表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/293

第百五十一話 出会えて良かった

「はッ!!」


魔剣を握り、それを振るう。


「だあッ!!」


群がってくる魔物達を、一撃で葬っていく。


「はぁ、はぁ・・・」


ただひたすらそれを繰り返し続け、一体どれ程の時間が経過したのだろうか。空を見上げれば、一面を星が埋め尽くしていた。


「はぁー・・・」


アスモデウスは魔剣を消し、とある山の頂上で大の字に倒れ込む。


「・・・」


魔界に居た頃は、一度も見た事が無かった夜空。

それはとても美しく、幻想的であった。


「リリス姉・・・」


ぽつりと呟く。今頃姉は、何処で何をしているのだろうか。同じように夜空を眺めているのだろうか。


「おーい、そこに寝転んでるの、アスモデウスだよな?」

「っ!?」


そんな時、突然名前を呼ばれて彼女は上体を起こした。


「・・・ジークフリード?」

「よう、何してんだ?」


軽く手を振りながら、ジークがアスモデウスのもとに歩いていく。


「な、なんでここに・・・」

「最近よくここに来てるんだろ?なかなか帰ってこないから、何してるんだろうと思ってな」

「別に、何もしてないわよ」


再び寝転がり、夜空を眺める。


「ねえ、ジークフリード」

「ん?」

「星って、とても綺麗ね」

「ああ、同感だ」


そして、ジークも彼女の隣に寝転がった。


「レヴィアタンはまだ魔力サーチをしてるの?」

「いや、流石に疲れたみたいだから、今日はもう切り上げた」

「そう・・・」

「早く助けてやりたいんだけどな」


そう言って、ジークはあることを思い出した。


「なあ、アスモデウス」

「何よ」

「寒いの苦手なんじゃなかったのか?」


以前魔界から王都に戻る時、彼女が言っていたことだ。

今も気温はかなり低く、二人が吐く息は白い。


「運動したから丁度いい気温よ」

「そうか。でも、風邪引くかもしれないから、そろそろ帰ってこいよ」


ジークが立ち上がる。


「ねえ・・・」


そんな彼に、アスモデウスが声をかけた。


「ん?」

「リリス姉は、なんであんなことしたのかな」


それを聞き、ジークの表情が曇る。


「人間に復讐しようとしてるのかな。人間と魔族が手を取り合えることを信じてるって言ったのはリリス姉なのに」

「アスモデウス・・・」

「でも、あたしも前はリリス姉と同じだったよね」

「え?」

「力を手に入れて、人間に復讐しようって。全部あたしが支配してやろうって、思ってたから・・・」


最初、アスモデウスがジークに近付いたのはそれが理由だった。魔神を何人も倒していたジークさえ始末すれば、楽に人間達を支配出来ると考えていたのだ。


しかし、彼女は負けた。

どれだけ魔法を放とうが、ジークの心を支配することは出来なかった。


「でも、最近はもうそんなこと思わなくなったの。あんた達を見ているとね」

「・・・」

「こんな人間達もいるんだなって、そう思えたから・・・」


アスモデウスは立ち上がり、ジークの瞳を真っ直ぐ見つめる。


「あたしが変われたのは、あんたのおかげよ。これでも一応感謝してるんだからね」

「・・・はは、なんか驚いたな」

「ふふ、あたしも。まさか人間の、しかも男に向かって感謝することになるなんて」


そう言って笑みを浮かべる彼女を見て、ジークの心臓がドクンと波打つ。


「ありがとう、ジークフリード。あんたに出会えて良かった」


さらにそんなことを言われ、ジークの顔が赤くなる。

超が付く程の美少女に、微笑みながらそんなことを言われれば、誰だって照れてしまうものだ。


「・・・」


一方アスモデウスは、とても不思議な感覚に陥っていた。何故か今日は伝えたい事をきちんと伝えられている。

いつもなら恥ずかしさが勝り、ついキツい言葉を浴びせてしまうのだが、どうしてなのだろうか。


「俺だって、お前に出会えて良かったと思ってる」

「え・・・」

「ちょっと怒りっぽいけど、意外と優しくて、姉思いなところとか、良いところもいっぱいあるしな」


そう言ってジークがアスモデウスの頭を撫でる。


「・・・嬉しい」

「ん?」

「あたしのこと、ちゃんと見てくれてるのね」


そして彼女は、自分の想いを自覚した。


「そりゃあ当然だろ。アスモデウスは俺の大切な仲間────」


その先を言おうとした時、突然唇に指を当てられ、ジークは目を見開く。


「もう、変な意地を張るのはやめる」

「・・・!?」

「最初から素直になればよかったんだ」

「ちょ、どうし────」


再びジークの言葉が途切れる。


「ッ〜〜〜〜〜〜!?」


アスモデウスが、ジークにキスをしたのだ。それも、エステリーナやレヴィ達がジークにしたものとは比べ物にならない程激しく。


「んっ、ふぅ・・・」

「どわあああッ!!!!」


何秒経過したのだろうか。アスモデウスが顔を離した瞬間に、ジークは彼女から距離をとった。


「な、なななな何をッ!?」


そして、自分の唇に手を当て、かつてないほど顔が赤くなっているジークは混乱状態に陥った。

一体自分は、彼女に何をされたというのか。


「ふふ、あたしは今のがファーストキスだけど」

「キ、キキ、キスッ!?なんで!?」


あまりいい印象を持たれていないと思っていた。

なのに何故、自分はキスされたのだろう。それは鈍いジークには分からない。


「え、ちょ、なんで!?しかもなんか魔力跳ね上がってるし・・・!!」


そう言われ、アスモデウスは自分の変化に気が付いた。

確かに、力が前とは比べ物にならない程上昇している。


「そう、なのね。これが色欲の魔力・・・」


胸に手を当ててそっと目を閉じる。

以前から、ジークが他の女性と仲良さげに会話しているのを見ると、胸が苦しくなった。

それは、彼に恋をしていたから。そして、それを自覚した彼女は、初めて異性に対して欲を抱いた。


自身が司る罪を、彼女は初めて実感する。

瞳に映る彼に触れたい、触れられたいという衝動が全身を駆け巡る。


「シオンを助けたら、あたしもライバルよって伝えなくちゃ」

「え・・・?」

「ふふ、何でもないわよ」


しかしアスモデウスは、湧き上がる欲を完全に抑え込み、楽しげに駆け出した。


「ほら、帰りましょ。風邪引いちゃうわよ」

「え、あ、おう・・・」


そして、まだ感触が残っている唇にもう一度触れた後、ジークは彼女のあとを追って歩き始めた。

簡単な人物紹介


【マンモン】

・年齢不明

・身長177cm

・体重74kg

・好きなもの、こと

強いヤツとの勝負

・嫌いなもの、こと

つまらない勝負

・魔法

強欲の禁忌魔法

・初登場

第百二十三話


強欲の罪を司る魔神。ジークから筋力を、レヴィから魔力を、ルシフェルから敏捷を奪い、彼らを絶体絶命の危機に陥らせたが、止めを刺す前に突然魔力が消滅し、勝利目前でジークに敗北した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