楽しみだね」


そのまま馬車に揺られ、長時間談笑しながら辿り着いた決戦場デートポイント。そこは王国一美しいと言われる海水浴場だった。


「へぇ……ジークったら、ボクの水着姿が見たかったのかな?」

「まあな。あっちにある施設は水族館、向こうには釣り堀もある。レヴィには何となく海が似合ってるからさ、ここを選んだ」

「ふふ、ちゃんと考えてくれてるんだね。それじゃあ、まずはどこに行くのかな?」


早くも上機嫌なレヴィを見て苦笑しながら、最初にジークは最近建ったばかりの王国唯一の水族館へと向かった。


ここまで巨大な建物を、ジークは王城以外に見た事がない。様々な魚や海洋魔獣が展示されているらしく、水質維持や酸素供給の為大量の魔結晶が使用されており、こんな施設を建てた王国の技術力に感動してしまう。


「わあっ、凄いね!」


二人分の料金を支払い中に入ると、まず出迎えてくれたのは視界いっぱいに広がる巨大水槽。大小様々な魚達に加え、圧倒される程巨大な海洋魔獣。


まるで海を切り取り持ってきたかのような、幻想的な光景。静かで美しい、広大な世界がそこには広がっていた。


「……ねえ、ジーク」


そんな巨大水槽を見つめていると、突然レヴィに手を握られてジークは目を見開いた。隣には、楽しげに微笑む少女が一人。


「デートなんだから、手くらい握ってもいいよね?」

「あ、ああ……」


小柄なレヴィがまるでお姉さんのように見え、心臓がドキリと跳ねる。まだ出会ったばかりだが、これ程までに可憐な少女と手を繋げるというのは、誰もが羨む素晴らしい事なのではないだろうか。


「周り、見てみなよ」

「え?」


言われた通り周囲を見渡すと、目に映るのは自分達と同じように手を繋ぎ、又は身を寄せ合う男女達の姿。レヴィはいたずらっぽく笑うと、そのままジークの体にぴっとりと引っ付いた。


「お、おい!?」

「ボク達も、あれくらいやっちゃう?」

「やりません!」

「あはは、顔真っ赤だよジーク」


水族館内は薄暗いが、レヴィには見えているらしい。なんだか猛烈に恥ずかしかったので、ジークはそのまま奥へと進んだ。


「おー、ふれあいコーナーだってさ」

「実際に生き物を手で触れるみたいだな。レヴィはそういうの、平気なのか?」

「うん、これとか可愛いよね」


そう言ってレヴィが手に取ったのは、黒くてブニュブニュした謎の生物。説明板によると、これはマナコという生物らしい。


「可愛い……?」

「ほら見て、こうやって触ると気持ちいいよ」

「う、うーん」

「じゃあこれとかは?ホシハイ……星に似た形の生き物みたい」


はしゃぐレヴィが、水槽の中に手を入れ様々な生物に触れる。ジークも同じく何匹かその手に持ってみたが、正直彼女のように可愛いとは思えない。


「そうだ。この子達とボク、どっちの方が可愛い?」

「そりゃレヴィだろ。圧倒的に」

「んふふ、そっか」


楽しんでくれているようで何よりである。手を洗い、先に進もうと興奮気味に伝えてくるレヴィを微笑ましく見つめながら、ジークは緊張感を飲み込み彼女に続く。


「わあ〜っ!」


水中トンネルを走るレヴィ。偶然他の客がおらず、まるで二人だけで海の中へ飛び込んだように思えてしまう。大型魚に小型魚が捕食されるシーンを見てしまったが、ジークは何も見なかった事にした。


