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エピローグ

「・・・ふむ、こんなものか」


着替えやタオルなどを大きめの袋に詰め込んだ後、俺は隣にあるベッドに腰掛けた。そして布団を捲る。


「すぅ、すぅ・・・」

「・・・」


他の人が見たら誤解されてしまいそうな光景も、もう見慣れてしまった。俺の部屋にある俺のベッドの上では、いつものようにレヴィがすやすや眠っている。


「レヴィ、そろそろ起きろよー」

「うーん・・・」


気持ち良さそうな寝顔を見てると、なんか起こすのを躊躇ってしまうけど、今日は用事があるから起きてもらわなきゃならない。そう思い、俺の枕を抱きしめているレヴィの身体を揺らす。


「んぅ・・・」



むらっ



はっ、危ない危ない。心の奥底に眠る俺のダークサイドが目覚めようとしたぜ・・・とか言ってる場合じゃなくてだな。


「ほら、起きなさい」

「あぅー・・・」

「くっそ、反応がいちいち可愛いっていうね」

「・・・あー、ジークだぁ。おはよぉ・・・」

「おはよう、とりあえず起きて」

「んー・・・あれ?」


むくりと上体を起こしたレヴィが、眠そうに目を擦りながら抱いていた枕に視線を向ける。


「ジークだと思ってたのに、枕だった・・・」

「俺そんなに抱き心地良くないと思うけど」

「むー、もっかい寝てもいい?」

「駄目だって。今日はレヴィも楽しみにしてた日だぞ」

「あっ、そっかぁ!」


笑顔を浮かべたレヴィがベッドから降りる。


「着替えてくるね」

「おう」


そして部屋から出ていった。

うーん、いつになったら自分の部屋で寝るんでしょうね。まあ、最近は嫌じゃないけども。


「あ、おはようございます、ご主人様」

「シルフィか、おはよう」


レヴィと入れ替わるような形で、エルフのシルフィが部屋の中に入ってきた。


「レヴィさんがものすごい速度で廊下を駆け抜けていきましたけど・・・」

「着替えるんだってよ。俺はもう準備し終わってるぞ」

「そうですか」

「どうした、なんか嬉しそうだけど」

「あ、その、今日を楽しみにしていたといいますか・・・」

「はは、だよなぁ」


シルフィの口元は若干ニヤけている。

うん、朝から可愛らしいのが立て続けに見れたな。


「それにしても、あれからもう一週間ですか。時間が経つのは早いものですね」

「ああ、やっとのんびり出来るっつーか」



神域での戦いから早一週間。

あの後シオンの転移魔法であの空間から脱出した俺達を待っていたのは、ものすごい数の人々だった。


誰からその話が広まったのかは知らないけど、あの異変を解決したのが俺達だということがバレてしまったらしい。当然シオンがあの異変を引き起こした時空神だということ、リリスさんが裏で暗躍してたことなどは誰も知らないみたいだったけど。


