第十九話 水神リヴァイアサン
突如現れた魔神や、王都を覆い尽くす程巨大な水の塊を見た人達が慌てふためき、王都はたちまち大混乱に陥った。あちこちから悲鳴が聞こえ、人々が逃げ惑っている。
そんな中、俺と魔神レヴィアタンは向かい合い、お互い戦闘体勢に入った。
「さあ、いくよ!」
そう言ってレヴィアタンが噴き出す水を操り、まるで蛇のようにうねらせながら俺に向かって放ってきた。
「効かーーん!!」
しかしそれを受けても俺はその場から動かない。
何故なら痛くも痒くもないから。
「なら、これはどうかな?」
そう言ってレヴィアタンがニヤリと笑い、圧縮した水を俺に放つ。
「ぬっ!?」
それは俺の横腹に直撃し、少しだがダメージを与えてきた。
「このっ────」
こっちも反撃した方がいいな。
そう思って俺は勢いよく跳び、レヴィアタンの背後に回り込む。
「《タイダルウェイブ》!!」
しかし、レヴィアタンが魔法を唱えた瞬間、彼女の周囲に水が出現し、全方位に向かって津波の如く放たれた。
それに呑み込まれた俺は、建物に激突しながら流される。
「うわっぷ、これは息できねえ!」
「あははは、そりゃそうだよ」
あかん、待って。
流れ速すぎてまじで息できない。
とりあえず上に跳ぶしかねえか。
「おっ」
「だらあッ!!」
そしてそのままレヴィアタンに向かって落下し、俺は勢いよく地面を殴りつけた。
衝撃で地面が陥没し、クレーターが出来上がる。
うわー怖っ、自分の力が怖いわまじで。
「流石だねぇ」
「ちっ」
意外とすばしっこいなこいつ。
とりあえず、何とかして動きを止めないと。
「あっ、あんなとこにUFOが!」
俺はレヴィアタンの後ろの空を指さして叫んだ。
「ゆーふぉー?」
しかし、それを聞いたレヴィアタンは首を傾げる。
しまった、この世界じゃUFOなんて存在しないんだった!いや、向こうの世界でも、こんな事信じる人は小学生くらいしかいないんだけども。
「もういい、真っ向からいくぞ!!」
「あはは、こーい!」
自身の周囲に水を浮遊させるレヴィアタンに向かって俺は猛スピードで駆け出した。
「《タイダルウェイブ》!!」
レヴィアタンが魔法の波を放つ。
しかし俺は跳び上がり、それを回避した。
そんな俺を見たレヴィアタンが目を見開く。
「好き勝手暴れやがって、お仕置きだ!!」
「へ────痛ぁっ!?」
今回も手加減してしまったが、レヴィアタンの頭に拳骨を落とした。
「っ〜〜〜〜〜」
彼女は涙目になりながら頭を押さえ、しゃがみこむ。ふむ、こうして見ると可愛いじゃない。
「くっそ、また手加減しちまった・・・」
倒さなきゃならないのは分かってんだけど、だって相手女の子だもの・・・。
「うぐぐ、やったなぁぁ・・・」
そんな事を言いながら、レヴィアタンが涙目で俺を睨みつける。
そこで彼女の魔力が跳ね上がっているのに気が付いた。
「・・・ボクの固有スキル、魔峰倍加。ボクの残り生命が4分の1になった時、魔力・魔攻が2倍になるんだ」
「まじか」
そりゃやばい。
てかなんだよ、あんな軽めの拳骨で、レヴィアタンの残り生命は4分の1以下になっちまったってことか。
どんな拳骨だよ。
・・・そういえば、さっき見たレヴィアタンの魔力と魔攻は俺よりも高かった。それが2倍とか・・・ん?