「ボクもあの子達と一緒に泳ぎたいなぁ」

「はは、人魚みたいに見えるだろうな」


少し想像してみると、ふわりと浮き上がったネックレスに額を叩かれた。こうして考えている事が相手に伝わってしまう状態だけは何とかしたいものである。


「ボクさ、海が一番好きなんだ」


見上げながら、レヴィが言う。


「あんなに広い海の一部になれたら、きっと何も考えずにのんびり世界を漂えるんだろうなって」

「でも、魚達が泳ぎ回ってるだろ?それって自分の中を泳がれているようなものじゃないか?」

「ロマンチックの欠片も無いような事言うなぁ、ジークは」

「冗談冗談……まあ確かに、凄く気持ちいいだろうな。夜になると星空も綺麗だろうし」

「だよねだよね!」


本当に眩しい笑顔を見せてくれる少女だなと、改めてジークは思う。だからこそ、その笑顔の裏に潜む彼女の心が分からない。今目の前にいるレヴィは、何一つ偽りの無いレヴィなのだろうか。


「……ジーク?」

「ん、何でもないよ」

「……」


顔に出ていただろうか。不思議そうに見つめてくるレヴィの頭を軽く撫で、ジークは歩き出す。


『ジーク、気持ちは分かりますが……』

(ああ、今はデートを楽しまないとな)


心の中でアルテリアスに返事をして、次に向かったのは海洋魔獣のショー。なんと魔法を使わずに海洋魔獣と心を通わせ、様々なパフォーマンスを見せてくれるというのだ。


開演を前に、既にレヴィは拳を握って目を輝かせ、早く始まってほしいのか椅子に腰掛け足をパタパタさせている。


『皆さん、お待たせしました〜!可愛い海洋魔獣ドルフィーナ達による、パフォーマンスショーの開演で〜す!』


女性トレーナーの元気な声が響くと同時、水の中からドルフィーナという魔獣が飛び出した。そして空中でクルクルと回転し、勢いよく着水する。


『こちらが私の相棒、フィーナちゃんです!前の方に座っている皆さん、気をつけてくださいね〜?』

「ん?気をつけるって、何を────」


次の瞬間、再び飛び出したドルフィーナが尾鰭を水に叩きつけた。それによって発生した水飛沫が、一番前の列に座っていたジークとレヴィを襲う。


「うわっ、マジかよ……!」

「あはははっ、冷たーい!」

「ってレヴィ、お前!?」


はしゃぐレヴィの服が濡れ、下着が透けている。ジークが顔を赤くしているのを見て自分の状態に気づいたのか、レヴィは小悪魔のような笑みを浮かべてジークに体を近づけた。


「ふふ、どうしたのさジーク」

「おいぃ!?」

『おー、そこのラブラブカップルさん!あまりのラブオーラにフィーナちゃんがお怒りのようですよ〜!』

「ま、待て待て!これは……!」


再度水飛沫を浴び、全身ずぶ濡れになった二人。そういえば開演前に、前の列はかなり濡れると言っていた気がする。まあ、ここまで濡れると、この後どれだけ濡れようが問題はないのだが。


「あははっ!」

「はは……」


レヴィにつられて思わず笑ってしまう。このデートにはしっかりとした目的があるのだが、それを忘れてしまう程にレヴィと過ごす時間は楽しかった。


「よーし、まだまだ楽しもうよ!」

「服が乾いてからな」


ショーの後、再度館内へと戻る。この水族館には、数え切れない程の水槽が存在していた。それら全てをのんびりと眺め、館内の料理店で昼食をとった後、二人は近くにある釣り堀へと向かった。


