第十二話 不幸少年と群れる魔物達
「た、大変だぁ!」
「ん・・・?」
この日は何故かいつもよりギルドが騒がしかった。
何かあったのだろうか。
「なあ、何かあったのか?」
「ああ、緊急事態だ」
エステリーナもかなり焦っている。なになに、何かのイベントでもやんの?
「魔物の群れが王都に向かって来ているそうだ。王国軍が迎撃に向かっているらしいが、敵の中には大型の魔物も混じっているらしくてな。強さは難易度Cの迷宮のフロアボス級らしい」
「そんなのが何体も?」
「ああ、有名な王国騎士団でもそのレベルの魔物の群れ相手では勝ち目など無いだろう」
えっ、それって結構やばくないか?
「そこで我々は魔物の群れが王都に辿り着く前に奴らを撃退することにした」
「ええっ!?」
「なんだその反応は。我々は王国騎士団よりも強い自信があるぞ」
「いや、それは分かってるけど・・・」
てことはだな、
「俺とシオンも行かなきゃ駄目?」
「もちろんだ」
あーもう、覚えてろよ魔物共め!
◇ ◇ ◇
「なるほどなるほど・・・」
王都を取り囲む壁の外に立ち、俺は遠くを眺めた。
向こうの方から響いてくる音は、魔物の大群が移動してくる音だろう。
「うーん、結構多いな」
「そのようですね」
「やっぱりシオンは家に居たほうが・・・」
「足手まといですか・・・?」
そう言う彼女はいつもと違って少し表情が固い。
「いや、そうじゃないけど」
「なら、私も一緒に戦います」
ふう、仕方ないか。とりあえずシオンには指1本触れさせないぞ魔物共。
「さあ、いよいよ我々の力を見せる時だ!」
「「「おおおっ!!!」」」
エステリーナの声に続いてギルドのメンバー達が雄叫びを上げる。気合いは十分のようだな。
「よし、1回行ってくるわ」
「え────」
目を見開いたシオンを置いて俺は猛スピードで駆け出した。
狭間の女神アルテリアス曰く、今の俺が本気で走れば新幹線の速度を超えるらしい。
「確かに、こりゃすげえ!!」
結構距離はあった筈だが、俺はすぐに魔物の群れにたどり着いた。
「そうら、いくぞ!」
そしてその勢いのまま群れに突っ込んだ。今ので何匹が死んだ。
「オラオラオラァ!!」
「ぎぴゃぁぁぁぁぁ!!」
もう、ただの虐殺である。
俺は混乱する魔物達を手当り次第に葬っていった。
「「「・・・」」」
「流石、ジークさんです」
遠くで繰り広げられるそんな光景を、雄叫びを上げていたギルドのおっさん達は黙って眺めていた。
「いやー、いい仕事したなぁ!」
「・・・私は何もしてません」
魔物が全滅してから1時間後、俺達は再びギルドに戻っていた。あれから俺の周りから人が消えない。
「ほんとすげえよあんた!英雄だよ!」
「そうよそうよ、誇りなさい」
「え、えへへへ、そうっすか」
別に大したことはしてないんだけどなぁ。
ただ魔物殴り殺しただけなんだが。
「む・・・」
シオンが少し唇を尖らせて俺を見ている。なんだなんだ、可愛いんですけど。
「あんな数の魔物達を1人で全滅させるなんて、勇者よ勇者」
「きゃー、勇者様ー!」
「ちょ、何言ってんすかぁ」
近い、美人なおねえさん達が近い。
「むむ・・・」
そんなおねえさん達を見てシオンがさらに唇を尖らせていたのを俺は見ていない。
「あら、人気者ねぇ勇者君」
「お、リリスさん」
ここでさらに美人が登場・・・だと?
くっそ、理性を抑えろ理性を抑えろ・・・。
「モテモテねぇ。シオンちゃんが嫉妬してるわよ?」
「え?」
「しっ、してません」
シオンは真っ赤な顔を隠すかのようにニヤニヤ笑うリリスさんから顔を逸らした。
こんな男に嫉妬していると勘違いされるなんて、ありえないっ!っていう恥ずかしさからあんなに赤くなってるのだろう。
そう考えるとなんか辛い。
「まあ、我慢してあげてね」
「な、何をですかっ!」
顔が真っ赤なシオンは勢いよく立ち上がると、俺の腕を両手でガシッと掴んだ。そして引っ張ってくる。
「じ、ジークさん、帰りましょうっ!」
「え、ええ?もうちょっと・・・」
「帰りましょう!」
ビクともしない俺の腕を必死に引っ張り続けてくるので、俺は仕方なく帰ることにした。
「どうした?腹でも減ってんのか?」
「そ、そうです。だから早く帰りましょう」
「お、おお」
よく分からんが、まあ俺も腹減ったしかえるとしよう。
「それじゃ、お疲れ様でしたー」
「うふふ、じゃあねー」
「若いっていいよねー」
そう言って手を振り、俺はニヤニヤ笑う人達で溢れるギルドをあとにした。
◆ ◆ ◆
「やっぱりあんな雑魚じゃ無理かぁ」
とある湖の上、少女は水面に立ちながらそう言った。
「うーん、どうしよっかなぁ。こっちに来てもらおうかな。それともボクが行こうかな」
唇に指を当ててそう言う少女。
その時、そんな彼女の足下から巨大な遺跡が水を割って現れた。
「まあいいや。アルターなんてただの雑魚だったし、あんなやつ倒したくらいで調子に乗られてもねー」
「あー、楽しみだなぁ。待っててね、ジークフリードさん」
不気味に口角を吊り上げた少女は、遥か遠くを眺めながら1人呟いた。
─────to be continued




