第百三十三話 超力乱神
「ははははッ!!、二人になったところで今の俺には勝てねえよ!!」
「ちっ・・・!」
まるで乱打の嵐。それなりに本気になったらしいマンモンの攻撃は圧倒的速度・パワーで俺とレヴィを襲う。
左腕を折られた俺は、ギリギリで攻撃を躱すので精一杯、さらに魔法が使えないレヴィのカバーもしなければならない。
「そこだァ!!」
「うっ!?」
マンモンの蹴りがレヴィの腹部を掠める。それだけで彼女の服は裂け、血が飛び散る。
「レヴィ!」
「よそ見してる場合かよジークフリード!!」
レヴィに駆け寄ろうとした瞬間、左側からマンモンの脚が迫るのに気付いた。まずい、折れた左腕じゃ防御も出来ない。
「くっそ!!」
咄嗟にしゃがみ込んで躱したが、そこに追撃がきた。
「ッ──────」
つま先で額を蹴り上げられ、俺は宙を一回転する。凄まじい衝撃で脳が揺れ、軽く意識が飛ぶ。
「っが・・・!?」
意識が飛んだのはほんの一瞬。地面に激突した俺は勢いよく転がった。
「ぐ、やば・・・」
立ち上がれない。額からは大量の血が流れ落ちてくる。
焦点が合わない・・・。
「どうすりゃいいんだ・・・」
相手のステータスを奪う魔法。
これまで戦ってきた相手とはレベルが違う。などと絶望を味わっていた時、向こうからレヴィの声が聞こえた。
「じ、ジーク、あれをやろう!」
「あれ・・・?」
「必殺技三号!」
「まじか」
〝必殺技三号〟
ちょっと前、俺とレヴィが遊びで作った連携技の三個目だ。けど、それはレヴィがかなり危険な目に遭ってしまう。
「でも、やるしかねぇか・・・」
動け動け。全身に力を込めてなんとか立ち上がる。
ああやばい、クラクラする。
「っ、いくぞレヴィ!!」
「おおっ!」
「はは、何をするつもりだ?」
余裕ぶっこきやがって。
そろそろお前の顔面を一発殴りたい気分だ。
「おらあああ!!」
「はあああッ!!」
正面から俺、背後からレヴィがマンモンに襲い掛かる。
しかし全く焦る様子のないマンモンは、軽く手を振って俺をあっさりと弾き飛ばした。
「ジーク!?」
「お前も寝てなぁ、レヴィアタン!!」
そして、マンモンがレヴィの腕を掴み、地面に叩きつける。
「っ・・・」
「今のが必殺技か?」
叩きつけられたレヴィは倒れたまま動かなくなってしまった。
「お前、最初の約束忘れてるだろ」
「ん?」
「俺以外には手を出さないって」
「あっ、そうだった」
ケラケラと笑いながら、マンモンが俺に向かって歩き始める。
「まあいいよな、もう終わりだし」
「・・・どうかな?」
馬鹿め、必殺技三号はこれからだ。
「捕まえたぁ!!」
「なっ!?」
突然倒れていたレヴィがマンモンの背中にしがみつく。それに驚いたマンモンは顔を後ろに向けて動きを止めた。
必殺技三号、それは死んだ振りしたレヴィが背後から油断した相手の動きを封じ、正面から俺がデストロイするという必殺技である。まあ、マンモン力強過ぎるから押さえ込むのは無理だけど。
それで十分だ。
「やっと一発ぶん殴れるなぁ!!」
「っ、しま────」
立ち上がって拳を構える俺に気付いたマンモンが、咄嗟に前に腕を出す。けどそんなんでガードできると思うな。
「ステータスを奪われても、こっちには仲間がいるんだよクソ野郎!!」
全力で拳を振るう。
魔力を纏った今の俺の最高の一撃は、マンモンの腕にめり込み、衝撃で地面ごと吹き飛ばした。
「がぁぁッ!?」
血を吐きながらマンモンが宙を舞う。
腕を前に出しただけでかなり衝撃を押さえ込んだらしいが、それでも相当ダメージを食らったみたいだ。
「はぁ、はぁ、やったか・・・?」
遠くでバウンドしているマンモンを眺める。
もう限界だ、まじで倒れそう。
「わーい、必殺技成功だね!」
「はは、そうだな・・・」
向こうからレヴィが駆け寄ってくる。こいつも結構怪我してるけど、意外と平気そうだな。
「ジーク、大丈夫?」
「いやぁ、ちょっとやばい」
ステータス確認してみたら、生命がもう1000ぐらいしかなかった。これ以上戦うとまじで死ぬ。
「帰ったらボクが看病してあげるっ!」
「なんだと・・・?」
そんな・・・最高じゃないですか。これでナース服とか着てくれたらもうぐへへへ・・・。
いや、ナース服無いわ、この世界。
「ジークフリード君!!」
「ん、ああ、ロキさん・・・」
そんな時、向こうから王国騎士団団長のロキさんがこっちに来た。他の騎士達もいる。
「勝ったのか?」
「はあ、多分ですけど」
「そうか、やはり君はすごいな。我々もなんとか魔物達を撃退することができたよ。まあ、殆ど君達の戦闘に巻き込まれて勝手に死んでいったんだが」
そう言われて周囲を見渡すと、確かに魔物達はいなかった。あちこちに出現していた黒い渦も全て無くなっている。
「はぁー、よかった・・・」
ほんと、これまでで一番キツい戦いだった。
相手のステータス奪うとかどんなチートだよそれ。いや、まあ俺もチートだけども。
「とりあえず、一旦王都に戻ろうよ」
レヴィにそう言われ、俺は頷いた。
「そうだな、治療してもら────」
「ははは、やっぱすげぇわお前」
「ッ!?」
おいおい、まじかよ。今の声は何処から聞こえた。
俺の前にいるレヴィを見れば、顔が真っ青になっている。
「ま、互いに腕が折れちまったな。これである程度対等に戦えるんじゃねえか?」
「勘弁してくれよおい・・・」
振り返れば、かなり遠くに吹っ飛ばしたマンモンが、こちらに向かって歩いて来ていた。しかもあいつ、まだまだ魔力が残ってやがる。
「はは、冗談だよ。あと一撃で終わらせてやる」
そう言ってマンモンが膨大な魔力を腕に集め始めた。
まさかこいつ、俺がベルゼブブを消し飛ばした時にやったあれをするつもりか!?
