第百六十四話 最後の休息 前編
「ジーク、お帰りっ!」
「おっと、ただいまレヴィ」
ツァーリを撃破し、エリーシアでしばらく休んだ俺は、シルフィ達と王都に戻ってきた。
そして自宅の扉を開けたらレヴィに抱きつかれた・・・というのが今の状況です。
「ねえねえジーク。さっき魔物の群れとね、ろぼっとがいっぱい出てきたんだけどね、ボク達だけで倒したんだよ」
「え、こっちにもあいつらが出たのか?」
「うん、なんか赤いやつだったよ」
赤いやつ・・・か。なんかツァーリの種類がどんどん増えてんなぁ。最終的に虹色の機体が出てきそうだ。
「んで、頑張ったから褒めて欲しい・・・と」
「え、何で分かったの!?」
「顔に出てる。まあ、よく頑張ったな」
頭をなでてやると、レヴィは満面の笑みを浮かべた。可愛ええなぁおい。
「ルシフェルとアスモデウスも戦ってくれたっぽいな。二人共お疲れ様」
「うん、ジークさんこそ」
「別に疲れてないし」
とりあえず家の中に入る。
そういえば、アルテリアスはまだ神域探しをしてくれてるんだろうか。
「早いとこ何とかしないとなぁ・・・」
あんなツァーリレベルのやつがゴロゴロ出てこられたら、流石に対応しきれない。一応シャロンやエステリーナの両親には外出を控えるよう言っておいたけど、それでもまた魔物があそこに現れたら間に合うかどうか・・・。
「・・・」
窓の外を見つめる。
相変わらず空には地球の都市が見えてるし、前よりも距離が近くなってる気がする。
「あっちの世界でもボク達みたいに戦ってる人達がいるのかなぁ」
レヴィがそう呟く。
もし向こうの世界に魔物とかが姿を現しているとしたら、きっと被害は甚大だろう。
でも、向こうの世界には魔法が無い代わりに、様々な近代兵器が存在する。それらを使えば魔物にも対抗出来る筈だ。
まあ、魔物が現れてる可能性は低いとは思うけど・・・。
「戦ってるだろうな」
それに、総理大臣や政治家、会社の社長に一般人。様々な人達が自分達に出来ることを行ってる筈。
俺の両親も、学校の友達も・・・きっと無事だ。
「ジークフリードさん、お待たせしました」
そんな時、突然俺達の前にアルテリアスが転移してきた。
「神域を発見しましたよ。私の魔法を使えばあの空間に足を踏み入れる事が出来ます」
「まじか、サンキュー」
「もう世界衝突までそれ程時間がありません。しかし、今すぐに行くというのは皆さんにとっても酷でしょうから、少しだけ自由時間にしましょう」
「自由時間?」
「はい、今から二時間後までですけどね。本当に僅かな時間ですが、悔いが残らないように・・・」
ふむ、なるほど。
じゃあ軽く仮眠でも────
「ジーク、ちょっと来てーー!」
「ちょっ!?」
突然レヴィに腕を引っ張られ、そのままグイグイ引き摺られる。そして連れていかれたのは、レヴィの部屋だった。
「え、ちょ、何すんの?」
「喋ろー」
「あ、おう」
ちょっと焦った。レヴィの事だからもの凄い展開になるかと思った・・・いや、別にちょっと残念とか思ってないし。
「それにしても、いよいよ最後の戦いだね!」
「だな」
「前から思ってた事なんだけど、ジークってあの空に浮かんでる世界から来たんだよね?」
「おう、そうだけど────え゛」
「あはは、本当なんだ」
こ、こいつ、何でそれを知ってるんだ。
「何となくだけど、あの空を見てる時のジークって、ちょっと寂しそうだったからね」
「そ、それだけで分かったのか・・・?」
「女神様と友達だったり、あの世界について詳しいし、まあ・・・他にも色々あるけど」
「まじか・・・」
てか、そんなに俺のこと把握してんのかよ。
なんか嬉しいような恥ずかしいような・・・。
「ねえ、ジーク」
「何でしょうか」
「あっちの世界に帰っちゃったりしないよね・・・?」
少し不安そうな表情でレヴィが俺を見つめてくる。
「・・・まあ、帰る方法が無いというか、俺結構訳ありっつうか・・・」
「じゃあ、帰る方法が見つかったとしたら、ジークは帰っちゃうの?」
「・・・」
帰る方法が見つかったら・・・か。
一応俺死んでるし、もし向こうの世界に顔を出したら多分身内大混乱だと思うけど。
というか、帰る方法が見つかったとしても────
「帰らないけど」
「え・・・」
「確かに、向こうの世界に戻りたいっていう気持ちもちょっとだけ残ってる。けど、それ以上にこっちの世界で過ごしたいって気持ちの方が大きいからな。レヴィも居るし」
「・・・そっか」
「ちょ・・・」
レヴィが抱きついてくる。
最近ちょっと慣れてきたけど、まだこれを人に見られるのはそれなりに恥ずかしい。
「うーん、やっぱりこれが一番落ち着くよ」
「俺は全然落ち着かないんだけどなぁ」
「よし、もう満足した」
そして、レヴィが俺から離れる。
「ボクだけが独占するのもあれだからねー。シルフィとかエステリーナ辺りなんかソワソワしてるんじゃなーい?」
「何を言ってんだ」
「まあ、とりあえず頑張ろうね」
「・・・おう」
よく分からないけど、とりあえず部屋から出るとするか。
「ジーク!」
ドアノブに触れようとした瞬間、後ろからでかい声で名前を呼ばれた。振り向けばレヴィが笑顔で俺を見つめていて───
「大好きだよー」
そんなことを言ってくるもんだから、顔が熱くなった。
「また後でな」
それに対し、何と返したらいいのか分からないもので、俺はそそくさと部屋をあとにした。
「・・・はぁ」
あんなにもストレートに好きとか言われるとそりゃ照れる。この戦いが終わったら、もう逃げてちゃいられないな・・・。




