第百四十八話 真実
「あれは・・・!」
シーナ、ラグナとの戦闘を終え、南へと向かったジークとアスモデウスは、地面に倒れるルシフェルと、彼女に剣を振り下ろそうとしている黒髪の男を見つけた。
「っ、やめろ!!」
ジークはアスモデウスを地面に降ろし、黒髪の男に殴りかかった。しかし男は慌てることなくジークの拳を受け止める。
「この野郎ッ!!」
しかし、ジークが放った蹴りを受け、男は後方に吹っ飛ぶ。その隙にジークは倒れるルシフェルに声をかける。
「ルシフェル、しっかり・・・」
しゃがみ込んで彼女に触れた時、彼の手は生暖かい液体に触れた。よく見えないが、それが大量の血だということはすぐに分かる。
「くっ、お前、ルシフェルに何しやがった!!」
「ククッ、そいつが俺より弱かったというだけだ」
「あ?」
「貴様もだ、ジークフリード。誰も俺に勝つ事など出来んのだよ!!」
そう言って男・・・ウルスは笑う。そんな彼を見ている時、ジークはウルスの背から漆黒の翼が生えていることに気付いた。
「お前・・・堕天使なのか?」
「そうだ、そして俺は───」
ウルスが剣を掲げる。
「《傲慢》の罪を司る魔神ウルスだッ!!!」
次の瞬間、凄まじい重圧がジークを襲った。それはかつて、アビスカリバーと戦った時にも味わった重み。
「これは、禁忌魔法か・・・!」
「さあ、俺を楽しませてみろ────」
しかし、ジークに斬りかかろうとしたところでウルスは動きを止めた。そして王都に顔を向ける。
「・・・こんな時に」
「あ?」
「残念だが、ここまでのようだ」
そう言ってウルスが剣を下ろし、転移魔法を唱える。
「お前もかよ・・・!!」
「そこで無様に転がっている女に伝えておけ。次こそは必ず息の根を止めてやる・・・とな」
「んだとてめえ!!」
ジークが拳を握る。しかし、ウルスは見下すような笑みを浮かべ、その場から姿を消した。
「くそっ、どういうことだよ」
何故魔神達は逃走を始めたのか。
いや、そもそも魔神達は本当に逃走したのだろうか。
「ぅ・・・、ジークさん?」
「っ、ルシフェル!!」
そんな時、背後から声が聞こえてジークは振り返る。
「ウルスは・・・何処に・・・」
「あいつは転移魔法で何処かに行った。それよりも大丈夫なのか!?」
「うん、大丈夫・・・。咄嗟に回復魔法を使ったから・・・」
そう言うルシフェルの傷は、確かに少し塞がっている。しかし重症には変わりない。
「悪い、アスモデウス。ここからは自分で走ってくれ」
「え、あ、うん」
「よっと・・・」
先程アスモデウスにしたように、ジークはルシフェルをお姫様抱っこした。彼女の傷は胸の辺りから腹部にまで及んでいる。その状態の彼女をおんぶしてしまうと、きっと傷が痛む筈だ。それならばこうやって運んだ方が良いはずである。
「さて、とりあえず王都に────」
そして一旦王都に戻ろうとした時、王都内部で爆発が起こった。
「この魔力・・・レヴィだ」
感じる膨大な魔力は二つ。そのうち一つはレヴィのものだ。
「まさか、中で戦ってんのか!?」
「い、急いで行ったほうがよさそう・・・だね」
「ああ、いくぞ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「おいおい、まじかよ・・・」
王都西地区。
そこに足を踏み入れたジーク達は、ほぼ壊滅状態に陥っている街を見て衝撃を受けた。どれ程の力がぶつかり合えば、このような惨状になるのだろうか。
「ジークさん、あれ・・・」
「レヴィか!?」
そして、彼らは向こうの方で座り込んでいるレヴィを見つけた。
「良かった、無事だったか!」
「・・・ジーク?」
レヴィはジークの声が聞こえると笑顔で立ち上がる。しかしいつものように抱きついたりはしなかった。
そんな彼女を見て、アスモデウスがあることに気付く。
「ちょ、あんた、腕折れてんじゃないの?」
「もーっ、わざと黙ってたのに」
レヴィの右腕は腫れ上がり、ダラリと垂れ下がっている。
「ジークが心配するから────」
「腕が折れてるだと!?」
「言わんこっちゃない・・・」
やれやれといった表情を浮かべ、レヴィはジークから少し距離をとった。
「大丈夫、大丈夫だから!」
「腕折れたのに大丈夫なわけないだろ!!」
「ほ、ほんとに大丈夫だって!」
ジークに顔を近付けられ、レヴィの顔が真っ赤になる。
