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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
強欲を司りし男〜全てを奪う最後の大罪〜
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番外編 混沌桃太郎

『むかしむかしあるところに、エステリーナお婆さんという老人が住んでおりました。そんなお婆さんが川で衣類を一生懸命、それはもう一生懸命ゴシゴシゴシゴシしていると、川の上流から巨大な果物が流れてきました』


「む、なんだこれは」


『その果物が気になったお婆さんは、自宅に持って帰り、炎を纏う魔剣で果物を一刀両断』


「なっ、これは・・・」


『すると中から出てきたのは、何故か魔剣を片手で受け止めている黒髪の赤ん坊。ちなみに第一声は俺はジークフリードだ・・・だそうです』


「ふむ、可愛らしい男の子だな」


『しかしエステリーナお婆さんは、彼の自己紹介を無視して〝桃太郎〟と名付け、可愛がりました』


『やがて時は流れ、桃太郎は立派な少年へと成長しました』





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「まあ、お前はレモンから出てきたんだがな」

「じゃあなんで桃太郎って名付けたんだよ!!」

「まあ落ち着け。今からお前には鬼退治に向かってもらう」

「ええ?なんで急にそんなことを・・・」


鬼。

それは昔から人間達の住む村を襲い、好き放題している巨大な魔物である。そんな鬼達は、〝鬼ヶ島〟という島で生活しているという。


「爺さんの仇をとってくれ・・・!」

「いや、爺さん生きてるから。ただのぎっくり腰だから」

「そうだ、これを持っていくといい」


そう言ってエステリーナお婆さんが桃太郎にあるものを手渡した。


「きびだんごだ」

「まって、なんでモザイクかかってんの?」


黒く、異臭を放つドロドロでガチガチでびちゃびちゃな別次元の何か。それがあれば旅のお供が手に入るらしい。


「それでは気をつけてな。手に入れた財宝はたんまり持って帰ってくるんだぞ」

「絶対それ目的だろ!!」


そして、なんだかんだ言いつつも桃太郎は鬼ヶ島に向けて出発した。武器は無し、持ってきたのはダークマターのみだ。


「あら、ご主人様」

「誰だお前は」


突然設定を無視したエルフ族の少女に桃太郎は声をかけられた。


「イヌのシルフィでございます」

「いや、明らかにエルフだよね」

「お供しますので、そのきびだんごをひとつ貰ってもよろしいですか?」

「え、やめといたほうが・・・」

「設定上きびだんごを食べなくてはならないのです」


初対面で桃太郎をご主人様と呼んだ少女が何を言うか。仕方なく桃太郎はシルフィにダークマターを手渡す。


「がふッ・・・!!」

「イヌゥゥゥゥゥ!!!」


そしてダークマターをかじったシルフィは吐血して倒れた。


「だ、大丈夫・・・です、先に行きま、しょう」

「思いっきり血吐いたよね!?」


こうして犬のシルフィがパーティーに加わった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「サルのレヴィでーす!」

「って言いながら抱きついてくんな!!」


あれからしばらく歩いていると、突然水色の髪の小柄な少女に桃太郎は突進された。


「いやぁ、お腹空いちゃってさ。いいところに人間がやって来たから襲って食べようかと思って」

「そんな恐ろしいこと考えてたの!?」

「冗談冗談。ほら、きびだんご持ってるんでしょ?一個ちょーだい」

「なんで知ってる」


とりあえず桃太郎は袋からダークマターを取り出し、レヴィに差し出す。


「な、なにこれ」

「ダークマターだ。本当に食うのか?」

「ぼ、ボク、きびだんごが食べたいな〜なんて」

「これがきびだんごだ」

「嘘だよね?これ殺人兵器じゃないの?」


ダークマターを手に取り、とんでもないものを見るような表情でレヴィは恐る恐るそれを口に近付ける。


「何この臭い・・・全然わかんない」

「謎だろう?それ、俺の婆ちゃんが作ったんだぜ?」

「お婆さんは別次元の人なのかな?」


結局、レヴィはきびだんごを食べることなくそのまま仲間に加わったのだった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「キジのルシフェルだよー」

「堕天使ですよね?」


次に現れたのは、漆黒の翼をバッサバッサしながらエンジェルスマイルを浮かべるルシフェルだ。最早キジではない。


「桃さん鬼退治に行くんだよね?私も手伝うよ」

「そうか、じゃあダークマターを・・・」

「あ、別にいいよ」

「え?」

「別に食べ物目的で同行するわけじゃないからね!苦しんでるみんなの為に、私も戦いたいと思って・・・」

「キジ・・・天使かよお前」


なんと清らかな心の持ち主か。ジークはダークマターを袋の中に戻し、ルシフェルに手を差し出した。


「じゃあ、よろしく頼むぜ天使」

「キジなんだけど・・・」


そんな握手する二人を眺めながら、自分は何の為にきびだんごを食べたのだろうとシルフィは涙を流した。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「吸血鬼のキュラーだ」

