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第百六十六話 最後の休息 後編

「って、あんなとこに居たのか・・・」


あれからしばらく王都を歩き回っていると、ようやくルシフェルを見つけた。たまたま上に視線を向けなかったら、多分見つけることは出来なかったと思う。

ルシフェルは、王都を囲う巨大な壁の上に座っていた。


「よっと」


そこに行くため、俺は助走をつけてジャンプした。そしてルシフェルの隣に着地する。


「よう、ルシフェル」

「ジークさん・・・」

「うおっ、寒いなここ・・・」


吹く風が冷たい。けどせっかくここに来たので、俺はルシフェルの隣に腰掛ける。


「ここで何してたんだ?」

「なんだか落ち着くから、ここに座ってたの」

「落ち着く・・・ねぇ」


寒いから俺は落ち着かないんだけど。まあ、ルシフェルは雪が降ってる時もしょっちゅう外に出て遊んでたからなぁ・・・。


「私ね、気になる事があるんだ」

「どんな事?」

「天界は、今どうなってるんだろうって」


そう言われ、俺はなんとなく空を見上げる。

当然見えるのは、空一面に映る地球だけだ。


「みんな、無事だといいんだけど・・・」

「おいおい、勘違いで堕天させられたんじゃなかったのか?」

「うん、そうだよ。でも私、別にみんなの事恨んだりなんかしてないから・・・」


それには流石に驚いた。

普通なら僅かにでも憎む筈だ。それなのにこの堕天使ときたら・・・。


「この前魔神達が攻めてきた時、傲慢の罪を司る魔神が居たでしょ?」

「え、ああ、確か堕天使の男だったな」

「ウルスっていうんだけど、多分彼が大天使殺害の容疑者なんだ」

「なんだと?じゃあその罪をルシフェルが着せられたってことかよ」

「うん、そうだと思う」

「許せねえ・・・」


どんだけクズ野郎なんだよあいつは。

でも、それなら何であいつも堕天使になってんだ?


「彼は私を殺せる時を待っていたって言ってたから、自ら堕天したのかも・・・」

「はぁ!?」

「理由は分からないけど、どうしてそんなことしたんだろうね」


そう言うルシフェルはとても悲しそうな表情を浮かべている。


「私は、彼と決着をつけなくちゃいけない。もしかしたらどうして仲間を殺したのか教えてくれるかもしれないし」

「・・・」

「ふふ、だから頑張ろうね、ジークさん」


なんでこの娘は、その男に対して憎しみを抱いていないのだろうか。それが彼女を見ていれば嫌でも分かり、胸が苦しくなる。

どれだけ他人に優しいんだよ・・・。


「なあ、ルシフェル」

「どうしたの?」

「もし天界に戻れる事になったら、ルシフェルはどうする?」

「え、それは・・・」


さっきレヴィに聞かれた事と同じような事をルシフェルに聞いてみる。彼女は、天界に戻りたいのだろうか。


「戻らない・・・かな」

「え・・・」


返事はすぐに返ってきた。


「こんなにも楽しくて、ずっと一緒に居たいって思える人に出会えたんだもの」

「ルシフェル・・・」

「だから、少しだけアビスカリバーには感謝してるかな。もし彼が私の身体を乗っ取らなかったら、ジークさんには出会えてなかったから」

「何を言ってんだ」


いつしかルシフェルは、優しい笑みを浮かべて俺を見つめていた。

寒さのせいか、彼女の頬はほんのりと赤く染まっている。


「本当に出会えて良かった。ありがとう、ジークさん」

「お、おう、俺もだ・・・」


やっべ、照れる。

顔がやたら熱くなってるから、多分俺の顔は赤くなってるだろうなぁ・・・。


「そうだ、さっきアスモデウスさんがギルドに行ってたよ。様子を見てきてあげてくれないかな・・・?」

「アスモデウスか。分かった、行ってくるよ」


立ち上がり、ルシフェルの頭を撫でる。


「じゃあ、また後でな」

「うん・・・」


髪サラッサラだなおい。

・・・と思いつつ、俺は壁から飛び降りた。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「・・・何をしてんだか」

「ふふん、これがギルド長・・・とやらが座る事が出来る椅子ね。まあまあ良い座り心地じゃない」


ギルドに向かうと、アスモデウスがギルド長室にある椅子に腰掛けていた。それを見て、俺はリリスさんを思い出す。



『・・・えーと、初めまして。ここのギルド長をさせてもらってるリリスと申します』



最初はそんな感じで挨拶されたっけ。そういや、二十歳とか言ってたなあの人。


「リリス姉は、何を考えながらここに座ってたんだろうね」

「・・・」


いつも見せていた笑顔は、全て嘘の笑顔だったのだろうか。これまでを思い出してみるが、とても嘘とは思えなかった。


「どうせ今日の晩飯何だろーとか考えてたんじゃないか?」

「あはは、可能性はあるわね。早く寝たいーとかも思ってたかもしれないわよ」


うーん、やっぱりそういうアホっぽい姿しか想像出来ないんだよなぁ。あの喋り方と髪の色も、全然似合ってないし・・・。


「はぁ、馬鹿な姉だわ。妹のあたしの方がしっかりしてるじゃない」

「はは、そうかもな」

「絶対連れて帰って、このあたしが説教してやるんだから」

「・・・」


連れて帰る・・・か。

確かに俺もそうしたい。でも、今のリリスさんが素直に帰るなどと言ったりはしないだろう。それはシオンも同じだと思うけど。


「なんだかんだ言ってアスモデウスは優しいな」

「えっ!?」

「俺も手伝うぜ、リリスさんの説教」


俺がそう言うと、アスモデウスの顔が赤くなる。


「や、優しいとか・・・そんなの家族なんだから当然だしっ」

「そういうとこが優しいんだよ」

「・・・」


あれ、黙られた。

怒ってはいらっしゃらない・・・よな?


「あーもうっ!!」

「え、どええっ!?」


また顔に魔剣が飛んできたりしないかと内心ビクビクしてたら、急に立ち上がったアスモデウスに抱き着かれた。


突然の事に一瞬思考が停止する。


「ちょ、ちょちょっ、なんすか!?」

「もうやだ!!抑えるのにも限界ってものがあるのよ!!」

「何が!?」


前のキス事件といい、最近のアスモデウスはたまによく分からん!でも、まあ抱き着かれるのは嫌ではないですよ?


「もし、無事に戻ってこれたら!!」

「はいっ!?」

「ちょっと話があるから覚悟してなさい!!誰にも渡さないんだから!!」

「えええ、何が起こるっていうんだぁ!!」

「いいわね、楽しみにしてなさいよ、馬鹿ジーク(・・・)!!」


・・・あ。


「あ、ちょ・・・」


アスモデウスはそのまま部屋から飛び出して行った。でも、俺はその場から動けない。


「初めてジークって呼ばれた・・・」


そう、それが理由で。

いつもジークフリードって呼ばれてたけど、少しは仲良くなれたってことなのだろうか。


「はは、嬉しいねぇ・・・」


たったそれだけの事で、ここまで嬉しい気持ちになるとは。まあ、怒ってはいなさそうだったし、戦いの後に何か話があるらしいし、頑張るとしますか。

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