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第百八十一話 神と人

「ジーク、大丈夫かなぁ・・・」


レヴィが扉を見つめながらぽつりと呟く。


「大丈夫でしょ。ちゃんとカミサマを連れて戻ってくるわよ」


そんなレヴィの頭に手を置き、アスモデウスがそう言った。それを見て、リリスが少しだけ微笑む。


「信用してるのね。私が見ていないところで、随分惚れ込んじゃってるみたいだけど」

「ほんとはアスモデウスも、心配で心配でしょうがないんだよね〜」

「うぐっ、そ、そんなことは・・・」


レヴィとリリスにそう言われ、アスモデウスの顔が真っ赤になる。非常にわかりやすいものだと二人は思った。


「しかし、ギルド長。ジークはシオンに勝てるのでしょうか」


不安そうな表情で、エステリーナがリリスにそう聞く。


「それは分からないわ。でも、今のシオンちゃんは、強いとかそういうレベルじゃないと思う」

「え・・・」

「次元が違う。アルテリアスとの戦いを間近で見たけど、嫌でもそう感じさせられたわ」

「そう・・・ですか」


エステリーナがチラリと後ろを見ると、今にも泣き出しそうな表情で手を組んで必死に祈っているシルフィと、そんな彼女の頭の撫でるルシフェルが視界に映った。


「シルフィちゃん、大丈夫だよ。きっと無事に戻ってくるから。・・・ね?」

「は、はい、ご主人様は強いお方ですから・・・」


そして、とうとうシルフィは泣き出してしまった。ジークに全てを任せてしまい、何も出来ないことが悔しいのと、ジークが心配で感情が不安定になっているのだ。


「うっ、うぅ、ご主人様ぁ・・・」

「シルフィちゃん・・・」


つられて泣きそうになったのをなんとか堪え、どうしたものかとルシフェルは顔を上げる。


その直後、彼女達が居る空間が激しく振動した。


「きゃあっ!?」

「な、なんだこの魔力は・・・!?」


凄まじい魔力が駆け巡る。


「シオンちゃんの・・・時空神クロノスの力よ」

「こ、これほどですか・・・」

「ジーク君を信じるしかないわね」


リリスが光を放つ扉に顔を向ける。

扉の先では、もう最後の戦いが始まったはずだ。ジークが勝てば世界は救われ、クロノスが勝てば世界が滅びる。


二つの世界の運命は、一人の少年に託された。







◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆






「冗談だろ・・・!?」


ジークの身体が震える。

時空神クロノスから放たれる魔力は、秒毎にどんどん上昇していく。あまりにも桁違いな魔力を身に受け、早くもジークは実力差を思い知らされた。


「これでもまだ、完全には力を取り戻せていません。しかし、充分でしょうね」

「くっ、言ってくれるなぁ」


これはやばいと内心頭を抱えながらも、ジークは魔力を纏う。


「・・・その魔力も、〝シオン・セレナーデ〟であった時は、本当に強大で頼りになる魔力だったのですが────」


クロノスが腕を振る。

その直後、ジークは勢いよく吹っ飛んだ。


「あ、が・・・!?」

「今の私には敵いませんよ」


凄まじい衝撃が脳を揺らし、激痛がジークを襲う。突然額に走った衝撃は、見えない何かで攻撃されたということをジークに教えてくれた。


「くっそ!!」

「ふふ、遅いです」


着地と同時に地を蹴り、ジークはクロノスに向かって駆け出した。しかし、再び見えない何かがジークを吹っ飛ばす。


「ぐっ、何なんだ・・・!?」

「何でしょう」

「知らん!!」


あらゆる角度から、何かがジークを攻撃する。それを防ぐことが出来ずに、彼はぐらりと体勢を崩した。


「終わりです」

「まだだッ!!」


顔目掛けて何かが飛来するのを感じたジークは、全力で足を振り上げた。すると、彼の足に何かが当たる。


