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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
日常は平和と共に
136/293

第百二十二話 仮初

頭が痛い。

いや、()が痛い。


こんな事は今まで一度も無かった。なのにどうして急に?


「・・・こんな日に」


今日は数ヶ月ぶりにあの場所に行こうと決心したのに、何だか不吉だ。まるで帰ってくるなと言われているようで。


「ごめん、お待たせ」


そんな時、背後から声を掛けられて私は振り返る。そこにいたのは荷物を持って笑みを浮かべる黒髪の少年。


彼はジークフリードさん。私、シオン・セレナーデは彼の家に住まわせてもらっている。


「いえ、こちらこそごめんなさい。一緒に来てくれませんかなんて・・・」

「はは、気にしてないって」


そう言って彼は笑う。

今日、私は数ヶ月前に魔神アルターの手によって無くなってしまった村の跡地に向かう。


あの時命を落とした村人達の墓参りをするために。

そして・・・。


「それじゃ、行こうか」

「はい」


彼の言葉に頷き、私達は並んで歩き始める。

すると少しだけ眼の痛みも和らいだ。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「あの時のままか」

「そうですね・・・」


王都を出発し、馬車に揺られること数時間、私達は再びこの場所に帰ってきた。


最後に見た光景と同じで、家は焼け落ち、村人達も誰も居ない。


「・・・」


胸が痛んだ。

この村がこんなことになってしまったのは、自分のせいだからだ。


私が持つ固有スキル〝ハデスの魔眼〟を狙った魔神アルターの手によって村人達は殺されてしまった。


なのに私は生き残ってしまった。


「・・・まずあちらにあるお墓に行ってもいいですか?」

「ん、おう」


けど、乗り越えなければならない。

私はジークさんに声を掛け、とある場所に向かって歩を進めた。


村から離れた場所にある、ジークさんと出会う前の私が住んでいた小さな家の裏。

そこにはお墓が二つ建てられている。


「これは?」

「私の両親のお墓です」

「え・・・」


私が言ったことにジークさんが驚く。そういえばこの事は一度も話していなかった。


「私や、村の人達がどうして魔眼の効果をあんなにも恐れていたか分かりますか?」

「・・・まさか」

「両親の命を奪ったのは・・・私なんです」


ジークさんが目を見開く。

突然だ、目の前にいる女は人殺しなのだから。


「ワタシが12歳の頃でした。当時私の家は村の中でも特に貧しくて、私は両親からとても邪魔に思われていました」

「・・・」

「そんなある日、両親からお前なんて産まなければよかった、お前のせいで私達はこんな目に貧しい思いをしなくては行けないんだって言われて・・・」

「めちゃくちゃだ」

「ふふ、でも確かに私が一人居るだけで生活が苦しくなるのは事実ですから」


当時のことを思い出す。

嫌われているのを知りながらも、私は両親に褒められようと必死だった。


「その時、突然その力は発動しました。なら、なんで私を産んだんだって。そして憎しみを込めて両親を睨んでいたら、二人は動かなくなったんです」

「・・・」

「私があの時、父と母のことを憎いと思わなければ、二人は石化して命を落とさなかったのかもしれません」


一体何故こんな固有スキルを手に入れてしまったのだろう。

また眼が疼く。


「・・・?」


そんな時、突然頭の中にある光景が浮かび上がった。


歪んだ空間のような場所で、銀色の髪をもつ美しい女性と・・・自分にそっくりな女性が向かい合っている。


「え・・・」


何故だろうか、この光景を私は何処かで見た事がある。


「シオン、どうした?」

「え、う・・・」


痛い。


「ガルルルル」

「っ、こんな時に出てくるんじゃねえよ」


そんな時、突然魔物達が現れて私達を取り囲んだ。


「おいシオン、大丈夫か?」


身体が震える。

私は、何かを思い出そうとしている。


「グルアアアッ!!」

「来ないでッ!!!!」


魔物達が一斉に飛びかかってきた────そう思った瞬間、私の左の(・・)視界が突然蒼く染まった。


「・・・まじかよ」


ジークさんがそう呟く。

呼吸を落ち着かせながら周囲を見渡してみると、魔物達は目を合わせていないにも関わらず、上位石化していた。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「落ち着いたか?」

「・・・はい」


あれからしばらく経ち、私はようやく落ち着きを取り戻した。呼吸も乱れていないし、眼の痛みも和らいだ。


「・・・」


さっき頭に浮かんだ光景は、一体何だったのだろうか。

それに、何故目を合わせていない魔物達が突然上位石化したのか。


「ジークさん」

「ん?」


不思議そうにジークさんがこちらを見てくる。


「・・・いえ、なんでも」


特に理由は無かったのだが、何故か彼の名を呼びたくなった。

怖い。

今の日常が、もうすぐ壊れてしまいそうな・・・そんな気がする。


「なんか顔色悪いぞ?今日は墓参りを済ませて王都に帰ろう」

「はい・・・」


不安を心に抑え込み、私はジークさんの背中を追った。
















あと少しで、私達の日常が崩壊すると知らずに。







─────to be continued

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