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異世界ディヴェルティメント〜不幸少年のチート転生譚〜  作者: ろーたす
グラトニーディナー〜妖精少女と晩餐会〜
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第百十四話 勇者と魔王とお姫様

「・・・準備出来た?」

「ま、ままま待ってください!あと少しだけ台詞を・・・!」


次の日、ほぼ練習せずに劇の本番を迎えた俺達はかなり焦っていた。シオンはブツブツ言いながらひたすら台本を読み続け、シルフィとルシフェルも緊張で顔が強ばっている。レヴィに至ってはもう台詞を覚えることを諦めていた。


「まあ、気楽にやろう」

「流石はエステリーナ、尊敬するぞ!」

「え、あ、そうか」


少し嬉しそうな表情になるエステリーナ。まともに演技出来そうなのは彼女ぐらいか。


「これが終わったらたっぷり報酬が貰える。頑張ろう」

「ですな」


少しの間恥をさらすだけで金貨数枚。

少なく思えるかもしれないが、この世界だとまあまあな額だ。


『皆さーん、お待たせしました!ただいまより、ジークフリード達によるほぼアドリブ劇の始まりでーす!』

「アドリブって言っちゃったよ!」


今観客に余計なことを言ったのはリリスさんだ。


「まあいい、いくぞみんな!」


恥なんて捨てる!ここで俺の全てを出し切ろう!








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「俺は勇者!姫様を守り、魔王を倒すのが俺の使命だ!」


まず、最初に現れた勇者役の俺を見て、観客が騒ぐ。


「・・・あれ?」


しかし、そこから劇が進まない。


「シオン、どうした?」

「え、いや、その・・・」

「ほら、行ってこい」

「あ、ちょ・・・」


そこでようやく姫役のシオンがエステリーナに押されて舞台上に現れた。白のドレスに身を包んだ彼女を見て、男性達が歓喜する。俺もしばらくシオンのドレス姿に見惚れた。


(じ、ジークさん)

(はっ、見惚れてた。どうしたんだ)

(台詞・・・忘れました)


どうやらシオンは緊張して一番最初の台詞を忘れてしまったようだ。テンパってオロオロしている。


「あっはっはー!魔王だぞーー!!」


そんな時、黒いローブを着て、頭に角を装着したレヴィが舞台裏から飛び出してきた。


「ちょ、レヴィ?」

「台詞忘れちゃったんでしょ?だから姫役を攫うシーンを早めてって言われた」

「なるほど」

「ということで姫はボクがいただいたー!!」


レヴィがシオンの服を引っ張って俺から離れる。ロリっ子の登場で観客の中に紛れたロリコン達が騒ぎ始める。


「え、あ、勇者様ー、助けてー」

「返して欲しければ魔王城まで来るんだなー!」


そして、レヴィはシオンを掴んで再び舞台裏に走っていった。


(ふう、何とかなったか)


とりあえずこのまま俺一人で次のシーンに繋がらなければならない。


「おいこら、シオンちゃん達を出せーーー!!」

「お前なんか求めてないぞジークフリード!!」


なんとも失礼な観客達である。

彼らの目的は、いつもと違う衣装に身を包む美少女達を見ることなのだ。


「やかましいぞ民衆共!!劇の主人公はこの俺だ!!はっはっはぁーー、残念ながら今からのシーンは数分間俺一人だけだぁ!!」

「死ねぇぇぇ!!」

「帰れぇぇ!!」


存分に俺が魔王城に向かうまでのシーンを楽しむがいい!!







ーーーーーーーーーーーーーーー






「・・・」

「・・・ぷっ」

「あー、今笑ったでしょ!!」


完全に忘れてた。

あれから罵声を浴びながらも一人で頑張り、いよいよ魔王城の目前というシーンになった。


そこで木役のルシフェルが出てきて吹いた。


「うぅ、最悪だよぉ・・・」

「まあ、可愛いっちゃ可愛いんだけどな」

「え、そうかなぁ、えへへ」


ほら、木の役でもそのエンジェルスマイルは輝いているぞ。見たところ観客達もハートを射抜かれたようだ。

これでルシフェルに手を出すやつがいたら埋めてやる。


「ジーク!!」

「んお、エステリーナか」


そんな時、マイケル役のエステリーナが出てきた。マイケルは金剛破壊神などと呼ばれているよく分からない役なんだけど・・・。


「すまない、台詞を忘れた!!」

「お前もかいッ!!」


あんなに余裕っぽかったのに、実はめちゃくちゃ緊張してたんだね、わかるわかる。


「と、とりあえず金剛破壊神っぽいこと言ったらいい!」

「なるほど」


俺の言葉を聞き、エステリーナが少し考え込む。

そして───


「全部破壊してやろうかーーー!!!」

「違ぁぁう!!」


そういう事じゃないよ!なんで俺の旅の仲間が魔王みたいになってんだよ!!