「あり?」
そこでふと俺は自分のステータスを見た。
俺の魔防は5600だった。
レヴィアタンの魔攻は8000だった。
そして俺は自分の残り生命を見る。
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生命1900/7400
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まって、これはあかん。
そりゃそうだ、俺の魔防よりレヴィアタンの魔攻の方が高いんだから。
なのに俺は普通に攻撃を受けまくっていた。
「やらかしたあああああ!!!」
今からもう攻撃を受けるわけにはいかない。
ノーダメージで勝利しなくては。
「あははははっ!この勝負、君の負けだよジークフリード」
「あ?」
「ボクがここまで追い詰められて、固有スキルが発動した時のみ使う事が出来る最大の魔法・・・」
レヴィアタンが跳び上がる。そして空中に停滞した。
そんな彼女の遥か上空に、先程現れた水のフィールド並に巨大な水の竜が現れる。
「《滅竜災渦》」
まてまてまてまて!!
これが絶体絶命というやつか!!あれを食らえば、俺も、王都もタダでは済まないだろう。
下手したら死ぬ!
『グオオオアアアアアア!!!!』
「うるせええええ!!」
現れた水竜が吠え、大気が震える。
「さあ、これがボクの最強の魔法だよ!!」
「くっ・・・」
どうすればいい!?
あれを跳ね返すには、一体どうすれば・・・。
「・・・あ」
そういえば、確か俺って魔力9999だったよな?
今まで1回も魔力も魔法も使った事なかったけど、もし使う事が出来たら・・・。
「魔神を消し飛ばす事が出来る拳に、魔力を纏わせることが出来れば・・・」
もしかしたら、やばい威力になるんじゃね・・・?
「やってみるか」
とりあえずやり方は分からんけどそれっぽいことをしてみよう。
まず、身体の中を流れる力を腕に集めることを意識する。
お、何か腕からオーラ的なものが・・・。
「ッ・・・!?」
「ん?」
突然レヴィアタンが驚愕の表情を浮かべた。
勿論俺を見ながら。
「な、何その魔力・・・」
「おお、やっぱりこれが魔力ってやつか」
なら、やれそうだな。
俺の筋力に魔攻の分が合わされば、多分やばい。
「あははは、最高だよ!!やっぱり君はこれまで出会った生き物の中で一番だッ・・・!!」
そう言ってレヴィアタンは水の竜を王都目掛けて放った。
どうやら身体がグルグル渦巻いているらしく、あれに触れたら八つ裂きにされるだろう。
・・・俺以外ならな!
「いくぞっ!!」
俺は勢いよく地面を蹴り、迫る大魔法に向かって跳んだ。
そして──────。
「俺の勝ちだな」
「あはは、強すぎ」
俺が放ったパンチがレヴィアタンの魔法を消し飛ばした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あれはっ・・・!」
エステリーナは馬車に乗りながら、近くに見える王都を見て驚いた。
とてつもない巨大な水の竜が王都に向かって牙を向いたと思った次の瞬間、何かがその魔法を消し飛ばしたのだ。
「ジークさん・・・」
シオンがそう呟く。
「流石ご主人様です」
シルフィは満足そうにそう言った。
そして、3人は王都に着くなり駆け出し、ジークがいるであろう場所に向かった。そして、
「「っ・・・!!!」」
「まぁ、ご主人様ったら・・・」
シオンとエステリーナはその場で固まり、シルフィは口元に手を当てて頬を赤く染めた。
「ん、よお、終わったぜ」
そこにいたのはジークフリード。何故か満足そうな表情のレヴィアタンをお姫様抱っこしている。
しかし、彼女達が固まった理由はそんなことではない。
「・・・ん?」
ジークは当初、固まったシオン達を見て不思議そうにしていたが、自分の身体を見て納得したような表情を浮かべた。
何故なら彼は、レヴィアタンの大魔法を受けて服だけを切り刻まれていたからだ。
つまり今、ジークフリードは・・・。
「別に変なことしてたわけじゃないんですよ?」
全裸なのだった。
その日、王都に少女達の叫び声が響き渡った。




