第百七十話 憤怒の魔塔 【レヴィ】
「こ、この先には進ませ─────」
「邪魔だーーーー!!」
「ぎゃあああ!!」
巨大な塔の中を、小さな少女がものすごい速度で駆け抜けていく。それを止めようと立ちはだかる魔物達は、次々と犠牲となる。
そして、少女は突然前方に現れた大きな扉を蹴破り、中へと駆け込んだ。
「お、待ってたでレヴィちゃん」
「やっほー、久しぶりだねアンリカルナ」
玉座に座り、ニヤリと笑うアンリカルナ。
そんな彼女の正面に立つレヴィも、同じように笑みを浮かべる。
「思ったより早かったなぁ。ようこそ、憤怒の魔塔へ」
アンリカルナが立ち上がり、隣に立てかけてあった巨大な槌を手に取る。
「ねえ、ジーク達は何処に居るの?」
「さあ?まあ詳しくは知らんけど、ウチの相手がレヴィちゃんで良かったわ」
そして、膨大な魔力をその身から放った。
「今、この空間はウチが支配してる。ここに満ちてる魔力は憤怒の魔力、悪いけど今のウチは前より強いで」
「ふーん、そうなんだ」
「えらい余裕やなぁ。ほんまに状況分かってんの?」
「今の君は超強いんでしょ?うん、だからどうしたの?」
「・・・」
アンリカルナから放たれる魔力が増加する。
それを感じて、レヴィはアンリカルナが怒っているのだと理解した。
怒りたいのなら怒ればいい。凄まじい魔力が渦巻くこの空間で、レヴィはそう思っていた。
「ほんま、面白いけどイライラするわぁ。あはは、あーイライラする」
やがて、アンリカルナが槌に魔力を纏わせ───
「その余裕、ぶっ壊したるわッ!!!」
レヴィに向かって駆け出した。
「ほんとに壊せるもんならね」
レヴィが水魔法を放つが、アンリカルナは槌を振るってそれを弾き飛ばす。そしてレヴィの目の前で槌を振り上げた。
「《破壊槌》!!」
「《タイダルウェイブ》!!」
槌と波がぶつかり合う。
しかし、パワーでは圧倒的にアンリカルナが上回っていた。
波を消し飛ばた槌は勢いよく床にぶつかり、発生した衝撃波がレヴィを吹っ飛ばす。
「ほらほらぁ、もっと本気でやらな死ぬで!!」
「《海王轟鎌》!!」
体勢を立て直したレヴィが造り出した水の鎌を振るった。槌を地面に叩きつけた状態のアンリカルナは、それを完全に躱す事が出来ずに腹部を切り裂かれる。
「そんなん効かんわ!!」
しかしアンリカルナは怯むことなく、レヴィに向かって槌を投げた。突然の行為にレヴィは反応が僅かに遅れ、槌と衝突して床を転がった。
「ぐっ・・・」
「はは、余裕ぶってた割には大したことないやん」
飛んでいった槌はアンリカルナの魔力に引き寄せられて彼女の手元に戻る。
「こんなもんじゃ終わらんで。ウチの怒りを全部ぶつけて、グチャグチャにしたるから覚悟しときや」
「・・・いいからかかってきなよ」
「あっはっは!!マジで殺したるわ!!!」
アンリカルナの姿が消える。
その直後、凄まじい衝撃と共にレヴィは床を突き破り、下の階に落ちた。さらにアンリカルナも飛び降り、空中で槌を振り下ろしてレヴィを床に叩きつける。
「うあっ!?」
床に衝突したレヴィだが、さらに上からアンリカルナに腹部を踏み付けられて血を吐いた。
「あれれ、どうしたんレヴィちゃん。そろそろ嫉妬の魔力使った方がいいんじゃないの?」
「・・・そっちこそ、その程度でボクのこと殺せると思ってんの?」
「あはは、まだそんなこと言えるんや」
アンリカルナが一旦足を上げ、再びレヴィを踏み付ける。
「ウチの力に対して嫉妬でもしたらどうなん?もしかしてこのまま死にたいとか?」
「・・・」
「ふーん、無視ですか」
アンリカルナがレヴィから足をどけ、槌を振り下ろす。
それによって鈍い音が辺りに響いた。
「なあ、そろそろ本気で戦いたいんやけど。これ以上何もしてこやんのやったら、このまま叩き潰すで」
「・・・」
「うっざ」
もう一度槌が振り下ろされる。
衝撃で床にヒビが入り、血が飛び散る。
「もう喋られへんの?」
「・・・」
「ええわ、おもんないし殺すわ」
アンリカルナが槌に魔力を集中させ、それを振りかぶる。
「・・・」
