第百五十話 日常を取り戻す為に
「・・・」
空を見上げる。
もう既に夜が明けて、この世界に来てから何度目か分からない朝を迎えた。
「・・・」
黙って視線を下におろせば、崩れた建物や抉れた地面が視界に映る。現在俺は王都を囲んでいる壁の上に座り、あの時のことを後悔していた。
『それでは、また後で』
『ああ、気をつけてな!』
なんであの時一緒に行動しなかったのだろうか。
俺がシオンだけ先に行かせたから、シオンは・・・。
「俺のせいだ・・・」
もっと早くに家に戻っていたら。
東に向かう前にシオンの所にいっていたら。
『朝になったら何処かに遊びに行きませんか?』
彼女の声が頭に響く。
もう朝だ。もう出掛けることなんか────
「・・・いや、馬鹿か俺は」
後悔したところで何になる。
今頃シオンは何処かで目を覚まして、とても怖い思いをしてるかもしれない。
それなのに、俺はここでずっと後悔し続けるのか?
『今の内に、沢山思い出を残しておきたいんです』
今だけじゃない。
これからもずっと、思い出を作り続けるんだ。
「こんなとこで、立ち止まってられねえよな」
必ず取り戻してみせる。
俺達の日常を、絶対に・・・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「皆、頼む」
俺の家に集まったみんなの前で、俺は頭を下げる。
「シオンを取り戻す為に、皆の力を貸してくれ」
敵はこれまでとは比べ物にならないぐらいの強さだ。魔神四人を引き連れる、最強の敵。俺だけじゃ絶対に勝つ事など出来ないだろう。
だから、皆の力が必要なのだ。
「ジーク、頭を上げろ」
そんな時、エステリーナの声が聞こえた。
俺はそれに従って顔を上げる。
「そんなことを言われなくても、私は手を貸すぞ。友を、家族を取り戻す為ならどんなことでもしてみせよう」
「エステリーナ・・・」
「ご主人様、私もです」
そして、シルフィが真剣な表情で俺を見つめてくる。
「シオンさんは、私の大切な家族ですから」
「もちろんボクも協力するよ。シオンは恋のライバルだからね、まだまだ競い合わなくちゃ」
先程の戦闘で負傷したレヴィは腕にギプスを付けているが、もう片方の腕で拳を握りながらそう言う。
「私だって。短い期間だったけど、シオンちゃんは私を家族として迎え入れてくれたから」
様々な箇所に包帯を巻いているルシフェルも、どうやら決意は固いようだ。
「・・・」
「アスモデウス・・・」
ふと視線を横に向ければ、アスモデウスが俯いていた。
彼女の姉、リリスさんが全ての黒幕だったのだ。妹のアスモデウスには相当堪えただろう。
「・・・あたしも戦う」
しかし、アスモデウスは覚悟を決めた表情で俺に顔を向けてきた。
「たとえ相手がリリス姉でも、最後まで戦ってみせる」
「・・・そうか」
全員気持ちは同じみたいだな。
なら、もう下なんて向いている場合じゃない。
「後悔なんて後でいくらでも出来る。今はとにかく行動あるのみだ。この戦い、絶対勝つぞ」
「「「おおっ!!」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「レヴィ様ぁぁ!!ご無事ですか・・・どうしたのですかその腕はッ!?」
「大丈夫だよ、折れただけだから」
「お、折れた・・・!?」
あの後、俺はレヴィと共に壁の上に立ち、彼女に魔力サーチでシオンの魔力を探ってもらっていたのだが、そんな時にキュラーが飛んできた。
「申し訳ございませんでしたッ!!私が魔界に戻っている間にこのような事が起こってしまうとは・・・!!」
「別にいいって、気にすることないよ」
「れ、レヴィ様・・・」
「まあ、責任を感じてるのなら、ボク達に協力してくれるよね?」
「もちろんです!!」
「うん、ありがと」
そう言ってレヴィがこっちを向き、親指を立てる。
うーん、やっぱりキュラーの扱い方をマスターしてるみたいだ。
「おいジークフリード、貴様ちゃんと責任を感じているのだろうな」
「感じてるに決まってんだろうが」
「ふん、ならいい。今回はレヴィ様の為、貴様らに協力してやろう」
「ああ、頼むぜ」
よし、これで結構戦力は整ってきたな。
イツキさんも当然協力してくれるらしいし、王国騎士団も残った騎士達が全面的に力を貸してくれるという。
まだリリスさんのことは言っていないけど、確かロキさんはリリスさんと仲良かったはず。伝えづらいけどいつかは言わなきゃならないな。
「はぁ、ごめん、ちょっと休憩するね」
そう言ってレヴィが座り込む。先程からずっと魔力サーチで力を使ってるから疲れたみたいだ。
「ごめんな、頼りっぱなしで」
「ううん、気にしないで」
そう言って笑うレヴィは、出会った頃とは随分変わったと思う。
強いヤツと戦うことしか考えてなかった女の子が、仲間の為にこんなにも力を貸してくれてるんだから。
「え、ど、どうしたの?」
「あ、いや、無意識に手が・・・」
気が付いたら俺はレヴィの頭を撫でていた。
まあ、顔が真っ赤になってるあたり、嫌がられてはいないようだ。
「貴様ッ!!レヴィ様に触るな!!」
「ぼ、ボクはもっと触ってほしいんだけどなぁ・・・」
「レヴィ様、何を言っているのですか!!」
・・・とりあえずキュラーがうざいうるさい鬱陶しい。
「・・・ジーク」
「ん?」
「笑顔が大切だよ、笑顔」
「え・・・?」
突然レヴィにそんなことを言われた。
「ずっと難しい顔してるけど、シオンはきっと笑顔で迎えに来てほしいと思ってるはずだよ」
「レヴィ・・・」
「だから、その・・・」
・・・そうか、笑顔か。
「はは、そうだよな。ありがとうレヴィ」
「はうっ!?」
「なんか今日はレヴィがお姉さんみたいだなぁー」
座っているレヴィを持ち上げ、膝の上に乗せる。まあ、子供と戯れてるみたいな感じに思って欲しい。
「貴様ァァァァァァァッッ!!!!!」
当然キュラーは怒鳴り散らしてるけど、無視しよう。
「・・・頑張ろうね、ジーク」
膝の上に座っているレヴィがそう言う。
「ああ、頑張ろう」
そよ風が吹く中、俺は静かに頷いた。
簡単な人物紹介
【ベルゼブブ】
・年齢不明
・身長167cm
・体重 ものを食べると変化する
・好きなもの、こと
食事、戦闘
・嫌いなもの、こと
まずい人間
・魔法
暴食の禁忌魔法
・初登場
第百二話
暴食の罪を司る魔神。かつてシルフィの故郷を襲撃し、彼女の母を捕食した。そして、その時にわざと生かしておいたシルフィを使い、エルフ族の子を産ませ続ける為の道具にしようとしたが、本気でキレたジークの一撃を受けて消滅した。




