第百八十五話 おかえり
「ジーク!そ、それにシオンも・・・!」
「無事だったんだね!」
光が収まった直後、そんな声が聞こえてきた。
どうやら無事に戻ってこられたようだ。
「ぁ・・・」
向こうからこっちに向かってくるみんなを見て、シオンが俺の後ろに隠れる。怒られるとでも思っているのだろうか。
「ご主人様ぁ、ご無事で何よりですぅぅ!!」
「お、おいおい、シルフィ・・・」
駆け寄ってきたシルフィが大声で泣き始めた。突然の出来事に正直戸惑いを隠せない。
「本当に連れ戻してくるなんて・・・」
「さすがジークだねっ!」
驚いているリリスさんの横を通り抜け、レヴィが俺に抱きついてきた。なんかこれも、すっごい久しぶりに感じる。
「ふ、ふん、別に心配なんてしてなかったんだから」
「もう、アスモデウスさんったら・・・」
アスモデウスはそう言いながらもちょっと泣いてるし、ルシフェルも溢れる涙を隠そうともしていない。みんな心配してくれてたみたいだな。
「・・・ほら、シオン」
「っ・・・」
振り返ってシオンに声をかける。それに反応して、彼女の身体がビクッと震えた。
「や、やっぱり私・・・」
「大丈夫、ちょっと勇気を出してみるだけでいい」
「ジークさん・・・」
不安そうな表情を浮かべるシオンの頭を撫でる。すると彼女は意を決して俺の前に立った。
「み、皆さん、本当にごめんなさい・・・」
震える声でそう言ったシオンを、エステリーナが優しく抱き寄せる。
「心配したんだぞ、シオン」
「エステリーナさん・・・」
「・・・よく戻ってきてくれたな」
そう言ってエステリーナが涙を流す。シオンも、彼女の胸に顔をうずめながら嗚咽を漏らした。
「これで一件落着・・・か」
「お疲れ様、ジーク君」
リリスさんが俺の隣に立ってそう言う。
「君なら、本当に魔族と人間が手を取り合える世界を作れると思うわ」
「いやいや、俺だけじゃ無理ですよ」
リリスさんに手を差し出す。
それを彼女は不思議そうに見つめた。
「みんなでそんな世界を作りましょう。勿論リリスさんにだって協力してもらいますからね」
俺がそう言うと、リリスさんは笑みを浮かべて俺の手を握った。よく見れば、リリスさんの頬はほんのりと赤く染まっている。
「あー、ジークったら、リリスまで落としちゃったのー?」
「は?別に何処にも落としたりしてないけど」
「そういう意味じゃないよぉ」
・・・?
ちょっとレヴィが言いたいことがあまり伝わってこない。
「べ、別に私は・・・」
んん?
リリスさんに顔を向けたら、恥ずかしそうに目を逸らされたんだが。俺、なんか変な事でも言ったか?
「リリス姉まで落としたですって!?」
「いや、だから何処にも・・・」
「あんたねえ・・・」
急にアスモデウスに耳を引っ張られた。そして俺の耳に彼女が顔を近付けてくる。
「リリス姉って、ああ見えて恋愛経験なしだからね。しかも大人ぶってるけど、人間年齢だと17ぐらいだし」
「はあっ!?」
まって、それは衝撃の事実過ぎた。
あんな美貌の持ち主が、恋したことが無いだと!?しかも人間年齢だと俺と同い年だと!?
「・・・」
リリスさんの顔を見つめる。すると、また目が合った瞬間に逸らされた。
「じ、ジークさん・・・」
そんな時、透き通るような声で名前を呼ばれた。そっちに顔を向ければ、申し訳なさそうに俺を見つめているシオンと目が合う。
「そ、その、怪我は大丈夫・・・ですか?」
「え・・・あ、怪我してたことなんか忘れてた痛え!!」
「わっ、びっくりした!」
うん、まじで忘れてた。
意識した瞬間に腹部に激痛がはしり、思わず抱きついてきていたレヴィを引き離す。
「大丈夫・・・?」
「お、おう、大丈夫・・・」
心配そうに見つめてくるレヴィの頭を撫で、シオンの方を見る。
「シオンも、別に心配しなくていいからな」
「でも・・・」
「責任を感じるなとは言わないけど、普段は真面目なシオンがちょっとヤンチャした・・・ぐらいにしか俺は思ってないし」
まあ、1回死んでますけども。
「シオンの為だったら、何回死んでもその度に生き返ってやるさ」
「っ・・・」
シオンの顔が真っ赤になる。
よく見れば、まだ彼女の髪は銀色のままだ。この先もずっとこのままなのかもしれない・・・ふむ、いいですな。
などと思っていたら、突然シオンが抱きついてきた。
「やっぱり、私は貴女の事が大好きみたいです・・・」
おっとぉ、それを今言われるとは。
「それなのに、私は全てを失おうとしていたんですね」
「シオン・・・」
なんて言ったらいいんだろうか。それが分からずに困惑しながらも、俺はシオンの頭を撫でる。
「もう勝手に居なくなったりしないでくれよ?」
「・・・はい」
うん、それでいい。
「さて、そろそろ王都に帰るか」
もうここでするべき事は全て終わらせた。今度こそ、俺達は日常を取り戻せたんだ。
「ジークさん、アルテリアスさんは・・・?」
そのタイミングでルシフェルがそう聞いてくる。まあ、当然疑問に思うだろうな。
「あいつは自分の役目を果たす為に時空の狭間に帰ったよ。またいつか会えるさ」
「・・・ふふ、そうだね」
「だから、俺達も帰るとしよう」
そんな俺の言葉を聞き、シオンが俺から離れる。
「私が転移魔法で全員を転移させます」
「おう、頼むぜ。はいはーい、全員集合してくれー」
それを聞き、シルフィやエステリーナ達が俺とシオンの周りに集まる。
「では、いきます」
全員が集まったのを確認し、シオンが転移魔法を唱えた。同時に俺達の足元に魔法陣が浮かび上がる。
「・・・シオン」
「はい、何でしょう」
そんな中、俺はシオンに声をかけた。
「おかえり」
俺の言葉を聞き、シオンが目を見開く。しかし、すぐに満面の笑みを浮かべてこくりと頷いた。
「ただいまです、ジークさん」
彼女がそう言った直後、俺達の身体は光に包まれた。
次回、いよいよ完結です