「いいぞー!エステリーナちゃーん!!」

「可愛いぞーー!!」


しかし、観客達はかなり満足しているようだ。まあ、普段エステリーナはこんなこと絶対言わないから、いつもと違う感じが見れて興奮しているんでしょうね。


「と、とりあえず魔王城に行ったら?」

「・・・そうだな」


木のルシフェルにそう言われ、もうレヴィ達が出てくるシーンをすることにした。

グダグダだが、観客にはウケているので気にしないでおこう。






ーーーーーーーーーーーーーーー





「いらっしゃーい」

「軽いな魔王」


そして、道中のシーンが終わり、魔王城でレヴィと対峙するシーンに。


「何の用かなー」

「姫様を返してもらおう」

「なら、ボクの部下を倒してみなよ!いっけー、蜘蛛!」

「蜘蛛て」


レヴィに命令され、蜘蛛女役のシルフィが出てきた。また観客席にいるロリコン達が荒ぶる。


「うへへへ、私は蜘蛛女。お前も、お前もぐるぐる巻きにしてやるぞー」

「ふぅーーーー」


思いっきり息を吸って耐えた。また爆笑しかけた。


「こいつは私が相手しよう。ジークは魔王を頼む」

「あ、ああ・・・」


なんとか笑わないようにしながら、俺はレヴィに顔を向けた。


「さあ、勝負だ魔王!」

「待ってジーク」

「なんだよ」

「台詞忘れた」

「なんでだよッ!!」


なんでみんな台詞忘れんだよ!!


「とりあえず、なんか言って」

「うん、分かった」


勝負っぽいことをすれば大丈夫だ。


「負けたー」

「なんでだよぉぉ!!」


まだ触れてもないのにレヴィが倒れた。

思いつかないからって諦めてんじゃねえぞこのアホ魔神!!


『こうして勇者は無事に姫を助け出した・・・くくっ』

「うわっ、終わらせるつもりか!」


リリスさんのナレーションが響く。てか、あの人絶対笑ってるだろ。


『そして、姫様は助けてくれたお礼と言って、勇者にキスするのでした』

「付け足すな!!」

『ほら、やっちゃいなさいよ、ほらほら』

「ぐっ・・・」

「うぅ・・・」


観客席から俺目掛けて様々なものが飛んでくる。これはまずいぞ、どうしよう。


「と、とりあえずキスするフリしよう!」

「そ、そそそそうですね!」


こんなもん、顔を近づけるだけでいいんだ。


「うぅーー、ずるいよシオン!」

「ぐえっ!?」


そんな時、突然立ち上がったレヴィが俺に抱きついてきた。


「ボクだってお姫様やりたかったよぉー」

「ちょ、まだ劇の途中────」

「貴様ぁ、レヴィ様に何をしているのだ!!」


さらに突如現れた変態吸血鬼に服を掴まれて投げ飛ばされた。


「うわっ!!」

「あ、わりぃ、エステリーナ・・・」


そのまま少し離れた場所にいたエステリーナにぶつかり、両方倒れたのだが、なんだこの手のひらに伝わる素晴らしい感触は。


「あ、あぅ・・・」


よく見ればエステリーナの顔が真っ赤になっている。ああなるほど、胸か。


「ごめんよ、わざとじゃ───」

「ジークフリードォォォ!!エステリーナに何をしているのだぁぁぁ!!」


謝った瞬間、全身炎に包まれて俺は吹っ飛んだ。今の声はイツキさんか!


「っと、危ないじゃないですか!」


なんとか体勢を立て直し、俺はいつの間にか舞台に上がっていたイツキさんを睨む。そこで俺は隣にいるルシフェルが目を見開いて硬直していることに気付いた。


「どうした、ルシフェル」

「っ〜〜〜〜〜」


・・・あ、そういうことか。

イツキさんの炎で服が燃えて、俺全裸───


「ジークさんの変態ッ!!!」

「ぎゃあああああ!!!」


ルシフェルが放った魔法を受け、俺は凄まじい衝撃と共に舞台裏に吹っ飛んだ。

ルシフェルの攻撃は普通に痛い。


『え、えー、これにて劇は終了です、ちゃんちゃん』

「「「「アンコール!!アンコール!!」」」」

「二度とするかこんなもん!!!」


こうしてグダグダな劇は幕を閉じた。

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