第百六十二話 足止め
「ご主人様、お疲れ様ですっ!」
「はは、シルフィもな」
「やっぱりご主人様は凄いです!尊敬いたします!」
おおう、なんか照れるな。
何でだろう、シルフィを見てると無性に頭を撫でたくなってしまうんだが。
まあ、とりあえずツァーリは消し飛ばしたから、向こうで待ってるエステリーナとシャロンのとこに行くとしよう。
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「お疲れ、ジーク。やはりお前は強いな」
「そりゃどうも。エステリーナとシャロンもお疲れ様」
「ああん、勿体ないお言葉ですわ」
二人とも結構ボロボロだ。
シャロンに至っては、高そうなドレスが返り血でえらいことになってしまっている。
「しかし、あのよく分からない生命体、ジークでも簡単に倒せないとはな」
「ああ、前よりパワーアップしてやがった」
初めて戦った時と、この前戦った時は一撃で粉々に粉砕出来る弱さだったのに、今回はそれなりに本気で殴っても破壊し切れない強さだった。
まあ、魔力を纏ってなかったんだけど。
「多分、リリスさんが送り込んできたんだろう」
「ああ、私もそう思う・・・」
エステリーナの表情が曇る。
恐らく、魔物の大群とツァーリ強化版はリリスさんの魔法でこの近辺に送り込まれた筈だ。
それに、ツァーリをあそこまで強化したのも、多分リリスさんだとは思うけど・・・。
「足止めするつもりか・・・?」
空を見上げる。例の神域とやらは見えないけど、そこに俺達が向かうのを、少しでも遅らせてようとしているのかもしれない。
「まあ、とりあえず一旦街に行くか」
「そうだな────あ」
「ん?」
突然エステリーナの顔が青ざめる。何事かと思って振り返った瞬間、俺は地面にめり込んだ。
「この野郎・・・」
直ぐに地面から脱出し、現れた敵を睨む。
『ピピピ、対象を確認』
「なっ!?」
そして俺は気付いた。
ツァーリが、めちゃくちゃ居る。
『ピピピ、殲滅開始』
「っ、避けろシルフィ!!」
「え─────」
目の前に居るツァーリを何とかしようとした時、別の場所から一機がシルフィに襲い掛かった。
「きゃあっ!!!」
間に合わなかった。
ツァーリに殴られ、吹っ飛ばされたシルフィをエステリーナが受け止める。
「ゲホッ・・・」
「お、おい、大丈夫か!?」
「う・・・は、はい、何とか・・・」
どうやら無事みたいだ。
けど・・・。
「おいお前ら」
『ピピピ、対象ジークフリード確認、これより対象を殲滅します』
「よくもシルフィに手を出しやがったなクソ野郎がッ!!!!」
全魔力を解き放ち、シルフィを殴った機体を蹴りで粉々に粉砕する。そしてそのまま近くにいるツァーリ二機を消し飛ばした。
『ピピピ、対象────』
「うるせえ消えろッ!!!」
『ビ────』
完全にブチ切れたぞゴミ共めが。
ただひたすら殴って蹴り、ツァーリを破壊していく。
『ピピピ、殲滅────』
「されんのはお前だ」
そして、最後の機体に魔力を放ち、爆発させた。
全滅させるのに数十秒・・・か。
「え、えげつないな・・・」
「あーん、怒っていらっしゃる姿も恰好いいですわぁ」
「シルフィ、大丈夫か!?」
俺はエステリーナに支えられているシルフィのもとに向かう。
「は、はい、大丈夫です」
「痛いとことかないか?血とか出てないか?骨が折れてるかもしれない・・・腫れてるとことかないか!?」
「落ち着けジーク」
エステリーナに頭を叩かれた。
「ほ、本当に大丈夫ですよ。少しだけ腕が痛みますけど、普通に動かせます」
「はぁ、良かった」
あのレベルの敵の一撃だ。
下手したら死んでたかもしれない。ほんと、大した怪我じゃなくて良かったよ・・・。
「まあ、今度こそ街に戻ろう。私の家で休憩するといい」
「わりいな。行くか、シルフィ」
「はい」
「わたくしもお邪魔させていただきますわ」
もう周囲にツァーリや魔物は居ない。
俺達はそれを確認して、街に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あーん、ジーク遅いなぁ」
「そのうち戻ってくるよ」
一方その頃王都では、ジークが帰ってくるのをレヴィ達が待っていた。そして、何故かレヴィとルシフェル、アスモデウスはジークの部屋で寛いでいる。
「で、でもいいのかな?勝手に部屋に入っちゃってるけど・・・」
「大丈夫だよ。ボク毎日ここに居るし」
「レヴィちゃんはいつもジークさんと寝てるもんね・・・」
「あら、もしかして嫉妬してるのぉ?」
「し、してないよっ!」
などと、レヴィとルシフェルが繰り広げる会話をぼんやりと聞きながら、アスモデウスはジークの姿を思い浮かべる。
(ちょっと、いくら何でもモテすぎなんじゃないの?)
確かに顔は恰好いいとアスモデウスも思っている。
しかし、それだけで種族が違う異性に好かれたりなどする筈がない。
(優しさ・・・か)
恐らくそこに彼女達は惚れたのだろう。
相手がどれだけ強かろうが、命懸けで助けに来てくれる。ジークはそんな男だ。
ルシフェルを助けた時も、一度半殺しにされたにも関わらず、魔界に来てまでアビスカリバーを倒そうとしていたし、アスモデウスがシーナに殺されかけた時も、彼はなんと泳いで魔界まで来たのだ。つまり馬鹿でもある。
「あれ、どうしたのアスモデウス」
「え、ううん、何でも」
「なるほどねぇ、ジークの事でも考えてたんでしょ」
「ッ!?」
ニヤニヤするレヴィにそう言われ、アスモデウスの顔が真っ赤になる。この少女、しれっとした顔でそれを否定することが出来ないのだ。
「あはは、図星かぁ」
「ぐっ、べ、別にそんなこと・・・」
「そーですかー」
「腹立つわねあんた・・・」
そんなやり取りをレヴィとアスモデウスがしていた時、ルシフェルは何かを感じて立ち上がった。
「あれ、どーしたの?」
「今、変な魔力を感じたんだけど・・・」
「ほんと?じゃあちょっと・・・」
ルシフェルの話を聞き、レヴィは魔力サーチを行う。
「・・・うわー、すっごい数」
「敵が来たのね」
「うん、しかもめちゃくちゃ強い敵の大群だよ」
「上等よ、それなら思う存分暴れられそうね」
アスモデウスとレヴィも立ち上がる。
「ここで頑張れば、ジークが褒めてくれるねっ!」
「う、あたしは別に褒めてもらいたくなんか・・・」
「褒めてもらえるのかぁ。うん、頑張ろう」
そして、彼女達は大量の魔力を感じた場所に向かう為、窓を開けて外に飛び出した。