「ぐっ、なんだこの魔力は・・・」
ロキさんや騎士達はその魔力を身に浴びて震えている。そりゃそうだ、普通じゃ有り得ない量の魔力だからな。
「じ、ジーク・・・」
レヴィも初めて見るような表情で俺の服を握ってきた。
そう、誰もがこの状況に絶望している。
勝てない、負けた。
マンモンが魔力を放てば、王都にまで被害が及んでしまう。どうすればいい、もう駄目なのか・・・。
「楽しかったぜ、ジークフリード。お前のことは一生忘れねえ!!」
「っ・・・」
「これで終わりだ、安らかに眠りな!!」
くそ、くそくそくそッ!!
もう駄目だ──────
「─────あ?」
しかし、その一撃は放たれなかった。マンモンが自分の拳を見つめながら目を見開く。
先程まで大気を震わせていた膨大な魔力は、完全に消え去っていた。
「ど、どういうことだ?なんで魔力が急に・・・」
マンモンも状況が分かっていないようで、拳を見つめたまま混乱しているようだ。
「ジークさん!!」
「っ、シオン・・・?」
そんな時、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。振り返れば向こうからシオン達が走ってきている。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ・・・」
まさか、彼女達がマンモンの攻撃を止めたのか?
・・・いや、それは無い。あんなにケタ違いだった魔力を消し去ることなど誰にも不可能な筈だ。
「ご、ご主人様!直ぐに手当てを・・・」
「何なんだよ、どういうことだよジークフリードォ!!」
怒鳴り声が響き、駆け寄ってきたシルフィの肩がビクッと跳ねる。向こうではマンモンがギリギリと拳を握りしめていた。
「しらねーよ、別に俺は何もしてない」
「だったらなんで俺の魔力が消えたんだ!!」
「しらねーっつってんだろうが!!」
どうやら相当焦っているらしい。そりゃトドメを指すつもりでほぼ全魔力を外に出したのに、いきなりそれが全部消えたんだもんな。
一体何が起こったのかは分からない。でも、助かった・・・。
「ああもう、何だよ、訳わかんねえよ。ははははっ、楽しいねぇ・・・!」
「は?」
「やっぱお前との勝負、何が起こるかわかんねえなぁ!!」
うわ、なんかすっげえ楽しそうだぞおい。
なんだよ、ずっと焦っとけよ。
「さあ、第二ラウンドだ!!」
「ったく、めんどくさい・・・」
けど、あいつはもう魔力を纏えない。
俺はまだ魔力を纏える。
さらに互いに腕が折れてる。
・・・これで対等だ。
「いいぜ、決着をつけるとするか」
俺の後ろには皆がいる。
悪いけど、負けるわけにはいかないね。
「いくぜぇジークフリード!!」
「ッ────」
マンモンが地を蹴り、俺の目の前に駆けてくる。けど魔力を纏っていないこいつの速度は俺とほぼ同じだ。
「だあっ!!」
「がっ!?」
俺の放った蹴りがマンモンの顔面にめり込み、歪める。さらに俺はそのまま片手でマンモンの腕を掴む。
「一本背負いいくぞ、受け身取れよ!!」
そしてマンモンを地面に叩きつけた。
その衝撃で地面が砕け、凄まじい風が巻き起こる。
「ははっ、いいねぇ!」
「覚悟しろよマンモン・・・!!」
さあ、全力全開でいくぞ。
まず魔力を腕に纏い、マンモンの蹴りを受け止める。そしてそのまま脚を掴んで持ち上げ、振り回して地面に叩きつける。
「まだまだぁ!!」
「はっ、やってくれるじゃねえか!!」
しかし、追撃しようとした時にマンモンの拳が俺の左足の脛の骨を粉砕した。
「っ・・・!?」
やっべえ、バランスが・・・。
「どうやらこの勝負、俺の勝ちみたいだなぁ!!」
「くっ・・・」
何勝手に決めてんだてめえ。
勝ち誇ったような顔してんじゃねえよ!!
「だああああッ!!」
俺は歯を食いしばり、左足で踏ん張った。激痛が全身を駆け巡るが、知ったことか。
「なにっ・・・!?」
「いいや、勝つのは俺だッ!!!」
右腕に魔力を纏い、目を見開くマンモンの土手っ腹をぶん殴る。それと同時に俺は魔力が尽きて倒れ込んだ。
「っ、へへ、まじかよ・・・」
そして、俺の渾身の一撃を受けたマンモンは、血を吐きながらも笑みを浮かべ、ぐらりと体勢を崩し、ばたりと倒れた。
「・・・」
意識が朦朧としてきた。俺、勝ったのかな・・・?
シオン達の声が聞こえてくるけど、何を言ってるか分からない。
あ、駄目だ。
そう思った直後、俺の意識は途切れた。