釣竿や餌などを借り、早速釣りを始めたジークとレヴィ。釣り糸を垂らせば、それだけで魚が食いついてくる。


「おおー、釣れたよジーク!」

「お、おかしいな。なんでレヴィばっかり……」

「嫌われてるんじゃない?」

「酷くね!?」


ただ、ジークは未だに一匹すら釣れていなかった。隣でレヴィがクスクス笑う。ついでにアルテリアスの笑い声も脳内に響く。


「まあまあ、そのうち釣れると思うよ」

「そうだな……気楽にやるか」


結局、最後まで一匹も釣れなかった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「ふんふんふーん♪」


夕焼けに染まる砂浜を、鼻歌を口ずさみながらレヴィは歩く。今日は本当に楽しかった。これまで生きてきた中で、恐らく最も心が踊った日だろう。


まだ出会ってそれ程時間は経っていないが、ジークを見ていると思わず笑みがこぼれる。彼に身を寄せると胸が高鳴る。ああそうか。もしかすると自分は、ジークの事が────


「ねえ、ジーク」

「ん、どうした?」


振り返り、少し離れた場所を歩くジークを見つめる。


「また、一緒に来てくれる?」


そして、このデートで感じた事を確認するつもりで、レヴィは彼に言った。それに対して、ジークは暫く何かを考えるかのように目を閉じ、やがてその口を開く。


「今日は楽しかった。それはもう、レヴィがいいのなら何回だって来たいくらいに。だけど一つ、レヴィに聞きたい事がある」

「うん、そうだろうね。きっとそれが、ボクをこのデートに誘ってくれた理由……」


アルテリアスは何も言わない。今はまだ、危険な状態ではないという事。覚悟を決め、ジークはレヴィに歩み寄った。


「レヴィ、お前は……魔神なのか?」


レヴィの瞳が開かれる。しかしすぐに彼女は穏やかな笑みを浮かべ、ほんの少しだけ寂しそうに頷いた。


「うん、ボクは魔神。君を殺す為にやって来た、魔神レヴィアタンだ」

「っ……そう、か」

「それで、そんな事を聞いてくるって事は……ボクとここで殺り合うつもりなのかな?」


次の瞬間、凄まじい殺気が駆け巡った。これまで味わった事のない、暗く冷たく絶望的な殺気。思わず後ずさってしまったが、ジークは緊張を押し殺して首を振る。


「俺は、レヴィを仲間にする為の話がしたい」

「へえ、魔神を仲間に?そんな事が可能だと思ってるの?あはは、ボクも舐められたものだね」


高まる魔力が大地を震わせる。しかしジークは怯まず、レヴィの瞳を真っ直ぐ見つめた。


「ちなみにだけど、ボクが魔神だって気づいたのはいつ頃?」

「この前魔王をレヴィが倒した時だけど、もしかしたらって思ったのはレヴィがイツキさんに勝利したって聞いた時。まあ、俺は正直あんまり信じてなかったんだけどさ」

「それでボクをデートに誘って、魔神かどうかを確かめてたんだ。でも、ボクは今日魔神としての顔を出してない筈だよ」

「ああ、だから俺は決めたんだ。さっき言ったように、レヴィを仲間にしたい……レヴィと友達になりたいって」


意味が分からないとでも言いたげに、レヴィがジークを見上げる。


「今日デートして分かったよ。レヴィは魔神かもしれないけど、悪い子じゃないってな」

「ふーん?そんなの、本当のボクをジークは知らないから───」

「ただの悪い奴なら、あんなふうに笑ったりはできないよ」


そう、ジークは見てきた。心からジークとのデートを楽しむ彼女の姿を。嘘偽りのない、心からの眩しい笑顔を。


「……君は優しいね。普通相手が魔神だって分かったら、問答無用で始末するでしょ」

「はは、どうだろう」

「そんなジークだからこそ、ボクは……」


言葉を切り、レヴィが沈みゆく夕陽に目を向ける。


「ちょっとだけ、昔話を聞いてくれるかな」

「ああ、俺でよければ」

「ありがと。ボクはね、元々海竜っていう魔族だったんだ。幼少期は君達人間のような姿だけど、成長すると竜の姿になる海の種族。だけど、ボクはどれだけ成長しても海竜にはなれなかった」


ジークは黙って彼女の隣に立ち、話を聞く。


「当時は前代未聞の落ちこぼれ、海竜族の恥晒しだって……それはもう耐えられないくらい迫害されたよ。痛くて苦しくて、それと同じくらい皆が憎くて悔しくて……何度死のうと思ったか分からないくらい。だけどある日、ボクの体に異変が起こった」


