第百七十三話 傲慢の領域 【ルシフェル】
みなさん、どうもルシフェルです。
今、私以外には誰も居ません。扉をくぐり抜けてから、誰も来なかったからです。
だから私は一人で飛んでいます。
あのまま扉の前で待ってても意味がないと思ったから・・・。
「じ、ジークさぁん、何処に居るの・・・?」
そう声を出してみるけど、誰も返事してくれない。
しかも、ついジークさんだけ呼んじゃった・・・。
「うー、無事かなぁ」
ジークさんは強いから大丈夫だと思うけど・・・それでも心配だよ。そう思ってしまう程、私はジークさんのことが好きなんだなぁ。
「・・・」
私は、このままでいいのかな。
レヴィちゃんとシルフィちゃん、それにシオンさんは、ジークさんに告白したんだよね。
もしかしたら、エステリーナさんとアスモデウスさんも告白するのかもしれない。
それに、ジークさんだって好きな人が居るはずだよね。このままジークさんとその相手が結ばれるのを、私は黙って見てるだけ・・・?
そんなの、嫌だ。
私だってジークさんのことが大好きなんだから。
ずっと一緒に居たいし、独占だってしたい。
なら告白・・・した方がいいのかな。
「うぅーん・・・」
どうしたらいいのかな、ジークさん・・・って、ジークさんに聞いてどうするの────
「止まりなさい」
「わっ!?」
び、びっくりした・・・。
「私はガーゴイル。貴女は堕天使ルシフェルですね?ここから先へは進ませませんよ」
「っ・・・」
いつの間にか、鳥獣系の魔物達に包囲されてる・・・。
「ご、ごめんなさい、急いでるから」
「この先に居るのは我らの主、ウルス様です。貴女をあの方の元に行かせるわけにはいきません」
なら、強行突破するしかないよね。
「ほう、堕天使でありながら聖剣を召喚出来るのですか」
「固有スキルのおかげだよ」
「そうですか。因みに聖剣を召喚したということは、我々と交戦する意思があるということで宜しいですか?」
「はい」
「ならば容赦しません」
この数相手なら、そこまで魔力を消費しなくても大丈夫かな。よーし、いくよっ!
「やあッ!!」
「なっ・・・!?」
翼を羽ばたかせて、ガーゴイルさんの後ろに居た魔物達を聖剣で斬り裂く。
「なんという速さ・・・!!」
「全員で殺れ!!」
流石に数が多い・・・むぅ、ちょっとだけ魔力を使おう。
「《神気功弾》!!」
「ぎゃああッ!!」
多分、この魔物達は闇属性魔力の使い手だと思う。私の魔力は闇属性によく効くから、ダメージも増すはず。
「こ、こいつ、強過ぎる!!」
「元魔神なだけはあるようですね」
ある程度数は減らしたけど、リーダーっぽいガーゴイルさんが飛んできた。石で出来た身体でどうやって飛んでるんだろ・・・。
「覚悟しなさい!!」
「ごめんなさい、先に進むね」
聖剣に魔力を纏わせて、ガーゴイルさんを一刀両断する。こんな所で立ち止まってなんかいられないから。
「フフフ、貴女はこのままでいいのですか?」
「っ・・・」
ガーゴイルさん、身体が真っ二つになったのに、まだ喋れるんだ・・・。
「貴女は堕天使。少しだけ話を聞いたのですが、どうやら人間という下等種族に恋をしているようですね」
「・・・」
「何百年のうちのほんの一瞬その人間と過ごすよりは、我々に手を貸した方がいいと思いますが。ウルス様に話せば、きっと仲間に加えてくれるはずです」
・・・ほんの一瞬。
そう、ジークさんは人間で、私は堕天使。当然私よりジークさんの方が先に死んでしまうと思う。
「ううん、別にいいよ。私はウルスを倒さなきゃならない」
「・・・?」
「少しの間しか過ごせないとしても、私はその時間を大切にしたい。多分これが、最初で最後の恋だから・・・」
「そうですか、ならもう止めません」
え、あれ、ガーゴイルさんがどいてくれた。
「決着をつけてくるといいでしょう。ですが貴女ではウルス様に勝つ事など不可能ですよ」
「そんなこと・・・」
「絶対に不可能です。元傲慢の魔神なのならば分かるでしょう?相手がどれだけ強くても、必ずステータスで上回ることが出来る。そんな相手にどうやって勝つというのですか?」
「・・・」
確かに、勝てないかもしれない。
「でも、約束したから」
「はい?」
「全部終わったら、みんなで遊びに行くって。それに、覚悟も決めた」
寿命の差なんて関係ない。
私はジークさんが大好き。だからもう逃げない。
「私、ジークさんに告白するから」
「フフ、面白いお方ですね」
フラれたっていい。
胸に秘めた想いを全部伝えよう。
「ありがとう、ガーゴイルさん」
「いえ、行ってらっしゃい」
もう一度翼を羽ばたかせて飛び立つ。
それから私があるものを発見するまでには、それ程時間はかからなかった。
まるで私を待っていたかのように建つ大きな城。
傲慢の大魔城がそこにはあった。




