第百五十六話 時空神クロノス
完全に忘れてたんですけど、昨日でプロローグ投稿から三ヶ月経ちました
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
『ジークさんは、かっこよくて、優しくて、強くて・・・、いつも私を助けてくれて』
『私は、そんなジークさんのことが、大好きです』
潤んだ瞳でそう言ったシオンの姿が頭に浮かぶ。
しかし、今俺の前に居る銀髪の少女は、彼女と同じ顔だが、見れば寒気がする笑みを浮かべている。
『こうやって、ジークさんと一緒に過ごせる日々がずっと続けばいいなって・・・』
夜空を見上げながら、二人で過ごした静かな時間。
これまで彼女と共に過ごしてきた、忘れる事の無い出来事が、頭に浮かんでは消えていく。
「し、シオンさん、何を言っているのですか?」
シルフィが震えながら銀髪の少女に話しかける。
「く、クロノスとか、よく分からない事を言ってご主人様を困らせないで・・・」
「うるさいエルフですね。少し黙ってもらえますか?」
「ひっ・・・」
彼女が冷えた眼差しでシルフィを見つめる。
「クロノス・・・か。はは、なんでだろうな、シオンと喋ってるようにしか思えないんだけど」
「ふふ、間違いではありませんよ。ですが、あれは私が生み出した偽りの人格です」
「それでも、俺は君をシオンとしか思えない」
俺がそう言うと、銀髪の少女・・・クロノスは手のひらを上に向けた。
「貴方との思い出は、きちんと私の中にあります。初めて出会った時のことから、貴方が助けに来てくれたこと、共に夜空を見上げたことまで・・・」
「俺もだ」
「そして、貴方を好きだという気持ちも。しかしそれは、シオン・セレナーデの想い・・・私、クロノスの想いではありません」
「・・・なんで、わざわざ〝シオン〟っていう人格を生み出したんだ?」
時空神クロノス。
それがシオンの本当の姿なのだとしても、なんで人格を生み出すなんて真似をしたのか。
「ジークさん、貴方は狭間の女神アルテリアスを知っていますね?」
「ああ、あいつのおかげで今俺は生きてるからな」
「何千年も前の事です。私とアルテリアスは一度時空の狭間で戦った事があります」
「・・・」
「残念ながら私は負けてしまいましたが、十数年前まで様々な空間を漂いながら、少しづつ魂、肉体の再生を試みていました」
クロノスの腕に魔力が集まっていく。
この場に居る誰よりも強大な魔力・・・、ふと横に視線を向ければ、跪いた状態のリリスさんの身体が僅かに震えているのが見えた。他の魔神達も黙って俺達の様子を伺っている。
「やがて、消えそうになりながらも、私は奇跡的に〝赤ん坊〟として肉体を再生させたのです」
「え・・・」
「魔力が足りず、元の姿を形成出来なかったのです。そして、私は生きる為に人間としての人格を生み出し、そしてクロノスとしての私は深い眠りにつきました」
「・・・」
「それからとある村で人間に拾われ、人間として私は今日まで過ごしてきました。そして今日、ようやく元の姿を取り戻すことが出来たのです・・・、そこにいるリリス・ハートオブウィッチのおかげでね」
リリスさんを見れば、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「彼女は無限に魔力を生み出すことが出来ます。休むこと無く空間に関係する魔力をこの身体に注ぎ込む事で、眠りについていた私の魂を目覚めさせたのです。彼女の魔力は私の持つ魔力によく似ていますからね」
「・・・なあ」
「はい、何でしょうか」
「さっきから色々説明してくれてるのは有難いんだけど、微塵も理解出来ないんだが」
「ふふ、そうですか。つまりシオン・セレナーデは、力を失った私が目覚めるまでの仮の人格・・・というわけです」
魔力が渦巻く。
誰もが恐怖に震えているこの場で、俺だけはいつものように彼女と会話している。
落ち着いてみれば、放たれている魔力は、シオンが風魔法を唱える時に感じたものに、とても似ていることに気付いた。
そもそも、髪以外声も顔も全く一緒なんだ。シオンは偽の人格だーって言われても、そうですかと納得など出来ない。
「さて、お喋りはこのくらいにしておきましょう」
クロノスが魔法を放つ。
蒼く巨大な球体が手のひらから放たれ、天井を破壊した。
「何をしたんだ?」
「ふふ、地上まで続く穴を作りました。まだ魔力が上手くコントロール出来ないので、転移魔法などはあまり使いたくないんです」
「何処に行くんだ?」
「愚かな歴史を終わらせに行きます」
「・・・そうか」
歴史を終わらせる。
なんでそんなことをしようとしているのかは分からない。
そもそも、彼女がアルテリアスと戦った理由も分からない。
でも、俺の気持ちは変わらない。
「クロノス・・・いや、シオン」
「・・・?」
「何処に行こうと、絶対迎えに行くから。無理矢理にでも連れて帰るから・・・だから覚悟しとけよ」
シオンはシオンだ。
優しい彼女に、そんな訳の分からないことなどさせない。
「・・・ふふ、楽しみにしておきます」
最後に彼女は微笑むと、俺の前から姿を消した。
同時にこの場に満ち溢れていた膨大な魔力も消滅する。
「・・・」
恐らく、クロノスは地上に向かった筈だ。
何が始まるのか・・・俺達も急いで戻った方が良さそうだな。
「ジーク・・・」
振り返れば、レヴィが不安そうな表情で俺を見つめていた。
いや、レヴィだけじゃない。全員が同じ表情を浮かべている。
驚きと、悲しみと、絶望が入り交じった・・・そんな表情を。
「皆、下を向いてる場合じゃないぞ」
「え・・・」
「とんでもない事が起ころうとしてる。でも、俺達がやることはただ一つ・・・シオンを取り戻す、それだけだ」
俺がそう言うと、まだ少し表情は暗いが、皆頷いてくれた。
「残念だが、それは無理だ」
突然背後から声が聞こえる。
振り向けば、リリスさんと、他の魔神達が魔力を纏って俺達を睨んでいた。
「クロノス様の邪魔はさせない」
「・・・なら、俺も容赦しないぞ」
ここで決着をつけるべきか。
俺は魔力を解き放ち、戦闘体勢に入る。
「あたしも、本気でいくわ」
「ボクも頑張る・・・!」
「私だって、絶対負けない」
レヴィ、アスモデウス、ルシフェルも魔力を纏って俺の周りに立つ。
「ふっ、覚悟するがいい、ジークフリード。必ずここで葬って────」
「残念ですが、それは不可能です」
「ッッ!!!!!」
そして、戦闘が始まろうとした瞬間、突然リリスさんや魔神達が後方に吹っ飛んだ。
それと同時に、俺の前に見覚えのある人物・・・いや、女神が降り立つ。
「どうも、ジークフリードさん。お久し振りですね」
「はは、よく分からんけど久し振り、アルテリアス」
そう、俺の前で微笑んでいるこの女性は、時空の狭間を管理する、女神アルテリアスだ。