レヴィの右手の甲を見て、ジークは目を見開く。そこにはいつの間にか紋章が浮かび上がっており、美しく妖しい輝きを帯びていたのだ。


「嫉妬……それがボクの司る大罪。どうして自分だけこんな目に遭わなければならないの?どうして他の子達は皆可愛がられているの?毎日毎日そう思い続けてたから……気が狂いそうになる程嫉妬し続けていたから、ボクは嫉妬の魔神に選ばれたんじゃないかな」

『魔神は七人……それぞれが傲慢、憤怒、暴食、怠惰、嫉妬、色欲、強欲のうち一つの力をその身に宿しています。つまりレヴィは嫉妬の魔神という事ですー』


ネックレス状態のアルテリアスが、ジークの首元で点滅しながら言う。


「うん、そういう事。それからボクは、海竜族を皆殺しにした。ボクが最強だ、ボクが一番だって思い知らせる為に」

「レヴィ……」

「だけど世の中にはまだまだ化物が沢山いてね。そんな子達に会う度、ボクは嫉妬してしまうんだ。ボクより強いなんて許せない、殺さなきゃって」

「つまり、レヴィは俺に嫉妬してるって事か?俺なんて、アルテリアスの魔力を借りてるだけだぞ」

「ふふ、今は嫉妬してないよ。来る前と違って、別に殺そうとも思ってない。ボクはね、君が欲しいんだ」


それは予想外の言葉。ジークは一瞬何を言われたのか分からなかった。アルテリアスも相当動揺しているらしく、ネックレスがカタカタ震えている。


「強い奴を叩き潰す、それがいつしか楽しみになっていた。今回も、そのつもりで君に接触した。だけど、君と話をしている時は本当に楽しくてね。まあ、普通に戦いたいとは思ってるけど」

「……そっか」


相手は魔神。しかし、この小さな少女は幼い頃に壊れてしまったのだ。そんな彼女に、自分がしてあげられる事は。


「レヴィ、俺はお前の友達になりたい。ずっと孤独、そして抑えきれない感情を抱えてきた君を支えたい」

「ジーク……」

「俺だけじゃない。シオンやシルフィ、エステリーナも、きっとレヴィを支えてくれる。だから────」


この瞬間、ジークは悟った。無表情のレヴィを見て、自分が何かを間違ったのだと。


「どうして今、他の女の名前が出たの?」

「え……」

「今はボクとデートしてる最中だよね?なんで?ボクを支えてくれるって言ったのに、なんで彼女達の名前が出たのさッ!!」


今度は表情を憤怒に染め、レヴィがジークを睨む。


「それからジーク、ボクに黙ってる事あるよね?どうしてこんなに沢山の人間が、あちこちでボクを狙ってるの?」

「っ……」

「ああ、見覚えがあると思ってたんだよ、今日会った人達。あいつら全員、騎士団の連中か」

『馬鹿な、何故気づいて……!』

「いや待って、ジークがそんな事する筈ないよね。ボクをこんな場所に誘い出して、皆で虐めるなんて。そんな海竜族みたいな事、ジークがする筈ない」

「ち、違うレヴィ!俺はお前と話を────」


強烈な、これまで味わった事のない程の激痛。空と地面が逆転し、直後に走った衝撃。今の一瞬で、レヴィに殴り飛ばされたのだ。


「がはっ……!?」

「分かってる、分かってるよジーク。あいつらだよね、あの女達だよね。あいつらがジークを誑かして、ボクを邪魔者扱いしてるんだ。許せない許せない……ジークはボクのものなのに」

