第十五話 水神の遺跡
俺がシルフィを連れ帰ってから一週間後、俺達は特に何事もなくみんなで依頼をこなしたりしてだらだらと過ごしていた。
シルフィも俺達にかなり心を開いてくれたようで、いつの間にかエステリーナとも仲良くなっていた。
そして、彼女は強かった。
最初は弱かった彼女も戦闘を重ねるうちにどんどん強くなり、ダガーを使った鮮やかな戦闘を得意とする中々いい感じの子になった。
シオンもかなり成長し、いつの間にか俺達は王都で知らない者はいない四人パーティーになった。
そして、今日。
最近全然不幸な事が起こってなかった俺に最大の危機が訪れることになる。
◇ ◇ ◇
「《水神の遺跡》?」
「ああ、カルセア湖と呼ばれる湖に突如現れたらしくてな。ギルド長の命でそこに向かうことになった」
現在俺達はギルドでエステリーナの話を聞いている。
彼女が言った水神の遺跡というのは、どうやら新しく見つかった迷宮のようだ。
「てか、リリスさんが迷宮探索に行け・・・とか言うんだな」
「今回見つかった迷宮はどうやら相当危険な場所のようでな。何組かの冒険者達が例の迷宮に潜ったらしいんだが、全員行方不明になっているそうだ」
「まじか」
「だからギルド長は私に調査に行けと言ったんだ」
なるほどな、確かにエステリーナは強いしそのレベルの迷宮調査には適任だろうな。
「でも、一人じゃさすがに危険すぎないか?」
「む・・・」
「俺も同行するよ」
「し、しかし・・・」
今回の迷宮は相当やばそうだ。
そんな場所にエステリーナ一人で行かせるのはどうかと思うし、やっぱり俺がついて行こう。
「私も行きますよ」
「危険だぞ?」
「大丈夫です」
シオンは表情を変えないが、何を言っても聞かなそうだ。
「シルフィは?」
「ご主人様の護衛は私の役目です」
「そうか。いいよな?エステリーナ」
「・・・ああ、仕方ない」
よし、なら準備を済ませて久々に迷宮探索に向かうとしましょうか。
◇ ◇ ◇
馬車に揺られること一時間、俺達は目的地であるカルセア湖に到着した。普段は水浴びをする人達が沢山いるらしいけど、今日は一人もいない。
まあ、そりゃそうか。
「あ、あれですか・・・」
シオンが湖の真ん中らへんを見ながらそう言う。
「みたいだなぁ」
俺達の視線の先には湖の上に建った遺跡が。結構でかいな。
「で、あっちまでどうやって行くんだ?」
「あれを使うんだ」
そう言ってエステリーナが指さした方には小さなボートが。
「魔導ボートですか」
「うん、あれでまずは遺跡まで向かうとしよう」
まずエステリーナがボートに乗り込んだ。それに続いて俺達もボートに乗る。
「さあ、行こうか」
そして、エステリーナがボートを発進させた。どうやらこれは魔法の力で動くようだ。さすが異世界。
「・・・」
「ご、ご主人様、場所をお変わり致します!」
「いや、大丈夫・・・」
・・・発進してから跳ねた水が俺の顔面に直撃し続けるのは偶然なんだろうか、それとも固有スキルのせいか。
「・・・ついてない」
こりゃあ迷宮に到着する前にべちゃべちゃになりそうだ。
そして、10分程ボートに揺られ、俺達は問題の迷宮前にたどり着いた。うん、でかい。
「こんなものが突然現れたんですね・・・」
シオンが巨大な遺跡を見上げながらそう言った。
「恐らくこの迷宮の難易度はA以上と見て間違いないだろう。ジークがいるから安心だとは思うが、気をつけるように」
「了解です」
さて、早速中に入ってみるとしよう。
俺はデカい扉を押して開けた。中からひんやりした空気が流れ出てくる。
「寒っ!」
まって、超寒い。半袖で来ちゃったよこんちくしょう。
「ご主人様、私の服を・・・」
「いやいや、それは駄目だ」
彼女達も寒いはずだ。それなのに服を借りるなど絶対にやってはいけない。
てか、普段でも駄目ですけどね。
「・・・明るいですね」
「あの結晶のようなものが発光しているようだ」
服を貸す借りるの話をしている俺とシルフィを置いてシオンとエステリーナは既に迷宮の中に入っていた。
「魔物はいないようですね、ご主人様」
「みたいだな」
どうやらこの付近には魔物はいないようだ。だからといって注意を怠ってはならない。
カチッ
「・・・?」
前を歩くシオンの足下から何か音がした。
・・・うん、凄く嫌な予感がするなぁ。
ゴゴゴゴゴゴゴ
足下が揺れ始めた。何か地鳴りみたいなのも聞こえてくるし。
「・・・ああ、ついてない」
その直後、突然左右の壁が開き、そこから大量の水が飛び出してきた。その水は衝突すると俺達に向かって猛スピードで流れてきた。
「あかん、これはあかん」
ほんとにやばい。とりあえず奥目掛けて全力疾走だ!!
俺はシルフィを右腕で抱えると、思いっきり跳躍した。そして一瞬で前方にいたシオンとエステリーナの後ろにたどり着く。やばい、シルフィが気絶しかけてる。
「セクハラじゃないからなぁ!!」
「え、ひゃあ!」
空いた左腕でシオンを抱えると、何か可愛らしい声が聞けた。
「エステリーナ、背中にしがみつけ!」
「え、え?」
「早く!」
「わ、わかった!」
俺の指示を聞いてエステリーナは俺の首に手をまわし、そして体を密着させてきた。
「ぬぐ、絶対離すなよぉぉ!!」
消えろ煩悩消えろ煩悩!!
俺は頭をブンブン振ると、そのまま走り出した。
「きゃあっ、ジークさん、速─────」
「死ぬよりかはマシだぁぁぁ!!」
迫り来る激流から猛ダッシュで逃げる。本気で走ると多分三人ともやばいことになるのでちょっと速めに走ってるだけなんだが、水を引き離すことには成功している。
「おっし、階段だ!」
しばらく走り続けていると、上へと続く階段を見つけた。そこに向かって俺は跳び、そして着地────出来なかった。
「へ─────」
俺が足を置いた瞬間、階段が消滅したのだ。現れたのは深い穴。
「ああ、なるほど。罠か」
「え、きゃあああ!!」
もう誰の悲鳴なのかも分からない。
こりゃ駄目だ。
「・・・続くッ!!」
「何がですかぁぁぁぁ!!」
そして、俺達は深い穴の底に向かって大量の水と共に墜落したのだった。




