第百十七話 レヴィの恐怖体験 後編
「あ、雨女が出たんですか」
あの後、俺はレヴィが見た例の女のことを俺の部屋でみんなに説明した。やっぱりシオンは驚いている。
「でも、結局この前も違いましたし・・・」
「あれは女の人だったよぉ!!」
「そ、そうですか」
ここまでレヴィが必死になるってことは、多分本当に女が部屋の中を覗いてたんだろう。
てか、なんで中を覗いてたんだ?
「レヴィのファンだったりして」
「あ、あんなファンいらないよっ!」
俺の膝の上に座るレヴィがブルブル震える。ほんと怖がりだなぁ・・・。
「話は聞いたぞジークフリード!!!」
「ひぃっ!?」
これからどうしようかと考え始めた直後、突然窓が空いて青白い変態が入ってきた。
「レヴィ様を怖がらせたという輩・・・この手で抹殺してや───」
「レヴィが怖がってんじゃねぇか変態」
「ぐぇっ!?」
とりあえず膝の上でびっくりしたレヴィが泣きそうになってるので、俺は変態をしばいた。
「うぐ、本当に申し訳ございません・・・」
「だからお前は変態なんだよこの変態」
「なんだと!?」
「あーもう、うるせーな」
やって来たのはレヴィの部下でレヴィのことが大好きな、変態吸血鬼のキュラーだ。
以前雨女騒ぎでレヴィを怖がらせたことがある。
「・・・ご主人様の寝室に土足で上がり込まないでもらえますか?」
「おっと失礼」
そんなキュラーはシルフィに睨まれて靴を脱ぎ、俺の隣に座り込んだ。
「ちょ、なんで俺の隣なんだよ」
「あのエルフの近くに座ったら殺される気がする」
「・・・そうか」
そこまでの殺気を放てるレベルになったんだね、シルフィ。
「で、犯人は誰なんだ?」
「それはわからん」
「特徴は?」
「髪が長くて目が充血してる女だとよ」
「まさか、熱狂的なレヴィ様ファン・・・!?」
「可能性はゼロではない」
けど、レヴィが見たのは女だっていうし・・・うーん。
「でも、みんなが言ってる雨女って、雨が降ってる日にしか出てこないんでしょ?」
そんな時、ルシフェルがそう言った。
「また別の幽霊だったりして」
ルシフェルのその一言で、レヴィの身体がすごい震えだす。
「ど、どうしよう!次はセットで出てくるんじゃ・・・」
「それは怖いな」
窓見て二人もそんな奴いたらビビって壁殴って粉砕してしまうかもしれない。
「というか、レヴィ様のファンじゃなくて貴様のファンという可能性もあるんだがな」
「俺?」
「ここは貴様の部屋なのだろう?」
キュラーに言われて気付いた。
そうか、その可能性もあんのか・・・。
「とりあえず三択ですね。ジークさんのファンか、レヴィさんのファンか・・・本当に幽霊か」
「うぁぁ、ジークのファンでありますように」
「やめろ、なすり付けるな」
俺のファンだとしても、充血した目で部屋を除き込む女は嫌だ。
「よし、いい事を思いついたぞ」
「ん?」
突然キュラーがなにか言い始めた。
「その女は今日も現れる可能性が高い。だからジークフリード、貴様は一日中部屋の中にいろ」
「えぇ?」
「それで窓を見続け、その女が現れたら急いで追い掛ける・・・これでどうだ」
ふむ、悪くは無いか。
これで追い掛けようとして消えたら幽霊だし、人間ならすぐ捕まえられるしな。
「てかキュラー、お前も外で待機しとけよ。ここは二階、壁をよじ登ろうとしてる女が出てきたら捕まえろ」
「いいだろう」
はい、これで作戦会議終了だ。
「うぅ、幽霊かなぁ」
「大丈夫だって・・・多分」
「安心出来ない・・・」
とりあえずこれから窓を見続けよう。
ーーーーーーーーーーーーーーー
はい、現在時刻は午後七時、外は真っ暗でございます。
シオン達は料理の支度をしたりしてるから、この部屋に居るのは俺とレヴィだけだ。
屋根の上にはキュラーが待機している。
「出てこないな」
「怖いぃ・・・」
あれから雑談をしながら窓を見続けてるんだが、ものすごく眠い。ちょっとやばい。
「サタンが一匹サタンが二匹・・・」
「ちょ、ジーク、寝ようとしないでぇ!!」
「サタンが三匹・・・気持ち悪」
完全に目が覚めた。一匹一匹がデカ過ぎるだろサタン。
「・・・ん?」
そこで俺は視界にあるものを捉えた。窓の外、反対側にある家の屋根の上で何かが光ったのを。
「・・・レヴィ、ちょっと離れろ」
「え───」
目が覚めたからか、よく見える。
俺は窓を開けて外に飛び出し、反対側の家の屋根に飛び乗った。
「ひっ!?」
「なるほどなぁ、レヴィに覗きがバレたから、今度はここからソレで覗こうとしてたわけだ」
俺の前にいるのは髪の長い人物。手には双眼鏡を持っている。
「しかもお前、男だな?」
「あ、あぁ・・・」
正体がバレたからか、男はガックリ項垂れた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「つまりお前は、怖がるレヴィを見たくてわざと女装してたと?」
「は、はい・・・」
「目が充血してるのは寝不足だからと?」
「はいぃ・・・」
「どんな死に方がいい?」
「ご、ごめんなさいッ!!」
その後、レヴィとキュラーを呼んで、他の人の家の上だけどそのまま男の話を聞いた。
この男は、どこで聞いたのかは知らないが、レヴィが心霊系がダメだということを聞きつけたらしく、わざと女装して俺の部屋を除き込んだらしい。
そして、なんで俺の部屋にレヴィが居ることを知っていたかというと、この男、何回もレヴィの部屋と俺の部屋を覗いてたんだってよ。
「貴様、全身の血を吸い付くしてやろうかッ!!!」
「いやいや、天獄山の山頂に放置しようぜ」
「ゆ、許してくださぁぁい!!!」
号泣しながら綺麗な土下座をしてくる男。泣くんだったら最初からすんなっつーの。
「レヴィ、どうする?」
「・・・もう二度とこんなことしないって言うのなら許したげる」
「もう二度とやりませんッ!!!」
「わかった、約束だよ」
「はいッ!!」
ええ!?許しちゃうの!?
「そ、それでは失礼します!!」
やがて男はものすごいスピードで走り去っていった。まじで逃がすのか・・・。
「いいのか?」
「・・・うん」
よく見ればレヴィの身体は僅かに震えていた。
「まったく・・・」
そんなレヴィの頭を撫でてやる。すると彼女の顔は真っ赤になった。
「怖かったな、よしよし」
「え、あぅ・・・」
そしてしばらく彼女の頭を撫でた後、俺達は家へと戻ってシオン達に事情を説明。
雨女騒ぎは無事に解決したのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ジーク、怖いから一緒に寝よ」
「またかよ・・・」
あれから、レヴィはそれを理由に俺が寝る前からベッドに潜り込んでくるようになった。
そのまま抱きついたりしてくるもんだから、こっちも色々大変だ。
「ジーク、寝る前のちゅーして」
「しねーよ!」
「えぇ〜」
そんな残念そうな顔をするでない。
「えへへへ」
「なんだよ」
「大好きだよぉ」
「ちょ、おま・・・」
それはほんとに反則だ、レヴィさん。