「誰だよ!!」

「え、旅に同行する吸血鬼だが」

「寄ってくんな気持ち悪い!!」


突然現れた青白い肌の変態を押し飛ばし、桃太郎は家来達を守るように立ちはだかる。


「お前、鬼の手下だな」

「いや、全然違うのだが・・・っておい、そこにいるのは誰だ?」

「ん?家来のレヴィとシルフィだが」

「はぁ、はぁ・・・」

「なんだあいつ、興奮してやがるぞ!!」


レヴィとシルフィを見て何故か息が荒くなるキュラー。それに気付いてレヴィは汚物を見るような表情を浮かべ、シルフィは桃太郎の背後に隠れる。


「だ、大丈夫だ、安心したまえ。真のロリコン紳士は幼女に手を出すことはないのだよ」

「分かったから消えろ気持ち悪いクソ変態野郎が」

「へぶっ!!」


桃太郎のビンタを食らい、キュラーは遥か遠くの空に吹っ飛んでいった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「ここが鬼ヶ島か」


やがて、桃太郎一行は鬼ヶ島に辿り着いた。邪悪な気配が漂う島を警戒しながら進んでいく。


「あっ、桃太郎!あそこに鬼がいるよ!」

「ほんとだ・・・」


レヴィが指さした先には、巨大な一匹の鬼が居た。まるで先に進むのを阻止しようとしているかのように金棒を肩に担いでこちらを睨んでいる。


「戦闘は避けられない・・・か」

「ご主人様、私に考えがあります」

「ふむ、言ってみよ」

「ご主人様が持つダークマターをあの鬼に食わせるのです。ふふふふ、恐ろしい速度で暗黒物質が体内にあるあらゆる器官、細胞を破壊し、これまで様々な事を記憶してきた立派な脳は活動を停止し、心臓も止まり、一体自分に何が起こったのか理解する事も出来ずに無惨に死に絶える筈。あの鬼は思い知る事になるでしょう。自分が興味本位で食べたものが世界で一番恐ろしくおぞましくこの世のものでない違う次元の殺人兵器だと言う事を・・・!」

「どうしたんだシルフィ!!」


闇落ちしたかのような表情でそう語るシルフィの肩を桃太郎が掴んで揺さぶる。そう、シルフィはあのダークマターを食べた最初の犠牲者なのだ。


「と、とりあえず食べさせてみるか」


そう言って桃太郎は鬼の前にダークマターを置く。

数分後、鬼は死んだ。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「ようこそ、鬼ヶ島へ」

「お前が鬼の総大将か」


あれから何度も鬼と遭遇してはダークマターを囮に突き進み、遂に一行は鬼の総大将のもとにたどり着いた。


彼らの前には、右眼を眼帯で覆った黒髪の少女が椅子に座っている。その頭からは二本の角が生えていた。


「どうも、黒鬼のシオンです」

「よしみんな、こいつがラスボスだ!」

「え、ちょ、待ってください・・・」


桃太郎達は一斉に黒鬼を取り囲む。


「えへへへ、鬼さんを倒したら財宝が山ほど手に入るね・・・」

「おいこらキジ」

「きびだんご、きびだんごを食べさせましょう!」

「落ち着けイヌ」

「寝てていい?」

「何しにきたんだサル!!」


桃太郎以外のメンバーがちょっとおかしい。キジは黒鬼の背後にある財宝の山しか見てないし、イヌはきびだんごによく分からない粉を混ぜているし、サルに至っては寝始めた。


「卑怯ですね、四対一なんて。ならば私も本気を出しましょう」

「っ、何をするつもりだ」


黒鬼が右眼を覆う眼帯を外す。


「この眼帯あげるんで許してください」

「いらねーよ!!」


『こうして、桃太郎達は黒鬼を倒し、財宝を手に入れてお婆さんのもとに帰還した。そこで勃発したキジとお婆さんによる財宝争奪大戦はまた別の機会に語るとしましょう』


「ちょっと待て!オチが、オチが雑だからぁぁぁ───」






◆ ◆ ◆








「・・・夢か」


カオスすぎて怖いわ、どんな夢だよ。



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