第百四十四話 運命の日
「あ、日付変わった・・・」
なんとなく時計を見ると、丁度日付が変わるタイミングだった。けど、こんな時間なのに何故か全く眠くならない。
「すぅ・・・」
「気持ちよさそうに寝てるなぁ・・・」
そんな俺の隣では、いつものように布団に潜り込んできたレヴィがぐっすりと眠っている。そんな彼女の頭を撫でた後、俺は立ち上がって近くに置いてあったコートを羽織った。
「ちょっと散歩でもするか」
寒いけど、いい暇潰しにはなるだろう。
そう思って俺は外に出た。
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「くぁー、さみぃ・・・」
やっぱり外は寒かった。
この前手袋とマフラー買っといてよかったよマジで。
そして雪を踏みしめながら歩く。相変わらず雪は降り続けており、当分やむことはないだろう。
「あら、ジーク君じゃない」
「え・・・」
そんな時、突然上から声が聞こえた。顔を上げればギルドの屋根の上に一人の女性が座っているのが見える。
って、いつの間にかギルドの前まで歩いてきてたのか。
「こんな時間に何してるのかしら?まさか夜中に出歩いている少女達を・・・」
「何言ってんですか。そっちこそそんな所で何を?リリスさん」
屋根の上に居たのは、王都ギルド長であるリリスさん。彼女はヒラヒラと手を振ると、俺の前に飛び降りてきた。
「ま、寝れなかったから星を見てただけよ」
「ふーん、星好きなんですか?」
「別に好きじゃないけど、何となくよ」
ふむ・・・。なんかリリスさんってすぐ寝るイメージがあるんだけど、意外とこんな時間まで起きてたりするんだな。
「・・・もうすぐこの星も見られなくなるかもしれないしね」
「え?」
「ふふ、何でもないわ」
なんだろ、今日のリリスさんはいつもと少しだけ雰囲気とかが違う気がする。
「最近物騒なんだから、帰ったら早く寝なさいよ?少年」
「物騒・・・ですか。もしかして新しく現れた魔神達のことだったり?」
「ええ、まだ王都には現れていないけど、一応警戒しておくことね。取り返しのつかないことになるかもしれないわよ?」
「そんな不穏な事を・・・」
「もしその時が来たら、本当に大切なものを失わないように、後悔しないように全力を尽くしなさい」
「リリスさん・・・今日どうしたんですか?」
そんな事言う人じゃないのに、この人。
酔っ払ってんじゃないのか?
「・・・さーて、ちょっと今からする事があるから中に戻るわ」
「え、あ、そうですか」
「じゃあねー」
そして、リリスさんはギルドの中に入っていった。
うーん、なんかよく分からないけど、さっきの言葉は心の中にしっかりと仕舞っておこう。
「さて、そろそろ帰るか・・・」
ちょっとだけ眠くなってきた。今から帰ればぐっすり寝れそうだ。俺は家に向かって再び歩き始めた。
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「・・・ん?」
しばらく歩き続け、ようやく家の近くに到着した時、家の前の階段に誰かが座っているのか見えた。
まって、怖いんだけど。こんな夜中に誰ですか・・・?
「って、シオンか」
「あ、ジークさん・・・」
そこに居たのはシオンだった。
危ない危ない、もうちょいでこの不審者め!!って叫んじゃうところだったぜ。
「シオンも寝れないのか?」
「なんというか、目が覚めちゃいまして・・・」
「そうか」
なんでだろ。今日の夜はよく誰かに会うな。
「隣いいか?」
「ええ、どうぞ」
とりあえず俺はシオンの隣に座り、なんとなく空を見上げる。うーん、やっぱり星が綺麗なんだよなぁ。
「・・・」
地球と同じように、星座とかあるんだろうか。残念ながら俺は星に関する知識が全然無いので、どれがなんて名前の星なのか分からない。
けど、あの星とあの星を繋げたらオリオン座みたいな形になるんだけど・・・ん?