とりあえず喜びに溢れる王都の中でイツキさんやキュラー、ロキさん達王国騎士団を見つけ出し、起こったことを全て話した。


それから王城に招かれたり、とんでもない数の人達の前で色々喋らされたり、この一週間はとりあえずしんどかった。


けど、ようやく日々が落ち着いたから、前から言っていた『みんなで遊びに行く』・・・つまり、旅行に行くことになったのだ。その日が今日ってわけですよ。



「ふふ、シオンさんが銀髪になっていたことに対する周りの反応が面白かったですよね」

「シオンファンクラブとかいうワケのわからん男達が騒いでたな。〝俺達の女神が真の女神になったぞ〟っつってな」


さーて、そろそろ荷物を持って外に出ておこうか。


「ま、今日から数日間、のんびりと楽しもうぜ。シルフィも俺のことなんか気にせずにな」


そう言ってシルフィの頭を撫でると、彼女は頬を赤らめて目を伏せた。


「そ、その、頭を撫でてもらえるのは嬉しいのですが・・・」

「ん?」

「最近はその、は、恥ずかしいです・・・」


おおふ。

これはかなりの破壊力ですわ。


「そんなん言われたら余計に撫でたくなる」

「うぅ・・・」


うーん、シルフィは今日も可愛いなぁ。


「まあ、とりあえず外に出ようか」

「はい・・・」


荷物を持ち、俺は恥ずかしそうに俯いているシルフィと共に部屋から出る。そして一階に降りた。


「あ、おはようジークさん、シルフィちゃん」

「おはようございます」

「おはようルシフェル。で、その荷物はなんだ?」

「え、だって旅行に行くんだよね?」

「そうだけども・・・」


一階に居たルシフェルは、とんでもない量の荷物を持って行こうとしていた。一瞬引っ越しでもするのかと思ってしまった程の。


「なるほど、ルシフェルはそういうところで可愛らしさを出してくるのか」

「え、え?」


いいですねー、これは高評価ですよ。

地球に居た頃は、わざとこういうことをする女子が居たりしたけど、ルシフェルの場合はこれが素なのだ。


「こ、こんなに荷物いらないの?」

「普通はそんなに持っては行かん」

「うわー、恥ずかしい・・・」


ルシフェルが両手で顔を隠す。しかし残念ながら、耳まで真っ赤になっているぞルシフェルよ。


「だから言ったじゃないの。そんなに持っていかなくていいって」


そんな時、アスモデウスがやって来た。

彼女はルシフェルに対してそんな事を言っているが、俺の4倍ぐらいの量の荷物を持っていこうとしている。


「お前ら、何持ってこうとしてんの?」

「そんなの決まってるじゃない。着替えにお菓子に、暇な時用のカードゲームとか・・・」

「修学旅行生かっつーの」


てか、修学旅行生でもそんなに持ってかねーよ。


「しゅうがく・・・?」

「あー、こっちにはそんな言葉無いんだったか」


アスモデウスがこてんと首をかしげた。それを見てついドキッとしてしまう。いや、だって普通に可愛いんですもの。


「とにかく、二人共荷物減らしてこーい」

「うぅ、分かった・・・」

「折角準備したのに」


そもそも、その量をどうやって運ぶつもりだったんだよっていう。


「む、まだ用意は終わっていないのか?」

「おっす、エステリーナ。ちょっと女子達がな」

「ふむ・・・」


玄関の扉を開けて中に入ってきたエステリーナは、ルシフェルやアスモデウスと違ってそれ程荷物は持っていない。


「そういえばジーク、先程兄上が呼んでいたぞ」

「なんで?」

「本当に申し訳ない・・・とだけ言っておく」

「あー・・・」


どうせ、エステリーナと俺が旅行に行くから、『妹に手を出すつもりかーー!!』とか言ってたんだろう。よし、絶対イツキさんのとこには行かない。


「てか、なんで俺ってあんなにイツキさんに目をつけられてんだろうな」

「う・・・そ、それは」

「エステリーナは美人だから、男を近寄らせたくないってのは分かるんだけど」

「び、美人!?」


エステリーナの顔が髪の毛と同じぐらい赤くなる。


「美人だろ。俺がこれまで会ってきた美人ランキングの中でもトップクラスだな」

「そ、そうなのか・・・!」


花が咲いたような笑顔を浮かべるエステリーナ。おお、その笑顔はいつもと違う感じで良いですな。


「そういや、リリスさんってギルド長辞めたんだよな?」

「ん、ああ、そうだな」


異変の後、リリスさんは責任を感じていたのかギルド長を辞めた。そしてふらりと何処かに行ってしまったけど、今頃何処で何をしているんだろうか。


