第百三十二話 ジークのバカ
「な、なんという戦いだ・・・」
向こうで行われている攻防を眺めながら、王国騎士団団長のロキはそう呟く。凄まじい力と力のぶつかり合い、衝撃は大地を揺るがし嵐が巻き起こる。
「あれが、ジークフリード君の戦いか」
まるで次元が違う。
拳と拳が衝突する度に衝撃波が大気を震わせ、姿が消えたかと思うと別の場所で地面が弾け飛ぶ。
やがて、他の団員達もその光景を呆然と眺める中、遂に均衡が崩れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おらあああああ!!!」
「うおおおおおお!!!」
目にも止まらぬ速さで互いに鉄拳を、蹴りを、様々な攻撃を放ち合う。それらがぶつかれば衝撃が全身を駆け巡り、直後に地面が砕け散る。
「くっそ、いい加減倒れやがれ!!」
少しずつ体力が削られ、マンモンの攻撃が俺の体を掠めるようになってきた。このままじゃいつかまずい一撃を受けちまう。
「ははははは!!どうした、バテてきたのか!?」
「やかましい!!」
全力で蹴りを放つも、マンモンは体を横にずらしてそれを躱す。そして奴も腕に魔力を纏った。
「なっ・・・」
「筋力を失ったお前が俺と互角の一撃を放てていたのは、こういう事だろう!!」
やっべ、とうとうこいつも魔力を纏いやがった。しかも自分の魔力にレヴィの魔力も合わせてやがる。
「おら、受け切れるかぁ!?」
「ぐっ────」
咄嗟に後方に跳んだが、マンモンの拳が俺の胸に僅かに当たる。それだけで凄まじい衝撃が体を突き抜け、俺は吹っ飛んだ。
「がはっ!?」
やばい、確実に何本か骨が折れた。
「どうだ、これが俺の力だ!!」
「はぁ、はぁ、お前の力じゃねーだろうが・・・」
「確かにステータスは他人から奪ったが、今は俺の力だ」
どうする・・・?これまであいつはただ殴ったり蹴ったりしてきていただけだ。けど、とうとう魔力を纏いやがった。
魔力を纏ったあいつの一撃は今の俺じゃ受け切れない。
「なかなか熱い戦いだったが、もう終わりだな」
「勝手に決めてんじゃねえよ・・・」
一撃、せめて一撃でも拳を届かせれたら。
「まだまだ勝負はこれからだろ?」
余裕な感じでそう言ってやると、マンモンは再び魔力を纏った。
「いいねぇ最高だ!!生まれて初めてだ、こんなにも戦いが楽しいと思ったのはよ!!」
次の瞬間、マンモンの姿が消えた。
と同時に俺は真上に吹っ飛ぶ。
「っ─────」
左腕が折れた。けど明らかに手加減された一撃だ。
「力を奪われてもそれだけの力を見せてくれるんだからなぁ!!」
「がぁっ!?」
そして俺よりも高い場所に現れたマンモンの蹴りを受け、俺は地面に叩きつけられる。
「けど、これがお前の限界だ!!」
まずい、また魔力を纏いやがった。今度こそ本気でトドメを刺すつもりか・・・!!
「これで終わりだ────」
「終わりじゃない!!」
「ぬっ!?」
突然マンモンが吹っ飛ぶ。そして俺の前に水色の髪の小柄な少女が降り立った。
「れ、レヴィ・・・」
「ジーク、大丈夫!?」
そう言って心配そうな表情で駆け寄ってくる。
「なんでここに・・・」
「無茶しすぎだよ!」
「あだだっ!抱きつくな馬鹿!」
骨折れてんのに、このアホは・・・。
「はは、魔法が使えないのに何の用だ?レヴィアタン」
「ジークの手助けしに来ただけだよ」
「二対一はずるくねえか?」
「そっちは三人分のステータス奪ってるんだから」
「おっと、そうだったな」
そうだ、レヴィは魔力が無いのにどうしてここに来たんだ。
「レヴィ、あっち行ってろ。今のアイツは魔力を纏ってる、本気で殴られたら死ぬぞ」
「でも、そんなにボロボロなのに・・・」
「いいからあっち行ってろ」
俺がそう言うと、レヴィの表情が曇る。
「俺はレヴィに怪我して欲しくな────」
次の瞬間、顔面に衝撃がはしり、俺は吹っ飛んだ。
レヴィに殴られたのだ。
「っ、何すん───」
「ふざけんなッ!!!」
レヴィの怒鳴り声が響き、俺は動きを止める。
「自分だってそんな大怪我なのに何言ってんの!?仲間に怪我して欲しくないっていつも言うけど、ボクだってジークが怪我するのは嫌なんだよ!?」
「っ・・・」
「いつも自分を頼れって言ってくれるけど、ジークはボクらのこと全然頼ってくれないじゃん!!」
「レヴィ・・・」
彼女は本気で怒こっていた。さっき俺を殴った拳からはポタポタと血が地面に落ちている。
それに、彼女は泣いていた。
「魔力が無くたって出来ることはいっぱいあるのに!!たまにはボクのこと頼ってくれてもいいじゃん!!ジークのバカぁーーーーーー!!!」
・・・多分これが初めてだ。
こんなにもレヴィに怒鳴られたのは。
「・・・」
最低だな、俺は。
俺がレヴィを大切に思っているのと同じで、彼女もこんな俺のことを大切に思ってくれているのに。
「・・・ごめん。確かに俺、全部一人で解決しようとしてた」
「・・・」
「力、貸してくれるか?」
「えへへ、もちろん」
俺の言葉を聞き、先程までの泣き顔が嘘のように満面の笑みに変わる。うん、やっぱレヴィは笑顔が似合うな。
「おーい、そろそろいいか?」
「わざわざ待っててくれるなんてな」
意外と良い奴なのかもしれない。今俺達に攻撃を仕掛けていれば確実に勝てたはずなのに。
「まっ、もっと楽しませてくれよな」
「・・・いくぞレヴィ」
「うんっ!」
状況は変わらないかもしれない。
けど、レヴィが居てくれるだけで、さっきよりも力が湧いてくる。またまだ勝負はこれからだ。