「どうかしたか?」
「あ、いえ・・・」
ふと視線を横に向ければ、シオンが俺をじっと見ていた。
「こうやって、ジークさんと一緒に過ごせる日々がずっと続けばいいなって・・・」
「はは、それは俺も思ってるよ」
「そうですか、嬉しいです」
そう言ってシオンが微笑む。
「でも、いつになったら告白の返事をしてくれるんでしょう」
「うぐっ、本当に申し訳ない・・・」
「私は今すぐにでも返して欲しいんですけどね」
「すみません・・・」
確かに、いつまで返事を先延ばしにしてるんだって話だ。
レヴィもシルフィも、文句も言わずにずっと待っていてくれている。
でも、多分俺は恐れているんだろう。
もし誰か一人を選んでしまったら、俺達の関係はどう変化してしまうのだろうか・・・と。
「本当にモテモテですもんね、ジークさんは」
「い、いやぁ・・・」
「一番最初にジークさんのことを好きになったのは、私なんですけどね」
むむ・・・。
そんなことを言われると、かなり照れるしなんか恥ずかしい。本当に俺のことを好きでいてくれてるんだな・・・。
「ふふ、告白の返事はまだ先でいいです。その代わり、朝になったら何処かに遊びに行きませんか?」
「え?」
「今の内に、沢山思い出を残しておきたいんです」
「思い出か・・・そうだな、遊ぶか」
告白はまだでいいと言われたことに少しだけホッとする。
けど、何故か今シオンが言った言葉が頭から離れない。
『今の内に、沢山思い出を残しておきたいんです』
なんでそんな、もうすぐ会えなくなってしまうみたいな言い方をしたんだろうか。
「ジークさん」
「え、ああ、どうした?」
「これからも、ずっとずっと傍に居てくださいね」
・・・そんなの、当然だ。
「ああ。どんな事があっても、俺は必ずシオンの傍に────」
その直後、凄まじい爆発音と共に、突然地面が激しく揺れた。
「っ・・・!?」
同時に四方向から膨大な魔力が放たれる。
さらに敵襲来の鐘が鳴り響いた。
「じ、ジークさん・・・」
「くっそ!!」
なんでこんなタイミングで来るんだよ!
とにかく、皆を起こさないと・・・!
「ジークさん、住民の皆さんを起こしましょう!」
「ああ、分かった」
まだこんな時間帯、鐘の音に気付かずに眠っている人は大勢居るはずだ。一刻も早く全員避難させないと。
「それでは、また後で」
「ああ、気をつけてな!」
住民を起こしに走っていったシオンを見送り、俺は自宅に駆け込んだ。
「全員起きろ!!敵が来たぞ!!」
そう叫ぶと、まずシルフィが階段を駆け下りてきた。
「ご、ご主人様、無事ですか!?」
「ああ、無事だ。けどちょっとやばいぞ、四方向から同時に敵が来てる」
「そんな・・・」
「ジークさん!」
「ジーク!」
「ちょ、どうしたのよ・・・!」
そして、ルシフェルとレヴィ、アスモデウスも起きてきた。
とりあえず三人にも状況を説明する。
「この魔力・・・アンリカルナだ」
「北から感じるのはあのボサ髪女の魔力ね」
「まじか」
てことは、他の二つの魔力も違う魔神のものってことか・・・!
「ジーク!!」
そんな時、突然玄関の扉が勢いよく開き、エステリーナとイツキさんが中に駆け込んできた。
「ふむ、どうやら状況は把握しているようだな」
そしてイツキさんが俺達を見渡し、そう言う。
「とにかく、四方向から来てる魔神をなんとかしなきゃならない。悪いけど、戦ってくれるか・・・?」
「もっちろん!ボクは西に居るアンリカルナの方に行くよ」
「あたしはあのボサ髪女の相手をするわ」
「じゃあ私は南に行くね」
「なら俺は東だな。シルフィはエステリーナ、イツキさんと一緒に住民を避難させてくれ。先にシオンが避難を手伝ってるから」
「了解です」
「わかった、気をつけてな」
よし、決まりだ。
「全員で無事に朝を迎えよう!いくぞ・・・!」
「「「おおっ!!」」」
そして、俺達は外に飛び出し、それぞれの持ち場に向かって散った。そんな中、俺は東に向かいながらあることを思い出す。
『一応警戒しておくことね。取り返しのつかないことになるかもしれないわよ?』
『もしその時が来たら、本当に大切なものを失わないように、後悔しないように全力を尽くしなさい』
リリスさんがさっき言っていたこと。
もしかしたら、あの人は魔神達が攻めてくることを知っていたのか・・・?
いやいや、そんな筈ないだろう。
とにかく今は、王都を守らないと・・・!
簡単な人物紹介
【キュラー・ブラッズ】
・年齢不明
・身長175cm
・体重71kg
・好きなもの、こと
レヴィ様
・嫌いなもの、こと
ジークフリード
・魔法
今のところ不明
・初登場
第五十八話
レヴィの部下の吸血鬼。主であるレヴィの事が大好きで、彼女に近付く男は許さない。それ故にレヴィが好意を寄せているジークを目の敵にしており、何かあればすぐに喧嘩になる。