「んで、新ギルド長にイツキさんがなった・・・んだっけ?」

「あ、ああ、そうだ・・・」

「絶対俺の変な噂流そうとするだろあの人・・・」


ほんと嫌だわ。そりゃあ確かにエステリーナのことはすっげえ美人だと思ってるけども、今まで手を出したことは一度もない。なのに俺ばっかりいつもいつも・・・。


「す、すまない」

「エステリーナは悪くない」


あの変態吸血鬼も次はいつ出てくるか分からんし、警戒しておかなければ。


「そうだ、ジーク」

「うん?」

「外にシオンが居るぞ」


エステリーナはそう言って微笑み、レヴィ達の様子を見に行ったのか、二階に向かった。


「ふふ、私も行ってきますね」


そんなエステリーナを追ってシルフィも俺から離れていった。ふむ、これはシオンのところに行ってやれということだろうか。


なんとなくそんな気がした俺は、まだ気温が低い外に出た。


「あ、ジークさん・・・」

「寒くないのか?」

「いえ、そこまでは」


エステリーナの言ったとおり、シオンは玄関前の階段に腰掛けていた。俺も彼女の隣に座る。


「やっとのんびり出掛けられるよなぁ。みんな今の時点ではしゃぎまくってるよ」

「ふふ、私もすごく楽しみでしたよ」

「俺もだ」


今回向かうのは、絶景を見ながら露天風呂に入ることが出来るという秘境の宿。日本にいた頃から一度はそんな場所に行ってみたいと思っていたので、意外なところで願いが叶ったというものだ。


「でも、露天風呂だからジークさんだけ一人になってしまうんじゃ・・・」

「そうだなぁ、まあ一人だけで露天風呂を堪能するってのもなかなか良いもんだと思うぜ」

「レヴィさん辺りが普通にジークさんのところに向かおうとするはずですけどね」

「確かに・・・」


過去にレヴィは俺が風呂に入っている時に乱入してきたことがある。あの時はなんとか耐えたけど、二度目は大変なことになっちまうかもしれない。


「・・・また晴れた空を見れるなんて」


シオンが空を見上げながらそう言う。


「これからはいつでも見られるさ」


俺がそう返すと、シオンは目線を俺に向けて、満面の笑みを浮かべた。出会った頃には決して見せてくれることの無かった笑顔。それを見る度に心が晴れる。


「おまたせー!」

「ごめんなさい、ちゃんと荷物減らしてきたよ」


そんな時、玄関の扉が開いて中からレヴィやルシフェル達が荷物を持って外に出てきた。


「ご主人様、これを忘れていましたよ」

「え・・・あっ、サンキューシルフィ!」


レヴィ達に続いて中から出てきたシルフィに手渡されたのは、これまで様々な思い出を撮ってきたカメラだ。


「そうだ、折角だしここでも一枚撮っておくか」

「そうですね」

「すいませーん」


俺は家の前を通った女性にカメラを手渡し、一枚写真を撮ってくれないかとお願いした。


「ほんと、仲が良いですねぇ」

「はは、どーも」


カメラを手渡した俺は、すぐにみんなが居る場所に駆け戻る。


「む、何をしているんだジーク。真ん中はジークだろう」

「じゃあボクはジークの隣で」

「え、ちょ、何がっついてんのよ!」

「私だってご主人様の隣がいいのですが・・・」

「わ、私も」

「俺を引っ張りながら喧嘩すんな!」


何故か俺の隣争奪戦が勃発して困っていると、他のメンバーの間から、シオンがするりと俺の隣に立った。


「ふふ、ここは誰にも譲りたくありません」

「シオンもか・・・」


別にこの先何枚でも写真なんて撮れるだろーに。そんなことを思っていたら、写真撮影をお願いした女性がカメラを構えた。


「それじゃあ撮りますよー」















この先、何が起こるかなんて分からない。

もしかしたらみんなと離れ離れになってしまうこともあるかもしれないし、これまで以上に厳しい現実を突き付けられるかもしれない。



それでも、最終的にはこうしてみんなで笑っていられたらいいな。



俺は、心からそう思った。








皆さん、これまで読んでくださって本当にありがとうございました。これにて異世界ディヴェルティメント、本編完結でございます。


ですが、一応各ヒロインとの『もしも』のストーリーは考えているので、番外編として何回か投稿します。


それでは、今後もよろしくお願いしますm(_ _)m

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