「おっ・・・?」

「へえ、今のを防御するなんて」


そう言ったクロノスの手元に、何処からともなくを紅い輝きを放つ剣が出現する。


「不可視の魔剣グラム。貴方を攻撃していたのはこの魔剣です」

「シオンまで魔剣を使えんのか」

「今はクロノスですよ」


再び魔剣が見えなくなっていく。


「さあ、これはどうですか?」

「え・・・なっ!?」


その直後、ジークの下半身が氷に覆われた。そして、クロノスが魔剣を操り、身動きのとれないジークの身体を切り裂く。


「いってぇ・・・!!」

「ふふ、以前のように風魔法だけしか使えないと思ったら大間違いですよ」

「うらァッ!!!」


ジークが全身から魔力を放ち、氷を粉砕した。


「《山崩しの暴風(タイラントストーム)》」

「ぐあああっ!?」


しかし、クロノスが放った上位風魔法を受けて彼は倒れる。


「へ、へへ、なんか久しぶりにその魔法を見た気がするぞ」

「もっと懐かしい魔法もありますよ。ウインドカッター」

「がっ!?」


風の刃がジークの背中を裂き、そこから血が流れ出した。しかし、ジークは笑う。


「おいおい。確かそれ、初歩魔法じゃなかったか・・・?」

「ええ、そうですよ。ですが、私が使えば貴方の魔防を上回る威力となるのです」


一体どれ程の魔力と魔攻だというのか。自分と同じように固有スキルで上乗せされているのか、それとも人間や魔族とはステータスの仕様が違うのか。そんなことを考えながらジークは立ち上がった。


「もう私と貴方の実力差は痛感してくださっているとは思いますが・・・」


クロノスの手元に魔力が集まっていく。


「それで諦める人ではないですものね、貴方は」


魔剣に魔力を集めている。そのことをジークが感じ取った直後、クロノスが不敵に笑った。


「さあ、これを受けきれますかッ!!?」

「くっ・・・!!」


そして、クロノスが見えない魔剣を振るう。


「ッ──────」


不可視の斬撃。

凄まじい魔力を凝縮して放たれたそれは、とてつもない速度でジークに迫る。


回避は不可能。

それを悟ったジークはありったけの魔力を腕に集め、そして前方に放った。


直後、轟音と共に爆発が起こる。


「・・・やはり貴方は凄い人ですね、ジークさん」


煙が晴れ、ようやく姿が見えたクロノスは無傷。対してジークは─────


「ぐっ、やっべぇ・・・」


ビチャビチャと音を立て、彼の身体から血が流れ落ちる。激痛に表情を歪めながら彼が押さえているのは右肩。・・・そこから先にあるべきものは切断され、地面に落ちていた。


「こりゃあ、地球に居た頃だったら痛すぎて死んでたな。今も死にそうだけど・・・」


少しぼやけてきた視界で、地面に落ちている自分の右腕を見つめながらジークがそう言う。転生して耐久や精神力が常人とは比べ物にならない程上昇した彼は、大怪我を負ってもその痛みに耐えることが出来ていた。


しかし、今回は重症過ぎた。痛みにはなんとか耐えれても、腕を切断されたという事実が彼の精神を揺さぶる。


「その状態でも、貴方はまだ戦うつもりですか?それに、私を連れて帰る・・・などと叶わぬ夢に残った片腕を伸ばすのですか?」

「ああ、まだまだ勝負はこれから・・・だろ?」


血の気が引いた顔で、ジークがにっと笑う。それを見たクロノスは一瞬だけだが憂いのある表情を浮かべた。


「そうですか、ならば少しだけ本気を出すことにします」

「っ!!」


しかし、すぐに表情を元に戻すと、先程の倍はあろうかという魔力をその身から解き放った。


「ぐっ、どうする、考えろジークフリード・・・」

「貴方には最高の終わりを与えましょう」


空間が震える。

終焉はもうすぐそこに。

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