第百四十六話 フードの人物
「あ、兄上、あれは・・・!」
「チッ、一体何処から入り込んだんだ!」
各地で戦闘が始まった頃、市民の避難を手伝っていたエステリーナ達は、突然姿を現した魔物達に驚き足を止めた。
「とにかく倒してしまいましょう」
そう言ってシルフィが魔物の群れに駆けていく。
「《幻糸展開》!!」
放たれた糸は魔物達に絡みつき、動きを完全に封じ込める。さらに動けば動くほど糸が身体に食い込み、その箇所から血が流れ出る。
「エステリーナさん!」
「ああ、任せろ!!」
さらにエステリーナが身動きのとれない魔物達に向かって炎を放つ。
「《炎をもたらす魔剣》」
そして、そこにイツキの炎も合わさり、魔物達は跡形もなく消滅した。
「ふう、なんとかなったか」
「急がねばならんな。他の地区にも魔物が侵入しているかもしれん」
「そうだな。行こうシルフィ」
「ええ・・・」
シルフィは周囲を見渡し、一人の少女の姿を思い浮かべた。
何処を捜してもシオンが居ない。
ジークは、彼女は先に市民の避難を手伝っていると言っていた。しかし見つからないのだ。もしかしたら、魔物に襲われてしまったのかもしれない。
そう考える度に寒気がする。
「ううん、きっと無事ですよね」
そうであると信じ、シルフィはエステリーナ達のあとを追った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
少し戻り、シオンとジークが別れた直後。
シオンは周辺に住む人々を避難場所に誘導していた。
「皆さん、落ち着いて行動してください!!」
そう声を張り上げる。普段は大人しい彼女だが、今は恥ずかしがっている場合ではない。
「きゃああっ!」
「ま、魔物だぁ!!」
「え・・・」
そんな時、突然向こうの方からそんな声が聞こえた。
こんな場所にまで魔物が入り込んできているというのか。
「くっ・・・!」
シオンは一旦その場から離れ、声が聞こえた方へと走った。
「ガルルルルル!!」
「ひいいい!」
「っ、ウインドスピア!!」
家の角を曲がった時、狼のような魔物に襲われている男性を見つけ、シオンは風魔法を放つ。それはまるで槍の如く、魔物の身体を貫いた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ、助かったよ」
腰を抜かしている男性に手を差し伸べ、立ち上がらせる。そしてシオンは避難中の人達がいる場所を的確に伝え、別の場所へと足を運んだ。
ズドオオオオオオン!!!!
「っ!?」
突然凄まじい音が鳴り響き、足元がグラグラと揺れた。遠くを見れば、東の方から煙が上がっているのが月明かりのおかげで確認出来る。
まるで戦争だ。
皆が寝静まった時間に四方向からの奇襲。騎士団の人達やジーク達が戦っている筈だが、一体どれ程の被害が出たのだろうか。
「・・・私だって、やれることをやらなくちゃ」
そう呟き、シオンが後ろを振り返る。
「ふっ、見つけたぞ・・・シオン・セレナーデ」
「ッ─────」
一体いつ現れたのだろうか。
彼女の後ろには、黒いフードを被った人物が佇んていた。
「だ、誰ですか!!」
「そう警戒するな」
「このっ・・・!!」
シオンは本能でこの人物が敵であることを理解し、風魔法を放った。しかしフードの人物が軽く手を振ると、魔法は突然消滅する。
「なっ・・・」
「大人しくしろ。手荒な真似はしたくはない」
「《山崩しの暴風》!!」
上位風魔法を唱えると、発生した竜巻がフードの人物を呑み込む。しかし数秒後、荒れ狂う暴風は一瞬で消し飛ばされた。
「そ、そんな・・・」
シオンは悟る。目の前にいる人物と自分の実力差を。自分程度では絶対に敵わないと。
「・・・それでも」
目の前にいる人物が敵なのならば、逃げるわけにはいかない。
「・・・まだ抵抗しようというのか」
「《破壊嵐》!!」
ありったけの魔力を込め、魔法を放つ。
しかしフードの人物は、あらゆるものを砕く嵐の中を平然と歩き始める。
「もう別れは済ませているか?」
そして、
「え────」
シオンは見た。
目の前まで歩を進めてきた人物の顔を。
「な、なんで・・・どうして───」
そこでシオンの意識は途切れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
王都南────
「ハーーーハッハッハッハ!!!その程度かルシフェルよ!!」
「くっ・・・」
圧倒的な力の差で、ルシフェルは追い詰められていた。
太股を深く切り裂かれ、激痛に耐えながら膝をつく。敏捷はルシフェルの方が上だが、ウルスが剣を振るうだけで簡単に弾き飛ばされ、近づく事さえままならない。
「どうして・・・」
「ん?」
「どうして、大天使の貴方がここに居るのっ・・・!!」
そう言われ、ウルスは空を見上げる。
「自ら堕天したのだ」
「え・・・」
「元々あのような場所に居るつもりもなかったからな」
そして、ウルスが剣の切っ先をルシフェルに向ける。
「もし、俺と共に天界を滅ぼすと言うのなら、殺さないでおいてやるが・・・」
「なんでそんなこと・・・」
「さあ、貴様はどちらを選ぶ?生き残る為に故郷を滅ぼすか、故郷を守る為に命を散らすか」
ルシフェルは震えた。
元天使が天界を滅ぼそうというのだ。天界には数え切れない程の天使達と、彼らを束ねる大天使が居る。
そんな場所に攻め込めば、魔神であろうと無事では済まない。
「そんなこと・・・させない!!」
勢いよく立ち上がり、翼を羽ばたかせてルシフェルがウルスに斬りかかる。不意をつかれたウルスは、驚きつつも聖剣を受け止め、そして。
「そうか、残念だ」
ウルスが放った一撃はルシフェルの聖剣を砕き、彼女の身体を深々と切り裂いた。
簡単な人物紹介
【クラウン・ラフスキー】
・年齢17歳
・身長176cm
・体重 73kg
・好きなもの、こと
槍の手入れ
・嫌いなもの、こと
暑い場所
・魔法
現在不明
・初登場
第四十四話
アカリ、ガルムとパーティーを組んでいるお調子者な少年。槍を扱い、アカリとの連携攻撃が得意。