それを見ても、レヴィは倒れたまま動かない。
彼女の身体はもうボロボロだ。あらゆる骨が砕け、肉は裂け、大量の血が流れ出している。
「これが、ウチの本気やッ!!!」
放たれる魔力が空間を震わせる。
「《天穿つ憤怒の鉄槌》!!!」
そして、アンリカルナがそう叫んだ直後、憤怒の魔塔は跡形も無く消し飛んだ。
「───────ぇ?」
しかし、その存在は消し飛ばす事が出来なかった。
あまりの破壊力に空間が歪む程の一撃である。しかしその少女は、片手で槌を受け止めていたのだ。
『初めてだけど、上手くいったみたいね』
「は、え・・・?」
『で、それが貴女の限界?だとしたらガッカリなんだけれど』
アンリカルナが後ずさる。
肩より少し長い程だった水色の髪は腰よりも長く、身長も160以上あるであろうサイズに変化している。
「れ、レヴィ・・・ちゃん?」
『ふふ、嫉妬の魔神レヴィアタンよ』
次の瞬間、アンリカルナの肩が抉れた。
直後に凄まじい激痛に襲われるも、それを堪えて血が噴き出す肩を手で押さえつける。
「あぐっ、うぅ・・・!?」
『どうしたの?軽く水の弾丸を放っただけなのに』
そう言うレヴィの身体からは、全ての傷が消えていた。それに気付いたアンリカルナが恐怖に顔を歪める。
「ど、どういうことなん!?なんで急にそんな力を・・・」
『私の固有スキルが発動して、私の魔力量は倍になった。その全てを使って禁忌魔法を発動したのよ』
「れ、レヴィちゃんの禁忌魔法は、竜巻みたいなんを空から放つやつやったやん!!」
『分からない?その禁忌魔法を身に纏ってるってことが』
「え・・・」
『それによって私の身体は急成長したの。レベルもステータスも、いつもとは桁が違うわよ』
アンリカルナの身体がガタガタと震え始める。
嫉妬の力を完全にコントロールし、さらにその上の力を引き出すことが出来ている。そう、小さな肉体を急成長させる程の力を。
「う、嘘やん・・・、今のレヴィちゃん、ジークフリードよりも・・・」
『さて、そろそろ終わらせましょうか』
この空間全域に満ち溢れていた憤怒の魔力は、いつしか嫉妬の魔力に呑まれている。
最早アンリカルナに勝ち目はなかった。
「あ、あはは、じゃあ、わざとウチの攻撃を受け続けてたってことやんな・・・?」
『・・・』
「ふざけんな・・・ふざけんなレヴィアタンッ!!!」
全ての魔力を解き放ち、アンリカルナが跳躍する。
「うあああ!!《天穿つ憤怒の鉄槌》!!!!」
『・・・これで終わり。安らかに眠りなさい、憤怒の魔神よ』
対してレヴィも禁忌魔法を発動した。
『《嫉妬する災厄の権化》』
「ッ──────」
光がアンリカルナを包み込む。
『さよなら、アンリカルナ────』
そして、放たれたレヴィの禁忌魔法を受けたアンリカルナは、凄まじい爆発と共にこの世から姿を消した。
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「あら・・・?」
目を開けたレヴィはゆっくりと上体を起こす。そして自分の身体をまじまじと眺めた。
「元に戻ってる・・・よね?」
髪の長さも、身体の大きさもいつものレヴィと変わらない。それを確認して彼女は立ち上がる。
「うっ、うぇ、やっぱり反動がすごい・・・」
しかし、突然眩暈がして彼女はよろめいた。
禁忌魔法を身に纏い、強制的に肉体を成長させ、全ステータスを何倍にも跳ねあげたレヴィだが、その後の自身の肉体へのダメージは想像を絶するものである。
「と、とりあえず、成功して良かったぁ」
レヴィが再び仰向けに倒れ込む。
「えへへ、あとでジークに褒めてもらおっと・・・」
そして、そう呟いた直後に彼女の意識は途切れた。
~ちなみに~
《嫉妬する災厄の権化》
レヴィが使用した、禁忌魔法を身に纏って肉体を急成長させるという行為は、云わば禁忌魔法の上を行く禁忌魔法です。
何故それを行うことによって肉体が成長するのかは本人も分かっていませんが、この状態のレヴィのステータスは、普段のジークのステータスを上回ります。