「ジーク!」


吹っ飛ばされたジークを見て、念の為待機していた第一騎士団が砂浜に飛び出した。そして各々武器を構え、レヴィを取り囲む。


「イツキさん、ノエルさん……!」

「今の彼女に話は通じない!エステリーナ達に手を出される前に、彼女を始末する!」

「あ?今なんて言った人間」


叩きつけられた踵が、容赦なく砂浜を破壊する。凄まじい衝撃波が駆け抜け、イツキとノエル以外の騎士達はそのまま派手に宙を舞った。


「くっ、これが魔神……!」

「化物め……!」

「そっか、始末すればいいのか。ねえジーク、エステリーナ達ってまだ王都にいるよね?」

「っ、まさか」


ジークが止めるよりも速く、レヴィは海の中へと飛び込んだ。その直後、アルテリアスが超高速で海中を移動する反応を捉える。どうやらレヴィは王都に向かって移動を開始したらしい。


「まずい、追わないと!」

「しかしジーク、ここからだと馬に乗ってもかなり時間がかかってしまうぞ!?」

「いえ、ここは────」


身体強化を発動し、全力で駆け出す。その速度は馬を遥かに上回り、直前までいた砂浜はもう見えなくなっていた。


『ジーク、彼女はもう……!』

「いいや、俺は諦めない……必ずレヴィを説得してみせる!」







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







(ジークはレヴィの説得に成功したのだろうか)


シオン、シルフィに事情を説明した後、エステリーナは夕焼けに染まる空を見上げながら、二人の帰りを待っていた。


水族館付近を完全に立ち入り禁止区域とし、観光客や販売員のフリをする為第一騎士団が現地入りしている。そこでジークはレヴィを見て安全かどうかを判断、説得して仲間にするというのが今回の作戦。


(魔神である可能性が高いとはいえ、レヴィはジークに好意的だ。だからジークの話は無視しない筈だが……)

「ご主人様、今日は何時頃お帰りになるのでしょうか」


玄関前の花壇を整備しながら、シルフィが呟く。


「はっ!まさか、このまま朝帰りに……!?」

「大丈夫ですよ。ジークにそんな度胸があるとは思えません」

「そ、そうでしょうか……」


確かに、度胸は関係ないにしても何故か安心はできる。このまま無事に帰ってきてくれるだろうと、エステリーナが内心思っていた時。


「エステリーナ様、大変です!」

「ん?どうした、何かあったのか」


息を切らして駆け寄ってきたのは、第二騎士団の副団長であるカリアードという男。その様子から只事ではないと分かり、エステリーナは気持ちを瞬時に切り替える。


「あ、アリアン川から多数の魔物が出現、王都に接近!現在第四騎士団が交戦中!」

「何だと!?」


何故このタイミングで?そんな考えを嘲笑うかのように、王都内部へと魔物達はなだれ込む。まるで水の竜。大きさはそれ程ではないが、次々と魔物達は建物を破壊していく。


「おのれ……!」


炎を纏い、接近してきた魔物を両断する。それに続き、シルフィやシオン達も魔物との戦闘を開始した。


(王都に魔物が入り込んだなど、一体何年ぶりだ?まさか、魔除けの結界が機能していないのか?)


放たれた水弾を避け、迫り来る水竜に接近。そのまま縦に斬り裂き、回転して周囲の水竜ごと薙ぎ払う。まだ市民の避難は完了していないので、あまり派手な技は使えない。しかし、それでも全ての水竜を殲滅するのにそれ程時間はかからなかった。


「流石ですね、エステリーナさん」

「ふふ、シオンとシルフィもいい動きだった」

「でも、一体どうして突然魔物が……?」


困惑したようにシルフィが言う。エステリーナも先程から同じ事を考えていた。それに、現れた水竜から感じた魔力やこの場に満ちる魔力……エステリーナは、その魔力を知っている。


「っ、まさか」


思い浮かんだ一つの可能性。それを二人に伝えようと顔を上げた瞬間、彼女は見た。


「え─────」


笑みを浮かべ、ゆっくりとエステリーナ達に向かって歩いてくる、小さな災厄の姿を。

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