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第百三十九話 捕食者

「ちょっと、そこのアンタ」

「はいっ、何でしょうか!」

「あたしがドーナツを持ってきてと言ってから何分経ったのかしら?」

「え、ええと、三十分です」

「遅いッ!!」

「ひぃっ!?」


玉座に座る少女の怒鳴り声が辺りに響き渡る。それを聞いて部下の魔物達は主を怒らせてしまったと震え上がった。


少女の名はアスモデウス。この色欲の美宮殿の主であり、色欲を司る魔神の一人だ。そんな彼女は命令した部下が帰ってこないことにただただイラついている。


「ああもう、どういうことよ!あたしは今すぐドーナツが食べたいのに・・・」

「も、申し訳ございません!」


全く関係の無い部下達が頭を下げる。しかしアスモデウスの怒りは収まらない。


「そこのあんた」

「はいぃっ!」

「面白いこと言って」

「ええっ!?」

「ほら、さっさとやる」


突然の無茶ぶりに、部下のミノタウロスは焦る。しかしやりませんと言うとどうなるか分かっているので必死にネタを考えた。


「こ、この前、寝起きになんだか寒いなぁって思ったんですよ」

「うん」

「よく見たらパンツ一丁で寝てたんですよ・・・って普段も服着てないんですけどね!」


それを言ってミノタウロスは「あ、終わった」といった表情を浮かべる。周囲の部下達も心の中で敬礼した。


「ぷっ、あはははは!馬っ鹿じゃないのあんた!」

「え、えへへへへ、そうですかね」

(お、おい、アスモデウス様が笑ったぞ!)

(意外と笑いのツボが浅いのかもしれんな)


何故かアスモデウスは爆笑した。

それを見てミノタウロスと他の部下達はほっとしたが・・・。


「だから何なのよ!!」

「すみませんッ!!」


当然である。寝起きにパンツ一丁だからなんだというのか。言わしてもらえばただの変態だ。


「はぁ、もういいわ。とりあえず早くドーナツ持ってこさせて」

「了解です」


助かったと思いながら、ミノタウロスはドーナツを作っている部下達の元へ向かおうとする。

しかしその直後、ミノタウロスの頭部が突然消滅し、そこから大量の血が噴き出した。


「んん〜?ここですかね・・・」


そしてどこからともなく少女が現れる。長いブロンドの髪はボサボサで、目の下には隈ができている不気味な少女だ。


そんな少女はアスモデウスの姿を視界に捉えると、僅かに笑みを浮かべた。


「ようやく見つけましたよー、アスモデウス」

「は?誰よあんた」

「ええ?もしかして知らないんですかー?」

「知らないわよあんたみたいなやつ」

「ちょっとショックですー」


少女はゆっくりとアスモデウスに近付くと、ぺこりと頭を下げた。


「どうも、シーナ・ファクトラインと申しますー」

「聞いたことない名ね」

「ええ?名前を聞いても分かりませんかー?」


ぽけーっとした喋り方にアスモデウスはだんだんイライラし始めるが、シーナと名乗ったに対する警戒を緩めることはしない。


「そこのミノタウロスを殺したのはあんたね?」

「あー、私というか、私のスキルが勝手に・・・」

「スキル?」

「はいー、とっても危険ですよー」

「ああそう、つまりあんたはあたしの敵ね」

「え・・・?」


周囲に居たアスモデウスの部下達が、一斉にシーナを取り囲む。しかし彼女は特に動じることは無い。


「だめですよー、危ないですよー」

「アスモデウス様には指一本触れさせんぞ!!」

「大人しくするがいい!!」

「あ、ごめんなさい、発動しちゃいましたー」


次の瞬間、シーナを取り囲んでいた魔物達の身体が抉れた。ある者は肩が、ある者は脚が。

様々な箇所が何かに抉り取られ、魔物達は悲鳴を上げる。


「んー、イマイチですねー。やっぱり下級魔族じゃ腹の足しにならないですー」

「だ、誰が下級魔族だ!!我々は上級魔族だぞ!?」


脚を抉られて倒れ込んだ魔物がそう叫ぶ。しかしシーナはそれを全く聞いていない。


「貴女は美味しいですかー?魔神アスモデウス」

「アホなの?自分の味なんか知ってるわけないでしょ」

「そこは私なんか食べても美味しくないぞーって言うところですよー」

「うっさいわよ。それよりもあんた、一体何者なの?」

「シーナですー」

「名前じゃないわよ。その魔力、魔神級じゃない」


そう言われてシーナは頷く。そして魔力を解き放った。


「はいー、私、こうみえても魔神ですからー」

「はぁ?」

「一応絶界の十二魔神の一人なんですけどー」

「あらそうなの?」

「なんで知らないんですか・・・」


相手が魔神だということを知ったアスモデウスは、そのことに少し驚きつつも立ち上がり、シーナを睨んだ。


「で、何の用かしら?まさか喧嘩でも売りに来たの?」

「ふふ、そのまさかですー。あ、そういえばこれ、美味しいですねー。ここに来るまでに見つけたんですけど、絶品ですー」

「え゛」


シーナがポケットから取り出したものを見てアスモデウスは固まる。袋で包まれたそれは、自分がずっと待ち続けていたドーナツである。


「欲しいですかー?」

「欲しいも何も、それはあたしの・・・」

「あげませーん」


ブチッ


アスモデウスの中で何かが切れた。額に青筋を浮かべながら、彼女は周囲に魔剣を召喚する。


「どうしたんですかー?」

「こんの髪ボサ寝不足女ァッ!!!」

「なんですかそのあだ名は・・・おっと」


アスモデウスがシーナに向かって魔剣を投げる。しかしシーナは首を傾けてそれを躱した。


「避けてんじゃないわよ!!」

「そりゃ避けますよー」

「もういい、殺す!!」


両手に魔剣を持ち、アスモデウスはシーナに斬りかかった。


「んー、殺されるのは嫌ですねー。あ、そこ危ないですよー」

「は・・・ぐっ!?」


しかし魔剣がシーナに届く直前、アスモデウスの真下の床に魔法陣が出現し、そこから何本もの槍がアスモデウス目掛けて飛び出した。彼女は咄嗟に背後に浮く魔剣を盾にするも、一本の槍が肩を掠める。