普段は自分から抱きついたりしているが、ジークの方から迫られたりすると恥ずかしがってしまうのだ。
「そうだ、アンリカルナは!?」
「え、ああ、急に転移魔法を使ってどっかに行ったよ。もう少しで殺せるところだったのにっ・・・!」
レヴィが悔しそうにそう言った。
そしてこれで、全ての魔神が転移魔法で何処かへと姿を消したことになる。
「ご主人様!!」
「ジーク、無事か!?」
「シルフィ、エステリーナも」
そんな時、向こうの方からシルフィとエステリーナが駆け付けた。
「ま、魔神は倒せたのですか?」
「いや、全員逃げやがった」
本当に何が目的だったのだろうか。
「ってあれ、シオンとイツキさんは?」
「兄上ならギルドに向かっているが・・・」
「シオンさんはどれだけ捜しても見つかりませんでした」
「なっ・・・!?」
「もしかしたら、市民達と避難しているのかもしれませんけど・・・」
「けど・・・あっ、そうだ!レヴィ、悪いけど」
「魔力サーチだね」
レヴィは頷き、残った魔力を解き放つ。
そして数秒後、不思議そうな表情を浮かべた。
「・・・ギルドにいる」
「え?」
「シオンはギルドにいるよ。それにエステリーナのお兄さんも。けど、それだけじゃない・・・」
「どういうことだ?」
「ギルドに、ボクに妙な魔法をかけた黒フードが居る」
「・・・え」
黒フード。
それは、レヴィとアンリカルナの戦いに乱入し、レヴィの嫉妬の感情を暴走させた謎の人物。
何故それがギルドに居るのだろうか。
「ちょっと待て、なんでシオンとそのフード野郎が一緒に居るんだ・・・?」
「これは、急いだほうがいいかも」
「くそっ!!」
考えるよりも先に身体が動く。
ジークは勢いよく地を蹴り、ギルドがある方向へと跳躍した。
「ボク達も行こう!」
「了解だ」
そして少し遅れて、レヴィ達もギルドに向かって走り出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「無事で居てくれ・・・!!」
焦る気持ちを抑えながら、ジークはギルドの扉を開けた。そして中に駆け込むと、膝をついているイツキさんが視界に映り込む。
「イツキさん!!」
「ぐっ、ジークか・・・」
イツキの身体はボロボロだった。あらゆる場所が切れ、血が流れ出ている。
「一体何が・・・」
「あら、ジーク君じゃない。もう寝ろって言った筈だけど」
そんな時、突然名前を呼ばれてジークは顔を上げた。
「・・・リリスさん?」
彼の視線の先には、カウンターに座るリリスが。
そして彼女の背後には────
「え、シオン・・・?」
光る球体のようなものの中に閉じ込められているシオンが居た。
「おいシオン、しっかりしろ!!」
「ふふ、無駄よ。もう意識を失っているから」
「は・・・?」
「もう君がこの子に触れることは出来ないわ」
「な、何言って・・・」
「なるほど、そういうことだったんだね・・・」
突然背後から声が聞こえる。
いつの間にかギルドには、レヴィやエステリーナ達も到着していた。
「れ、レヴィ、どういうことだよ」
「・・・」
「おいレヴィ」
しかしレヴィは言葉を発しない。やがて彼女はリリスを睨みつけると魔力を纏った。
「まだ分からないの?」
冷え切った声でレヴィにそう言われ、ジークの頭にある可能性が浮かび上がる。
「まさか・・・」
「ふふふふふ・・・」
リリスがふわりと浮き上がる。
「そのまさかだ、ジークフリード」
そして次の瞬間、凄まじい魔力が解き放たれた。
これまで感じたことの無い圧倒的な魔力を身に浴び、ジークの身体が僅かに震える。
「この姿を見せるのは初めてだな」
桃色の髪は黒く染まり、漆黒のコートがその身を包む。
「嘘・・・だろ・・・」
もうそこに、ギルド長としてのリリスは居なかった。
「我が名はリリス、リリス・ハートオブウィッチ。さあ、ジークフリードよ、お前は本当に大切なものを守ることが出来るか?」
簡単な人物紹介
【ベルフェゴール】
・年齢不明
・身長174cm
・体重 72kg
・好きなもの、こと
昼寝
・嫌いなもの、こと
眠りを妨げられること
・魔法
幻属性魔法、怠惰の禁忌魔法
・初登場
第三十八話
怠惰の罪を司る、絶界の十二魔神の一人。
一定範囲内の時間の流れを遅くする禁忌魔法を操り、シオン達を苦しめた相手だが、本気になったジークと嫉妬の力を完全に引き出したレヴィに敗北した。




