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第百三十八話 嫉妬の暴走

思わず一歩後ずさる。

視線の先に居る小さな少女から放たれる殺気は、これまで自分が感じた事が無い程のものだ。


「お、おい、どうしたんだよ」

「・・・ジークは」

「っ、レヴィ───」

「結局ボクを選んではくれないんだね」


一瞬彼女が何を言っているのか理解出来なかった。


「何を言って・・・」

「いつもいつも違う女の子とばかりさぁ・・・」

「おいレヴィ」


様子がおかしい。彼女の虚ろな瞳には何が映っているのだろうか。ブツブツと言葉を呟きながら、レヴィはフラフラとこちらに向かって歩き始める。


「ジークはボクだけのものなんだからッ!!!」

「っ・・・!」


突然レヴィの姿が消える。

やばい、速すぎる・・・!!


「《海王轟鎌ロアデスサイズ》!!」

「ぐあっ!?」


姿を見失った直後、背中に激痛がはしった。振り返れば、鎌を振り切った体勢で奇妙な笑みを浮かべているレヴィと目が合う。


「そうだ、全員殺しちゃえばいいんだ。そうすればジークはボクだけを見てくれるはずだよね・・・!!」

「っ、レヴィ、何言ってんだ!!」


彼女の肩を掴んで地面に押し倒す。しかし凄まじい力で彼女は抵抗してくる。


「どうしたんだよ!!魔界で何があったんだ!!」

「離してよッ・・・!!」

「レヴィ!!!」


俺が怒鳴ると、徐々に彼女の顔が怒りに染まっていく。


「ボクはこんなにジークのことが好きなのにッ!!!」

「ぐっ!?」


凄まじい魔力がレヴィの身体から放たれる。


「ジークがボクを見てくれないのは、他の人間のせいなんでしょ!?」


巻き起こった風が降る雪と合わさって、まるで吹雪の如く吹き荒れる。幸いこの寒さのせいか、この付近を出歩いている人は居ない。


「だったら、全員殺してやるッ!!」

「やめろレヴィ・・・!」

「邪魔するなァァァァァ!!!!」


次の瞬間、俺は勢いよく上に吹っ飛んだ。遅れて腹部に鈍い痛みが広がっていく。ああ、蹴り上げられたのか・・・。


「《海王魔獄弾ロアメテオレイン》!!」


レヴィが魔法を唱える。その直後、空から何発もの水の弾丸が地上に降り注いだ。


「くっ、させるかよ!!」


俺は着地と同時に魔力を纏い、降り注ぐ魔法を次々と殴って消し飛ばす。しかし何軒かは庇いきれず、屋根が吹き飛んだ。


「嫉妬・・・」


嫉妬を司るレヴィは、何かに嫉妬すればする程力が増す。

今の彼女は明らかにシオン達に対して激しく嫉妬している。その理由は分からないけど、普段とはレベルが違うな。


「っ・・・!」


その時、彼女がある方向に顔を向けていることに気が付いた。あの方角には、俺の家がある。


「バニッシュ───」

「ぬああい!!」


案の定魔法を放とうとしたレヴィを後ろから押さえ込む。


「まさか、操られてんのか!?」


そうか、その可能性は高いな。レヴィは嫉妬を司る魔神だけど、誰かに嫉妬なんて滅多にしない。だとしたら、魔界で何者かに操られたのかもしれない。


「《タイダルウェイブ》!!」


などと考えていた時、レヴィが水魔法を放った。それを俺は躱すことが出来ず、波に呑まれてギルドの壁に叩きつけられる。


「くそ、何とかしてレヴィを正気に戻さないと────」

「《凝固水縛(コアグレーション)》」

「ッ!?」


何とか立ち上がった時、突然俺の身体が凍り付いた。


「な、これは・・・」


身動きがとれない。まさかレヴィの魔法か!?


「あぁ、それもありだね。ずっと氷の中に閉じ込めておけば、ジークは一生ボクのものだ」

「ぐっ・・・」

「大好きだよジーク、ボクは君のことが大好き。だから、君もボクだけのことを見てよ・・・」

「レヴィ・・・」


レヴィの頬を涙が伝う。

それを見た俺は、全身から魔力を放って氷を砕き、レヴィの小さな身体を抱きしめた。


「っ・・・!?」

「ごめんな、レヴィの想いにちゃんと応えられなくて・・・。ほんとにごめん・・・!!」

「じ、ジーク・・・」


どうすれば彼女が正気に戻るかなんて分からない。でも、頼むからいつものレヴィに戻ってくれ・・・!!


