第百六十一話 ジークとシルフィ
「エステリーナ、無事か!?」
「じ、ジーク・・・」
現れた少年の顔を見て、エステリーナは涙を浮かべる。絶体絶命の危機に陥った時、駆け付けてくれるのはいつも彼なのだ。
「エステリーナさん、ぶ、無事ですかぁ・・・」
「し、シルフィも・・・」
ジークがシルフィを地面に立たる。
凄まじい速度で動き続けたのが怖かったのか、シルフィは力が抜けたかのように座り込んだ。
「ジークフリード様!?はああ、まさかここでお会い出来るなんて・・・感激ですわ!!」
「うおっ、シャロンか。久しぶりだな」
「ああああ、今日も素敵ですわ」
エステリーナの下から這い出たシャロンは、ジークの手を握ってうっとりとジークを見つめる。
「なあ、シャロンにエステリーナ。この近くに魔物の大群が現れたりしなかったか?」
「それならわたくし達が全滅させましたわ」
「へえ、やるなぁ」
「光栄ですわ」
と、ジークがその事に驚いていると、先程彼にふっ飛ばされたマシンがゆっくりと立ち上がった。
「ご主人様の一撃を受けて、まだ立ち上がるなんて・・・」
『ピピピ、対象を確認、総合危険度SSSと予想。全兵器の使用を許可します』
「な、何か喋りましたよ!?」
「落ち着けシルフィ。あいつ、柳のマシンよりも遥かに強いな」
ジークがそれなりに本気で殴ったにも関わらず、マシンのボディは少し凹んでいるだけだ。
「それじゃ、みんな下がっててくれ」
「いえ、私も戦います。ご主人様の力になると言って連れてきてもらったのですから」
「む、そうだったな。でも、危険だと思ったら俺に構わず逃げてくれよ?」
「ご主人様を置いて逃げるなど、そんなこと絶対に出来ません!」
「俺、シルフィに怪我して欲しくないからさ」
『ピピッ、攻撃を開始』
「ちょっと待てよこのポンコツマシン!!」
そう言ってジークは、マシンが突然撃ってきた弾丸を素手で受け止める。
「とりあえず、いくぞシルフィ!」
「了解です!」
『第三型戦闘兵器ツァーリcodeΩ、対象二名の殲滅を開始します』
ジークの姿が消える。
その直後、ツァーリが地面にめり込んだ。
「な、なんというスピードですの」
「流石だな・・・」
彼が姿を現したのは、ツァーリの真上。目にも止まらぬ速度で真上からツァーリを殴ったのだ。
「ちっ、硬えな」
しかし、ツァーリはまだ動く。地面を砕いて飛び出すと、胸にエネルギーを集め始めた。
「させません!!」
そんなツァーリに、魔力で生み出された糸が絡みつく。
『ピピピ、バックマシンガン起動』
「っ!?」
突然ツァーリの背中の装甲が外れ、中から機関銃が姿を見せる。そして大量の弾丸をシルフィ目掛けて乱射した。
「っと、シルフィ、その場から動くなよ?」
「ご、ご主人様!?」
咄嗟にジークはシルフィの前に立ち、放たれる弾丸を全て生身で受けた。しかし弾丸の威力はジークの耐久を上回れず、全て弾き返される。
「あ、このままだと服がえらいことになるな」
「わっ!」
既に着ているシャツ背中はボロボロ。それに気付いたジークはシルフィを抱え、ツァーリの頭上を飛び越えて地面に着地した。
「申し訳ございません・・・」
「気にすんな。次は避けれるように頑張ろうな」
「は、はい!」
まるで師匠と弟子が会話しているかのような光景を見て、エステリーナは笑みを浮かべる。
「まったく、あのレベルの敵を相手にしているというのに・・・」
「流石はジークフリード様ですわぁ!」
「むっ、敵が動くぞ」
ツァーリの腕が、まるでロケットランチャーのように変形する。
『ピピ、破壊砲充填』
「おっと、これはちょっと離れてろ、シルフィ」
「分かりました」
腕に集まっていくエネルギーを感じ取り、ジークはシルフィを離れされる。その直後、ツァーリは膨大なエネルギーを一気に放った。
「はあッ!!」
対してジークも腕に魔力を纏い、迫るエネルギー弾を真上に弾き飛ばした。しばらく空に向かって飛び続けたエネルギー弾は、遥か上空で大爆発する。
「へっ、そんなもんかよ」
『ピピピ、破壊砲充填』
「またかよ」
再びツァーリがエネルギーを集め始める。
「ご主人様、ここはお任せを」
「おう、任せる」
そんな時、シルフィが魔力を纏ってジークの前に立った。
「《幻糸展開》」
シルフィが魔力の糸を創り出す。しかし、いつものように糸は目に見えていない。
『破壊砲発射────』
「遅い」
次の瞬間、ツァーリの腕が爆発した。それに続き、ツァーリの装甲がバチバチと音を立て始める。
「何したんだ?」
「極細の糸を腕から中に侵入させたんです。それで、内部にある様々なものに絡めてきつく締め付けました」
「なるほど、それで爆発したのか。流石だな、シルフィ」
「い、いえ、ご主人様程では・・・」
ジークに頭を撫でられ、シルフィは頬を赤らめる。
『ビビ、機体損傷率50%、バーサーカーモードに移行します』
「ん?」
『殲滅開始』
突然ツァーリの姿が消え、ジークは勢いよく吹っ飛んだ。シルフィが顔を上げれば、彼女の目の前にはツァーリが。
「っ、よくも────」
『抹殺抹殺抹殺』
ツァーリがエネルギーを充填する。至近距離で何かが放たれようとしている事に気付き、シルフィは急いでその場から離れようとするが、ツァーリに腕を掴まれる。
「うっ・・・」
『ビビ、焼却』
「させるかぁッ!!!」
しかし、エネルギーを放とうとした瞬間、ツァーリの腕が砕け散り、さらにツァーリは遠くに吹っ飛んだ。
「ふん、お返しだ」
「ご主人様・・・」
「シルフィ、怪我はないか?」
「・・・」
頬を赤らめ、シルフィは自分の前に現れた主人の顔をぽーっと見つめる。しかしジークは彼女から向けられる視線に気付かない。
『ビビビビビビ、損傷率九十7パーせんト。暴走抹殺破壊殲滅蹂躙殺戮崩壊滅亡全滅』
「む・・・?」
『殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺!!!!』
そんな彼らの目の前に、ツァーリが殆ど瞬間移動と変わらない速度で姿を現す。暴走状態に陥ったツァーリは、凄まじいエネルギーを集め始めた。
「めんどくせえ、消し飛ばしてやる」
それに対してジークは取り乱すことなく、ツァーリを空高く蹴り上げる。そして膨大な魔力を腕に纏わせた。
「はあああああ・・・」
「ご主人様、それは・・・」
シルフィが思い出したのは、魔神ベルゼブブとジークの戦い。本気で怒ったジークは、今のように凄まじい魔力を集め、それを解き放ってベルゼブブを消し飛ばしたのだ。
再びシルフィの頬が赤く染まる。
本当に、自分の主人は世界で一番優しく恰好いい男性だと、シルフィは頬を緩めた。
『殺殺殺殺殺殺殺殺殺───────』
「消えろ」
ジークが魔力を一気に放つ。
それは遥か上空に吹っ飛んだツァーリに命中すると、凄まじい音と共に光を放ち、ツァーリを消し飛ばした。




