第百六十三話 魔神組
「《海王轟鎌》!!!」
レヴィの鎌が魔物を切り裂く。
真っ赤な血を顔に浴びながら、レヴィは顔をしかめた。
「うぇ、最悪・・・」
水魔法で顔を洗い流し、再びレヴィは駆け出す。
壁の外、そこに突如現れた魔物の群れは、どれもレベルが100後半である。それなりに本気で彼女も魔物と戦闘を繰り広げている。
「《神気功斬》!!!」
少し離れた場所では、目にも止まらぬ速さでルシフェルが魔物達を両断している。
「斬っても斬っても・・・」
数が減らない。
少しずつ疲労が溜まっていているが、ルシフェルは休む事なく聖剣を振るい続ける。
「って、何してんのさアスモデウス!そろそろ戦闘に参加してよね!」
「ふふん、あたしがその気になれば、ここに居る魔物を全部殺す事が出来るんだから」
「じゃあやってよ!」
「いいわ、見せてあげる」
アスモデウスが奥底で抑え込んでいた色欲の魔力を解き放つ。それを感じてレヴィとルシフェルは驚きの表情を浮かべた。
「《甘美なる色欲の支配》!!!」
そして、アスモデウスが禁忌魔法を放った。
桃色の魔力が広範囲に広がっていき、魔物達の動きが止まる。
「命令よ。《死ね》」
「グオオオオオオオ!!!」
「ギィィィィ!?」
アスモデウスがそう言った瞬間、魔物達は破裂した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「凄いじゃん、アスモデウス。さっきの魔法、ボク達にも効きかけてたよ」
「ふん、当然よ」
「あれって色欲の魔力使いこなせてたよね?てことは、欲を抱いちゃったってことだよねぇ」
「むぐっ・・・」
「ジークとあんなことやこんなことをしたいって─────」
「う、うるさいわね!そんなこと思ってないわよ!!」
真っ赤な顔を隠すように、アスモデウスがレヴィに背を向ける。
「分かり易いよねー」
「うぐぐ・・・」
実際、アスモデウスが力を完全に扱えるようになったのは、ジークに対して明確な欲を抱いたからである。
そしてそれを今も扱えるということは、まだ欲を抱き続けているということで・・・。
「ま、まあ、とりあえず家に戻ろう?」
「そうだねー」
流石にアスモデウスが可哀想だと思ったのか、ルシフェルがレヴィを連れて王都に向かおうとした時。
『対象確認。レヴィアタン、ルシフェル、アスモデウス・・・総合戦闘力測定不能。これより戦闘を開始します』
「ッ!!!」
突然背後から声が聞こえ、ルシフェルは振り向きざまに聖剣を振るった。
「なっ・・・」
しかし、その一撃は現れた存在の身体に傷一つ付けることが出来ず。危険を感じたルシフェルは、レヴィを引っ張って距離をとる。
「あれ、これって確か、ろぼっと・・・だっけ?前にも戦ったやつ」
「そ、そうだと思うけど、なんだか赤いよ・・・?」
ルシフェル達の視線の先に居るモノ。それは赤いツァーリである。
「それにしても、ルシフェルの攻撃が全然効いてないね」
「ど、どうしよう」
「倒す」
レヴィの身体がブレる。
その直後、赤いツァーリは後方に吹っ飛んだ。
「《海王魔獄弾》!!!」
レヴィが魔法を唱える。空に出現した魔法陣から、大量の水の弾丸がツァーリ目掛けて放たれた。
『ピピ・・・』
しかし、ツァーリの背中から発射された大量の小型ミサイルが、迫る魔法を全て撃ち落とす。
「《水牢》」
『ピ・・・』
「《凝固水縛》」
そんなツァーリは、レヴィの魔法によって氷の中に閉じ込められた。
「凄い、レヴィちゃん」
「案外大したことなかったわね」
レヴィにアスモデウスとルシフェルが駆け寄る。
「いや、まだだよ」
「は?」
『ピピ、ブラスターキャノン発射』
次の瞬間、氷が砕け散り、ツァーリが前方にエネルギー弾を放った。それを三人はすんでのところで回避する。
「あ、危ないわね!!」
「このっ・・・!!」
アスモデウスが魔剣を召喚し、ツァーリ目掛けて一斉に飛ばす。ルシフェルも聖剣に魔力を纏わせ、全力でそれを振り下ろした。
『ピピピピ』
「っ・・・」
しかし、ツァーリが勢いよく腕を振るい、魔剣とルシフェルは弾き飛ばされる。
「つ、強い・・・」
「何なのよこいつ」
魔神二人と魔神と同格の堕天使を相手にノーダメージ。
それに対してアスモデウスとレヴィはイライラし始めた。
「ムカつくわねー。ちょっとだけ本気出しちゃおうかしら」
「ボクもー」
『ピピ、殲滅します』
ツァーリが高く跳び上がる。それと同時にレヴィの姿が消えた。
「遅いよ」
『ピピ・・・』
ツァーリの目の前に姿を現したレヴィが、嫉妬の魔力を解き放つ。
「《海王滅槍》!!!」
そして、レヴィの放った魔法がツァーリの装甲を砕く。そのままツァーリは地面に叩きつけられた。
「さあ、その身に刻みなさい」
そこに向かって両手に魔剣を持ったアスモデウスが駆け出す。
「《夢幻邪光斬》!!!」
放たれた何十もの斬撃は、凄まじい強度を誇る赤いツァーリの装甲を切り刻む。
『ビビビ、損傷リつ98%。じ爆もードに移こうシマす』
「あん?」
その直後、アスモデウスはツァーリの身体が輝き始めたことに気付いた。同時に凄まじいエネルギーが放たれようとしていることにも。
『自爆シマす』
「ちっ、間に合わ────」
「《神速郷》!!!」
ツァーリの身体から膨大なエネルギーが放たれる直前、ツァーリは真っ二つに切断される。凄まじいスピードで放たれたルシフェルの一撃は、ツァーリの核を破壊した。
『ぴ、ピピ・・・』
集まっていたエネルギーが消滅し、ツァーリが倒れる。それを見てルシフェルはほっと息を吐いた。
「良かったぁ、勝てたみたいだね」
「そうみたいね」
倒れたツァーリをアスモデウスが軽く蹴るが、ピクリとも動かない。
「二人ともお疲れー」
「うん、レヴィちゃんもお疲れ様」
そこにレヴィが歩いてくる。
「これで、ジークに褒めてもらえるね」
「ふふ、頑張ったもんね」
「別にあたしは褒めてもらいたくなんかないし」
そう言いながらも、アスモデウスの頬はほんのりと赤い。それを見てレヴィとルシフェルは苦笑した。