「う、うぅ、うわぁぁぁん!!ごめんなさぁぁぁぁい!!」

「へ・・・」


突然レヴィが大声で泣き始めた。


「え、ちょ、え・・・!?」


どゆこと!?


「ボク、ジークに酷いことしちゃったよぉぉぉぉぉ!!!」

「お、落ち着けレヴィ、どうしたんだ!?」


訳がわからず混乱する俺が、一つだけ分かったことは、彼女がいつものレヴィに戻ったということだけだった。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「落ち着いたか?」

「・・・うん」


あの後、俺はレヴィを連れてギルドに戻った。あれからレヴィは俺にぴったりとくっついたまま離れてくれない。それを見たキュラーは当然いつもの罵詈雑言を浴びせてきた。


「じ、ジーク、背中から血が・・・」

「あ、そうだっけ。寒さで感覚麻痺してらぁ・・・」


エステリーナが俺の背中を見て心配そうな表情を浮かべる。

あんなに寒い場所で何度も水魔法を浴びせられたんだ。俺は今ガタガタと震えている。


「それで、レヴィ様と貴様が戦闘を行ったのは分かったが、レヴィ様・・・一体何があったのですか?」


珍しく真剣な顔でキュラーがレヴィにそう言った。


「そ、それは・・・」

「おい変態、レヴィが怖がってるだろ」

「なんだとこの・・・変態が!!」

「同じこと言うんじゃねえよ!!」


いや、まじでレヴィが怖がってるから。怒られると思っているのだろうか、彼女は不安そうな表情を浮かべて俺に身を寄せてくる。


「その、ボクが戦ったのはアンリカルナって魔神で、あの後ボクが勝ったんだけど・・・」

「え、魔神?」

「うん、絶界の十二魔神の一人」


・・・ああ、なるほど。中二病魔神アルターと同じで、大罪を司ってない魔神の一人か。


「アンリカルナを倒した後に、フードを被った誰かが突然現れて、その人に変な魔法をかけられたの」

「変な魔法・・・まさか洗脳の魔法とか?」

「ううん、そんなんじゃないと思う。なんか、ボクの心の奥底にある嫉妬の力を無理やり引き出された感じ・・・」


・・・んん?なんかあんまり理解出来ない話だな。


「それで、シオン達に対する嫉妬の感情が抑えられなくなって・・・その・・・」

「でも、もう大丈夫なんだよな?」

「うん、今は誰にも嫉妬してないよ」

「そうか」


彼女の頭を撫でてやる。つまり今回の出来事の黒幕はフード野郎ってことか。


「あ、それとね」

「ん?」

「アンリカルナ、憤怒を司る魔神になってたよ」


・・・え?

憤怒?それって確かあの超巨大生物サタンが司ってた罪だよな?


「アンリカルナは、〝魔神狩り〟をしに来たって言ってた」

「魔神狩り・・・」


なんだそれ。同じ魔神同士で何しようとしてんだそいつは・・・って、おい待て。


「アスモデウス・・・」


前にキュラーが言っていた。憤怒の領土に何者かが攻め込んだと。そいつが多分アンリカルナってやつなんだろう。そして今度はレヴィを襲った。


もしかすると、アスモデウスのところにもそいつが現れるかもしれない。


「悪い、ちょっと行ってくるわ」

「ジーク・・・?」

「大丈夫、すぐ戻るから」


もう一度レヴィの頭を撫でてやり、俺は立ち上がった。


「ジーク、大丈夫なのか・・・?」

「ああ、みんなのことは任せたぜ、エステリーナ」


一体何が起こり始めているのか。それは分からないけど、やれることをやるだけだ。





簡単な人物紹介


【シルフィ・パストラール】

・年齢15歳

・身長145cm

・体重 ええ、それは・・・

・好きなもの、こと

掃除、主人の世話

・嫌いなもの、こと

主人に害を与えるもの

・魔法

魔力による幻糸展開

・初登場

第十三話


かつて魔神ベルゼブブに村を焼かれ、人間達に捕らえられて奴隷となったエルフ族の少女。そんな自分に手を差し伸べてくれたジークを最も信頼しており、惚れている。彼の役に立てることが彼女にとって最も幸せなことである。

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