「武器召喚・・・!」

「ふふー、ある人から教えてもらいましてー」

「舐めるんじゃないわよ!!」


アスモデウスが突然三人に増えた。彼女の魔法の一つ《幻影分身ファントムアバター》。自分にそっくりな偽物を生み出す、影分身のような魔法だ。


そんな分身二人も両手に魔剣を持ち、三箇所から一斉に斬りかかる。


「おお、すごいですねー」

「死ね・・・!!」

「でも、スキル発動ですー」


しかしシーナがそう言った瞬間、分身の身体が歪んで消滅した。さらに本物のアスモデウスの腹部から大量の血が流れ出す。


「あぐっ!?」

「うわあぁっ、とっても美味しい・・・!!」


何が起きたのか分からず、アスモデウスは膝をついた。部下達と同じように、見えない何かに身体を抉り取られたのだ。


「う、うぐっ・・・」


アスモデウスは急いで腹部に魔力を集め、治癒能力を強化する。しかし顔を上げれば、すぐ目の前でシーナが自分を見下ろしていた。


「はあぁ、最高ですー。もっともっと、食べさせてくださいー」

「ぐっ、こいつ・・・!」


大罪を司らない魔神程度に何故自分は見下ろされているのだろうか。屈辱だ。アスモデウスは拳を握りしめながらシーナを睨みつけた。


「ふふ、怖くありませんよー。まあ、いつまでその表情でいられるか、楽しみですー」

「っ・・・」


空気が変わる。これは、先程自分の腹部が抉られた時と同じ空気だ。それを感じてアスモデウスの顔色が変わる。


「いいですねーその表情。それじゃあ死んでくださーい」


駄目だ、殺られる。

そう思ったアスモデウスの脳内に、一人の少年の姿が浮かび上がる。


「なんでこんな時にあんたなんか・・・」


───どうせなら脳内じゃなくて、現実に現れて助けに来てくれてもいいじゃない。


そんな彼女の呟きは、誰にも聞こえることはなく。

死を覚悟したアスモデウスはきつく目を閉じた。


「え、ちょ、誰ですかー?」

「お前こそ誰だボサボサ野郎」

「ひぎゃー」


しかし、突然そんなやり取りが聞こえ、彼女は再び目を開ける。


「・・・え」

「よう、アスモデウス。なんか目を瞑ってたけど、かくれんぼでもしてたか?いや、だるまさんがころんだって可能性もあるな」

「な、な・・・」


そこにいたのは案の定というべきか、笑みを浮かべる黒髪の少年。彼を見てアスモデウスの顔が一気に赤く染まった。


「じ、ジークフリード!?」

「なんだその反応は」


先程の自身の呟きを思い出す。

〝どうせなら脳内じゃなくて、現実に現れて助けに来てくれてもいいじゃない〟


そんな願いが叶ったというのか、現れたのはその時思い浮かべていたジークだった。


「っておい、怪我してるじゃねーか」

「あ、うん・・・」

「あいつがやったのか」


ジークが違う方向に顔を向ける。彼の視線の先には何故か向こうで転がっているシーナが居た。


「うぅ、急に髪の毛を掴んで投げ飛ばすなんてぇー」

「だってお前、魔法かスキルか知らんけど何か発動しようとしてただろ?」

「へぇー、分かったんですかー」


シーナはゆっくり立ち上がると、興味深そうにジークを見つめる。


「というか貴方、人間ですかー?」

「おう、人間だぞ」

「どうやって魔界に・・・?」


確かにそうだ。ジークの周囲にはレヴィが居ない。彼女無しでどうやってここに来たというのか。


「泳いできた」

「・・・は?」

「いやぁ、死ぬかと思ったぞ。真冬の海に飛び込んだ自分が凄いわ。魔力纏わなかったら死んでたなありゃ」

「お、泳いできた・・・!?」


アスモデウスは信じられないものを見るかのような目でジークを見つめる。しかしジークはその視線に気付かない。


「ま、来て正解だったな。あとは俺に任せとけ、お姫様」

「はっ、だ、誰が・・・」


突然お姫様などと呼ばれてアスモデウスの顔が再び赤く染まる。それを見ることなく、ジークはシーナに顔を向けた。


「ふむ、お前がアンリカルナってやつなのか?」

「違いますー、アンリちゃんは私の友達ですよー」

「じゃあお前は誰だ?」


そんなジークの問いに、シーナは笑みを浮かべて返事した。


「シーナ・ファクトラインですー。この前《暴食グラ》の罪を司る魔神になりましたー。よろしくですー、ジークフリード」

簡単な人物紹介


【レヴィアタン】

・年齢不明

・身長145cm

・体重そういうこと聞いちゃだめだよー

・好きなもの、こと

ジークと寝る、ジークと話す、ジークと遊ぶ

・嫌いなもの、こと

ジークに迷惑をかける敵、お化け

・魔法

水魔法、嫉妬の禁忌魔法

・初登場

第十六話


絶界の十二魔神の一人で、嫉妬の罪を司る少女。ジークと戦った後、強く優しい彼に惚れた。人前でジークに堂々と抱きついたり、布団に潜り込んで一緒に寝たりと他の女子達が出来ないことを平気でする元気な子である。

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