第百二十七話 多分意味の無い修行
さて、どうしたものか。
あれから身体を治療してもらい、俺達は家に戻った。
俺は筋力を、ルシフェルは敏捷を、レヴィは魔力を失い、次にマンモンが来るのが一週間後。この絶体絶命のピンチをどう切り抜けようかと話し合おうと思ったのだが・・・。
「うぇーい」
「抱きついてくんなアホ!」
さっきからレヴィの抱きつき行為が多過ぎる。
何でかというと・・・。
「あはは、ジークに殴られても全然痛くなーい」
「ぐっ・・・」
そう、筋力が固有スキル分の5000しか無くなった俺がレヴィに軽く拳骨しても、全然痛がらないのだ。多分本気でやっても殆ど効かないはず。
「ジークさん、真面目に話し合いをしましょう」
「俺悪くないよね!?」
もちろん抱きつかれるのは嫌じゃない。寧ろいい香りがするし、程よい柔らかさで────
「おいジーク、何だその緩みきった表情は」
「え、ははは、なんでも・・・」
ムッとした表情でエステリーナに睨まれた。
「しかし、本当にどうするんだ?ジーク達が戦えないとなると、いよいよ王都は壊滅だぞ」
「うーん・・・」
俺はまだ何とか戦えるけど、一発本気で殴られたら死ぬ。
「だ、大丈夫です、ご主人様は私がお守りいたします!」
「シルフィ・・・」
シルフィがそんな事を言ってくる。いやぁ、ご主人様ほんとに嬉しいよ。
「・・・ジーク、表情が緩みきっているようだが」
「え、ははは・・・」
そりゃ嬉しいでしょ。それに可愛かったんですもの。
「そうだ、修行しようよ!」
「修行?」
突然俺に引っ付くレヴィがそう言った。
「一週間後までにマンモンに勝てるように強くなるんだよ」
「ふむ・・・」
確かに、何もしないよりかはマシか?
「ボクは一度魔界に戻るよ」
「へぇ、そりゃなんでだ?」
「ボクの領土には《嫉妬》の魔力が満ち溢れてるから、それを吸収出来たら魔力が元に戻ると・・・思う」
なるほど、俺には理解出来ないがそれはいい考えなんじゃないだろうか。
「修行かぁ、私は走ることが出来ないよ?」
「結構大問題だよな」
敏捷を全て奪われた今のルシフェルは、走っても俺の徒歩より遅い。当然翼を羽ばたかせることも不可能だ。
「てか、レヴィも魔力が無いのにどうやって魔界に戻るんだよ」
「キュラーに運んでもらう」
おお、流石吸血鬼タクシーだな。でもレヴィに触れた喜びでよだれとか垂らしそうで怖い。
「とりあえずルシフェルはちょっとでも敏捷を上げて走れるようにしようか」
「そうだね」
「俺は筋力と耐久を上げないと」
筋力が戻ったとしても、マンモンと殴り合えば無事では済まない。それに耐えられるだけの耐久が必要だ。
「はぁ、面倒だ」
この世界に来て一年も経っていないというのに、のんびり暮らすことも出来ない。
まあ、とにかく一週間後に備えて頑張るとしますか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うぅ、レベルが上がらない・・・」
「俺もだ」
一時間後、レヴィはキュラーと共に魔界へ行き、俺とルシフェルは天獄山を訪れた。ここ以外に俺達のレベルが上がる可能性がある迷宮を知らないもので。
しかし、どれだけ魔物を狩ってもレベルが上がらない。くそ、こんな時に野生のアルター君が出てきてくれたら3レベルくらいアップすると思うんだが・・・。
「もうちょい上に行ってみるか。もしかしたらフロアボスが復活してるかもしれないしな」
「う、うん」
そう言って屈んだ俺の背中に柔らかいものが当たる。俺はルシフェルをおんぶしたのだ。何故なら彼女、走れないし歩いたら亀と同じぐらいの速度だから。
だから別に下心があるわけではなくてですね、いや、無いとは言い切れないかもしれないけども・・・。
「ふぅ」
いかんいかん、先に進むことだけを考えよう。今は胸が柔らかいなどと考えている場合ではない。一刻も早くレベルを上げなければならんのだ。
「あ、あの、ジークさん」
「なんだねルシフェル」
「重くない・・・?」
「もちろん重くないぞ」
そんなこと気にしなくていい。でも、やっぱりルシフェルも女の子だなぁ・・・。
「ごめんね、私が走れないから・・・」
「いやいやいや、謝らなくていい。むしろ役得というか・・・」
「え?」
「なんでもない」
などとよく分からないやり取りをしていた時、突然前方から強烈な魔力を感じて俺は足を止めた。
「なんだ?」
「あれじゃない?フロアボス」
「おお、もしかしたらそうかもしれないな」
とりあえず何がいるのか確かめるため、俺はそこに向かって駆けた。
「なんだあいつ」
「ドラゴンかな?」
そこにいたのは巨大な黒い竜。何故か全身傷だらけなのが少々気になるが、こいつは強いな。
ーーーーーーーーーーーーー
◆◆WARNING WARNING◆◆
ーーーーーーーーーーーーー
〜堕竜アルティーネ〜
レベル200
生命:9000/9000
ーーーーーーーーーーーーー
「ん?アルティーネって確か・・・」
以前死にかけた俺を助けるために、シオン達はこの迷宮に挑んだことがある。その時山頂で戦ったっていうフロアボスの名前がアルティーネだった気がするんだけど。
「まあいい。ルシフェル、こいつをぶっ倒そう」
「わかった」
まあ、筋力や敏捷が無くなったからといって、殺されることはないだろう。とりあえず、この筋力でどこまで通用するか試してみるか。




