第百六十七話 空間転移
全員の様子を見て回った俺は、家に戻ってみんなで撮った集合写真をぼんやりと見つめている。
もうあと数分で約束の時間だが、特に他にすることも無い。
「いよいよ・・・か」
シオンがクロノスとして俺達の前から姿を消してから、結構な時間が経ったけど、元気にしてるだろうか。
一応神様なわけだし、風邪とかは引いてないとは思うんだけども。
「そうだ、何処に遊びに行くかまだ決めてないじゃん」
完全に忘れてた。
シオンが帰ってきたら、サプライズでどっかに連れて行ってやるってのもありかもしれないな。
てか、なんか最近シオンの事ばっか考えてる気がする。そりゃまあ当然だとは思うけど、それだけ彼女が俺にとって大切な存在だったという事だ。
出会った頃はあまり笑ったり喋ったりするような女の子じゃなかったけど、みんなと過ごすうちに結構変わったよな。そんなシオンから告白された時は、とんでもないぐらい驚いたもんだ。
ったく、告白してきておいて、返事を返す前にどっか行ってんじゃねえっての。まあ、返事を先延ばしにした俺が悪いんだけども。
「・・・」
今のシオンは俺よりも遥かに強い筈だ。下手したら手も足も出ない可能性だってある。それでも、まだシオンとしての心が残っているのなら、俺の想いは彼女に届くはず。
「待ってろシオン、必ず迎えに行くからな」
時間だ。
俺は写真を机の上に置き、家の外へと向かった。
「おっと、もうみんな集まってたか」
「ええ、貴方で最後ですよ」
駆け足でアルテリアス達のもとに向かう。
「ふん、何分待たせるつもりなんだ」
「うるさいぞ変態。別に集合時間に遅れたわけじゃねえだろうが」
とりあえず、この変態吸血鬼の相手をするのはこのくらいにしておいてだな。
「もう準備は出来てるぞ。いつでも神域とやらに行けるぜ」
「あの、その事で少しお話があります」
「ん?」
アルテリアスが少し申し訳なさそうな表情で俺を見つめてくる。
「今の私の状態では、転移させれる数に限界がありまして・・・」
「え、この前は地下にいた全員を転移させれたような」
「あの時は、地下から地上に転移させただけですから。今回はここから神域まで転移させなければならないので」
「なるほど、それで何人までなら大丈夫なんだ?」
「私を合わせて7人です」
7人か・・・。
今ここに居るのは、俺、アルテリアス、シルフィ、エステリーナ、レヴィ、ルシフェル、アスモデウス、キュラー、イツキさんの9人だ。つまり2人はここに残らなくちゃならないってわけか。
「っ、すみません、その前に・・・」
「今度はどうした?」
「空間の歪みが発生しています。おそらくリリスさんの空間魔法です」
「なっ!?」
アルテリアスにそう言われて顔を上に向けると、空に黒い渦が出現していた。そしてそこから魔物の大群が姿を現す。
「おいおい、まじかよ」
「こんな時に・・・!」
ちっ、面倒だけど戦うしかないか────
「ふん、仕方ないな」
「あ?」
「ここは俺に任せてもらおう」
そう言ってキュラーが魔力を纏う。
「・・・いいのかよ」
「クロノスを迎えに行くのは、〝家族〟である貴様達の役目だろう?」
「お前・・・」
「こんな事を貴様に言うのは癪だが、レヴィ様を頼むぞ」
そう言うと、キュラーは空から迫り来る魔物達に向かって飛び去った。
「あいつ、一人で大丈夫なのかよ」
「あはは、本気出すみたいだねー」
「本気?」
レヴィが笑いながらキュラーを見つめる。
「魔力を完全解放しちゃうと、吸血衝動に駆られてボクの事まで襲っちゃうから、力を抑えてたんだよ」
「まじか」
「ほら、見て」
そう言われて空を見上げると、魔物達が次々とキュラーの手によって葬られていた。あいつ、普通にアルターより強いんじゃないか?
「ならば、俺も残るとしよう」
「イツキさん」
「恐らくまだまだ魔物達は現れる筈だ。そいつらの相手は俺と王国騎士団の連中に任せておけ」
「王国騎士団?」
「ふっ、そういう事だ」
突然後ろから声が聞こえ、振り返ると、王国騎士団の人達と、ロキさんとライラさんが立っていた。
「既にイツキから事情は聞いている。これから世界を救いに行くらしいな」
「はあ、まあそうですかね」
「君達が帰ってくる場所は、必ず我々が守ってみせよう。だから思う存分暴れてくるといい」
うおお、かっけぇぇ・・・。
確かにこの人達になら王都を任せられるな。
「分かりました。イツキさん、ロキさん、王都をお願いします」
「ああ、エステリーナの事は頼んだぞ」
「さあ、各自上空の大渦から現れる魔物達を一匹残らず殲滅するぞ。騎士団毎に配置につけ!!」
「はっ!!」
少し離れた場所に降り立った魔物達のもとに、イツキさんが大剣を構えて走っていく。王国騎士団も、様々な場所に散って行った。
「はは、頼もしすぎんだろ」
「ここは彼らに任せるとしましょう。それでは、転移魔法を展開します」
そう言ってアルテリアスが魔法を唱えた。
同時に俺達の足もとに巨大な魔法陣が出現する。
「それでは行きましょう、破壊と創造の神域へ」
そして、突然視界が真っ白になり、俺達は決戦の地へと転移した。




