第一話 不幸少年、魔眼少女に出会う
「・・・ん?」
何だかいい匂いがする。
徐々に意識が戻ってきた俺は、ゆっくりと目を開けた。
「ベッド?」
俺が寝かされていたのは、木で作られたベッドの上。日本に住んでいた時に寝ていた物とは全くの別物だ。
「俺、まじで異世界に来たんだ・・・」
1人でそう呟く。とりあえず起きよう。
そう思って俺はむくりと起き上がった。
「ここは・・・どこだ?」
結構ボロっちい家のようだが・・・。すぐ隣にあった窓から外を見てみると、同じような造りの家が向こうの方に何個か並んでいる。
「・・・まあ、外に出てみるか」
このいい匂いも気になるしな。
◇ ◇ ◇
「・・・お」
俺は二階で寝ていたらしく、とりあえず一階に降りた。
そしていい匂いが漂ってくる部屋を覗き込むと、一人の少女が机の上に料理を並べているところだった。
「・・・あ」
俺に気付いた少女も俺と同じような反応をする。
綺麗な黒髪を短く切っている彼女。右目に付けている医療用っぽい白の眼帯と無表情なのが気になるが、超可愛い。
「えーと、ここは君の家だったりする?」
「・・・はい、そうですけど」
どうやら俺をあのベッドに寝かせてくれたのはこの無表情少女のようだ。てことは、俺は狭間の女神アルテリアスと別れた後、どこかで倒れたりしていたのだろうか。
「その、とりあえず座ってください。料理、作ってあるので」
「え、いいの?」
まさか、ご馳走まで頂けるなんて。
とりあえず言われたとおり座るとしよう。
◇ ◇ ◇
それから、彼女と色々話をした。
彼女の名前はシオン・セレナーデ。俺の一個下、16歳だという。
白の眼帯については触れられたく無さそうだったので聞かないでおいた。
そして、ここは《ローレリア王国》という国の南部にある小さな村だとか。
森の中にあるこの村には滅多に人が訪れないという。
もちろん俺も自己紹介した。
とりあえずアルテリアスに貰った《ジークフリード》という名前をこの世界で使うしかない。
でも、ジークフリードってのは長いからジークって呼んでもらうことにした。
「その、ジークさんはどうして川岸で倒れていたんですか?」
「川岸で倒れてたのか?」
「はい」
さっき窓から外を見た時、結構向こうの方に川はあった。そんな場所からここまで運んできてくれたのか。
「・・・話せば長くなるんだがなぁ」
「・・・?」
とりあえず俺が異世界から来たことは伏せておこう。信じてもらえる可能性が低いし、別に言わなくてもいいだろう。
なので俺はずっと遠い場所から来た・・・と言っておく。
「ふう、ごちそうさまでした」
話をしているともう食べ終わってしまった。豪勢なものではなかったが、とても美味しかったぞ。
「それで、ジークさんはこれからどうするんですか?」
「ん?そうだなぁ」
どうしようか。この世界に来たのはいいけど、手に入れたのはステータスとかだけだ。
それに、固有スキルの幸運-9999効果とか。これのせいで、いつとんでもない不幸がやって来るか分からない。
「俺、この国のことよく分からないんだけど、でっかい街とか無い?」
「でっかい街・・・。なら、ここから徒歩で三日程の距離に王都がありますよ」
「王都・・・」
なるほど。
王都っていうと、多分この国で一番栄えてる街だろうな。
とりあえずそこに向かってみるか。
「じゃあ、そこに行くことにするよ」
「今からですか?もうすぐ日が暮れるので明日にした方が・・・」
「んー、でも、またここに泊まることに・・・」
「別に構いませんよ」
なんと。無表情だけど、とても優しい子だな、シオンは。
なら、明日までここに泊まることにしよう。別に変なことをしたりはしないからな。
それならば、村を見て回るのもいいかもしれない。
「あ、そうだ」
俺にステータスとかがあるのなら、彼女にもステータスがあるのだろうか。そのことをシオンに聞いてみた。
「はい、ありますよ」
とのことだ。もしかしたらシオンのステータスも見る事が出来るかもしれない。
俺はシオンを見ながらステータス表示を意識しまくった。
すると。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
新たな固有スキルを習得しました
New :能力透視
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という文字が頭の中に浮かぶ。
どうやら固有スキルが1つ増えたようだ。
てか、こんなことでスキル増えたするとは、驚きだ。
「・・・?」
シオンは、じっと自分を見続けてくる俺の事を不思議そうな顔で見ている。そんな彼女の情報が頭の中にゆっくりと流れ込んできた。
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~シオン・セレナーデ~
★ステータス★
レベル:14
生命:85
体力:30
筋力:15
耐久:10
魔力:150
魔攻:128
魔防:89
器用:200
敏捷:13
精神:100
幸運:14
★固有スキル★
・ハデスの魔眼
3秒間目を合わせた生物を上位石化させる。
・風魔攻上昇
風魔法によるダメージを増加させる。
★装備★
魔導士のローブ弱
革の靴
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なるほど、これを見れば俺のステータスがいかにケタ違いなのかよく分かるな。
てか、ハデスの魔眼って何だ・・・?
「・・・どうしたんですか?」
「あ、いや、何でもない」
どうやらガン見し過ぎたようだ。
そろそろ村を見て回るとしよう。
「シオンも来るか?」
「・・・いえ、遠慮しておきます」
「・・・?」
とても悲しそうな表情を浮かべ、シオンは俺に背を向けた。どうしたんだろう。
「じゃあ、行ってくる」
まあ、来ないと行っているのだから、俺1人で行くとしよう。
そう思いながら扉を開けた俺は、何故シオンがあんな表情を浮かべたのかまだ分かっていなかった。