第百三十一話 最高に熱い戦いを
「ルシフェルは留守番ね!」
「うぅ、分かった・・・」
レヴィにそう言われ、ルシフェルは項垂れる。突然ノルティア草原方面で始まった戦闘に加勢するため、レヴィ達は家を出ようとしていた。
しかし走ることもままならないルシフェルは残念ながら家で待機だ。
「みんな、準備は終わったか?」
エステリーナが皆に向かってそう言う。当然シオンやシルフィ達は頷いた。
「既にジークや王国騎士団は戦闘を開始している。少しでも彼らの負担を減らすんだ」
「了解です」
既にこの王都でトップクラスの実力者となった彼女達。壁の外へ向かおうとする彼女達を止める者はいなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ちっ、キリがねえ・・・!」
ああもう鬱陶しい!どんだけ倒しても黒い渦があちこちに出現して、そこから愉快な魔物達が這い出してきやがる。
「おおーーーい!!!」
「んっ!?」
そんな時、聞き覚えのある声が聞こえた。
何処からだ?上・・・!?
何かが猛スピードで飛んでくる。
と思った直後、それは地面に衝突し、辺り一面を吹き飛ばした。もちろん俺も吹っ飛ばされる。
「っ、お前・・・」
「よう、元気だったか?」
見覚えのあるこの金髪野郎は・・・魔神マンモンだ。
「おい、ふざけんなよお前!!さっきからどんどん魔物を送り込んできやがって!!」
「それが俺じゃないんだな」
「はあ?」
だったらなんでこのタイミングで現れた。絶対お前が魔物達に王都を攻めさせてるんだろうが。
「悪いけど、俺は単純にお前と勝負したかっただけだ。わざわざこんな訳の分からんことはしねーんだよ」
「どうだかなぁ」
人からステータスを奪うような奴の言うことはあんまり信用できませんな。
「てか、早く俺の筋力返せよ。それとレヴィの魔力にルシフェルの敏捷もな」
「ははっ、俺に勝てたらな」
「めんどくせーやつ」
とりあえず俺は全身に魔力を纏う。
「っ・・・」
「筋力が無くても戦えるんだがな」
俺の魔力が周囲を渦巻き、風が巻き起こる。
腕だけに纏うのではなく、今回は全身に纏った。それによって動きも速くなるし、どの部位で攻撃してもそれなりにダメージを与えられるようになるはずだ。特に脚とかな。
それに、もしかしたら殴られたりした時にダメージ半減できるかもしれないし。
「いいねぇ、やっぱり楽しめそうだ」
「筋力返してくれたらもっと楽しめると思うんだけどな〜」
「残念だがそれは無理だ」
「急にシリアスな表情になるんじゃねえよ」
さて、どう攻めようか。
一撃目を躱されて体勢を崩したところをワンパンで殺されるとかだけは嫌だ。こうしてみると、ふざけてるくせに全然隙が無いない。
あ、てか今思ったら・・・。
「おい、マンモン。まだ約束の日じゃないのになんで王都に現れたんだ?」
「俺はちゃんと一週間待とうとしてたんだぜ?それなのにあいつが余計な事するからよ・・・」
「あいつ?」
誰だあいつって。聞き間違いか?会津って?会津若松城って言ったのか?
「まさか、協力者がいるのか?」
「いーや、それは違う。協力っぽいことはしたけど別に俺あいつ嫌いだし」
「じゃあその協力者もどきは誰なんだ?」
「いつも黒いフードをかぶってる男か女か全然分からんやつだ」
なるほど、変質者か。
「じゃあそいつがあの黒い渦を生み出してるってことか?」
「その可能性はほぼ100%だな」
だとしたら、そいつは何のためにあの黒い渦を創り出してんだ?
「ま、んなことはどうでもいいだろ。そろそろ始めようぜ、最高に熱い戦いをな」
「クールにいこうよクールに」
別に俺は熱さなど求めてないんだよ。お前は最高に熱いテニスプレイヤーと対戦しとけよもう。
「ったく。じゃあ二つほど約束してもらうぜ」
「なんだよ」
「まず、俺以外の人間には手を出すな。それから俺が勝ったら大人しく魔界に帰れよ」
「はは、いいぜ」
よし、これでみんなの安全は保証された。あとは悔いのないように精一杯頑張るとしよう。
「そんじゃあいくぞ、ジークフリード!!」
「っ・・・」
来る。
あいつの性格的におそらく最初の一撃は────
「正面!!」
直感で大きく後方に跳ぶ。その直後に今まで俺がいた場所にマンモンが現れて腕を振るう。しかし残念ながら空振りだ。
「へえ、避けるとはな!」
「こっちも行くぞ!!」
地を蹴ってマンモンの眼前に移動し、全力で蹴りを放つ。しかしそれはあっさりと受け止められた。
「へえ、筋力を奪ったのに凄い威力だな」
「一箇所に魔力を集中させてるわけじゃないから受け止められるか・・・」
一旦マンモンから距離をとる。腕に魔力を集中させてしまうとこいつに匹敵する速度で動けないからなぁ。今の一撃は当てておきたかった。
「おらッ、まだまだいくぜぇ!!」
「ちょっとは休ませろよこの野郎!!」
なんて速さだ。魔力を纏っているおかげでなんとか躱すことが出来ているが、このままじゃ先に俺の魔力が尽きる可能性がある。
「足下ががら空きだぜ!!」
「ぐっ!?」
マンモンの蹴りが太ももを掠める。それだけで肉が裂け、血が噴き出した。
「しまっ────」
バランスを崩す。当然マンモンはそれを見逃さない。
「はっはぁ、終わりだぁ!!」
「終わらんッ!!」
魔力を地面に向けて一気に放ち、ロケットの如く真上に跳ぶ。しかしマンモンはすぐに顔を上に向けた。
「降りてきたところをぶっ飛ばす!!」
「なら着地する前にぶっ潰してやるよ!!」
脚に魔力を集中。下では既にマンモンが俺を殴る体勢を整えている。そして俺は踵落としを、マンモンは全力で腕を振るい、互いの一撃が激突した。
「ぐっ────」
「うお────」
凄まじい衝撃波が草原を駆け抜ける。地面は粉々に砕け、周囲に群がっていた魔物達は巻き添えを食らって消滅した。
「やっべ・・・」
俺もマンモンも勢いよく吹っ飛んだ。なんとか着地はしたものの、全身が痺れる。それは向こうも同じようで、自分の拳を見つめながら楽しそうに口元が弧を描く。
「やっぱお前は凄い奴だな、ジークフリード」
「・・・魔力を纏った一撃を防がれたのは初めてだ」
魔力を纏えばパワーは互角、敏捷もほぼ同じ。
ただの殴り合い。先に気を緩めた方が負ける。
「もっと楽しませてくれよなぁ!!」
「かかってきやがれ・・・!!」
そして再び互いの一撃が激突した。




